「人の話が聞けない」や「片付けられない」など日常生活における困りごとがある「少し付き合うのが大変」な人たち。その原因のひとつとして、脳にある特性が原因となっている「発達障害」が挙げられます。しかし、発達障害の患者を診る精神科医によると、こうした困りごとは「定型発達と呼ばれるいわゆるごく普通の人にも当てはまる」と言います。発達障害の人がよくある「困りごと」から発達障害の人が見ている世界を知り、我が子が同じような場面に出会ったときにどう対処や声がけをしたらいいのかを知るインタビュー連載第3回です。今回紹介する困りごとは「学校生活で集団行動ができない」です(株式会社アスコムさまより献本していただきました)。
自由に行動してしまい、学校生活で集団行動ができない子どもにはどうしたらいい?
未来:今回もよろしくお願いします。指示しても従わず自由に行動してしまい、学校生活で集団行動ができない子どもにはどう対応したらいいかという困りごとについてお伺いしたいです。
先生の著書「発達障害の人が見ている世界」に「ASDの女の子(7歳)は遠足や運動会の練習で集団行動をするのが大嫌いで、『クラスで1人だけ別のことをしている』と学校から連絡があったがどうしたらいいのか」というエピソードが載っています。岩瀬先生のアドバイスは「みんなと一緒に行動する理由が分かっていない子に対して集団行動を無理強いするよりも自分の『好き』を追求できる環境を」とご説明されています。学校生活において集団行動はとても多いので、なかなか難しい問題だと思いますが、詳しくアドバイスをいただけますか?
岩瀬先生:まず、実際私が診療して日々感じているのは、「子どもをどのようにして学校に行かせられるのか」、「修学旅行などの学校行事にどのようにして参加させられるのか」という相談に来られる親御さんが非常に多いことです。ですが、そのような質問をされても私としてはとても困惑します。
未来:親としてはそういう相談をしてくるのはわかりますが、困惑される理由はなぜでしょうか?
岩瀬先生:私は学校の先生ではないので「学校に行かないといけませんよ」と言いきれる立場ではありません。なので「学校に行かないのであれば、無理に行かなくてもよいという考え方もありうるのではないですか」と回答しています。ですが、親御さんは私の回答に「行かなくてもよいのではないかと言われても困る」とかなりお怒りになる方も結構いらっしゃいます。
未来:保護者としては、「学校に行くのが当たり前」という前提で相談に来ているからですね。
岩瀬先生:そうだと思います。保護者が、「学校というのは行かせるのが絶対にいいんだ」「修学旅行で集団行動させるのが絶対的にいいんだ」と思い込んでいる風潮があると思います。例えば、この前も一泊旅行に行く際に、他の子に暴力や暴言を吐くと困るので薬を増やしてほしいという話がありました。ですが、集団行動で上手くやるためだけに薬を増やすことは賛成できません。
本人の体重や年齢を考えて徐々に薬を増やすことは賛成ですが、一泊旅行に行くためだけに薬を増やすというのは賛成できないです。その方は幸いそれ以降も薬を減らさないでそのまま飲んでいただくという考えをお持ちだったので、元には戻さないという約束で薬を増やしました。やはり親御さんは「集団行動に慣れさせないと社会に出たときに困る」と強固に考える方が多いのですが、そうではないと納得していただくのに苦労しています。
未来:先生の本の中にある「生き方のヒント」にも「好きなことを伸ばすことで将来の仕事の道筋につながるかもしれません。世の中は多様性を尊重する風潮が強くなっています。ASD(自閉症)傾向を持つ人も、未来の方がずっと暮らしやすくなるでしょう。ネットワーク化によって、人と交わらずとも成立する仕事も増えていくはずです」とお話されていますね。
岩瀬先生:別なケースでいうと「学校ではいじめられるから行きたくない」という生徒がいました。また、その子は土日に部活が朝早くから遅くまであり、自由な時間がありませんでした。平日も土日も学校へ行って、嫌な思いをしていて休まる時間がないんですね。そこで部活に行くのを控えるように提案したら、すぐにお母さんが「そういうわけにはいきませんよ」と言うのです。学校や部活に行くのは絶対に子どもためにいいと思い込んでいる親御さんが非常に多いと思います。
未来:どのように対応するかというよりも、保護者の方が子どもの心地良い環境をどうすれば作ることができるのかを考えたり、集団行動でなくても「やりたいことがあることを尊重してあげる」というように意識を変えていくことが重要ということですね。
岩瀬先生:はい、そうですね。例えば学校に行きたくないがオンラインだったら授業も受けられ、勉強する気もあるという子どもがいたので、「最近はN校のようなオンラインで学べる通信制の学校ものもありますし、そのようなところに転校して単位を取っても良いのでは?」と提案したところ、子ども本人は大いに納得していました。
ところが、お母さんが「それじゃあ困ります。学歴が途中になってしまうため、なんとか今の学校に行かせる方法を教えてほしい」と反対するパターンが非常に多いのです。私は「それはちょっと違うのでは… 」と思ってしまいます。
未来:「未来へいこーよ」でも発達障害で嗅覚過敏などの症状を持ち学校にいけなくなった後に、N校行ったお子さんを取材したことがあります。そのお母さんも中学受験を経てやっと入った学校にそのまま通学してもらいたいと思われていたとのことですが、結局お子さんは入学しても給食やお弁当の匂いがダメで学校に行けませんでした。でもN校に行って子どもがすごくのびのびして、どんどん自立していく姿を見て「この子にはこれが合っていたんだ」と思ったとおしゃっていました。
お子さんが心地いとかどうやりたいのかなど、見守って信じることが重要なんだなとその取材の時に思いました。やはり、親がどのようにして自分の見方を変えていくか、どのようにして子どもを見ていくかが大切なんだと思いました。
岩瀬先生:いろいろなケースを見ていると、不登校は親御さんの学校教育に対する姿勢が問題であるケースも多々あります。
未来:私(KAZ)の息子は自閉症で重度の知的障害があるのですが、毎日すごく楽しそうに生活しています。先生のお話を聞いてすごく励まされた気持ちになりました。子ども自身よりも保護者の方が変わっていけば良いのだと腑に落ちたアドバイスでした。
岩瀬先生のお話を伺って
保護者が「集団生活に合わないなら、無理に学校に行かせなくてよい」と考えるのは、なかなか難しいことかもしれません。中学までは義務教育でもありますし、自分自身が普通に学校に通っていた保護者の方にとっては、自分の子どももどうしても学校に通わせたいと考えてしまうのはある意味当然といえます。
それでも、岩瀬先生が提案されたように子どもの特性などを考えて(オンラインで学ぶなど)学び方を変えてみたり、落ち着く時間を作るようにしたりするなど、子どもが毎日を楽しく過ごすためにどうすればよいかを、保護者が子どもと一緒に柔軟な姿勢で考えることは必要だと感じました(KAZ)。
岩瀬先生の著書「発達障害の人が見ている世界」を抽選で5名にプレゼント!
記事でもエピソードを紹介している「発達障害の人が見ている世界」は、発達障害の人やその保護者が抱えている日常の困りごとを「なぜそうなるのか?」と「どうしたらいいのか?」をやさしく丁寧に解説している本です。今回は、この本を抽選で5名にプレゼント! 以下のフォームにメールアドレスとお名前、記事の感想を書いて応募してください。締切は12月8日(金)まで。たくさんのご応募、お待ちしております。
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