さまざなまものを「つくる人」に、人として生きていくのに必要なものに迫るインタビュー。今回は「ちぎり絵をつくる人」、ちぎり絵作家のウメチギリさんに、自身がちぎり絵作家になったきっかけや、ちぎり絵を通して見えてきた生き方などを伺います。
ちぎり絵作家 ウメチギリさん プロフィール
山形県出身。養護学校勤務を経て、2002年から自己流でオリジナルのちぎり絵制作を開始。2010年にはNHKまる得マガジンの講師を務める。挿絵や装丁、チラシ、ポスター、パッケージなど多岐にわたり作品を制作。展示会やワークショップなども随時開催しています。
きっかけは「自分の絵本の挿絵」
未来:著書「かんたんかわいいちぎり絵BOOK」に「ちぎり絵を初めてやったのはご自身の絵本の挿絵」がきっかけとありました。小さいころは絵が得意ではなく、授業でお手本のように描けないことに苦手意識があって、絵は専門的にやっていなかったのですが、ご自身が文章を書かれた絵本の出版にあたり「挿絵を描いていただけませんか?」と言われてペン画や色鉛筆、クレヨンなど、いろいろなものを試していくうちにちぎり絵にたどりついたのだということですが、本当でしょうか?
ウメチギリさん(以下、敬称略):はい。ちぎり絵は、それまで本当にやったことなかったんです。文章が先に出来上がっていたので、挿絵のイメージは頭の中にもうあります。でも、それを絵にするときにイメージ通りの画材がなかなか見つからなくて…たまたま持っていた和紙をパッとちぎってみようと思ったのがきっかけですね。
未来:ご自身の本とはいえ、初めて取り組んだものをゼロから挿絵にするレベルまで仕上げるのは難しかったのではないでしょうか?
ウメチギリ:絵本が木のお話だったので、ひたすらただ葉っぱや花をちぎる作業だったというのと、締め切りが一週間ほどしかなかったので…難しいと考えるよりも、とにかく自己流で夢中でやりました。

ウメチギリさんのちぎり絵は、手でちぎっていることから生まれるやわらかい曲線や、やさしい色使いが特徴。文字の部分もちぎってできています。
未来:その夢中でやった体験がもとで、作家になったというのはすごい出会いですね。
ウメチギリ:周りの方から「元々ちぎり絵作家になりたかったんですか?」とか「小さいときから目指してたんですか?」、「芸大に行ったんですか?」という声をたくさんいただくのですが、本当に私が寝耳に水なぐらい、全然思ってもいなかった仕事に今就いています。でも、それは私の選択肢の中にはなかったけれど、外側から言っていただいて初めて自分の適正に気づいたんです。自分が思っていることと適正が必ずしも合っているとは限らないじゃないですか。やってみることで気づく、行動を起こすことで気づくことがあるんだと身を持って感じました。
未来:そういう意味で、いろいろなことにチャレンジしてみるのは大事ですね。初めてちぎり絵に挑戦してみたときに「あ、これは楽しいな」や「自分に向いている」と思ったのでしょうか?
ウメチギリ:もちろん初めてやったので、上手下手で言えば下手だったんですが、初めてやることのワクワク感が大きくて「ちぎったらこんな風になるんだ、おもしろいな」と思っていました。その気持ちの方が勝っていたので、あんまり難しいとかうまくできなかったなみたいなことは感じなかったですかね。
ウメチギリ:私はワークショップや中学校、大学の学生さんに講演をさせていただく機会があるんですけど、そこで「好きと嫌い」「上手と下手」「得意と不得意」が全部「=(イコール)」ではないですよっていう話をしています。
未来:例えば、うまくできるから好きとは限らないし、下手だから苦手とも限らないというわけですね。
ウメチギリ:あまり好きじゃないのに「上手にできるから」といってやっていると、いざ大変な局面になったときに続けられなくなってしまうことがあります。でも「好き」が一番先にあると「続けること」に関して誰も止められないんです。ピアノが好きな人で、たとえ上手に弾けなくても何年もピアノ弾いている人もいます。「そんなにしなくていいよ」って言われてもしたくなっちゃう。そういう衝動的な気持ちが何か物事をするうえできっかけとしては大事だと思います。私にとっては、それが「ちぎり絵」だったんです。
未来:なるほど。「好きこそものの上手なれ」と言いますが、私にもそういう経験があります。
ウメチギリ:だから子どもが何かをやっているときに「上手だね~」って褒めると、子どもは「褒められるからまたやろう」ってなりますよね。それが好きだったらいいんですけど、大人が喜ぶからやるような「ツール」になってしまうともったいないと思います。そんな話を大学生に向けた講演会ですると「じつは自分は親が喜ぶことをやってきたけど、進路や就職の時期になって、自分は何が好きなのかがわからなくなってしまった」と声をかけていただくことがあります。
未来:それは少し悲しいですね。大人は子どもが「好きでやっている」か、「得意だからできている」かを見分けるようになっていたほうがいいですし、子ども自身も判断できるようにしていかないといけないと思います。
ウメチギリ:私は、自分と向き合うひとつのツールが「ちぎり絵」だと思っています。ちぎり絵をやってみて「これおもしろくない」と思えば、それでひとつ「好きの選択肢」が減るわけじゃないですか。ちぎり絵を楽しんでもらうばかりじゃなくてもいいと思うんですよ。「こういうの嫌だー!」って、くしゃくしゃってなったらそれはそれでいいかなと思ったりするんです。
未来:好きかどうかは人それぞれですから。
ウメチギリ:でも意外と、今までちぎり絵をやってみて、男の子でも女の子でも「おもしろくなかった」っていう子はいないんですよね。それがちぎり絵のおもしろいところです(笑)。
どんな小さなことも選んだ時点で「表現」になる
未来:確かに、自分でもやってみましたが、ちぎり絵は年齢や性別を問わないよさがあります。自分がちぎったことで、小さなかけらでも妙に愛おしく感じたりするんです。
ウメチギリ:ちぎり絵を作る場合、自分の中にある「もの」を形として具現化していくだけなので、例えば車だっていいし、好きなキャラクターでも風景でも動物でも何でもよくて、それが年齢を問わないよさです。その中で自分の中にある感性や感覚を出していけるのもいいんです。例えば折り紙で好きな色を選ぶだけでも、もうそれが「ひとつの表現」なので。
未来:「表現」というとすごくハードルが高そうに思えますが、折り紙で好きな色を選ぶというのは誰でもできそうです。そういえば、ウメチギリさんは著書でも、服や靴を選ぶことも「その人にとっての表現」とお話されていました。
ウメチギリ:そうなんです。あるとき、障がいを持った方々が通う作業所でワークショップをさせていただく機会があって、約50色の折り紙の中から好きな色の折り紙を1枚選んでもらいました。ワークショップではすごく悩む人もいるし、パッと取る人もいたのですが、そのあとに「この好きな色の折り紙をちぎってみましょうか」という話をしたら、好きな色をパッと取った男性が「これはちぎれません。好きだから、大事だからちぎれません」と。
未来:なるほど、好きな色だからそのままにしておきたいと。
ウメチギリ:私も好きだから好きな色を使いたいわけではなくて、ちぎらず大事にとっておきたいという感情も大事だとそのときに気づきました。それはまたひとつの表現で、彼の大事にしたい部分だと思ったので、そこから私のワークショップはどんどん(やることが)削れていって(笑)。「好きな色を使ってもいいけど、どうでもいい色からちぎってもいいです」とか「もったいなくない色を使ってもいいです」。最終的には「何でもいいです」という感じでさせていただいています。
未来:ワークショップとしては型破りな手法ですね。でも、子どもはそれぞれが楽しい時間を過ごせそうです。
ウメチギリ:普通のワークショップは先生が教える手順通りにやって完成を目指す形が多いですし、サポートで入ってくださってる指導員さんや親も一緒にいると「先生がもう違うところをやってるから、早くやりなさい」という流れになりやすいんです。
未来:素材から何かを作るワークショップは基本的にそういう形ですね。
ウメチギリ:だけど、好きな色の折り紙を1枚選んでヒラヒラしてる。紙の角度を変えると光の屈折で色がちょっとだけ変わる。その色の感じを楽しんでいれば、それはそれで1つの大好きな時間かな、と思ったりして(笑)。周りの大人にも「何もしなくていいので、ご自分のものをぜひ作ってください」と言うと、大人も子どもにかまわず、自分のしたいことを黙々とやって終わる。それぞれが自分と向き合う時間になっていいんです。
未来:子どもも大人も、まさに自分の中にある「好き」を見つけて作っていくワークショップですね。
子どもとちぎり絵をするときに気をつけたいところは?
未来:大人が子どもと一緒にちぎり絵をやってみるとき、どのように教えたらいいでしょうか?
ウメチギリ:ワークショップに親子で来た方が「うちの子、こういうことをしたいみたいなんですけど」と言ってきてくださる方がいて、やり方を教えると「はいはい」と聞いてくれるんですけど、だいたい子どもはその通りにしません(笑)。自分なりの形や配置が、子どものなかであるんですよね、きっと。なので、大人は子どもに教えなくていいので好きな色を、好きなようにちぎらせるといいと思っています。
未来:基本的なちぎり方は著書「かんたんかわいいちぎり絵BOOK」でも解説されているので、気になる人は買ってからスタートするとよさそうです。私も用意しておくと便利なものなども参考になりました。ウメチギリさんが考える、ちぎり絵の好きなところはどこですか?
ウメチギリ:ちぎり絵の好きなところは、ちぎったものを積み木みたいにいろいろ動かせるところです。絵の具だと塗っちゃったら「あ~、失敗!」って思ってももう直せないじゃないですか? デジタルで絵を描いたときは消すと全部消えちゃいますが、ちぎり絵はそれとも違って、失敗したと思ったら、もう1回ちぎればいい。失敗を楽しめるのがいいんです。もう1回ちぎったものと最初にちぎったものと比べてみると、「やっぱりこっちが好きだったな」と思ったり「でも最初の方も悪くなかったな」と思えたりします。
未来:最初は失敗だと思った欠片が、置いておくとあとで「ここに入れたらいいんじゃない?」と役に立つということもありました。
ウメチギリ:それって「生き方」とすごい似てるんです。失敗したと思うのも自分だけど、悪くないと思うのも自分じゃないですか。学校での勉強って正解と不正解があるものなので、必ずといっていいほど「ダメだった」ということを日々感じながら、子どもたちは毎日学校でがんばってるわけですよね。
未来:日によっては、家に帰ってからも大人からダメ出しをされたりすることもありますね……。
ウメチギリ:私たち大人が毎日そんなふうに「ここがダメ」ってばかり言われたら、なんかもう生きていけないと思って(笑)。基礎の部分をしっかり固めなきゃいけない部分もあるんですが、それ以外のところで「自由でいいよ。間違いとかないから好きにやっていいよ」という時間にできるのも、ちぎり絵の魅力です。
ちぎり絵で自己肯定感と観察力、空間把握能力が育つ
未来:ちぎり絵を実際にやってみると好奇心や想像力は伸びていきそうだなと感じていますが、ウメチギリさんは人間のどういう能力が育っていくと感じていますか?
ウメチギリ:自己肯定感は高まるんじゃないかなと思います。というのは、誰も同じものを作ってるわけではないので、自分が生み出したものを自分がいいと思えば、それで完結するからなんですよね。ワークショップでは、作るものを考えてきている人や「このキャラクターをちぎろう」みたいに思っている人のほうが、思っている形に寄せないといけないから、ものすごく苦労するんですよ。頭で考えたことに寄せていくことって、すごく難しくて。

インタビュー中、ウメチギリさんに「ある文字」を作ってもらいました。この形から何ができるかわかりますか? 答えは記事の最後のほうで。
未来:自由にちぎってみて、自分でいいと納得していくことが多いと、自己肯定感が高まりそうですよね。ほかにはありますか?
ウメチギリ:日々ちぎり絵を作っていく中で、私がすごく感じているのは観察力ですね。たとえば「葉っぱってどういう形かな?」って目でしっかり観察して、そのイメージどおりにちぎるには観察力が必要になります。
未来:確かに、見たものをいったん脳にインプットして、紙をちぎることで再現するのは観察力がいりますね。
ウメチギリ:私は最近「念写して!」っていうんですけど(笑)。見たものを指先から形にしていくときに、ちぎり絵を通して世の中や人をよく見るひとつのきっかけになります。だって、ちゃんと見ないとちぎれないじゃないですか(笑)。私のちぎり絵は下書きがないので、目測がすごく大事なんです。例えばマグカップをちぎってみようと思ってやってみると、普段毎日見てるマグカップなのに、いざやってみたら全然違うんです。観察できてないんですよね。そういう意味では「ここにあの家具が入るかな?」というような空間把握能力も身に着きます。
未来:空間把握能力は、「未来へいこーよ」でチームラボの建築集団「チームラボアーキテクツ」代表の河田将吾氏に行ったインタビューでも、幼児期に学ばせたい能力として挙げていました。彼らが手掛けた保育園では、デコボコした場所をあえて作ったり、1階の砂場から2階のネット遊具が見えるなど、遊んでいる中で立体的に世界をとらえられるようになっています。
ウメチギリ:紙をちぎるときも、頭でちぎったあとの形をまずイメージして、そこから指をどう動かしてその形にちぎるかを立体的にイメージしていきます。空間把握能力も身に着くと思います。

ウメチギリさんにちぎってもらったのは、ひらがなの「あ」でした。文字を作るときでも、2画目の縦棒は3画目よりも下に出るなど、観察する力が重要になることがわかります。
自由にちぎっていいのが最高の魅力
未来:ウメチギリさんの作品は公式サイトやInstagramで見られますが、実際に作品を見られる機会はあるのでしょうか?
ウメチギリ:不定期ではありますが、原画展などで見られます。イベントや企画の情報はInstagramに掲載しています。私の作品の特徴は、とにかく自由なことです。ちぎり絵にもいろいろと種類があるのですが、私の作品は紙の種類はどんなものでもいいし、具体的な形をどう切り出すか、どう抜き出すかみたいなところのおもしろさを大事にしているので、ルールがとくになくてゼロから何かを生み出すところが、きっと子どもたちがワクワクして楽しんでくれるのかなと思っています。ですから、男女問わず、男の子も好きな昆虫をちぎってくれる子や車を作ってくれたり、細かくちぎって作ってくれる子もいたりして、見ているこちらが癒されています。
未来:自分たちの中にある世界をちぎり絵を通してアウトプットしているのは、見ているだけでおもしろいと思います。
ウメチギリ:あとは「ちぎる」「破る」行為って、日常では「してはいけない」ことですよね。その「してはいけないことから解放されて、自由にちぎっていい」というのも魅力と思います。
未来:それは大きな魅力ですね!
ウメチギリ:自由にちぎっていいと伝えると、子どもは「いいの!?」と反応してくれますね。自分の手さえ使えば、いつでもできるので、ワークショップが終わって家に帰ってから「またやりました!」という声をいただけるのもうれしいです。
「好き」と「得意」は必ずしもイコールではない。子どもを見ていると、ついできている得意なことを伸ばそうとしてしまいがちですが、本当に子どもが好きでやっているか、その見極めは大事にしていこうと思いました。それとは別に、大人である自分自身が「好き」をもっと大切に、もっと楽しんで、その姿を子どもに見せていくの大事だと実感。また、ちぎり絵で自己肯定感や観察力が高まるのもとても納得のいくご説明でした。子どもと一緒に「ちぎり絵」をしてみて、うまくいってもいかなくても「それなんかいい感じだよね」と言い合えたら、とても楽しくて素敵な時間になると思います。梅雨の時期のおうち時間などにぜひ「ちぎり絵」を試してみてください(KAZ)
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