「水族館は生き物の生き方を発見するところ。みんな違うものを発見することがいい」。唯一無二の“水族館プロデューサー“中村元(なかむらはじめ)さんは、子どもの頃に川や海で体験した「感動」を様々な水族館で再現し、見るものの心に迫る水の世界を作り続けてきた。「水族館は海への入り口、地球への入り口でもある」という中村元さんは、水族館を体験することで生物の多様性、さらには見る人自身の多様性も感じてほしいと語る。中村さんが作った「水族館の秘密指令」に込めた思いを聞いた。(前編/全3回)

生き物の生き方を発見するところ、それが水族館
未来:中村さんにとって、水族館とは何でしょうか。
水族館は人生を学ぶものだと思っています。僕は子どものころ、川と田んぼでいろんなことを学んだんですよ。秘密基地を川で作ったりね。あまりに川の近くに基地を作ったら台風で流れちゃうからダメとか、魚を捕まえて食べようと串を刺したらすごく暴れて、ボクらは命を食べてると知るとか、そういう社会で必要になるような知恵をみんな川で学びました。
でも、今の子どもたちは、そういう自然体験って簡単にはできないこともあるでしょ。そういう人生を学ぶものの一つが、今は水族館なんです。
水族館では魚の種類を学ぶ、生物の勉強するもの、と思っている人が多いけど、そんなことしなくていいんです。クラゲの生き方を考えるとかの方がいい。水族館そのものが体験なんです。何を発見できるのかが重要。みんな違うものを発見することがいい、それが重要なんです。
水族館では自然そのものではなくて、海や川で体験した感動を再現したい
未来:中村さんが水族館で見せたいものは何でしょうか。
僕が作りたい水槽って、自分が一番感動した川や海を見せるためのものなんです。子どものころ、動物を飼ったり捕まえたりするのが得意な友達がいて、ある時そいつが川で水中メガネを貸してくれて。それで川を覗いた時、魚より、川をキラキラ流れる空気の銀色の泡がキレイ!川の水面の波々がキレイ!って水中世界に感動しました。
海に潜った時も、自分の周りの海全体を見渡して、うわー!岩や光の中を魚の群れがワーっと泳いでいくのがすごい、青い海の中で上の方から太陽光が差している中に泳いでいるペンギンがキレイ!と。あの景色や光やスケール感に感動しているのであって、魚の種類に感動しているんじゃないんです。経験して素敵か、自分が素敵だと感じたことが素敵なんです。
その感動を水族館に再現したい。水面の向こうにある空とか、魚の群れに囲まれてた感動とか、ダイビングで感じた水中の浮遊感を再現したい。再現するというのは、自然そのままを再現することが再現じゃないんです。自分で水塊(すいかい)という言葉を作ったんですけど、再現したいのは水塊、つまり経験を切り取ってきた水のかたまりなんです。水の浮遊感、光、スケールなど、再現された感動。それが水塊なんです。
中村元さんからの挑戦状「水族館の秘密指令」自由研究コンテスト開催中!