発達障害の人が見ている世界

小学校で人の話が聞けず、席を立ってしまう…子どもの困りごとの解決法を精神科医が解説【連載第1回】

「人の話が聞けない」や「片付けられない」など日常生活における困りごとがある「少し付き合うのが大変」な人たち。その原因のひとつとして、脳にある特性が原因となっている「発達障害」が挙げられます。しかし、発達障害の患者を診る精神科医によると、こうした困りごとは「定型発達と呼ばれるいわゆるごく普通の人にも当てはまる」と言います。発達障害の人がよくある「困りごと」から発達障害の人が見ている世界を知り、我が子が同じような場面に出会ったときにどう対処や声がけをしたらいいのかを知るインタビュー連載です。今回紹介する困りごとは「小学校で人の話が黙って聞いていられない」です(株式会社アスコムさまより献本していただきました)。

岩瀬利郎先生

人の話を黙って聞いていられない子どもにはどうしたらいい?

未来:岩瀬先生、本日はよろしくお願いいたします。先生に「人の話を黙って聞いていられず、ソワソワしたり席を立ったりしてしまう子どもについての困りごと」についてお伺いしたいです。先生の著書「発達障害の人が見ている世界」のエピソードには、人の話がきけないADHD(注意散漫でミスをしやすい特性を持つ子)の9歳の女の子が出てきます。

その子はお母さんと診察室に入ってきて、椅子に座ったと思った瞬間に床に寝転がってしまったり、お話しをしようと言葉をかけても一瞬目を向けるだけですぐにそっぽを向いたりしてしまったとのこと。そして棚に置いていたぬいぐるみを見つけるや駆け寄って手に取り大きな声で話しかけていたそうですね。

先生の著書では、発達障害の子どもは「目から入る情報が伝わりやすいため、絵や文字を見せながら話しかける」ことを対処法にあげていますが、なぜ発達障害の人は目から入る情報が伝わりやすいのでしょうか?

岩瀬先生:まず始めに、「WISC-IV(ウィスク・フォー)知能検査」という認知機能について見立てをする検査法について説明しますね。WISC-IVの測定内容は基本的に言語の理解、視覚情報を統合する能力、聴覚情報を記憶する能力、そして認知の情報の処理速度の4つに分かれています。その4項目で数値を測り、グラフ化して認知の凹凸についての見立てをします。

この検査で発達障害のお子さんは視覚情報の処理が得意で、聴覚情報を処理するのが苦手という結果が出ることが非常に多いです。そのような結果が出た方に関しては本でも示しましたように「何かを伝えるときは目で見える情報を使い、言葉で教える聴覚情報だけにしないようにしてください」と親御さんや学校の先生にお話しします

ただし、WISC-IV検査で「視覚情報が苦手で聴覚情報の方が得意」という結果が出る場合がときどきあります。そのようなお子さんの場合は聴覚情報を主に使っていきます。

未来:なるほど。では、「人の話を黙って聞いていられず、ソワソワしたり席を立ったりしてしまう子ども」への対応法としては、絵などの視覚情報を使うことが有効なことが多いが、お子さんによっては必ずしも視覚情報だけで教えることが正解ではないということですね。WISC-IVで検査をした結果、その子に向いている方法で伝えるということですね。

岩瀬先生:はい。WISC-IV検査に基づいて、その子の特性にあった伝え方を考えていきます。

未来:親や保護者の場合、自分の子どもにどのように対応したら良いのか分からなくて困っている方が多いと思います。その場合は自己判断をするのではなくて検査などをしっかり受けた方がいいのでしょうか?

岩瀬先生:もちろんそうだと思います。やはり、発達障害は遺伝的な要素も強く、お子さんが発達障害的な傾向を持っていると親御さんも発達障害的な傾向を持っていることが多いです。親御さんがいくら考えて対応しても本人にとって適切な教育になっていないということがよくあります。ですので、第三者の目でできるだけ医療機関のアドバイスや検査に基づいた方が、より適切な教育ができると思います。

岩瀬先生のお話を伺って

私の小学2年生の息子は知的障害を持つ自閉症(ASD)で、現在は特別支援学校に通っています。学校でもイラストが描かれたカードを使って、一日の予定やすべきことを伝えています。自宅でお出かけ先などを言葉で伝えるときも、複雑な文章ではなく「明日・動物園に・電車でいきます」など、要点をしぼった伝え方にすると伝わりやすいです。

特に発達障害の子どもが相手でなくても「わかりやすい」工夫をすることは大切です。例えば仕事のプレゼン資料などでも、文章だけより絵が入っていたり、図で整理いたりするとわかりやすくなります。子どもに対しても、言葉だけでなく伝わる工夫が大事なのだなと思いました。

また、先生がおっしゃっていたように、もし発達について気になっていたら、診断をしてもらうことで対処法が見えやすくなります。かくいう僕自身、子どもに診断がついたことで、日々の生活で工夫するところが明らかになり、伝わらずにイライラすることが格段に減りました。検査をすることに抵抗を感じる方もいらっしゃると思いますが、子どもの成長のためにも、育てる大人の身にとってもいい方向に進むきっかけになると思います(KAZ)

岩瀬先生の著書「発達障害の人が見ている世界」を抽選で5名にプレゼント!

発達障害の人が見ている世界

記事でもエピソードを紹介している「発達障害の人が見ている世界」は、発達障害の人やその保護者が抱えている日常の困りごとを「なぜそうなるのか?」と「どうしたらいいのか?」をやさしく丁寧に解説している本です。今回は、この本を抽選で5名にプレゼント! 以下のフォームにメールアドレスとお名前、記事の感想を書いて応募してください。締切は12月8日(金)まで。たくさんのご応募、お待ちしております。

応募フォームはこちら

 

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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