絵本が子どもの「非認知能力」を育むと言うと「そうなの⁉」と驚くかもしれません。
今回はその名も「非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180」(秀和システム)を出版した寺島知春さんに、おすすめの絵本や読み方を紹介してもらいました。
絵本が育む子どもの「非認知能力」

未来へいこーよ「『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』を出版した経緯を教えてください」

寺島さん「絵本が子どもの『非認知能力』を育む手助けをしてくれることを伝えたくて、出版しました」
「絵本をよく読む年齢というと、0歳から小学校低学年ごろではないでしょうか。子どもは、この時期の初めには、生活体験や触感・匂い・音といった五感の体験を通して、生きるための基礎を築いていきます。そして中盤ごろからは、想像する楽しみも知り始めます」

「現実の経験と想像とが相互に影響しあって伸びていく時間の中では、たくさんの絵本にふれることが想像のよいきっかけとなり、思いやりや社交性、自信といった『非認知能力』を育む助けになります」
「私自身が、物心つく前から小学校6年生まで、約400冊の絵本を毎晩読み聞かせてもらって育ちました。その経験が、子どもの目から絵本に言及することを後押ししています」
同じ絵本に子どもと大人は必ずしも同じものを見ていない
未来へいこーよ「『非認知能力を伸ばす絵本の読み方』は、いわゆる『絵本の読み聞かせ』とは違うものでしょうか?」

寺島さん「基本的には、大きな違いはありません。大人が声を出して読んでくれて、そこにいる子どもも大人も楽しめれば、それでいいのです。ごく当たり前の絵本の楽しみが、非認知能力の伸びにまでよく働きかけてくれるでしょう」
「一方で、その『当たり前の』楽しみ方をするために、大人が踏まえておきたいポイントがいくつかあります。あまり注目されないけれど、とても大切なこのポイントを、本書ではしっかり書いてみたかったのです」

「たとえば、大人はどこかで『子どもより大人の方が絵本をよく読めている』と思っている節がないでしょうか? 大人は文字が読めるから、絵本の内容を子どもよりも多く理解できている−−と」
「でも、本当にそうでしょうか? 大人は文字を読めるがゆえに、そこからの情報に頼ってしまいがちです。すると、絵をじっくり読みこんでいくという重要な動きが、すっぽり抜け落ちてしまうことも少なくありません」

「それに対して子どもは、とても自然に『絵を読み』ます」
「そもそも絵本の多くは、子どものこの動きを前提に作られていますから、文章を聞きながら絵を読み取って、初めて十分に情報を得られるのです」
「絵本には、非認知能力を育む機能がもともとたっぷり備わっていますが、それを十分に享受するには、子どもの読みについて大人が理解し、尊重する姿勢が欠かせません。大人にとっては、絵本への先入観を書きかえることが、重要なポイントなのです」
「また時々、子どもが書店などで、買ってほしい絵本を大人のところに持ってくることがあります。大人が一目見るなり『えっ。それは何度も図書館で借りてるでしょう。別のにしなさい』と言う場面は、もはや日常茶飯事と言っていいほど、繰り返されています」

「これもやはり、大人と子どもの視点の違いから起こることです。子どもは、何度読んでも飽きないし、愛着があるから、それを手に取りたくなったのでしょう。彼らの視点に立つなら、むしろそんな作品こそ自宅に迎え入れるべきなのですが……」
「子どもたちは、自分の内側にうずまく『気に入った・気に入らない』の感情を、とても明確につかんでいます。けれど、うまく言葉にするには、まだ発展途上です」
「声にならない声を、本書が代弁できていたらいいと思います」
子どもの非認知能力を伸ばす絵本の読み方は? 子どもの目線に大人がのってみること
未来へいこーよ「非認知能力を伸ばす読み方とは具体的にどのようなものでしょう?」

寺島さん「いちばん大切なのは、好きだと思える作品を、楽しみながら読むことです。大人も子どももこれは同じで、何がなくても、それさえできていればいいくらいです」
「具体的には、家の本棚から子どもに『今読みたい』絵本を1〜数冊とってきてもらって、大人と子どもが一緒に画面をのぞきこみながら読みます。日本中の家庭で、ごく普通に行われているやり方でしょう」
「その子の気に入っている絵本を読むのはもちろんですが、大人が『これを読むのが楽しみで仕方ない!』という思いをもっていることも、とても大切です。そう考えると、書店での絵本選びから真剣勝負です(笑)」

「『自分にとっての』面白さに、妥協していては選べません。『しつけのためにいい』とか『知育にいい』などの外の評価に耳を貸す余裕なんて、なくなってしまうはずです。それでいいのです。ただ純粋に『読んでいて面白い、楽しい』ことを基準に、絵本を選んでほしいと思います。本書では、そのための店舗選びも紹介しています」
「そうやって、自分の『好き』に忠実に選んだ絵本を読む時は、大人の心もきっと躍ります。やめられなくなるくらい、楽しいですよ。大人が心底ワクワクしながら手にしているものを、子どもはとても無視できません。そのうち、子どものお気に入りにもなっていくでしょう。子どもにも大人にも、本当に楽しいと思える絵本の時間は、こんなふうに実現していきます」
「非認知能力を伸ばす、という要素は、先にもふれましたが、もともと絵本の中に備わっています。だから、『力を伸ばすためには……』と肩ひじ張らなくても、子どもが本当に楽しんでさえいれば、その動きはひとりでについてきます」
「それでもまだ、わが子が絵本の何を楽しんでいるかを不安に思うなら、その子のお気に入りの一冊を一緒に開いているときに、目がどこをどのくらい見ているか、どんな言葉を発するかを、注意深く見てみるといいでしょう」
「絵本の表紙を開いて、最初から順番に読んであげていると、子どもは時おり、絵の細部をじっと見つめていたり、前のページをもう一度見たがったりといった動きをします」
「そういう箇所は、その子にとって、いちだんと興味をひかれるところである可能性が高いのです」
未来へいこーよ「それは子どもが絵本を読むのを観察するような感じでしょうか?」

寺島さん「観察するというよりも、子どもの目線にのっかって、大人が子どもの読みの世界を感じさせてもらう感覚です。何度もそれを繰り返すうちに、子どもが絵本の中で見ている世界が、大人にもなんとなくつかめてくると思います。子どもの興味の方向やリズムが、だんだんとわかってくると、絵本の時間を一層楽しめる材料になるでしょう」
「大人がすぐそばで一緒に絵本を面白がっていてくれることは、子どもにとって、何よりの安心です。そういう空気の中では、子どもは落ち着いて絵本の内容に自分を投影でき、非認知能力の伸びも享受しやすいのです」
赤ちゃん・幼児・小学生の非認知能力を伸ばす本
未来へいこーよ「少し大きくなった子どもとはそういう読み方ができそうですが、たとえば赤ちゃんと一緒に読むときにおすすめの本はありますか?」
寺島さん「『だっだーぁー』(ナムーラミチヨ、主婦の友社)のように、読んでいる大人が感情をのせやすい音の絵本をおすすめしたいですね」
「この本では、粘土で作られた顔が、ページをめくるごとに『だっだぁー』『ぎーじ いーじ ぎーじ いーじ』と擬音を発します」
「擬音と粘土の顔とがおりなす面白さは、原始的な笑いを誘い出します。読んでいる大人が、思わず『うはは』と笑い出すと、赤ちゃんも自然と笑い出すことでしょう」
「何度も家族で読むうちに、絵本がなくても擬音のやりとりが成り立つ瞬間がやってくるかもしれません。たとえば、お風呂に入っていて目があった瞬間に、どちらかが『だっだぁー』と言って大笑いする、などです。絵本の遊びが日常の中に息づいて、家族同士が遊びでつながっていくのです」
「こういう遊びは、赤ちゃんと身近な大人との信頼を育んでくれるものでもあります。のちのち、その子の非認知能力が伸びていくためにも、この信頼関係はとても大切だと言えます」
未来へいこーよ「3~5歳の幼児向けにおすすめの本を教えてください」
寺島さん「おすすめの本は書籍でもたくさん紹介していますが、たとえば『ひみつのかんかん』(花山かずみ、偕成社)は、このくらいの年齢の子が読むと、面白がってくれそうです」
「お話は、主人公の女の子が、転がってきたビー玉をきっかけにひいばあちゃんの部屋へ入っていくところから始まります。女の子はそこで、ひいばあちゃんの宝物がいっぱいに詰まったかんかん(缶)の存在を初めて知ります。昔むかしの子どものころから大切にしてきたものばかり収まっているのです」
「この女の子は、普段はひいばあちゃんと一緒に暮らしていないようです。幼い子にとって、たまにしか会わないシワシワのおばあさんは、なんだかちょっと怖い存在かもしれません」
「ところが、その人がかんかんを開けて『たからものよ。みーんな、むかしのもの』『ひいばあちゃんがちいさかったころのものよ』と話してくれるから、女の子はどんどん彼女の思い出にひきこまれていきます。読み手の子どもも、自分が昔の時代にいるような感覚で、それを追体験していくでしょう」
「この本の絵は、細かな生活の道具類を一つひとつ、ていねいに描いています。子どもはそういう小さな描きこみを、面白がって読み取りながら、お話の中にどんどん入りこんでいきます」
「夢中で読んでいるうちに、数十年という長い時をあっという間にさかのぼって、昔の暮らしや文化の感触まで疑似体験してくることになるのです。さらに、ひいばあちゃんの内側にある子どもの部分が、いま子どもである自分と何ら変わらないことも、感覚的につかんでしまいます」
絵本の空想に遊ぶことは、いくつもの言葉を並べ立てるより、多くのことを教えてくれる時がありますね」
未来へいこーよ「小学生におすすめの絵本はどのようなものがありますか?」
寺島さん「小学生になると、最終的には本書で紹介している180冊の本すべてを読むことができるようになりますが、たとえば『バムとケロ』シリーズは、対話ができる年齢の子と読むのにおすすめです
「絵本から子どもが受け取る情報と、大人が受け取る情報に、いくぶんのギャップがあることを、対話によって大人が気づける可能性があるのも、面白さの一つでしょう」
「犬のようなバムと、カエルのようなケロを中心に、日々の様子が描かれる人気シリーズです。2人以外にもたくさんの登場人物や道具類が描かれ、先ほどの『ひみつのかんかん』に続いて、こちらも細かな描きこみを読むのが醍醐味といえる作品です。テーブルの上のお茶の道具一つにせよ、いすの角度一つにせよ、どの絵柄にも必ず意味があり、欠かすことのできない物語の一部となっているのが驚きです」
「大人はどうしても、文章によってお話の流れを追いがちなので、このシリーズでは特にたくさんの見落としが生じると思います。ですが、これが意外と、子どもとの対話のいいきっかけになってくれます」
「子どもは、耳でお話を聞きながら絵を読んでいるので、大人には気づけないたくさんのものが見えています。そこを、教えてもらうのです」
「大人が、前後のページを見比べて微妙に配置が変わっている絵柄を見つけたら、『これって、どうしてちょっと変わったのかな?』とつぶやいてみましょう。すると、子どもたちは『あの子がここをこうしたからこうなんじゃない?』などと教えてくれるはずです」
「大人は新たな発見を楽しめますし、子どもの方は満足感や自信をよく感じられます。後者はつまり、非認知能力が育まれている瞬間です」
一人ひとりの絵本の読み方がある

「絵本は、ただ楽しく読んでもらえればいいと思っています。読み方に正解も不正解もありませんし、読んだ人それぞれの気づきや面白がり方があってよいのです。非認知能力に関してもそれは同じで、ごく気楽に絵本を楽しんでもらえれば、力の伸びはおのずと支えられています」
「絵本を読んだことで得られる効果は、目先だけの短い時間軸では、とてもわかりません。それが真価を発揮するのは、子どもたちが大人になったずっと先のことでしょう。けれど間違いなく、長い人生を力強く支え続けてくれる光になると、自分で体験してきた私は断言できます」
「だからこそ、子どもたちには面白い絵本にたくさん出会って、めいっぱい楽しんでほしいのです。大人が、どの絵本がいいかわからないからと踏み出せずにいることは、とてももったいなく思えます。そんな時は、『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』をパラパラとめくってみてください。子どもと大人がありのままに絵本を楽しむための方法が、きっとわかるはずです」
取材を終えて
非認知能力の取材をしていると、「非認知能力は子どもが安心できる場所で自由に考えたり想像力を遊ばせることで育まれる」とよく聞きますが、具体的にはどのようにしてあげたらいいのかよくわからないことがありました。
寺島さんとお話ししていると、その鍵は子ども自身を尊重することからスタートすることが大切なのだと感じます。親子それぞれで好きな絵本を選んでおしゃべりをするような時間を本当に大切にしていきたいですね。
寺島 知春(てらしま ちはる)さんプロフィール
絵本ワークショップ研究者/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学個人研究員。
1983年名古屋市に生まれ、約400冊の絵本を小学校卒業まで毎晩読み聞かせられて育つ。絵本編集者ののち、大手新聞社などでの企画・編集・執筆を経て、大学院で絵本ワークショップの研究・開発と、戦後日本絵本史の研究を行う。現在は執筆とともに、美術ワークショップの企画開発や講演、研究を手がける。ワークショップレーベル「アトリエ游」を主宰し、2023年後半には名古屋に自身のワークショップスペースを開設予定。
■書籍概要
書名 非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180
著者名 寺島知春 著
定価 1760円(税込)
発売日 2022年3月10日
Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4798066230
楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/16997034/
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