「つくる人」「生きる力インタビュー」「未来のたまご」などの取材を通して、“好き”を起点にして人生を切り開いている人たちを紹介してきました。その中で見えてきたのは、「好き」を起点に具体的な行動を起こし、向き合い続け、社会とつながりながら、人生を楽しんでいる人たちでした。そんな人たちを私たちは「スキシャリスト(好きのスペシャリスト)」と呼ぶことにしました。今回は、これまでの記事をもとに「スキシャリスト」の共通点を整理し、そのあり方を描きます。
「スキシャリスト」とは?
スキシャリストとは、「好き」という気持ちを自分のなかで大切に育て、日々の選択や行動の軸にしている人のことです。「なんか面白い」「もっと知りたい」という素朴な気持ちを手放さず、少しずつ自分のペースで続ける。その積み重ねが、やがて生きる力になり、周りの人とのつながりや役割へと広がっていきます。
その活動の構造として、「好き」→「行動」→「創造・実践」→「社会・他者とのつながり」→「自己決定と承認」の流れが見えてきます。今回は「未来へいこーよ」で実施したインタビュー記事をもとに、スキシャリストに共通する5つの条件をピックアップしました。
「未来へいこーよ」インタビューから見るスキシャリストの共通点
【1】好きが、人生の原動力になる
幼いころの“なんとなく好き”が、その人の人生を動かす大きなエンジンになっている。そんなエピソードが多くのスキシャリストたちから見えてきます。たとえば、12歳にして起業に踏み出した加藤路瑛(かとう じえい)さん(株式会社クリスタルロード取締役社長)は、幼稚園生のときに「働く大人がかっこいい」と感じ、「自分も何かを成したい」と漠然と思っていたそうです。その「かっこいい」の感覚が、仕事を自分事にする第一歩になったのです。

社長としてプレゼンをする加藤さん
また、魚類に魅了された高校生・饗場空璃(あいば そらり)さんは、3歳頃に初めてみた魚の図鑑で「(まだ実物を見たことがない)魚のフォルムをみた」ことによる衝撃的な出会いが、「魚をもっと知りたい」「魚と向き合いたい」という探究心につながりました。

文化祭でサメの解剖をする饗場さん
これらの例から共通して言えるのは、「好き」という感情が単に趣味に留まらず、自分の内側から湧き出た「これをやりたい」という意思になっていること。その意思の芽は、幼少期の好奇心という形で早くから育まれていたのです。
【2】継続が、力になる
「好きだからうまくいく」というほど人生は甘くありません。むしろ、好きなことだからこそ、理想と現実のギャップや、生活との両立といった厳しい壁にぶつかります。 好きなことを追いかける過程には、壁や挫折がつきもの。そのとき、スキシャリストたちは「途中で止めない」「別の方向からでも続ける」という粘り強さを持っています。
例えば、江戸切子職人の清秀さんは、高校卒業後に夜間学校や工房での修行を含めて15年という長い年月を掛けて技を磨きました。毎日同じことを反復し、細かな傷のひとつにさえ気づくまでの集中力を持ち続けたという話があります。

江戸切子職人の清秀さん
また、水族館プロデューサーの中村元さんは、一般的に「弱点」とされる部分を敢えて克服せず、「弱さを強みへ」「長所を際立たせるための逆発想へ」と向けた思考を持っています。こうした逆説的な姿勢が、困難をただの障壁にせず、変化のきっかけに変えてきたのです。

水族館プロデューサーの中村元さん(撮影協力:サンシャイン水族館)
さらに、饗場空璃さんのように「好き」の種があっても、研究や活動を継続するには日常の積み重ねが不可欠です。「魚を飼う」「分解してみる」「仮説を立てる」という小さな行動を繰り返しながら、たとえ誰も見ていなくても自分で“続ける”という姿勢を貫いています。好きで始めたとしても、それを形にするには“やりぬく力”が軸になっていると言えるでしょう。
【3】視点が、未来を変える
好きに加えて、スキシャリストたちは「既存の枠に縛られない視点」を持っています。自分ならではの問いを立て、常識を疑い、そこから新しい価値を生み出しているのです。
たとえば、チームラボアーキテクツの建築家・河田将吾さんは、子どもの頃から「普通の遊び方」に物足りなさを感じ、遊具のルールを自分で変えたり、新しいルールを作って周囲を巻き込んで遊んでいたといいます。その延長として「建築はルールのデザインでもある」と気づき、チームラボでは保育園を「教育の装置」として再定義し、空間が子どもたちの創造性を引き出す仕掛けを実装しました。

空間把握能力を遊びながら身に着けさせるため、園内には1階の砂場から2階のネット遊具が見えるなど、立体的な遊びが随所に盛り込まれている
らに、パズルクリエイターのアドリアン・ヒメネス・パスクアルさんは、「今まで誰も考えたことのないものを作りたい」という強い思いを持ち、既存の常識やルールにとらわれないオリジナルパズルの開発に挑戦しています。彼は、自らパズルメーカーの「ハナヤマ」の本社に飛び込み、「この業界で働きたい」と行動を起こしたところからキャリアを切り拓きました。創作のテーマは「人の知覚をだます」「想像力を試す」など、固定観念を揺さぶるものばかり。視点のユニークさが、作品の価値をつくっています。
このように、「好き」をただ深めるだけでなく、自分にしか見えていない視点から問い直し、既存の枠を超えたアイデアを形にしていくことが、スキシャリストの創造性を支えています。
【4】つながりが、活動を広げる
スキシャリストのもう一つの特徴は、「好き」を自分だけのものにせず、他者や社会に開いていこうという姿勢です。好きから始めた活動が、誰かの“気づき”や“変化”につながるとき、その意味はグッと深まります。
たとえば、岸壁幼魚採集家の鈴木香里武さんは「魚に興味がない人」に魚のおもしろさを届けるため、「海辺の幼魚採集」という体験を企画し、魚を通じて生き様や生態系を伝えています。彼の活動は、単なる採集に終わらず、教育・環境・好奇心という複数のレイヤーを横断しています。

鈴木香里武さんは現在、幼魚水族館の館長を務め、幼魚の魅力を個性豊かな展示を通して広めている。
また、「空を見上げるきっかけを届けたい」と語る高校生(当時)のN高等学校の高澤陽奈さんと中川茉莉花さんは、“好き”な空と気球というテーマを、自分だけの興奮で終わらせることなく、次の世代への“視界”として広げようとしています。
ふたりは「もっと気球に関心を持つ人を増やしたい」という思いから、学校内で熱気球同好会を立ち上げ、外部の気球関係者とも連携しながら、実際に搭乗体験イベントを開催。こうした一連の活動を、自らの自由研究としてまとめ上げることで、「好き」を行動に変えるだけでなく、それを人に届けるかたちへと昇華させました。
このように、好きの先に“誰か”や“社会”を具体的にイメージし、自らの力でかたちにしていく姿勢が、スキシャリストの活動をより深く、広く育てているのです。
【5】自己決定が、揺るがない軸になる
最後に、スキシャリストたちは「自分で道を選び、責任を持つ」という力を持っています。好きという感情だけではなく、自分で選び、その結果を自分で引き受ける。この「自己決定力」こそが、活動を支える根幹になります。
例えば、ゲームデザイナーとして活動する「しらさか けんと(当時5歳)さんと「しらさか りんたろう(当時8歳)さん)は、「親の名前ではなく、自分の名前で売りたい」と宣言しただけでなく、自分たちでゲームの販売価格を設定し、原価や利益率まで細かく計算した上で、「安すぎると価値が伝わらない」と価格を決定。さらに、誰にどう届けるかを考えてショップカードまで自作するなど、ものづくりから販売、伝え方まで、すべての工程に自分たちで意思を持って関わっています。

しらさかりんたろうさん(写真右)と、しらさかけんとさん(写真左)
また、地球を10.5周、総航行距離22万kmという途方もない冒険を重ねてきた海洋冒険家・白石康次郎さんは、幼少期から自然へ飛び込む選択を自分で行い、親に任せてもらった経験から「成功も失敗も自分で受け止めることの大切さ」を語っています。

海洋冒険家の白石康次郎さん
こうした事例から見えてくるのは、スキシャリストが「与えられた道を歩いた人」ではなく、「自分で道を切り拓いた人」であるということ。そして、その歩みに対して、自分自身を肯定できているということです。好きなことで生きるためには、この自己決定力と、それによって培われる自己肯定感が、行動のブレない軸になります。
じつは「誰でも」スキシャリストになれる!
ここまで紹介した5つの条件「好きの純粋さ」「やりぬく力」「独自の発想力」「他者とのつながり」「自己決定と自己肯定」は、生まれつきの才能ではありません。紹介したスキシャリストたちも、好きなことに向き合う時間の中で、少しずつこれらの力を育ててきているのです。

「これっておもしろいな」や「なんとなく気になる」という経験を積み重ねていくと、自分の中の「好き」は確かに育っていきます。行動してみたり、誰かに話したり、続けてみることが、自分の中の「好き」をゆっくり育て、新しい挑戦に向かう未来へのエネルギーになっていきます。
誰の中にも、スキシャリストの芽があります。だからこそ、自分の「好き」を見つけて、大事にしてあげてほしい。その気持ちが、これからの未来の子どもたちの「生きる力」になると、私たちは信じています。
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