昨今の教育現場で世界的に注目されている「非認知能力」。行動力や思いやり、自己肯定感などに代表される非認知能力は、これからの社会を生き抜くために子どもたちが身につけるべき非常に大切なスキルです。そう話してくれたのは、日本財団の子どもサポートチームでリーダーを務める本山勝寛さん。
子どもが家庭や学校以外の場で「生き抜く力(非認知能力)」を育むことを目的に「子ども第三の居場所」を運営している本山さんに、子どもの非認知能力を育むために大切なことを教えてもらいました。
子どもが認められ安心できる居場所づくり
未来:まず現在運営されている「子ども第三の居場所」について教えてください。
「子ども第三の居場所は、さまざまな困難を抱える子どもたちに、安心して過ごせる場所を提供することを目的とした施設です。ひとり親家庭や複雑な家族関係など家庭の抱える問題が深刻化し地域の繋がりが希薄になっている現代社会では、安心して過ごせる場所がなく孤立してしまう子どもが少なくありません。そんな子どもたちを対象に、家庭や学校以外の場所で多世代と交流し、『生き抜く力』を育むためのプログラムや学習支援を実施しています」
未来:安心できる場所が少ない子どもたちにとって、学校や家庭でサポートしきれない部分の役割を担っているんですね。
「意外に見過ごされがちなんですが、子どもたちにとって放課後の時間ってものすごく長いんですよね。今は働いている親も多いので、学校が終わってから親が帰ってくるまでかなり時間があります。この時間をどう過ごすかが、子どもの成長にとってとても大切だと思います」
未来:どう過ごすのが理想的なんでしょうか?
「学校が学力(認知能力)を伸ばすことに注力した場所だと考えると、そこでは測れない非認知能力を育んでいくことが大切だと思います。子どもの自己肯定感や、人や社会と関わる力など生きるための力です」
「海外の研究でも発表されていることですが、非認知能力を高めることは認知能力の向上にも繋がります。非認知能力が高いほど学力や収入が高く、家族関係など子どもの将来にさまざまなよい影響を与えることが明らかになっています」
未来:その非認知能力を高めるために、子ども第三の居場所では具体的にどのようなことをされているんでしょうか?
「たとえば、どんなに小さなことでも褒めるというのを強く意識しています。これは子どもの自己肯定感を高めるためです。家にいても1人だったり怒られてばかりいる子どもは、自己肯定感が下がってしまいます。学校で勉強についていけない場合も疎外感を感じやすく、家でも学校でも自尊感情が下がってしまう環境にいる子どもが多いんです。ですから、小さなことでもチャレンジして達成する経験をさせ、それを褒めることを大切にしています」
未来:非認知能力の中でも、自己肯定感がとくに大切だということでしょうか?
「そうですね、自分のことを受け止めてくれる、認めてくれる大人がいると感じられることはすべての土台になります。ですから、子どものいい所を見つけて、それを褒めて伸ばすことを強く意識しています」
「勉強が苦手で宿題を集中してできない子どもでも、自分の好きなことなら集中してできたりします。ダジャレが好きな子どもにダジャレ大会を企画してもらったことがあるんですが、そういった体験が子どもにとってはたくさんの力を身につける機会となるんですよね。自分で考えて企画をつくり上げていく力や、それを人に発表するコミュニケーション力、最後までやり抜く力など…そしてその経験を通して生まれた自信が、他のことに挑戦するエネルギーとなっていきます」
未来:自分が得意なことや好きなことを通して認められることで、自信がついてさまざまなことにチャレンジできるようになるんですね。これらを意識して子ども第三の居場所を運営されていて、実際に子どもたちの変化を感じることは多いのでしょうか?
「とても多いです。入ってきたばかりの頃は集中して一つのことに取り組めなかった子が宿題に集中できるようになったり、暴言が多く喧嘩ばかりしていた子がお友だちの良いところを見つけて褒められるようになったり、別人のように変わったと感じるケースも少なくありません」
未来:きっと人から褒められたり認められることで、はじめて他の人のことを認められるようになるんですね。そういった意味でもやはり自己肯定感がすべての土台となり、とても大切なんだと感じます。複雑な環境にある子どもたちをこれほど変化させるというのは、簡単なことではないですよね。
「そうですね、毎日現場で子どもたちと真摯に向き合ってくれるスタッフの力が大きいので非常に感謝しています。一人ひとりの子どものことをしっかりと見られるように、ボランティアを含めてできるだけ多くのスタッフに稼働してもらうようにしているんです。また、スタッフの育成にはとても力を入れていて、専門の研修を行ったり、全国の拠点のさまざまな事例を本部となる財団でとりまとめ各拠点に共有するなどの工夫もしています」