アタッチメントって何?~子どもの自発と自立に不可欠な「安心感の輪」とは~(第2回)

子どもの頃に、親や保育者に「アタッチメントする(信頼できる大人とくっつく)」ことが、子どもの健やかな発達にとても大切であると言われています。
「アタッチメント」とは何なのでしょうか。また、なぜ子どもの成長にアタッチメントが大切なのでしょうか。
今回は、東京大学大学院教育学研究科の遠藤先生に、どのような「アタッチメント」が子どもにとっていいのかについて詳しくお話を伺った第2回の記事です。
(第1回の記事は「アタッチメントって何?~子どもの成長の土台「信頼」を築く鍵とは~」をご覧ください)

安定したアタッチメントのための「安全な避難所」と「安心の基地」の役割とは

未来:子どもの成長にアタッチメントが大切というお話を伺うと、私も1人の親でもあり、自分の子どもに対してちゃんとアタッチメントができているのだろうか、子どもが自分に価値があると思えているのだろうか、など不安になります。どのようにしたらアタッチメントを子どもに対して与えることができるのでしょうか。

遠藤先生:アタッチメントを与えるという考え方はしないほうがいいと思います。特別なことをする事がアタッチメントではありません。保護者は子どもにとって「安全な避難所」「安心の基地」であるということが一番大切です。

まず「避難所」についてですが、何かあったときに戻れるところ、絶対に守ってくれるところが「避難所」で、そこに保護者が変わらずに確実にいてくれることが大切です。

次に「基地」についてですが、何か自分が思い立った時にそれをちゃんと見て応援してもらえるところ、自分の背中を押してくれるところが「基地」です。ここでも保護者が子どもにとっての「基地」として変わらずにあり続けることが大切です。

何かいっぱいしてあげないと成り立たないのがアタッチメントではなく、子どもにとって確実に戻れるところ、そして子どもが何か思ったときにはそれを応援してもらえるような「安全な避難所」や「安心の基地」であることが保護者の役割としては一番大切だと思います。

子どものシグナルが発信されたときにそれを受けて可能な範囲内で応えてあげること、そして、子どもが自発的に「これ面白い」「これやってみよう」というときにちゃんと耳を傾けて声を聞いて「やってごらん」と温かい目で応援したり、エールを送ってあげたりすることです。その「避難所」と「基地」の2つの役割をしっかり果たしていればは安定したアタッチメントが形成されると考えてよいと思います。

未来:なるほど、アタッチメント形成のために何か特別なことをしなくてはいけないように思っていました。

遠藤先生:子育て全てに言えることなのですが、保護者は子育てを難しく考えて「これもしないといけない」「あれもしてあげないといけない」と考えがちです。ですが、何かいっぱいしてあげること以上に大切なのは、ただ「安全な避難所」と「安心の基地」であるということなんです。

その二つの役割をバランスよく果たしている限り、子どもは自発的に遊んだり、何かを探索したり冒険したりする活動をしながら自分の力を自分で身につけていくことができます。それをちゃんと支えてあげることが親の役割であり、そうであれば保護者は子どもにとってよい「お父さん、お母さん」であると言えると思います。

未来:例えば、保護者が「子どもがやりたいと言ってもそんなことしてほしくないんだけどなぁ」と思うようなこともありますが、そういう状況でも子どもがのびのびやっているならば「自分(保護者)は今、安心の基地になっているんだな」と思えばいいということでしょうか。

遠藤先生:そうですね。子ども自身が自分で何か考えてちゃんと実行して楽しめているならば、その保護者はちゃんと「安全な避難所」と「安心の基地」の役割を果たしていると自信を持っていただいてよいと思います。

「安全な避難所」と「安心の基地」を回る「安心感の輪」とは

遠藤先生:子どもは「避難所」と「基地」と行ったり来たりしながら「安心感の輪」を回ります。「安心感の輪」というのは、不安になったら「避難所」に戻り、そこで安心感を得たらそこを「基地」として外に飛び出していくという行動のことです。

詳しく説明をすると、子どもというのは何か怖くなったときや不安になったときにはその避難所である「親(保護者)」のところへ戻って慰めてもらい、安心感に浸って心の燃料補給が済んだ段階で今度は同じ人である「親(保護者)」を基地にして元気よく飛び出しいていきます。そしてまた好奇心の塊になって遊んだり活動をしたりします。

(※遠藤先生のお話から未来へいこーよで図を作成)

そのうちまたいろいろな不安、嫌な気持ちが生じるとベクトルを反転させて避難所である親(保護者)のところへ戻って慰めてもらい、安心感を得たら親(保護者)を基地にしてまた飛び出してあらゆる不安から解放された状態でまたいろいろな探索活動や遊びをします。また怖くなったら避難所に戻って慰めてもらい、安心感を得たら基地から出ていく、というように避難所と基地を行ったり来たり繰り返す行動の輪を「安心感の輪」と言います。

安心感の輪が回っていないとどうなるか

未来:もし家庭や親が「安心な避難所」、「安全な基地」になってない場合は、子どもはどのようになってしまうのでしょうか。

遠藤先生:家庭の事情やそれぞれの親子関係の性質によっては、家庭の中でその輪をうまく回れない子どももいます。怖くて不安で泣いたときに嫌がられて「あっち行って」と言われたり、「泣く子が嫌いだからお父さんお母さんはもう2階へ行っちゃうよ」というようにもっと遠くへ行かれたりする。泣いて近づこうとすればするほど、それを嫌がられて遠ざかれると子どもの安心感はもっと脅かされてしまいます。そんなことになったら子どもにとっては大変なことです。

遠ざけられたりもっと遠くへ行かれるくらいなら、「あえて泣かない」とか「あえてくっつかない」方がまだマシなわけです。結果的には、子どもが親に対して素直に自分の感情を向けたり、くっついて行ったりすることができなくなってしまう子どももいるわけです。

遠藤先生:安心感の輪が回らない別のタイプもあります。気まぐれな養育を受けている場合です。泣いても受け入れてもらえることもあれば、親の気まぐれ、気分、感情次第で受け入れてもらえないことも多いという子どももいます。

子ども視点で言えば、いつどうすれば確実に安心感に浸れるかが全然予測できなく、見通しが効かないと子どもは不安で仕方がないわけです。警戒心が強くなり、「今お父さんお母さんはどこにいるの?何しようとしているの?」と置いていかれたら大変だという不安が強くなって後追いやしがみつきが激しくなってしまいます。例え親と一緒にいても、またどこかへ行かれてしまうという不安が強くて、ずっとぐずった状態で親の元に居続けてしまう子もいます。ときには、絶対に自分のことは置いていかないでという抗議の意味で怒りを激しくぶつけ続けてしまうタイプの子どももいます。

そうすると「安心感の輪」から、あらゆる不安から解放されて元気よく飛び出していくことができません。ときにはなかなか遊びに夢中になれなくなったりします。気まぐれな養育のために、「安心感の輪」が上手く回らないことが生じるのです。

このように、それぞれの家庭内での親子関係の性質によっては、「安心感の輪」を安定して回れない子どももいるわけです。

しかし、子どもは家庭の中だけで育つわけではありません。特に、徐々に年齢が高くなっていくと家庭以外にも自分の別の社会的な世界を持ち始めます。それは園や学校であったりするかもしれませんし、習い事や何かの活動の場かもしれません。そのような家庭以外の場が、子どもにとってもう一つの育ちの場になります。そこで、親や保護者以外の人が避難所や基地の役割をしっかり果たしてくれれば、子どもは「安心感の輪」を回ることができます。そこで自分自身で自分のことを支え、成長することができると思います。

アタッチメントの形成に適した年齢はあるか

未来:アタッチメントが必要な適齢期や年齢の上限はあるのでしょうか。

遠藤先生:お話したとおり、基本的なアタッチメントというのは一生涯に渡ってずっと大切なものであり続けます。(第1回の記事

幼児期の子供というのは文字どおり身体的な意味でぺったりくっついて「あぁもう大丈夫」と安心感を得ることが多いと思います。

小学生になっても、その子の年齢なりに基地や避難所を必要とします。高学年くらいになると、「あそこに頼もしい大人の人がいてくれる」「あの人は自分が何かあったときには絶対サポートしてくれるはず」という見通しのもとで安心感を得たり、「あの人はきっと自分のチャレンジを見て応援してくれる、アドバイスもくれるかもしれない」という期待のもとで大人の人を受け止めたりします。

年齢ごとに受け止め方というのは徐々に違っていきますが、その基地や避難所が一貫して子どもにとって重要な役割を果たすということに変わりはありません。

未来:もし子どもの頃に「自分のことを信じられる」や「人のことを信じられる」というアタッチメントがちゃんと形成されなかった場合、その後の成長過程で改めて形成されるなどリカバーすることはできるのでしょうか?

遠藤先生:もちろんリカバーできます。特に幼少期の段階で保護者に受け入れてもらえない場合でも、家庭の外に行ってみれば自分のことを無条件的に受容してくれる人が1人でも2人でもいることで、子どもはその人とのアタッチメントを通して心の基礎を身につけることができます。

家庭外でのアタッチメントは、幼少期は家庭の外の保育所、こども園や幼稚園での先生との関係性のほか、小学校に上がってからは担任の先生や保健室の先生、スクールカウンセラー、習い事の先生などが挙げられるかもしれません。

いろいろな大人と繋がってその大人が保護者とはまるで違って、子どもが何かしらのシグナルを発信した時にちゃんと受け入れてくれるという関係に恵まれれば、保護者との間でアタッチメントが形成されていなくても、その子どものアタッチメントはその後十分に健全な発達を遂げていくことができると思います。

父親、母親それぞれのアタッチメントの役割はある?

未来:父親と母親で子どもに向き合う役割を分けるというのをよく聞きます。アタッチメントについては特に父親と母親の役割の違いというのはありますか。

遠藤先生:子どもと一緒にいる時間が長くなると、父親も母親も同じように子どもにとって基地や避難所になっていくと言われています。特にお父さんに関しては、子どもとただ共に時間を過ごすだけで、「いい親になる条件」が徐々に高まっていくことが研究でも示されています。

お父さんはお母さんとは違った話をしてくれたり、違った遊びや活動を一緒にしてくれたりします。そして、お父さんお母さんが共に基地や避難所であることが子どもにとってはより望ましい状況だと思います。

多様な人と関わることで子どもは健全に育つ

未来:昨今、近所のおじいちゃんおばあちゃん的な存在がいなかったり、また、コロナ禍によってリアルでの関わりがより減った時期があったりと「安全な避難所」や「安心の基地」が減っている状況になっているのではないでしょうか?

遠藤先生:子どもが家族の大人や年長のきょうだいだけではなくて、家族以外のいろいろな人と関わったりサポートされたりしながら成長することが本来の人の成長、発達の仕組みだったと言われています。

しかし、ご質問のとおり、今はどんどん人間関係が希薄化してきています。子どもが接する大人は保護者に限定されるかもしれません。大人との関係である「縦の関係」、同年齢くらいの子どもとの関係である「横の関係」、そしてちょっと年下、年上という「斜めの関係」のような多様な関係の中で子どもは本来、一番健全なかたちの発達をする仕組みを元々持っています。

「横の関係」や「斜めの関係」は学校などに行けばあるかもしれませんが、残念ながら今は親以外との「縦の関係」が際立って減ってきています。そのような機会を意図して設けていかないといけない時代になってきているのだと思います。

遠藤先生のお話を伺って

「アタッチメントを与えるという考え方はしないほうがいい」という遠藤先生のアドバイスにドキリとしました。私たち大人は、とかく「子どもに何かを与えなくてはいけない」と考えがちですが、与えることが役割なのではなく、子どもの不安を慰める「安全な避難所」となり、子どもが思い切りチャレンジをすることを応援する「安心の基地」であり続けることが役割なのだということを認識しました。

そして、子どもはいろいろな大人や年齢の人と関わって育つことで健全な発達をしていくものなのに、昨今はそのような機会を意図して設けていかないといけない時代にもなっているというお話を伺い、子どもが多様な人と関わる環境を作ることも、私たち大人の役割であると思いました。

子どもが「安心感の輪」を回ることでどのように成長していくかについては、第3回の記事「アタッチメントって何?~子どもを探索活動に夢中にさせる力とは~」に続きます。

お話を伺ったのは…遠藤利彦先生(東京大学院教育学研究科教授 発達心理学・感情心理学)
〈監修者プロフィール〉
東京大学教育学部卒、同大学院教育学研究科博士課程単位取得、博士(心理学)
子どもと養育者との関係性、とりわけアタッチメントがどのように子どもの心身発達に影響を及ぼし得るかについて研究。NHKEテレ『すくすく子育て』のコメンテーター。著書に「赤ちゃんの発達とアタッチメント 乳児保育で大切にしたいこと(ひとなる書)、「アタッチメントがわかる本:「愛着」が心の力を育む(講談社)」など多数。

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中学受験を経験した辞典体質の高2息子とダンスに夢中な和み系の小6娘の子育て中。仕事モードと同じく、効率とマルチタスクを家族にもつい求めてしまうことを時々反省している。稀に見るほどの方向音痴。日記を毎日書かないと落ち着かないため、いつでも持ち歩いている。

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