子どもの頃に、親や保育者に「アタッチメントする(信頼できる大人とくっつく)」ことが、子どもの健やかな発達にとても大切であると言われています。
「アタッチメント」とは何なのでしょうか。また、なぜ子どもの成長にアタッチメントが大切なのでしょうか。
今回は、東京大学大学院教育学研究科の遠藤先生に、安定した「アタッチメント」があると子どもはどんな冒険活動をするのかについて詳しくお話を伺った第3回の記事です。
(第2回の記事は「アタッチメントって何?~子どもの自発と自立に不可欠な「安心感の輪」とは~」をご覧ください)
アタッチメントが形成されている子どもは探索活動に夢中になれる
未来:子どもは、不安になった時には避難所である親のところへ戻り慰めてもらい、安心感に浸れたら、同じ人であるその親を今度は基地にして元気よく飛び出しいていき、また好奇心の塊になって遊んだり活動をしたりするとのお話を伺いました。アタッチメントが形成され、この「安心感の輪」を回ることによって、子どもたちはどのように成長していくのか詳しくお伺いしたいです。
遠藤先生:そもそもアタッチメントという考え方は怖くて不安で感情が崩れたときにくっついて安心感に浸るということですが、アタッチメントがちゃんと経験が出来ている子どもはしっかりと探索ができる子だとよく言われています。何かあったらそこに行けばいい、絶対に大丈夫だという見通しが成り立っている子どもは、その見通しに支えられてどんどん自分から冒険やチャレンジをすると言われています。探索活動とアタッチメントは表裏一体だと言われているわけです。
子どもはアタッチするところ(何かあったら戻れるところや何か思い立った時に応援してもらえるところ)を持つことで、今度は探索をして自分の可能性を自分で伸ばしたいと考えるものです。「自分の可能性をどんどん広げていきたい」という欲求を持つことが子どもの良好な発達に極めて重要なわけです。そして、子ども自身が考えて自分自身で前に進むことをサポートする大人の役割は際立って重要です。

先ほども申し上げたとおり(第2回の記事)、大人は何か特別なことをいっぱいしてあげるのではなく、子どもの自発的な欲求や主体的な気持ちに従って実際にやろうとしていることを黒子となって支えてあげたり、応援団としてエールを送ってあげる役割がとても大切です。私たち大人は「教えてあげる」というスタンスで子どもに関わってしまいがちですが、子ども自身が考えて、判断して、自分で目的を設定して前に進んでいくこと自体が非常に重要なのです。
子どもが夢中になっている時は「科学者のようにすごく頭を使っている」状態
未来:子どもが自発的な欲求や気持ちに従ってやろうとしていることを黒子となって支える、応援することで、子どもは冒険や探索活動にチャレンジできるということなのですね。

遠藤先生:好奇心をもって子ども自身が探索をすることは、世の中のいろいろなものを自分で発見したり、面白いと思ったものを嗅いだり触ったり、自分で何かやってみようと動かしたりしながら探しまわっている状態です。
よく「子どもというのは探索活動の間、科学者と同じだ」と言うこともあります。科学者というのは仮説を立てて実験をする。子どもも「これはこうに違いない」と自分の頭の中で仮説を作り始めるわけです。「だとしたら、これもあっちでやれるかな?実験してみよう。あ、できた!じゃあこっちでも出来るはずだ。あ、出来た!」と好奇心が次々膨らんでいくわけです。
ですが、全てがうまくいくわけではなく、ときどき実験に失敗することもあります。でも、実験に失敗したら子どもというのはまた仮説を立て直します。仮説を立てて実験する、実験に失敗したら仮説を立て直して、また実験をする。これが子どもが何かの活動に夢中になっている状態です。
大人からすると、「何がそんなに面白いのかな」と思えることに子どもは嬉々として何十分、何時間もずーと夢中になっていることがあります。でも、その状態こそ子どもの頭の中では、科学者と同じように高水準の知的営みが生じているのです。頭をとてもよく使っているということです。

好奇心にスイッチを入れてあげる、そしてその好奇心に従っていろいろな探索をし、仮説を立て、実験をする、実験に失敗したら、仮説を立て直してまた実験をする。これ自体が子どもにとっては一番の喜びでもあるわけです。
子どもの探究活動はそれをやって「得られる結果」のためではなく、夢中になることで頭を使っていることに意味がある
未来:ときに、保護者がやりたいと言っていることと、子どもがやりたいと言っていることが異なっていることがあります。そのような場合、どのように子どもと接したらいいのでしょうか。
遠藤先生:特に乳幼児期から児童期に、保護者に少し考えていただきたいのは、子どもが何かをやることで「何かができる」「何かが言えるようになった」というような「結果」が一番大切ではない、ということです。
結果はどうであれ子どもがとにかく頭をよく使う経験を持てているかどうかが、子ども時代においては一番重要です。それこそ、何かの遊びに自分自身で夢中になっていて、「頭を使う」アクションを起こしているときだからです。

先ほどお話した「仮説を立てて実験をし、失敗したらまた仮説を立てて実験」という科学者と同じような頭の働きというのがそこでは起きているわけです。自発的な遊びに夢中になっているときに子どもは一番頭を使います。頭は使えば使うほど地頭が鍛えられていくわけです。
情報処理の力、考え抜く力や、想像力、創造力などは頭をよく使う経験そのものによって培われます。つい保護者は結果の方に目を向けて、社会的に望ましい結果に繋がらないようなことに関しては「それはダメ」「こっちの方がよい」と言ってしまうことが多いかもしれません。
ですが、子どもが何かに夢中になって、子どもなりに楽しんでやれているということは、そこで子どもはすごくよく頭を使っているということで、その事実に目を向けていただけるといいと思います。
VUCAの時代を生きる子ども達が自分で考える力を養うための大人の役割は「子どもたちの足場を支える」こと
未来:頭をよく使うという経験が地頭を鍛え、考え抜く力や想像力といった「生きる力」を育むことになるのですね。
遠藤先生:OECD(経済協力開発機構)が「Education 2030」という部分で言っていることなのですが、子ども達は今の時代そしてこれからの未来を生き抜いていかないといけません。よくVUCA時代と言われることがあります。
・V:Volatility変動性(変化が速い)
・U:Uncertainty不確実性(不確実で見通しが効かない)
・C:Complexity複雑性(複雑で色々な考え方が入り乱れている)
・A:Ambiguity曖昧性(何が良くて何が悪いかの基準が曖昧になってきている)
これからの未来はもっとVUCAの度合が増していきます。それこそ、何が起きるか分からないという状況です。何が起きるか読めない、何がよいのか基準そのものが曖昧になってきている中で、これからの子どもは自分の頭で考えて、自分で判断して、自分で目的設定をして前に進んでいくことがとても重要です。そして、自分がとった行動にはちゃんと責任が持てることが重要なのです。
かつてのように、社会一般や大人が「これいいよ」と言ったことに対して素直に受け止めて一生懸命に勉強してそれを身につけたことが、子どもの未来に繋がるという時代ではなくなってきています。子ども自身が自発的に頭で考えてアクションを起こす力が必要だと言われています。これはAgency(主体性・責任主体性)と呼ばれており、自分自身の力を自分で伸ばしていくことや可能性を広げていくことにおいて重要です。

心理学の言葉にScaffolding(足場を築いてあげる)という言葉があります。何かを教え込んであげるのではなく、子ども自身がもう少しで出来そうなことを大人が足場となって支えてあげて子どもが自分で出来るようになることです。実際Scaffoldingをしていくと、徐々に子ども自身で何かが出来るようになっていきます。そうしたら大人は自分の役割を減らして徐々にフェードアウトで消えていくのです。
このような子どもの自発性・主体性を「足場となって支えてあげる」という大人のスタンスが、子どもに対する働きかけの部分においては重要です。
子どもが別のことにチャレンジするように言葉を発してあげるなどの繰り返しの中で、子どもは自分の活動の幅を広げていき、個性を伸ばし、可能性を広げていくことができます。
体験活動の意味は「非日常」の刺激で子どもの探索活動を拡げること

未来:家庭や学校、習い事などの継続的な子どもの成長の場だけではなく、接点としては短いものではありますが、さまざまな体験やイベントなどに参加することは子どもにとってどのような意味があるでしょうか。
遠藤先生:子どもにとっては、たとえ単発であったとしても体験やイベントなどの参加はとても重要です。「刺激」が日常生活の中に実際に豊かなかたちで存在していることが、子どもの「次なるやる気」や「前向きな気持ちのスイッチを入れる」ということになります。そして、体験やイベントへの参加の経験は、確かにその場で終わるかもしれませんが、その経験が家に持ち帰られたり、イベントで出会った他の仲間と別の機会で会ったりするなど、必ず広がりをみせていくと思います。
それが「また同じことをやってみたい」というきっかけになります。子どものその「やりたい、やってみよう」を保護者が支えることが探索活動を広げるために際立って重要な役割を果たしていると思います。
遠藤先生のお話を伺って
アタッチメントが健全に形成されているからこそ、安心して子どもは冒険やチャレンジなどをしながら探究活動ができるというお話や、子ども達は多様な人と関わり多様な体験をすることで探索活動が拡がり可能性を広げていくというお話を伺い、私たち大人はそのような子ども達の好奇心や探索心の拡がりをまさに足場となって支えることが役割だと改めて認識しました。
また、大人は子どもに「そんなことに夢中になるのではなく、もっと他のことに夢中になってほしい」とつい思ってしまいがちですが、子どもの探究活動はそこから「得られる結果」のためではなく、夢中になることで頭を使っていること自体に意味があるという先生のお話に考えさせられた取材でした。
お話を伺ったのは…遠藤利彦先生(東京大学院教育学研究科教授 発達心理学・感情心理学)
〈監修者プロフィール〉
東京大学教育学部卒、同大学院教育学研究科博士課程単位取得、博士(心理学)
子どもと養育者との関係性、とりわけアタッチメントがどのように子どもの心身発達に影響を及ぼし得るかについて研究。NHKEテレ『すくすく子育て』のコメンテーター。著書に「赤ちゃんの発達とアタッチメント 乳児保育で大切にしたいこと(ひとなる書)、「アタッチメントがわかる本:「愛着」が心の力を育む(講談社)」など多数。
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