今回取材したのは、「りんけんゲームズ」を立ち上げ、オリジナルのカードゲームをゲームマーケット(電源を使用しない「アナログゲーム」の販売イベント)で販売した、ゲームデザイナーのしらさかりんたろうくん(8歳)と、しらさかけんとくん(5歳)。作成したカードゲームの魅力やどうやって作ったのか、実際に販売してみたときのお話をインタビューしました。あわせて、二人の挑戦の背中を押したご両親にもお話を伺いました。
幼稚園で描いてきた絵がそのままカードゲームに
未来:まずは「おかいものげーむ」のゲームデザインをした「しらさか けんと」くん(5歳)にお話を伺います。「おかいものげーむ」はどんなときに思いついたのですか?
しらさか けんと(以下、けんと):ようちえん!
お母様:幼稚園で絵を描く時間があるんですけど、そこで描いた絵をカードにして家に持ってきたんです。
未来:幼稚園で作ったものがすでにゲームの原型になっていたんですね。どうして食べ物の絵を描こうと思ったんですか?
けんと:(にっこりしながら)すきだから!
未来:食べ物が好きなんですね。「おかいものげーむ」はけんとくんが好きな食べ物がたくさんあるわけですね。
けんと:(えがおでうなずく)
未来:カードにひらがなで「す」などの文字が書いてある理由はなんですか?
けんと:わかりやすいように!
未来:どれも上手に描かれていますが、確かに一文字入っているとわかりやすいですね。「おかいものげーむ」は「はずれカード」を引くとシャッフルするルールが特徴ですよね。なぜ「はずれカード」を入れたらいいと思いましたか?
けんと:(うでをくんでかんがえる)
お母様:「はずれカード」のルール自体は最初のほうからありました。家族でボードゲームを遊ぶ機会が多いので「そういう要素がないとおもしろくない」というのは、肌感覚でなんとなくわかっているようです。「はずれカード」も最初は4枚くらいあったんだよね?
けんと:うん!
未来:4枚! 実際に遊んでみた感覚では、それだとなかなか終わらないですね(笑)。
お母様:そうですよね。テストプレイを重ねて「はずれカード」は1枚に落ち着きました。
未来:ゲームを作ってみて「おもしろいな~」と思ったところはどこですか?
けんと:りんごをかいたところ!
未来:上手に描けてるからとくにお気に入りなんですね。MENUから食べ物を選んで当ててもらうというルールもおもしろいと感じました。
お母様:けんとが最初にゲームを作ったときはまだMENUがなかったんですが、家族で「初めて遊ぶ人は、どんな食べ物があるかを知らないから、MENUがあったほうがいいよね」という話になって追加しました。
未来:お母様にお聞きしたいのですが、お子さんがボードゲームを作るようになったそもそものきっかけは?
お母様:もともとは、長男のりんたろうが3歳の頃から、夫の誕生日に自作のボードゲームをプレゼントしていたんです。それが毎年恒例になって、けんとも去年の10月に初めて自作のゲームをプレゼントしたのをきっかけにゲームを作るようになりました。お兄ちゃんがやっていたというのもありますし、工作が好きだったというのもあると思います。
未来:なるほど、それにしても素晴らしいゲームになっていると思います。けんとくん、ありがとうございました!
お父さんと何度もテストプレイして完成に
未来:続いては「ドラゴンのたまご」のゲームデザインをした、しらさか りんたろうくんにお話を伺います。「ドラゴンのたまご」はどんなときに思いついたんですか?
しらさか りんたろうくん(以下、りんたろう):はい。ドラゴンが出てくるアニメを見ていたときに思いつきました。
未来:ドラゴン同士が戦っている世界観をうまくカードゲームに落とし込んだわけですね。
未来:出てくるドラゴンも個性があっておもしろいです。攻撃方法が違ったり、特性などの特別ルールがあったりますが、全部りんたろうくんが考えたものですか?
りんたろう:はい、そうです!
未来:ルールといえば説明書にあるQ&Aも細かく書いてあって、しっかりしているなあと感心しました。
りんたろう:お父さんと何回もテストプレイをして「(Q&Aの)こういうときはどうする?」というのを決めていきました。ここが作っていくなかで一番むずかしかったです。
未来:ゲームを作っていくうえでとても大事なところですけど、だからこそ一番大変なところですよね。これを最後までやりきったのがすごいです。「ドラゴンのたまご」を作っていく中でおもしろかったのはどこでしょうか?
りんたろう:自分でカードの絵を描いてパソコンに読み込んだあとに、元の背景を切り抜いてから自分で好きな背景を設定したところがおもしろかったです。
未来:なるほど、今までのゲーム作りよりも、より本格的なカードを作った経験が新鮮だったんですね。作ったゲームをゲームマーケットで販売しようと思った理由は?
お母様:じつは、りんたろうは「りんたろうゲームズ」として2年前のゲームマーケットにも出展していたんですけど、コロナで去年はできなかったんです。それで今年はゲームマーケットが開催されることになって、けんとも参加して「りんけんゲームズ」として出展することにしたんです。もともとカードゲームではない「忍者」がテーマのゲームを作っていたのですが「ドラゴンのたまごのほうが、ゲームマーケットには合っているよね」という話になって「ドラゴンのたまご」の出展が決まりました。
お母様:これは「ドラゴンのたまご」ができる前に、いろいろなカードのイラストを描いていたときの絵です。
未来:ドラゴンではなく、いろいろなものが描かれていますね。どんなゲームにするのか、いろいろ考えている時間もまた、子どもにとって想像力や発想力を育む場になりそうです。
お母様:最初は既存のカードゲームのように、レベルや体力、攻撃力の概念なども考えていて、忍者が出てくるゲームにしたかったんだよね。
りんたろう:でも、そうするとダメカン(ダメージカウント)用に専用のパーツなどを使うからお金がかかっちゃう(笑)。それで、1ダメージ受けたらカードを横にして2ダメージ目で倒せる(場から取り除く)ようにしました。
お母様:りんたろうは小学生になってお金の計算ができるようになったので、今回はコストについても考えてもらっています。以前出展したときは「1個売ったらいくらもらえる」というルールでしたが、今回はかかる費用をお父さんに借金してゲームを作って「〇個売れたら利益が出る」という形にしました。
未来:なるほど、どこにコスト(お金)をかけるか意識すると、ゲームの作り方も変わってきておもしろいですね。
お母様:反対にカードゲームにした場合、箱にしなくても販売できるのですが、やはり「コストがかかっても箱にはこだわりたい」という要望が強かったので箱を作りました。
はこづくりたいへん!おかあさんがおてつだいしてくれてます。#りんけんゲームズ#ゲムマ2022春#ゲームマーケット2022春 pic.twitter.com/r6Z9cwD66c
— りんけんゲームズ (@rinkengames) April 12, 2022
未来:Twitterでも紹介されていましたね。密封する袋で販売しているケースもありますが、お店で販売されているカードゲームは箱になっているものが多いので、こちらのほうが商品らしさはありますね。実際に原価を考えながら売ったりして「ここが成長したなあ」と思ったところは?
お母様:ゲーム作りに関して自信がついたと思います。今日の取材もそうですけど、残念ながら使われなかったのですがテレビのニュースでも取材を受けたり、YouTubeの取材を受けたのはすごいと思います。前回出展したときは「(ボードゲームカフェ)JELLY JELLY CAFEの白坂翔の息子です」と、ちょっと冗談を含めて自分のことを言っていたんですけど、今回は「それだとお父さんの名前で売ることになるから言わない」と言っていました。ゲームデザイナーとして自分の名前で売りたいという気持ちがでてきたのは、大きな成長ですね。
未来:ゲームマーケットで販売してみて、実際利益はあったんでしょうか?
りんたろう:1万7000円くらいになりました。
お母様:儲けが出たぶんは兄弟で好きなものを買っていいことになっているので、メルカリでNintendo Swichを購入しました。りんたろうは普段から家で私たちが飲むコーヒーの販売を担当しています。豆を自分で仕入れて「一杯いくら」と値段を決めて週末に請求書が私たちのところに届くまでをやっています。
未来:それはもう立派なコーヒー屋さんですね! りんたろうくんは、コーヒーを売るとき、どういうところがおもしろいと思いますか?
りんたろう:(コーヒーを)つくるのが好きでおもしろいです!
未来:コーヒーを売ったお金では何を買っているのですか?
りんたろう:次のコーヒー豆を買ってます!
未来:なるほど、好きなものを買っちゃうのではなく、しっかり次につなげているんですね(笑)。
お母様:ゲームを作るコストもお父さんから借金をしているので、もしゲームが売れなくて借金が返せなかった場合は、コーヒーの売り上げから出すことも考えていたようです。
未来:よくあるお手伝いではなく、コーヒーを淹れる仕事をまかせた理由は?
お母様:もともと私が「お手伝いよりは家族に役に立つ仕事のほうがいい」と思っていて、コーヒーの販売も最初は親が「豆を使ってコーヒーを淹れたら1回100円」とやっていたものを、子どもが請け負うようになりました。
未来:確かに普通にお手伝いさせるより、家庭内で商売をやってみるほうがコストや手間、かかる利益なども計算するようになるので、子どもの成長にもプラスになりますし、何より本人が楽しくやれそうですね!
二足歩行するようになってからは「小さな大人」
未来:ここからはお父様とお母様にお話を伺います。お父様はボードゲームに関する企業にお勤めなんですよね?
お父様:はい。JELLYJELLYCAFEというボードゲームカフェを全国で12店舗運営している、株式会社ピチカートデザインで約11年働いています。ボードゲームカフェのほかにも自社でオリジナルゲームの製作販売等も行っていて、ECサイトの通販や販売店の運営もしております。
未来:ご自宅にもボードゲームがたくさんありますし、おそらく一般のご家庭よりもボードゲームに親しんでいるご家族なんですね。お子さんが「自分でゲームを作ってゲームマーケットで売りたい」と言ったときはどのように思われたのですか?
お父様:ゲームマーケットにボードゲームを作って販売する人のほとんどが「本業があってゲーム好きが高じて自分でも作りたくなった」という人たちなんですね。子どもたちは普段からボードゲームで遊んでいますし、ボードゲームを作ることが本業でないという意味でも状況としては他の販売者と同じだと思うので、自然に「やってみれば」という感じでした。むしろ大人の場合は「売れないかもしれない」とか「作るの大変そう」と思って、ゲームを作る想いに歯止めがかかることがあると思うのですが、子どもの場合は本当に「作りたい」という好奇心だけで作ってくれたので、しらがみもなくのびのびと作ってくれたと思います。
お母様:先ほどのコーヒーのお話もそうですけど、我が家では「二足歩行するようになったら小さな大人」と思って子育てをしています。
未来:なるほど、小さな大人だから挑戦したいということに対して素直に背中が押せるんですね。お子さんにゲーム作りと販売を体験させるうえで、心がけていたことは?
お母様:「成功体験」ですね。
お父様:がんばって作ったけど、評価されないということは残念ながら世の中にはよくあることです。でも、ゲームマーケットに出店するからには売れないとがっかりしちゃうじゃないですか。せっかくやるなら成功体験にしてあげたいという意味で「なんとかして数は売らないとな」というのは、大人側の気持ちとしてはありました。
未来:極端な話、ゲームデザイナーとしては絵を描いたりシステムを考えるだけで、細かいところは「大人にお願いします」ということもできたと思いますが、箱の組み立てやゲームマーケットで使う旗を自作するなど、裏方の仕事も徹底して自分たちでやらせた理由を教えてください。
お父様:ゲームマーケットに出店しても、本当に売れない人は1個も売れずに在庫を抱える、という方もたまにいらっしゃるんです。そういう方はクオリティの問題もありますけど、特徴的な魅力がないのが大きいと感じています。「ドラゴンのたまご」と「おかいものげーむ」に関しては、やっぱり中途半端に大人が提案してしまうと「特徴がなくなってしまう」という心配がありました。データの入稿や描いたものをスキャンしてデータ化することは手伝ったんですけど、あくまで「子ども主体で作っている」というのが表れるように、箱作りやお店に飾る看板など表に見えるところは子どもに担当してもらいました。実際、そこまで子どもが手掛けたブースはゲームマーケットにはあまりなかったので、うまく目立てたと思います。
かんばんづくり。あいたばしょにはこのしゃしんをいんさつしてはります!ゲームマーケットのりんけんゲームズのブースにかざります。#ゲームマーケット2022春 #ゲムマ2022春 #りんけんゲームズ pic.twitter.com/422O8Kh4ME
— りんけんゲームズ (@rinkengames) April 14, 2022
未来:確かに、Twitterで準備されている様子などを見て「取材にいこう」と思ったので、僕も1人のお客として興味を持ったくらいです(笑)。りんたろうくんがゲームマーケットで販売するのはこれが2作目ということですが、前の作品と比べて大人から見て進歩したと思うところはどこでしょうか?
お父様:やっぱり、人生の経験が僕らの1年と子どもの1年って全然違いますね。自分自身、遊ぶゲームが増えれば増えるほど、ゲームのルールや戦術などの引き出しも増えていくのは実感していまして、子どもが「今まで観たアニメや遊んだゲームを参考にしている」とわかったところに成長を感じました。
未来:制作に際してアドバイスしたことは?
お父様:ボードゲームを作っている我々も意識していることなんですけど、「ドラゴンのたまご」のような頭を使うカードゲームの場合「こうすれば絶対に勝てる」とか「このカード引いたら負ける」みたいな一つの要素が勝ち負けに直結してしまうことがあると、ゲームとしてはバランスが悪くなってしまうので、一緒にテストプレイをしながら調整しました。
未来:けんとくんについてはいかがでしょうか?
お父様:兄と比べると「まだまだな感じになるのかな?」という不安もあったのですが、私が言うのもなんですけど思いのほかよくできていて、大人側の調整はほとんどしていないですね(笑)。
お母様:「おかいものげーむ」は幼稚園で作って持ってきたときから、ほぼできあがっていて「はずれカード」の数を調整したくらいですね。
未来:あらためてボードゲーム作りを通して、2人が学べたことってどんなことだったと思いますか?
お父様:ひとつはゲームマーケットという「大人が大人に向けて売る」ようなところに出たのは、ちょっと背伸びした体験になったと思います。いわゆる「おままごとのパワーアップバージョン」みたいに「ごっこ遊び」ではなく、本物の商品を作って本物のお金をもらうという体験を小さいうちからできることってなかなかないですよね。私もそういう体験をしたのは高校生になってからだったので、この年で経験できたのはよかったと思います。家で家族相手にコーヒーを作って売るのとは、ステージが違う体験でした。そういう意味で子どもが将来接客業や商売をしたいなと思ったときに今回の経験が少しでも生きてくれたらうれしいです。
未来:ありがとうございます。最後にお伺いしたいのですが、白坂家の子育てで大事にしていることってなんでしょうか?
お父様:私が何か自分を犠牲にしてまで子どもの面倒を見たいというタイプではなくて、そういう意味では「自分の理想の子ども像を押しつけない」というのはありますね。悪く言うとほったらかしなんですけど(笑)。
未来:それがいい方向に進んで、お子さんの自立につながっているかもしれませんね。
お母様:私も学校の準備なども最低限親が見るところは見ますけど、やらないと困るのは自分なので、過保護なほうではないと思います。子どもに「面倒を全部見てなきゃ!」という感じはなくて、もう信頼しているというかまかせています。忘れものをしたら、そのときの対処法を自分でうまいことやってほしいです(笑)。
未来:まさに「二足歩行したら小さな大人」ですね(笑)。
りんたろうくんとけんとくん、どちらも質問にはきはきと答えてくれて、こんなに素直で明るく、素敵な子どもを育てるコツが「二足歩行したら小さな大人」というシンプルなものだったことに、とても驚きと感動を覚えました。子どもを信じてまかせているからこそ、子ども自身もやりたいことにチャレンジして、そこでまた大きな学びと達成感を得て、自己肯定感や自分は何かをやれると思えることにつながっていっているのだと思います。2人の次回作が出るのを楽しみにしています!(KAZ)
2014年生まれ。「りんたろうゲームズ」としてゲームマーケット2020秋で初出店。弟のけんとくんと一緒に「りんけんゲームズ」を立ち上げ、ゲームマーケット2022春に「ドラゴンのたまご」を出店。売上金で買ったNintendo Swichの「ナビつき!つくってわかるはじめてゲームプログラミング」で遊ぶのが最近のマイブーム。次回作は「忍者」がテーマのゲームとのこと。
しらさかけんとさん プロフィール
2017年生まれ。幼稚園で作ったカードをもとに「おかいものげーむ」を作り、兄のりんたろうくんと一緒にゲームマーケットで販売する。少し恥ずかしがりやながら、センスとひらめきに大人が驚くこともしばしば。
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