VUCA(ヴーカ 予測不可能)の時代の子育ては「観察」がキーワード」!

社会の価値観や仕組みやが大きく変化し、親世代の価値観や経験をもとにした子育てが難しい時代ですそんな時代の子育てについて、お茶の水女子大学教授(教育開発学)の浜野隆先生に聞きました

VUCA(ヴーカ)の時代の子育ての目標は「子どもの自立」

浜野隆先生(お茶の水女子大学・人間発達教育科学研究所)

未来へいこーよ親世代の価値観や経験がそのまま通用しない時代の子育てに悩む家族はどんなことを指針としたらいいのでしょうか?

浜野隆先生社会の価値観や仕組みやが大きく変化する現代は、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字をとってVUCA(ヴーカ)の時代と表現されます

VUCA(ヴーカ)の時代とは?
Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)

「私も3人の子どもの父親ですが、この記事を読んでくださるあなたの目の前にいるお子さんが社会の中核人材となる10年後や20年後は、今よりさらに変動性が激しく複雑な社会になっていると考えられます。そう考えると、今、親世代の私たちの子育ての目標は、子どもを有名大学に入れるとか大手企業に就職させればそれで終わりということはなく、『子どもを自立した大人』に育てることです」

「自己肯定感の低さ」の原因は「結果」で子どもを評価する風潮にある

未来へいこーよ自立した大人になるために必要な力とはどのようなものでしょうか?

浜野先生「自立した大人とは社会の大きな変化に『適応』し、『自分たちで社会を作っていくのだ、自分こそ社会を作る主体なのだという自信と責任感』のある人です」

「そのために、いわゆる算数・国語・理科・社会の学力のような『認知能力』と、『目標達成力』・『他者と協働する力』・『感情コントロール能力』といった『非認知能力』の両方の力をその子のペースで育んでいきたいですね」

「しかしデータを見ると日本の子どもは認知能力が世界でもトップクラスにあるにも関わらず非認知能力が非常に弱いというデータが出ています。例えば以下のデータを見てみましょう」

内閣府による日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの13歳から29歳の男女を対象にした『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』】(平成30年度)
「自分の将来に明るい希望を持っている」若者の割合
ー7カ国中日本の若者の割合が最も低い
「社会をよりよくするために社会問題に関与したい」若者の割合
ー7カ国中日本の若者の割合が最も低い
「私の参加により変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」と考えている若者の割合
ー7カ国中日本の若者の割合が最も低い
「40歳になったときに幸せに生きていると思う」若者の割合
ー7カ国中日本の若者の割合が最も低い

自己肯定感や社会参加についてのあらゆる項目で日本の子どもは最下位で、社会をつくる担い手という意識が弱く、私が何をしても社会はどうせ変わらない』という『自己無力感』を持っている様子がうかがえます。これはこの調査に限ったことではなく、国立青少年教育振興機構の「高校生の生活と意識に関する調査-日本・米国・中国・韓国の比較-(平成 27 年度調査)」でも、『自分をダメな人間だと思うことがある』若者の割合が日本は4カ国のうちで最も高いというデータが出ています」

私たち大人が作る社会が日本の子どもに「自己無力感」を持たせている

未来へいこーよなぜ日本の子どもは『自己無力感』を持ちやすいのでしょうか?

浜野先生そのヒントになりそうなのが、『ニュータイプの時代』、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などの著作で注目されている山口周さんが講演や書籍でよく例に出される下記の数字です

19
25
21
31

18

数字の意味がみなさんおわかりなるでしょうか?

マーク・ザッカーバーグFacebookを創業したのは19歳
ラリー・ペイジGoogleを創業したのは25歳
スティーブ・ジョブズAppleを創業したのは21歳
ジェフ・ベゾスAmazonを創業したのは31歳
ビル・ゲイツマイクロソフトを創業したのは18歳

これは世界をまたにかけるIT企業の創業者がそれぞれの企業を創立したときの年齢で、平均すると24歳だそうです

「日本にいるとアメリカの創業者がこんなにも若いことが信じがたいですね。なぜなら日本社会で20代はまだまだ新人で、責任ある役割は与えられません。また子どもの周りに20代の若手が実際に成功し社会を変えた身近な事例が少なく、若いうちから挑戦する雰囲気が生まれにくいのです」

「学校でもそれは同様で、日本と海外の両方で教育を受けた人に話を聞くと、日本の学校は結果で物事を判断するため、子どもからすると挑戦や未熟さを否定される局面が多く、挑戦する気持ちを打ち砕かれることが多いと言います」

「私も海外の学校にいた時、日本の学校ではとうてい褒められないような結果になってしまった挑戦に対しても、アイデアや挑戦したタイミングをとらえて『いいね!』と褒めてもらうことが多く驚きました」

「昭和的な価値観」から「令和的な価値観」へ!

浜野先生「また山口周さんは『昭和的価値観』から『令和的価値観』への変換の必要性についてもよく語られ、その時にケータイ電話を例にされます

「この記事を読んでくださっているママパパの学生時代には、日本メーカーのケータイ電話がシーズンごとに発売されマーケットをけん引していましたが、当時の主な日本メーカーの多くは市場から撤退しています。山口さんはそうなってしまったのは『製品を作る前に大規模な消費者調査をやって、その統計分析を行う』という『正解主義』で商品を企画し、オリジナリティのある商品を作らなくなったため消費者からの支持を失ったためだとしています。一方でこういうものがあるとわくわくするな、楽しそうだな、面白そうだなというところから発想して作られているiPhoneは今も愛され続けていると指摘します」

「山口さんの『昭和的価値観』は『認知能力』重視の価値観、『令和的価値観』は『認知能力非認知能力を重視した価値観へ社会が変化しているともとらえられるのではないでしょうか」

子どもたちがこれから生きていく令和時代の社会は、認知能力と非認知能力の両方を大切にして作られた価値観の活動や商品が評価される社会になっていきます。そのような時代には、『認知能力』と並行して『目標達成力』・『他者と協働する力』・『感情コントロール能力』といった『非認知能力』をも伸ばしていくことがとても大切です」

家庭でできるVUCA時代の子育ては、まずは子どものワクワクの芽を摘まないこと

未来へいこーよ子どもの、『目標達成力』・『他者と協働する力』・『感情コントロール能力』といった『非認知能力を伸ばすのに家庭でできることはどのようなことでしょう?

浜野先生一番大切なことは、子どもをよく観察し、子どもが自分の意見を言いやすい環境や雰囲気をつくることです。環境という面では、子どもがいろいろなことに興味をもてる環境を作ることを意識しましょう

「そのときに参考になるのがアメリカの心理学者J・J・ギブソンが提唱した『アフォーダンス理論』です。例えばドアノブのようなものは、ドアノブがあるから私たちはドアを開けるのか? ドアノブの形がドアを開けさせるのか? と考えたときに、その形が使い方を発信(afford)して私たちにドアを開けさせていると考えます」

「そう考えると子どもの周りに何があるかはとても重要です。好きなもの発見するのは子ども自身ですが、好きに出会える環境設定は大人ができることです。子どもをよく観察して子どもが興味をより伸ばせる環境設定をしてやることが、一緒に暮らす大人の大切な仕事といえます」

未来へいこーよ子どもを観察するときに大人が心がけたいことはありますか?

浜野先生「子どもの興味関心を観察するときには、ハワード・ガードナーが提唱する『多重知能』という概念が参考になります。子どもの知能は一つの物差しでは測れず、合うものと合わないものがあるという考え方です。例えば親がアートを好きでも美術館を好まない子もいる。親がスポーツを好きでも運動を好まない子もいる。アートやスポーツの中にも興味をもつものと持たないものがあるという考えです。この考えを知っていると、子どもを本当に注意深く観察する必要を感じます」

子どもをよく観察するときには、子どもが『気が付くといつも自分からこれをやっているな』とういうことに注目してみてください。また、子どもがワクワクしていることだけでなく、苦手なことにもヒントがあります。子どもが腹を立てていること、イライラすることもよく観察してみましょう」

「子どもは親に自分の好きなことを伝える必要を感じていませんし、好きなことや苦手なことを言語化するのがそれほどうまくありません。だからこそ、親や保護者が意識的に見ようとしないと子どもが何を好きなのかは見えないものです」

子どもに「快適な生活」をさせすぎないのも大切なこと

未来へいこーよ子どもにいいと思うことを大人がついつい先回りして準備してしまうことはどう考えていらっしゃいますか?

浜野先生「大人は子どもに苦労をさせたらかわいそうだからと、子どもが少しでも快適なように、失敗しないように先へ先へと手をまわしてしまうという声もよくききますが、日常生活で快適な生活をさせすぎないというのは大切なことです」

あまりにも困難や失敗を避けさせるような子育てをすると、逆に子どもの忍耐力が低下し、ちょっとした不快に耐えがたくなります。今は10代の子どもであっても、あと10年もして社会に出れば不合理や不条理に出会って乗り越えていかなければなりません。多少の不便や不快は自分で乗り越えていけるように、小さいけがを子どもの時にたくさん経験させてやることが、結果的に子どもが将来大きなけがを避ける力をつけてやることになります

子どもを「なぜ?」「どうして?」と問い詰めない

未来へいこーよ子どもへの声かけで大人が心がけることはありますか?

浜野先生雰囲気という面では声かけはとても重要です。子どもが困って質問してきてもすぐに答えをいうのではなく子どもが考える時間をとって様子をみたり、足場をかけるようにヒントを与えて自分で登らせるように見守ったりしましょう。親の考えは、『おしつける』のではなく、『~してみたら?』と提案するぐらいでもう十分です」

「そして子どもが楽しそうにまたは苦手そうに取り組んでいることに『何で?』『どうして?』と追い詰めないことです」

『なぜ』『どうして』という問いかけは否定のニュアンスを含み子どもを委縮させます。そしてこれが進みすぎると、『好きにしていいんだよ』『好きに選んでもいいんだよ』とどんなに子どもに言っても、子どもは親や教師が無意識に押し付けてくる正解を答えることに意識を集中して自分の正直な気持ちと向き合ったり表現したりしなくなって自己肯定感がさがってしまいます

「中学生や高校生と話をしていると『大人はどうせわかってくれない』という言葉を口にする子がいます。これは『本当の自分を表現すると大人に愛されないかもしれない』という子どもの心が言わせているように感じます」

子ども時代に自分の好きなこと、嫌いなことを子どもが素直に表せるというのはとても重要です。それができるようになってはじめて他者の気持ちにも気づけるようになっていきます

「日本の家庭は子どもに家事手伝いをさせないところが多いですが『お手伝い』を子どもに担当してもらうのはとてもいいことです。お手伝いが学力向上に直接はつながるとは限りませんが、自分のしたことが他人の役に立ったという経験は自己肯定感を育み、身の回りに興味を持って働きかけるきっかけになります」

家庭は楽しい時間を過ごすところ 「だいたい」くらいでちょうどいい

未来へいこーよ子どもの興味をきちんとキャッチして受け止められているか不安になる人もいそうです

浜野先生「子どもにとって家庭というのは、いると安心する、楽しい場所であるのが大前提です。いろいろ申し上げましたが、すべての大前提は親が追い詰められない程度に『だいたい』できていればいいと子どもと一緒にいる時間を楽しむことです」

「『だいたい』は『いい加減』に『良い程度に』ということであり、決してネガティブな意味ではありません。親の精神状態が悪化すると、結果的に子どもにもマイナスの影響が及びます。逆に、親の精神状態がよく、人生を楽しんでいれば、子どもの幸福度も高くなります。家庭は塾でも合宿所でもないので、親も子どもも肩の力を抜いて楽しい時間を過ごす前提で、いろいろ試してみてください」

浜野隆先生(お茶の水女子大学 基幹研究院 人間科学系 教授)
名古屋大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。2004年からお茶の水女子大学に勤務し、主に教員養成を担当。都教員研修センターで教員への教育評価について指導する。専門は「学力と教育政策」。文部科学省委託の「全国学力・学習状況調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の研究代表として家庭の社会経済的背景と学力、非認知的スキルの関係を分析。著書に『教育格差の社会学』(共著、有斐閣)、『世界の子育て格差―子どもの貧困は超えられるか』(編著、金子書房)など。

取材を終えて、子どもが好きなことだけでなく苦手なことや、自然とやっていることに子どもの好きを伸ばすヒントがあるということがとても参考になりました。
子どもが自分で好きなことに気づいて自分で伸ばしていけるようにサポートしていきたいですね。

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出版社、教材編集を経て2013年に「いこーよ」へ。小学生の女の子2人のママ。大学院、モンテッソーリ教育教師、華道、ダイビング資格有。ライフテーマは幼児教育から小学校、中学校、高校、大学、社会人へとどのように学びをつなげていくか。特に幼児教育から中学受験への連携に日々奮闘中。

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