マクセルの商品企画担当者に聞く 自己肯定感を育む子ども時代の体験とは

つくる人
たゆまぬ努力を続け、生産品に愛情を注ぎ、好奇心や探求心、情熱を常に持って暮らしている「つくる人」にお話を伺い、人として生きていくのに必要なものに迫るインタビュー。

たゆまぬ努力を続け、生産品に愛情を注ぎ、好奇心や探求心、情熱を常に持って暮らしている「つくる人」にお話を伺い、人として生きていくのに必要なものに迫る「つくる人」インタビュー。今回は「未来へいこーよ」公式Twitterと連動したコラボ企画です! 1963年に日本で初めてアルカリ乾電池を生産したメーカー「マクセル株式会社」で商品企画部門に携わる「未来の電池をつくる人」池田克彦さんにお話を伺います。池田さんがビジネスの課題を乗り越えるときに意識していることは、子どものときに聞いた話や体験が元になっています。彼が難しい課題に果敢に取り組む粘り強さの背景には、どんな子ども時代があったのでしょうか。

池田 克彦(いけだ かつひこ)さんのプロフィール
1977年生まれ。1999年に関西大学を卒業後、マクセル株式会社に入社。コンシューマ営業部門を担当し、2018年に1年間の海外研修を経て2019年から商品企画部門に配属。主に電源関連の企画・開発に携わる。

漠然としたコンセプトが形になるのがワクワクする

未来:まずは現在のお仕事に就くようになったきっかけを教えてください。

父親も電気機器メーカーに勤めていたので、自然と電気機器メーカーで働きたいと考えていました。子どもの頃はバスや電車などの乗り物が好きで、子ども時代の夢は「海外の人とやり取りする仕事」が夢でした。間違いなく父親の仕事の関係で幼少の頃に海外で数年過ごした事が影響していると思います。

未来:池田さんが働く商品企画部門でのお仕事のやりがいはなんですか?

漫然としたコンセプトが具体的に形になっていくのはワクワクしますね。さらに、さまざまな人の意見を取り入れて洗練されていくのは(調整するのは大変ですが)この仕事の醍醐味です。また当社商品を使っている人を街中で見つけると、うれしくてたまらないですよ。

1963年に発売されたマクセルのアルカリ乾電池。マクセルはその後も世界初の商品を数多く生み出し、さまざまな分野でトップシェアを誇る商品を手掛けている。

未来:それは確かに! 「苦労して開発した商品を実際に手に取って買ってもらえた!」というのはすごくうれしいですよね。思わず「それ、僕が作ったんですよ!」って言いたくなりそうです(笑)。

でも、お店に並んでいるのを家族に自慢するのは、家族に疎まれるので最近控えるようになりました(笑)。

未来:あはは、それだけ身近にある商品なので自慢する機会も多そうですしね。そうは言っても、ご家族も池田さんのお仕事を誇りに思っているのではないでしょうか。

コイン電池を乳幼児が飲み込めないパッケージに

未来:具体的に最近発売した商品はなんでしょうか?

ゲーム機などでもおなじみのコイン形リチウム電池ですね。近年、機器の小型化により、ご家庭内でもコイン形リチウム電池を使う機会が増えていますが、それに伴い、子ども、とくに乳幼児の誤飲事故も増えています。これを受けて日本では2016年に(一社)電池工業会からコイン形リチウム一次電池の誤飲防止パッケージガイドラインが発行されました。「乳幼児が飲み込めないサイズ」「乳幼児が素手で開封できないようにする」この2点が原則です。

未来:コイン形電池は形状がお菓子のラムネにも似ていますし、パッケージが空けやすいと誤飲の可能性がありますね。また、パッケージのまま飲み込んでしまうのも避けるべきでしょう。

じつは誤飲防止パッケージのガイドライン決定後、各社でガイドラインに必要な項目を分担し、調査と検討を繰り返したのですが、「子どもがパッケージを破れないようにするためには、接着力を何kgにすべきか」など基準作成には苦労しました。

未来:なるほど、ガイドラインが決まっても実際に商品を作るには「乳児が飲み込めないサイズはどのくらいか?」や「子どもがパッケージを破れる力はどのくらい?」という基準が必要になりますね。電池を開発する技術とは直接関係ないところですし、個人差も大きいところですから根拠のある確実なデータを取るのが大変そう…! 基準作成や実際の開発での難しい課題にぶつかったときに、池田さんの支えになったものはなんでしょうか?

いろいろとありますが「3人のレンガ職人」は好きな話の1つです。同じことをしているのに気持ち次第で見え方がまったく違うのはおもしろいなと純粋に感じています。

「3人のレンガ職人」のお話について
街外れを歩いていた旅人が3人のレンガ職人に「何をしているのですか?」と聞いていくお話。1人目は「見ればわかるだろう。レンガ積みだ。なんでオレはこんなことをしなければならないのか」と不満を口にし、2人目は「レンガで大きな壁を作っている。この仕事で家族を養えていけるんだから、大変だと言ったらバチが当たる」と言い、3人目は「オレたちは歴史に残る偉大な大聖堂を作っているんだ! ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだ! 素晴らしいだろう!」と目を輝かせて語ったという。同じ仕事をしていても、目標や目的を持つと気持ちが違うことを説いています。

未来:このお話では「目標や目的を持つ」ことの重要性が説かれていますね。「仕事だからやらなきゃいけない」と思うより「これが発売されれば乳幼児の誤飲の事故が減って、使う人も安心する」と目的意識を持って進められるのは明白です。仕事のみならず、子ども自身や子育てしている親も難しい課題に直面したとき「今やっていることが何につながっているのか?」を考えることで意識が変わることはありますね。実際の誤飲防止パッケージはどのようになったのですか?

マクセルでは調査・検討を繰り返して、子どもがコイン形リチウム電池をパッケージから取り出し、誤って飲み込んでしまうリスクを防ぐため、はさみで切らないと開封できないパッケージを開発しました。

一方で、はさみで開封しやすい工夫も検討して、以前は、ボタン電池の形状に合わせて成形したプラスチックのパッケージ(ブリスター)でしたが、この誤飲防止パッケージの開封部分の凹凸を無くしてはさみで切りやすくし、広い開口部で電池を取り出しやすくしました。この取り組みは、「2018ジャパンパッケージングコンペティション」電気機器部門賞、「キッズデザインアワード」第12回(2018年度)キッズデザイン賞を受賞しています。

未来:「乳幼児が飲み込めないサイズ」と「乳幼児が素手で開封できないようにする」を両立するアイデアが生まれたわけですね。 結果として手で開けるのではなく、ハサミで切る形にしてパッケージを大きくしたのは誰もが見て「誤飲しにくい」と納得できる形です。池田さんが初めに語っていた「さまざまな人の意見を取り入れて洗練されていくのは、この仕事の醍醐味」の成果が、この誤飲防止パッケージに集約されていますね。

そうですね。調整するのは大変ですね(笑)。

小さな達成感を積み重ねて自己肯定感を育む

未来:池田さんのように、どんな状況にでもブレない目標を持って対応していけるような人になるには、子どものときにどんな経験や体験をしたり、大人からの声掛けがあったらいいと思いますか?

小さいゴールで良いので達成する経験をすることだと思います。大人(周り)はそれを大きく褒めることが幼少期には大事かなと思います。私自身も子どもの頃、勉強時間の長さについて褒められて、まんまと乗せられて頑張った記憶があります。

子どもに小さな達成感を得てもらうのにおすすめなのが「家事のお手伝い」。「食器などを運ぶ」などの簡単なことが多いので子どもにも挑戦させやすい。できたら思いっきり褒めて、次のお手伝いにつなげていくと、一日の中で褒める機会が自然に増えていく。

 

未来:池田さんご自身が小さいゴールをたくさん経験していて自己肯定感があったから、難しい課題にもブレずに取り組むことができたんですね。池田さんが困難を乗り越える自由な発想の源は、どこから生まれてくると思われますか?

おもしろがることだと思います。先ほどの「3人のレンガ職人」と繋がるのですが、同じことをするのでも楽しんで取り掛かれば、違う視点だったりアイデアも浮かぶかもしれません。気付けば「乗り越えられていた」ということにもなるかなと思います

次のページ>「子育て世帯が安心して買える電池とは?」

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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