白石康次郎さん

自然の中で育んだ「生きる力」と親から学んだ「信じることの大切さ」【海洋冒険家・白石康次郎さんインタビュー】

地球を10.5周、総航行距離22万kmという途方もない冒険を重ねてきた海洋冒険家・白石康次郎さん。過酷な海に単身挑み続けるその姿の原点には、幼少期の鎌倉での豊かな自然体験と、親から受けた深い愛情にありました。「子どもを信じることこそが愛」と語る白石さんに、子どもたちの「生きる力」を育むために大切なことを伺いました。


白石康次郎さん
海洋冒険家 白石康次郎さん プロフィール
1967年東京都生まれ、鎌倉育ち。高校時代に冒険家・多田雄幸氏に弟子入りし、1994年、26歳でヨットによる単独無寄港無補給世界一周を達成。当時の世界最年少記録となる。以降も数々の航海に挑み、2020–21年の「ヴァンデ・グローブ」ではアジア人初の完走を果たし、2024–25年大会でも2度目の完走。現在はDMG MORI SAILING TEAMのスキッパーとして活動中。著書に『海の向こうから見た日本』などがある。

自然の中で五感を使って遊ぶことが原点

未来:幼少期は鎌倉の自然の中で育ったとお話されています。それが白石さんの原体験になったのでしょうか?

白石康次郎さん(以下、敬称略):はい。ぼくは2〜3歳のころ、東京都の都営住宅から鎌倉に引っ越してきたんです。昭和40年代ですね。当時の家にはお風呂もありませんでした(笑)。家の裏は自然がいっぱいで、山や田んぼ、里山が広がっていました。サワガニがいたりして、猿のように毎日遊びまわってましたね。トンボを追いかけたり、昆虫採集をしたり。特にオニヤンマを自分で捕まえたときは感動で鳥肌が立ちましたよ。

未来:そうした自然の中での遊びが、今につながっているんですね。

白石:まさにそうです。山ゆりの花を見つけたときは、花の周りにそこだけスポットライトが当たっているように感じるほど美しくて。野イチゴを見つけたり、セリやナズナを摘んだり。赤とんぼの大群を見て感動したこともありました。自然の中で感性を磨き、自分で考えて動く力を育んだこと。それが今のぼくの土台になっています。

ヤマユリ

山ゆりの花

未来:当時は、外での遊びが当たり前だったんですね。

白石:そう。コンピューターゲームなんてなかったし、友達と外に出て野球をしたり、探検したり。ガキ大将がいて、ときには喧嘩もしたけれど、それも全部、社会性を学ぶ場だった。一番よかったのは、大人が口出ししなかったことですね。先生も親も、見守るだけで、子ども同士で解決するのが当たり前。それが教育だったと思います。

「信じて任せる」ことと、背中で語る親のあり方

未来:今の子どもたちと比べると、当時は大人の関わり方も違っていたんですね。

白石:今は、先生も親もすぐに子どもの喧嘩やトラブルに介入してしまうでしょう。でもそれでは、子ども同士でぶつかり合い、解決する力が育たない。今の若い世代は、そうした「解決する力」が育ちにくい環境にあると思います。そもそも子どもには、自分で考えて乗り越える力があるんです。ところが大人は「心配だから」と口を出してしまう。それは愛ではなく、“恐れ”からくるものなんですよ。

未来:「信じることこそが愛」ということですね。

白石:そうなんです。世の中には「愛」と「恐れ」しかない。心配は恐れからくるけれど、愛は信じることなんです。親の役目は、子どもに目をかけ、手をかけながらも、いざというときは“手を放して信じる”こと。困難は、子どもが成長するチャンス。そこに踏み込んでしまったら、成長の機会を奪ってしまいます。

未来:親自身の姿勢も問われますね。

白石:まずは、お母さん自身が幸せでいることが大事です。「あれもダメ、これもダメ」と制限ばかりせず、自分の夢ややりたいことを言葉にして、小さな成功体験を積んでいけばいい。お母さんが笑顔でいることが、何より子どもの幸せにつながります。子どもに何かを強いる前に、自分はどう生きているのか。その姿を、子どもは見て育つんです。

未来:行動で見せるということですね。

白石:その通りです。以前、ある先生が「あなたの講演を呼びたいけれど、講演料が高くて」と言ってきたことがありました。でも、午前と午後で開催して、1校ではなく2校が協力して開催すれば、費用を折半できるでしょう? そうやって「できる方法」を考え、動いて見せることこそが教育なんです。「お金がないから無理」とすぐに諦めるのではなく、「どうすれば実現できるか」と考えて行動する。子どもたちは、そうした大人の姿から学ぶんですよ。

「好き」と「好奇心」が、すべての始まりだった

未来:もともと、海にはどんな興味があったのでしょうか?

白石:鎌倉は山も海もありますから、家のすぐそばが海で、海岸に立ったときに「この海の向こうには何があるんだろう?」って、不思議でたまらなかったんです。知らない国を見てみたい、島に行ってみたい。ただただ、その好奇心がふくらんでいきました。

海

湘南の海

未来:水産高校に進んだのも、ハワイに行けるマグロ船の実習があると聞いて自分の意思で決めたそうですね。

白石:その話を聞いたら即決でしたね(笑)。当時の担任の先生も、向こうの高校の先生も驚いていましたが、「先生が行くんじゃない。ぼくが行くんだ!」と言って進学しました。

未来:高校生活はどうでしたか?

白石:いわゆる“暴力高校”。だけど最高の学校でした(笑)。殴られたり蹴られたりしながら、海の厳しさを身体で覚えた。「板子一枚下は地獄(船の甲板のすぐ下には命の危険があるということわざ)」って言葉があるように、海は命がけの世界。言葉じゃ伝わらない現実を、体で学びました。その経験が、今の自分の土台になっているんです。

未来:在学中に、冒険家・多田雄幸さんと出会ったと伺いました。

白石:はい。高校時代に雑誌で多田さんのことを知って、「ヨットで世界一周なんて世界があるのか!」って、雷に打たれたような衝撃でした。それから多田さんの住む街に行き、電話帳で住所と番号を調べて、いきなり電話をかけたんです。「弟子にしてください」って。本当に落語家の世界みたいだけど、本気でした。卒業後は本格的に船に乗るようになって、最初の航海がなんと1年2カ月。いきなり地球を一周するような航海でした。赤道を4回越えて、何度も嵐に遭って……その過酷な日々が、「自分は何をしたいのか?」「何を大切にして生きていきたいのか?」と深く向き合う時間になりました。

白石康次郎

公式サイトより引用

未来:そうした経験が、冒険の原動力にもなっていますか?

白石:間違いなくつながっています。師匠も亡くなって、大切な人との別れを何度も経験しました。ぼくは小学生のときに母も亡くしています。大切な人を失うのはつらいけれど、そのぶん「今ある時間をどう生きるか」を強く意識するようになりました。もし母が生きていたら、きっともっと甘えていただろうし、「母の愛」というものを深く知ることができたかもしれません。でも、その喪失が自分で動く力や、人に頼らず切り開く力を育てたとも感じています。別れや失敗を「誰かのせい」にせず、自分ごととして受け止めることが成長には欠かせないんです。

未来:そんな厳しい経験をしても、前に進み続けられるのはなぜでしょう?

白石:それはやっぱり、「好き」だからです。好きなことをやっている人は魅力的だし、エネルギーが湧いてくる。ぼくなんて昔から好きなものは変わらない。昔は小さなおもちゃ、今は「地球というおもちゃ」で遊んでいるだけ(笑)。好奇心からすべてが始まり、それを信じて進んできたから、今「世界一幸せだ」と本気で思えるんです

これからの時代を生きる力とは

未来:現代の教育について、どのようにお考えですか?

白石:今の時代、知識だけならインターネットでいくらでも学べる。じゃあ、学校に行く意味は何かといえば、リーダーシップやコミュニケーション力を育むことなんです。今は年下の上司や年上の部下が当たり前の時代。かつてのように「いい会社に入れば安泰」という時代ではありません。だからこそ、子どもたちにはこう言っています。「あなたが将来働く会社は、今まだ世の中にないかもしれないですよ」と。

未来:たしかに昔から続く企業だけでなく、今までになかった商品やサービスを行う会社がどんどんできてきていますし、自ら起業することもありえますよね。どんな人がこれからの社会で求められるのでしょうか?

白石:一緒に働きたいと思われる“魅力のある人”ですよ。技術や知識より、人間力。相手の気持ちを汲み取れる人、言葉で伝えられる人。そんな人がどんな場所でも通用する。学校は、そういう力を育てる場であってほしいですね。もう「決まった箱」に入る時代じゃないんです。

白石康次郎

公式サイトより引用

未来:子どもの失敗を恐れる親御さんも多いと思います。

白石:でも、失敗しなきゃ学べないんです。僕もたくさん失敗しました。でも親や師匠は、自由にやらせてくれた。成功も失敗も、自分で責任を持って経験することが何より大切。人間は喜怒哀楽、四苦八苦を味わって成長していく。悲しさも悔しさも、必要な経験です。

未来:そのために、日々どんなことを意識すればいいでしょう?

白石:まずは、小さなことから整えることです。身なりをきちんとする、トイレ掃除をする、時間を守る。そんな日々の積み重ねが、心を強くしていきます。思い通りにならないと嘆くより、「どう考えれば納得できるか」を探す。その積み重ねで、自分次第で人生はいくらでも変えられると実感できます。

未来:そうした積み重ねが、自分を信じる力にもつながっていくんですね。

白石:その通りです。そして、子どもたちにはこう伝えたい。「君ならできる」と。たとえば、真っ白な紙に黒い点を10個でも20個でも打ってみてください。点ばかりを見れば欠点に思えるかもしれませんが、外側には白い部分がたくさん残っている。できることや可能性のほうがずっと多いんです。黒にばかり目を向けず、白を見てごらん。欠点はマイナスではなく、自分らしさなんだと肯定してほしいですね。

未来:つまり、自己肯定感を育むことが大切なのですね。

白石:自分を大切にして、自分を信じてほしい。そして、一歩を踏み出してみてほしい。そう子どもに思ってもらうためには、まずは親自身が幸せであることが大前提です。親が不幸そうにしていると、子どもは「自分だけ幸せになってはいけない」と感じてしまうからです。だからこそ、ぼくは子どもたちに伝えたいんです。「お前は幸せになってこい」と。たとえ失敗しても、大丈夫。君なら、きっとできる。

未来:たとえ親が幸せになれなかったとしても、自分の代でその流れを断ち切り、「自分は幸せになる」と決めることができる……そんな力強いメッセージにも感じます。

幸せに生きるための環境と心の整え方

未来:子どもが前向きに育つには、周囲の環境も大事ですよね。

白石:ええ。幸せになりたいなら、幸せな人に話を聞くのが一番です。泳げるようになりたければ、泳げる人に教えてもらうでしょう? だから、不満がある人同士で集まって話しても、幸せにはなれないので、なるべくエネルギーの高い人と一緒にいること。それがすごく大切です。

白石康次郎

Photo by Yoichi Yabe  ※公式サイトより引用 

未来:心を整える習慣も必要ですね。

白石:僕はよく「海に行こう」「海岸をはだしで歩いてみよう」って言うんです。自然に触れると、心がすーっと整っていく。木に抱きついてごらん、嫌なものを吸い取ってくれるから。子どもには「そのままでいいよ」って声をかけてあげてほしい。今の子も大人も、目も耳も外に向きすぎている。だからこそ静かな時間、自分に帰る時間を意識的に作ってほしい。スマホを手放して、たった15分でもいい。自分と向き合うことで、また前に進む力が湧いてくるんです。

未来:お話を聞いていると、幼い頃に培った自然の中での感性や好奇心は、今の時代にも必要な力だと感じます。画面越しの情報だけでは得られない刺激や発見が、子どもの「やってみたい」という気持ちを育てるんですね。幸せって特別なことじゃなくて、日々の選択や習慣の中にあるんだなとあらためて思いました。まずは、自分の心を整えて前を向くための小さな一歩から始めたくなります。

取材を振り返って
今回の取材で心に残ったのは、白石さんが幼少期に鎌倉の自然の中で感性と好奇心を存分に育み、そのとき海に抱いた憧れが、今も挑戦を続ける原動力になっていることです。さらに印象的だったのは、「難しいことでも、できる方法を考える」という姿勢。師匠・多田雄幸さんのもとへ、電話で直接弟子入りを志願したエピソードには、その行動力と決断力が凝縮されていました。そして、人生を突き動かすのはやはり「好き」という気持ち。白石さんは「人生は思った通りになる」と語っています。その言葉は、数々の選択と行動で自ら道を切り開いてきた人だからこそ響くものでした。子どもも大人も、自分の「好き」を信じ、できる方法を探しながら一歩を踏み出す。その勇気こそが、新しい景色を見せてくれるのだと感じました(KAZ)。


白石康次郎さん
海洋冒険家 白石康次郎さん プロフィール
1967年東京都生まれ、鎌倉育ち。高校時代に冒険家・多田雄幸氏に弟子入りし、1994年、26歳でヨットによる単独無寄港無補給世界一周を達成。当時の世界最年少記録となる。以降も数々の航海に挑み、2020–21年の「ヴァンデ・グローブ」ではアジア人初の完走を果たし、2024–25年大会でも2度目の完走。現在はDMG MORI SAILING TEAMのスキッパーとして活動中。著書に『海の向こうから見た日本』などがある。

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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