コンビニでいつものオレンジジュースを手に取ったら、値段が倍近くになっていた。そんな場面に驚いた人も多いはずです。オレンジ果汁は世界的な不足が続き、価格が大きく上がった時期がありました。そんななかカゴメが送り出したのが「Beyond オレンジを使っていない*オレンジ味の100%ジュース」です。オレンジをいっさい使わず、ニュージーランド産の黄にんじんを主役にして、オレンジそっくりの味わいを再現しました。開発を担当したカゴメの今井康平さんに、誕生の背景と、子どもたちへ手渡したい想いを伺いました。
*オレンジアレルギーの方に対応したものではありません。

カゴメ株式会社 商品開発本部 飲料・食品開発部 飲料開発1グループ 主任 今井康平さん プロフィール
農業に関心を持ち、農学部を経てカゴメに入社。現在は飲料の商品開発を担当し、にんじんをはじめ野菜や果実を組み合わせた飲料づくりに取り組む。「Beyond オレンジを使っていない*オレンジ味の100%ジュース」の開発を手がけた。ものづくりが好きで、作業着やかばんを自分で作ることも。
「オレンジを使っていない*」オレンジ味のジュース「Beyond」とは
「Beyond オレンジを使っていない*オレンジ味の100%ジュース」は、2026年3月にカゴメの新ブランド「KAGOME Beyond」から発売されました。名前のとおり、オレンジ果汁はいっさい使っていません。それでいて、口に含むとオレンジジュースに極めてよく似た味わいが広がります。
主役になっているのは、ニュージーランド産の黄にんじんです。そこにりんごやパインアップルなどを組み合わせ、野菜・果実など(※クエン酸、香料、ビタミンCを含む)でオレンジらしい味を作り上げました。パッケージには大きな「ORANGE?」の文字。オレンジなのか、そうではないのか。思わず手に取って確かめたくなる遊び心が込められています。

きっかけは「いつものジュースが、倍近くの値段に」
そもそも、なぜオレンジを使わないオレンジジュースが必要になったのでしょうか? その背景には、オレンジをめぐる世界的な状況がありました。
カゴメがその変化を感じ始めたのは2023年ごろだと、今井さんは振り返ります。「『野菜生活』のような、オレンジの原料を使った商品を設計するときに、去年と比べて原料の値段がものすごく上がっているなと気づいたんです。同じ量を入れられないな、というところから始まりました」
店頭でも、オレンジジュースの価格がいつのまにか倍近くに。気づかないまま手に取って、レジで驚いた人もいたかもしれません。実際、オレンジ果汁を使った商品のなかには、この時期に販売を終えたり、一時休んだりしたものも少なくなかったといいます。当たり前にあったものが、手軽には飲めなくなっていく。カゴメは、そんな危機感を抱いていました。
理由を尋ねると、オレンジという果物ならではの弱さが見えてきます。「オレンジは木になる果物なので、天候不順やハリケーン、病害などで一度木がダメになってしまうと、また実をつけるようになるまで10年以上かかることもあります。すぐには元に戻らないんです」と今井さん。だからこそ、オレンジの代わりではなく、別の選択肢として持続的に届けられるものを作る意義がある。そう考えたことが、開発の出発点でした。
2026年の年明けごろには、オレンジの相場が落ち着いてきたという情報もありました。それでも発売に踏み切ったのは、供給の不安定さそのものへの危機感があったからです。「今回のことで、オレンジの供給は思っていた以上に不安定だとよくわかりました。今はたまたま落ち着いていますが、またいつ変わるかわからない、とは思っています」
なぜ「黄にんじん」だったのか
オレンジに近づける素材はさまざまあるなかで、なぜ黄にんじんだったのでしょうか? じつはその答えは、開発チームが以前から持っていた感覚にありました。
「オレンジの味わいと、にんじんの味わいは近いところがある。それは私だけでなく、開発メンバーがみんな感じていたことなんです。だからオレンジを再現するなら、にんじんをベースにするのがいいんじゃないか、という見当は最初から持っていました」
ただし、いつものオレンジ色のにんじんでは、飲むとやはりにんじんの風味や後味、土の香りが残ってしまいます。そこで選ばれたのが、黄にんじんでした。黄にんじんは、にんじん特有の香りがほとんどありません。それでいて、オレンジジュースらしい「コク」を出せるといいます。
「オレンジジュースって、透き通っていなくて少し濁っていますよね。あの濁った感じを、私たちは混濁感と呼んでいるのですが、それがコクにつながっています。にんじん臭さがなく、その混濁感を表現できるのが黄にんじんでした」
さらに産地にもこだわりがありました。いくつかの産地を比べたなかで、野菜だとわかってしまうえぐみや雑味が最も少なかったのが、ニュージーランド産だったそうです。日本のスーパーではなかなか見かけない珍しい素材ですが、海外では黄色や紫など色とりどりのにんじんが広く親しまれているそうです。

数億通りのブレンドから、オレンジに一番近い一杯へ
ベースが決まっても、そこからが本番でした。オレンジに近づけるために、いろいろな素材をどれだけ組み合わせるか。その配合は、数億通りにもなるといいます。最も時間がかかったのが、この工程でした。
一番難しかったのは、やはりオレンジらしい濁りとコクを出すことでした。「濃さや混濁感をしっかり出すには、にんじんをたくさん入れればいいのですが、そうすると今度はにんじん感や土臭さも出てきてしまう。コクや濁りは十分に出しながら、余分なにんじん感は感じさせない。そのバランスを見つけていくのが難しかったですね」
最後まで悩んだのが、パッションフルーツを入れるかどうかでした。味を近づけるなかで有力な候補だったものの、最終的には見送ったといいます。理由は、供給の都合ではなく、あくまで味でした。「飲む人によっては、パッションフルーツが入っているとわかってしまうことがあったんです。それで、最終的に外しました」。トロピカルな香りづけには、パインアップルが選ばれています。
味の判定を支えるのは、訓練された社内のメンバーです。甘みや酸味、うまみといった味を細かく判別できるよう、日ごろからトレーニングを重ねています。そんな、味覚に厳しい視点を持つ仲間から、うれしい言葉をもらった瞬間がありました。「目隠しで飲んでもらったとき、味に鋭いメンバーから『これはオレンジだと思った』と言われたんです。あのときは、素直に本当にうれしかったですね」
毎年採れるから、手に取りやすい値段で届けられる
この商品には、味だけでなく「いつでも手に取れる」ための工夫も込められています。その鍵も、やはり黄にんじんでした。
「にんじんは毎年収穫できる野菜なので、果物にくらべて供給が安定していて、価格も急に大きく動くことが少ないんです。そこも考えて設計しました」と今井さんは説明します。
店頭想定売価は195mlで140円前後(税込)と、オレンジが高騰していた時期でも手に取りやすい値段です。美味しさと、いつでも買える手軽さ。その両方を同時に立てることが、この商品の大切なねらいでした。
オレンジジュースから、食の未来を考える入口に
今井さんは、この商品を子どもや家族にどう楽しんでほしいと考えているのでしょうか? まず返ってきたのは、とても軽やかな言葉でした。
「まずは、オレンジと同じ感覚で気軽に手に取ってもらえたら一番うれしいです。そのうえで、じつはにんじんがたっぷり入っているのに、気づかず飲めてしまう。にんじんでこんなに美味しいジュースができるんだ、と知ってもらえたら」
その入口の先に、もう少し大きなテーマが広がっています。それは、当たり前にあったものが手に入らなくなるかもしれない、という食の未来です。「環境の変化で、今までと同じ場所で同じように作れなくなるリスクはあります。いろいろな果物が、本物のままでは食べられなくなる未来もあるかもしれない。そんなことを想像するきっかけになれば」と今井さんは話します。
難しい言葉で語る必要はありません。「SDGsというと大きなテーマに感じられるかもしれませんが、オレンジジュースならとても身近です」と今井さん。いつものジュースの一杯が、地球の変化を考える小さな入口になります。
子どもにとっては、探究心をくすぐる一杯にもなります。なぜオレンジを使っていない*のに、オレンジの味がするのか。原材料は公開されているので、家庭でまねしてみることもできます。ふつうのにんじんではなかなか近づかない、その体験そのものが学びになる。何気ない一杯が、子どもの「なぜ?」を引き出す入口になる。そんな可能性を秘めた商品です。
「作るのが好き」から生まれた、つくる人の物語
取材のなかで印象に残ったのは、今井さんが根っからの「作る人」だということでした。仕事の飲料開発だけでなく、自分で作った作業着を着ることもあり、持っているかばんも手作りだといいます。休みの日には、うどんを打つこともあるそうです。
そのものづくり好きの原点は、大学時代にありました。「当時つきあっていた人を驚かせようと、手編みでマフラーを作ってみたんです。そうしたらおもしろくて、何でも自分で作れるんじゃないかと思い始めて、いろいろ作るようになりました」。人を喜ばせたいという気持ちから始まり、やってみたら案外できた。その積み重ねが、今のものづくりにつながっています。

作り続けてこられた原動力はどこにあるのでしょうか? 今井さんは、いくつかの喜びを挙げてくれました。発売の日に「美味しかった」とわざわざ電話をくれるお客さんの声。味覚に厳しいメンバーが味を認めてくれた瞬間。環境という社会の課題に、ものづくりで応えられているという手応え。そして何より、「作ること自体が好きで、楽しくやれている」ことでした。
これから挑戦したいことも尋ねてみました。「にんじんのように、野菜が苦手な人でも飲みやすくする製法を、これからも追求していきたいです。それに、いろいろな理由で減ってきている食材を、手軽に味わえる形にしていけたら。こういうシリーズを続けていきたいと思っています」
何かをやってみたら、案外できた。今井さんのものづくりは、その小さな成功体験の積み重ねの先にありました。いろいろなことに挑戦してきたからこそ、「自分にもできるかもしれない」と思える。その積み重ねが、めぐりめぐって今の仕事にも生きているように感じます。たくさん試してみた経験そのものが、いつのまにか前に進む力になっていく。子どもたちにも手渡したい、生きる力のヒントがそこにあります。
取材を終えて
オレンジが飲めなくなるかもしれない。そう聞くと少しさびしい話に思えますが、今井さんの言葉からはむしろ、前を向く軽やかさが伝わってきました。なくなったなら、作ればいい。その発想の転換そのものが、これからの時代を生きる力に重なって見えます。取材のあと、子どもと本物のオレンジジュースと飲み比べて、どっちがどっちか当てっこしてみたくなりました。「Beyond オレンジを使っていない*オレンジ味の100%ジュース」を美味しく飲みながら、食べものや地球のことまで少し話してみる。そんな親子の会話まで、そっと注いでくれる商品です。(KAZ)
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