多くの時間を森などの自然の中で過ごし、幼児期の子どもの主体性や豊かな発想、社会性や自立心を育むとして注目を集めている「森のようちえん」。そこではどのような教育が行われ、どのような力が育つのでしょうか?
「森のようちえん」の研究を行う上越教育大学大学院の山口美和准教授、森のようちえん全国ネットワーク理事で認定こども園「認定こども園 Fujiこどもの家 バンビーノの森」副園長の横田聖美さん、同じく森のようちえん全国ネットワーク連盟理事で「NPO法人マザーツリー自然学校」理事長の中安敬子さんら3人の専門家や現場の実践者に聞きました。
卒園後に小学校で森のようちえんで身に着けた力がどのように活きていくのかも取材しています。
【森のようちえん特集記事一覧】
Part1「森のようちえん」で身につくポジティブさ、思考の柔軟性、自信とは?(この記事)
Part2「森のようちえん」森の中で過ごす1年のカリキュラムと伸びる力
Part3「森のようちえん」の子どもを伸ばす外遊び・公園遊びの方法
Part4 園庭は海「海の保育園」が伸ばす子どもの力とは?
デンマークではじまった「森のようちえん」が、北欧から日本へ

提供:認定こども園「認定こども園 Fujiこどもの家 バンビーノの森
「森のようちえん」は、1950年代中頃にデンマークの母親が「子供たちに幼い頃から自然と触れ合う機会を与え、自然の中でのびのびと遊ばせたい」と子どもを森の中で保育をしたのが始まりです。この取り組みは、自然の中での保育や体験に共感する人々の中で広まり、北欧やドイツなどでは、国や自治体の支援も手厚く行われるようになりました。
「日本でも2000年ごろから幼少期の自然体験活動を重視する気運が高まり、2015年に鳥取県が『とっとり森・里山等自然保育認証制度』を、長野県が『信州型自然保育認定制度』を開始し、自然のフィールドを活用して保育を行う園を認定して運営補助などを積極的に行うようになりました。2017年には『NPO法人 森のようちえん全国ネットワーク連盟』が設立され、安全認定制度なども開始しました」(前出・横田さん)
「森のようちえん」で伸びる力ーポジティブさ・思考の柔軟さ・自信

「森のようちえん」の教育的効果 卒園児の非認知的スキルの育ちに関する上越教育大学大学院・山口美和准教授の調査
長野県の「信州型自然保育認定制度」の発足時の委員会に参加し、「森のようちえん」の研究をすすめる上越教育大学大学院・山口美和准教授が森のようちえんの卒園生に行った調査によると、森のようちえんの卒園生は、既存園の子どもに比べて「困ったことがあってもよい方向に考えられる」ポジティブさや、「自分の間違いを友達から指摘されたとき、そのことを認めて行動を正しくすることができる」という思考の柔軟さ、自分への強い自信を持つというデータがでています。
森のようちえんの子どもを伸ばすポイント1.ポジティブさや思考の柔軟性をはぐくむ大人の関わり

提供:認定こども園「認定こども園 Fujiこどもの家 バンビーノの森
「少子化などの影響で子育てや教育の現場では子どもが失敗する前に大人が先回りをして手助けすることが多くなり、子どもが自分で試行錯誤をする機会が減っていますが、森のようちえんの子どもには、普通の子どもなら『先生どうしたらいい?』と、すぐに助けを求めそうな場面でも『自分でどうにかしよう』『友達と一緒に解決しよう』という行動をとる様子がよく見られます」(前出・山口准教授)
今回取材した「バンビーノの森」や「マザーツリー自然学校」ではそんな子どもの自主性を見守る先生たちの様子がありました。
「マッチや金づちなどの道具は子どもが大人の前で自由に挑戦できる環境を整えています。火のつけ方などは、湿度やその時の薪の状態を見て子どもが自分で工夫しながら卒園までにできるようになればいいなと見守っています」(前出・横田さん)
「子どもに細かい配慮を行いながらも、森のようちえんの先生や保護者は、子どもの世界やチャレンジする気持ちを壊さないように自制を働かせながら見守ることで、子どもの中にポジティブさや思考の柔軟さが醸成されていくような取り組みを行っているのではないかと感じます」(前出・山口准教授)
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