全国の中高生が探究の成果を発表する「自由すぎる研究EXPO2025」で、「未来へいこーよ賞」を受賞したのは、広尾学園高等学校3年の小澤美咲さん。受賞作は『神経科学の魅力を伝える ― 高校生サイエンスコミュニケーターとしての試み』。難解に見える神経科学を、中高生にも親しみやすく発信する活動を続けてきました。どのように興味を深め、仲間とつながり、周囲を納得させながら進んできたのか。その歩みを伺いました。
「自由すぎる研究EXPO」とは?
全国の中高生から自由研究作品(探究の成果物)を募集し、企業や大学などで構成される「称賛団体」が、多様な観点から生徒の探究を称賛するコンテストです。社会の一線で活躍する大人たちが、それぞれの専門領域から生徒の挑戦に光を当てるのが特徴です。
「神経科学の魅力を伝える – 高校生サイエンスコミュニケーターとしての試み」が未来へいこーよ賞を受賞
広尾学園高等学校の小澤美咲さんは、「神経科学の魅力を伝える」をテーマに、科学の魅力を社会に届ける活動を自由研究としてまとめました。フィリピンでの医療ボランティアをきっかけに研究の道を志し、研究のプログラムで神経科学に出会います。難解で専門的と思われがちな神経科学を身近に感じてもらうため、国際的な学生団体「IYNA Japan」の立ち上げ、SNSでの発信や対話型ワークショップを開催しています。
受賞の理由
「好き」という気持ちから始まり、研究に夢中になるだけでなく、仲間を増やすために国際的な非営利団体の日本支部を立ち上げたり、イベントを積極的に開いたりと、その行動力にとても驚かされました。サイエンスコミュニケーターを目指してインターンで学ぼうとする姿勢もすばらしく、探求を続けながら知識を広げていく姿に感心しました。
レゴが教えてくれた“考えること”の楽しさ
未来: 小さい頃はどんなことに夢中になる子どもでしたか?
小澤美咲さん(以下、小澤):レゴが大好きでした。普通は説明書通りにお城やお店を作ったりすると思うのですが、私はそういう完成品にはあまり興味がなくて。買ってもらった商品から、必要なパーツだけを取り出して、自分なりに組み合わせるのが好きでした。
未来: なるほど。完成させることより、“仕組みを考えて作る”ことが楽しかったんですね。
小澤:そうですね。どう組み合わせたら思い通りの形になるかを考えて、試して、失敗して、また直す。その繰り返しがすごくおもしろくて。親には「このパーツが欲しいからこのセットを買って!」とよくお願いしていました(笑)。でも今思えば、レゴを通して目的のために必要な要素を見極めて組み立てるという思考が自然と身についていたと思います。
未来:その探究心は、今の研究や活動にも通じていそうですね。
小澤:そうかもしれません。スポーツも同じように夢中でやっていました。小さいころはダンスやバスケットボールもやっていましたが、途中からテニスに絞りました。これは、アメリカに住んでいたときに両親の提案で始めたんです。言葉の壁があっても、スポーツならコミュニケーションが取れるんじゃないかと考えてくれて。
そこからすっかりハマって、週5日練習していました。負けず嫌いで、一度やると決めたら納得いくまでやり切るタイプなんです。親には「頑固」とよく言われていましたが、自分の中では“納得できるまで試す”だけ。レゴのときもテニスのときも、そんな性格がずっと続いている気がします。
命を救うために、研究という道を選んだ理由
未来: 医師を目指していたところから研究に進んだのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
小澤:小さい頃から医療ドラマを見るのが好きで、『アンサング・シンデレラ』や『グッド・ドクター』のように、患者さんと真正面から向き合う医師の姿に憧れていました。誰かの痛みを受け止め、寄り添いながら治していく姿を見て、「私も人の命を救う仕事がしたい」と強く思うようになったんです。
未来: 現場で人を助けることに惹かれていたんですね。
小澤:はい。だから高校生のときにフィリピンの医療ボランティアに参加しました。現地の病院で、事故に遭った同年代の女の子が数日後に亡くなって、ただ見守ることしかできなかった自分が本当に悔しくて。現場の医療には“治療法そのものが存在しない病気”がまだたくさんあることを知りました。目の前の患者を助けるためには、もっと根本的な原因を探り、新しい治療法を生み出す研究が必要だと感じたんです。そこで初めて、「研究という形で医療に貢献する道がある」と気づきました。

医療ボランティアをしていたときの小澤さん
未来:命を救いたいという思いは変わらず、手段が“臨床から研究へ”と広がったわけですね。
小澤:そうですね。帰国後に研究室に参加し、神経系の働きや記憶、感情の仕組みを学びました。脳を理解することは、身体の病だけでなく心の健康にもつながる。人の「こころ」の源を科学的に探ることが、心の病や神経疾患など、目に見えない苦しみを軽くすることにもつながると感じました。そこから、神経科学の道にどんどん惹かれていきました。
「難しい」を「おもしろい」に変える高校生サイエンス活動
未来:神経科学の魅力をもっと広めたいと思ったのは、どんな瞬間ですか?
小澤:自分が学んでいくうちに、「この楽しさを誰かと共有したい」と思うようになったんです。でも当時は、同世代で神経科学に興味を持つ人がほとんどいなくて。だったら自分で場をつくろうと考えて、「IYNA Japan」という高校生コミュニティを立ち上げました。最初はSNSでクイズや雑学を投稿して、身近な話題から神経科学に触れてもらうことを意識しました。

未来:SNSでの発信は反響がありましたか?
小澤:最初のころは反応がなく苦労しましたが、続けるうちに共感の声が届くようになりました。そこから神経科学に関心を持つ人や仲間、研究者の方と出会えたことが自信につながりました。
未来:オンラインの発信から、リアルな場にも広がっていったんですね。
小澤:はい。SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)で展示会を開いたときは、「神経科学と聞いて思い浮かぶこと」を来場者に紙に書いてもらうコーナーをつくりました。結果、300件以上の回答が集まって、「難しそう」「AI」「脳の仕組み」など、本当にいろんな声が寄せられました。中には「記憶や感情を解明するってロマンがある」という言葉もあって、心からうれしかったです。

未来:高校生のうちから、そこまで企画して形にできるのはすごいですね。
小澤:ありがとうございます。でも実際はうまくいかないことも多かったです。それでも「伝えたい」という気持ちがあったから続けられましたし、続けるうちに「一緒にやってみたい」と言ってくれる人が現れた。その瞬間が本当にうれしかったですね。

脳科学とテクノロジーを融合させた「ブレインテック」の産業化とエコシステムの創造を目的とする団体「Braintech Consortium」との共催による対談イベントも開催。「脳とAIの融合」をテーマにした多角的な議論が行われました。
未来:活動を続ける中で、、周囲の大人から何か言われたことはありますか?
小澤:ありました。大学の先生からも「まずは受験に集中したほうがいい」「いい大学に入ってからやれば?」と言われたことがあります。たしかにその考えも理解できます。でも、私は高校生の今だからやる意味があると思っていて。高校生として挑戦しているからこそ、自分の進路や価値観を大きく変えることができました。挑戦を通して初めて、「自分の好きなことを社会とつなげる」感覚をつかめた気がします。
ひとりの思いから始まった挑戦が、仲間と出会うことで広がっていく
未来:活動を通して、印象に残っている出会いはありますか?
小澤:一番大きかったのは、AIや哲学など“脳”を違う角度から研究する人たちとの出会いです。分野は違っても、興味の部分でつながっていて、話していると世界が一気に広がる感覚がありました。
未来:異なる分野の人と関われるのは、まさに探究の醍醐味ですね。
小澤:そうですね。でも、ここまでくるのは簡単じゃありませんでした。IYNA Japanを立ち上げた当初、一緒に始めた仲間が途中で抜けてしまったんです。いま思えば、私自身が「何を目指すのか」をうまく言葉にできていなかったんだと思います。もしも当時、もう少し自分の思いを言語化して、みんなで“どんな未来をつくりたいのか”を話し合えていたら、違う展開もあったかもしれません。でも、その経験があったから、今は新しい仲間と活動の意義を何度も確認し合うようにしています。
今では大学生や研究者の方もアドバイザーとして関わってくださって、メンバーは100人を超えました。以前は“個人の思い”で始めた活動が、“チームとしての挑戦”になってきた感覚があります。
“好き”を続けるために学年1位をキープし続けた努力
未来:活動を続けながら学業を両立するのは大変だったのでは?
小澤:はい。最初は周りの人から「勉強とのバランスは大丈夫なの?」とよく言われていました。神経科学の活動は放課後や休日にも時間を使うので、「本業の勉強より優先しているのでは?」と心配に見えたのだと思います。でも私は、自分のやりたいことを続けるためには、まず安心してもらうことが必要だと感じていました。そこで「学年1位を取る」と宣言して実行したんです。
未来:それを本当にやり遂げたんですか?
小澤:はい。一度きりではなく、高校2年間ずっと上位をキープし続けました。結果的に、その継続が信頼につながりました。
未来:すごいですね。成績で信頼を築くって、簡単なことではないですよね。どうやって時間を確保していたんですか?
小澤:通学電車の時間を“集中タイム”にしていました。行きと帰りの片道1時間は、スマホを見ずにフラッシュカードで予習や復習をしていました。夜は活動の準備やミーティングもあったので、家では復習中心にして詰め込みすぎないようにしていました。
未来:それでも疲れたり、モチベーションが下がることもあったのでは?
小澤:ありました。でも、私はコーヒーが好きで、毎朝いろんなコーヒーを買うのをモチベーションにしていました。香りを感じると自然と“やるモード”に切り替わるんです。勉強や活動を続けるって、気力だけでは無理なので、そういう小さな習慣が支えになりますね。
未来:なるほど。周りの人から見ても、「やりたいことをやりながら結果も出す」姿を見せてもらえると、安心して応援できる気がします。
科学を社会につなげる、伝える研究者を目指して
未来:これから挑戦したいことを教えてください。
小澤:将来は、神経疾患の研究を通じて、人の生活の質を高めることに貢献したいと思っています。脳や神経の仕組みはまだ解明されていない部分が多くて、そこに希望があると感じるんです。たとえば心の病など、目に見えない苦しみを抱えている人たちが少しでも楽になるような研究をしていきたいです。
未来:「科学で人を支える」という思いは、一貫していますね。
小澤:そうですね。でも、研究者になることがゴールではないと思っています。科学を専門家だけのものにしてしまうと、本当の意味で社会には届かないと考えています。だから私は、研究と同じくらい、「科学を伝えること」にも力を入れていきたいんです。難しい言葉をやさしく言い換えたり、子どもたちが“わかった!”と感じる瞬間を作ったり。そういう橋渡しのような存在になれたらと思っています。
未来:まさに「高校生サイエンスコミュニケーター」ですね。
小澤:ありがとうございます。私はまだまだ勉強中ですが、強い興味を持って続けていれば、きっと仲間や新しい世界に出会えると実感しています。自分が本当にワクワクすることを続けていると、同じように熱中している人が自然と集まってくるんです。
そして、活動を通して感じたのは「高校生の挑戦を応援してくれる場所や人は、思っている以上にたくさんある(いる)」ということです。渋谷キューズのようにプロジェクトとして受け入れてくれたり、大学の先生や研究者の方が手を差し伸べてくれたり。そうした環境があるからこそ、私たちは思い切って行動できる。そういう場がもっと広がれば、同世代の仲間たちも自分の好奇心を信じて一歩を踏み出せると思います。
未来:最後に、この記事を読んでいる親御さんにメッセージをもらえますか?
小澤:そうですね。子どもって、何かに夢中になっているときに、周りから見ると寄り道に見えることもあると思うんです。でも、それが将来どんな形でつながるかは、やってみないとわからない。だからこそ、子どもの「やりたい」を信じて、見守ってあげてほしいです。好奇心って、たぶんその子の未来そのものなんです。信じてもらえると、自分の力で進む勇気が出る。私はそれをずっと感じてきました。







