脳のひらめきやじっくりと考えることが必要になるパズル。これを作っているのはどんな人なのでしょうか? 今回の「つくる人」インタビューでは、「パズルをつくる人」としてパズルクリエイターとデータサイエンティストの2つの顔を持つアドリアンさんが登場! 子ども時代に「好き」を上手に高めてくれたご両親の子育て法にも注目です。
Adrián Jiménez Pascual(アドリアン ヒメネス パスクアル)氏 プロフィール
東京大学数理科学博士。論理的思考、数学的抽象化、汎用的思想、問題解決。多言語話者。総合コンサルティング会社「アクセンチュア」でデータサイエンティストとして活躍する傍ら、パズルクリエイターとして「ロジカルニュートン マルコ・ポーロの地図(ハナヤマ)」や「スクアドロ(ギガミック)」などを手掛ける。スペイン出身ながら日本語も堪能で、今回のインタビューは日本語で答えていただいた。
日本で「はずる」にハマり訪問したことがパズルクリエイターのきっかけに
未来:じつはパズルとゲームの専門メーカーである「株式会社ハナヤマ」のTwitter担当の方に「ハナヤマのパズルが好き過ぎて、突然本社にやってきた人がいて、今はパズルクリエイターになっている」というお話を伺いまして、アドリアンさんを紹介していただいたんです。
ありがとうございます。もともと子どもの頃からジグソーパズルやルービックキューブのようなパズルが好きでした。2005年に初めて日本にきたときに、ハナヤマのキャストパズル(現在の「はずる」)に出会って「形は複雑なのに、解くとキレイにはずれる」ところに「えーっ、こんな素晴らしいものが存在するんだ!」と感動したんです。それで2007年に東京に行ったときに「せっかく東京にいるので、ちょっとハナヤマ本社に行ってみようか」と思って行ってみました。

インタビューはアドリアンさんの思い出の場所でもある、株式会社ハナヤマのショールームにて実施。ショールームにはアドリアンさんが夢中になった「はずる」をはじめ、ハナヤマが手がけたたくさんのおもちゃが飾られている。
未来:それはすごい行動力ですね! ハナヤマさんではどのようなことをお話したのですか?
突然、変な外国人がやってきたのに断らずに対応していただいて、とってもうれしかったです。そのときは30分くらい、キャストパズルがどういう風に考えて作られているのかという話を聞かせてもらいました。当時の担当さんとは、ときどき連絡を取らせていただいてます。
未来:パズルクリエイターになったのは、ハナヤマでの経験がきっかけに?
そうですね。それ以来もう、ますますパズルにのめりこんでしまって、大学生の頃にはパズルデモンストレーターのアルバイトもしました。
未来:パズルデモンストレーターとは?
東急ハンズやショッピングモールなどのパズルが置かれているお店の売り場で「このパズルを解いてみませんか?」と声をかけたり、解き方が分からなければヒントをあげたり、パズルが買いたいけど、どんなパズルがいいのかわからない人に好みを聞いておすすめパズルを紹介するアルバイトです。
未来:パズル好きが高じて、その知識でアルバイトとはいえお金が稼げるようになったんですね。自分でパズルを作ってみたいと思ったきっかけはなんでしょうか?
最初は私も「パズルを自分で作ろう」という発想はなかったです。単にハナヤマのパズルを買って遊んで「これを考えた人は、すごいなー」と思っていました。でも、ある日とても退屈していて、家でゲームをやろうと思ったんですけど、ふと頭に「ゲームがなかったとき、人は何をしていたか?」、「もしも自分が歴史上初めてゲームを作る人になったら、どんなゲームを思いつくか?」と思ったんです。今までにない価値を、今までにない方法で提供するものを「ワイルドアイデア」というのですが、この時浮かんだこの考え方は私にとってのワイルドアイデアでした。そこで生まれたのが「スクアドロ」で、のちに世界的に有名なフランスのゲーム会社・ギガミックで発売されて2019年にフランス戦略賞をいただきました。それがうれしくて、もっといろんなゲームを作りたいと思ったんです。
大人も子どももハマる「マルコ・ポーロの地図」
未来:「スクアドロ」に続くパズルとしてアドリアンさんが作ったのが「ロジカルニュートン マルコ・ポーロの地図」ですね。「未来へいこーよ」でも「ロジカルニュートン」を紹介していて、実際に遊んでみたのですが対戦ゲームだった「スクアドロ」とは違って1人で遊ぶゲームですね。
「ロジカルニュートン マルコ・ポーロの地図」をAmazonで購入する
「マルコ・ポーロの地図」は、「スクアドロ」のような対戦形式ではなく、1人でじっくり取り組めるパズル作りも挑戦してみたかったのです。私はすでに発売しているパズルの競合になるものではなく、常に別の領域の新しいパズルを作ってみたいと思っています。数学で定理を発見するのと同じように「今まで誰も考えたことないものを見つけたい」といつも考えているからです。
未来:アドリアンさんは数理科学博士でもありますし、その立場からも常に新しい発想のものを生み出そうとしているわけですね。「マルコ・ポーロの地図」はどういう発想から生まれたものでしょうか?
最初は4×4のマスがあるフィールドを「一筆書き」で、すべての場所を通るパズルをイメージしました。でも、これだけだと数学の世界ではすでにある問題で、どんな形でどういう解き方が何通りあるというのが知られています。そこで、隣のマスに移動するのではなく、2~3つジャンプして進むようにしたら同じように解けるか? というところから、このパズルを作りました。

「マルコ・ポーロの地図」は、4×4で区切られたフィールドで指定の数のピースを使ってスタートからゴールまで導くパズル。ピースは片面が青、片面が赤の矢印が描かれており、青は2つ、赤は3つ進める。ピースはスタートとゴールにも置く。障害物があるところはピースが置けないのが基本ルール。なお、写真内の青い枠線は、ルールをわかりやすくするために入れたもので、実際のパズルにはないものです。
未来:ジャンプしながら移動すると、一方通行ではなくて行ったり来たりする要素が加わって、単純な一筆書きよりもパズルとして奥深くなりますね。
そうなんです。このパズルは全部で40問ありますが、最初に作ったのが最後の40問目です。最初はスタートからゴールまで全部のマスを埋めていけるかという条件を設定しました。そこから条件を緩めて、全部使わなくてもおもしろくなるんじゃないかと思って、試行錯誤しています。

アドリアンさんが語った40問目は、16個のピースをすべて使ってゴールに導く。40問中、16個ピースを使うのはこの問題のみで、それだけに難易度はかなり高い。じつはこの問題以外にも「どの位置からスタートしても16個のピースを使ってゴールできる」ようにもなっている
未来:「ロジカルニュートン」シリーズはプログラミング的思考がテーマになっていて「マルコ・ポーロの地図」も、ルートが複数あるときは試しにピースを置いてみてダメなら別の方法を試すところなどはプログラミング的ですね。
最初からプログラミング的思考を意識していたのではなく、まずはただ私が楽しめるゲームを作っていました(笑)。でも、後から考えると、ご指摘のように「まずひとつの道を選んでみて、ダメだったら1歩戻って別の道を探す」というところは、プログラミングの言葉でいう「バックトラッキング」の考え方になっています。
未来:実際に遊んでみると、ピースをパチっとハメたときの感触がいいですよね。最後の40問目は、全部を埋めるのですが、マスにピースが全部ハマるのも達成感と気持ちよさがありました。こういうところも考えているのでしょうか?
そうですね。デザイン面ではハナヤマさんに見た目でわかりやすいような改良を加えていただきました
未来:手触りや見た目のわかりやすさにもこだわって作っているんですね。