妖怪博士・小松和彦先生が語る「ワクワク」と「ドキドキ」を失わない方法

アスコム刊の本「妖怪のたおしかた」と「未来へいこーよ」のコラボインタビューが実現! 「妖怪のたおしかた」で監修を務めた小松和彦先生に、子ども時代に遊んでいたことから民俗学の研究者になるまでのお話を伺いました。「妖怪研究の第一人者」や「妖怪博士」と言われる存在になっても、好奇心や想像力を失わない秘密も明らかに!

妖怪 研究 第一人者 小松和彦先生

外遊びの「ワクワク感」が研究者の原点に

未来:先生のように1つテーマを突き詰めていく研究者という職業は、子どものみならず親もなってほしい職業の1つだと思います。そんな小松先生は、子どもの頃どんなお子さんだったのでしょうか?

私は東京出身なんですけれど、子ども時代の東京は、今と違ってまだ原っぱがたくさんあったんです。そこでオニごっこや缶けり、馬飛び、石けりなど、外で活発に遊んでいましたね。

未来:研究者になる人の子ども時代というと、ずっと本を読んでいるようなイメージだったので、活発に遊ぶお子さんというのが意外でした。当時、お父さんやお母さんに言われていたことで覚えていることはありますか?

母は「日が暮れたら帰ってきなさい」くらいで、自由に遊ばせてくれましたね。父は夜遅く帰ってくることが多かったので幼少期の思い出はあまりないのですが、9歳上の兄がいてよく遊んでくれました。

未来:今のように習い事などをする子どもも少なかったし「子どもは遊んでなさい」が一番ポピュラーな子育て法だったのかもしれません。元気いっぱいな子ども時代を過ごされていた先生が、妖怪を好きになるようになったきっかけはなんでしょうか?

小学生になると外で遊ぶのと同時に、本もたくさん読むようになりました。とくに山川惣治作の絵物語(紙芝居の絵と文章を雑誌などにまとめたもの)「少年王者(のちの少年ケニヤ)」が好きでした。主人公と一緒にジャングルを冒険しているのを想像して、すごくワクワクしたんですよね。

未来:なるほど、外で遊ぶことも本を読むことも、先生にとっては同じ「冒険のようなワクワク感」がある体験だったんですね。

「少年探偵団」で謎を解く楽しさを知る

未来:「少年王者」のほかにはどんな本が好きでしたか?

江戸川乱歩の小説「少年探偵団」が発売されてからは、少年探偵団の活躍に夢中になりました。怖い怪人が出てくるところと、自分と同じ世代の子どもが活躍して「謎を解く」ところに魅せられましたね。

未来:たしかに「少年探偵団」に出てくる宿敵・怪人二十面相の存在は、妖怪にも通じる「謎の人物」といえそうです。

そうですね。子どもの頃は少年探偵団の真似をして遊んだこともいっぱいあって、夜の学校を探索したのも、今思えば楽しい思い出でした。江戸川乱歩が「蔵の中でロウソクの明かりで作品を書いている」という噂話があって、自分も屋根裏部屋などの暗い部屋に本を持ち込んで読んでみたりしました。小学校6年のときには、洞窟の中を探検していく「穴魔」という小説を書いたくらい、暗いところや闇に対しての興味を持っていました(笑)。

未来:振り返ってみると、小学校6年の時点で人生の方向がほぼ見えてきていますね。先ほど「謎を解く」という言葉が出てきましたけど「暗いところ」も、妖怪とつながりがあるようなキーワードですね。僕が子どもの頃は暗いところで本を読むと「目が悪くなる」とよく怒られたりしたのですが大丈夫でしたか?

そこは親の目から隠れて、こっそりやるのが楽しかったんです(笑)。暗闇で本を読むと、周囲に何もないですから、すごく想像力が働いて物語の世界が広がっていったのを憶えています。

未来:「親から隠れて本を読む」というドキドキ感があるのもわかります。本を読むときは、読んでいる周りの環境もスパイスになるんですね! 先生が「親に隠れてこっそり暗いところで本を読んでいた」のを想像すると、すごく身近な人のように思えてきます(笑)。

そのころから、とにかく本を読むことが好きでした。本を読むと、その中で書かれているいろんな世界に行けるんです。トムソーヤの冒険を読めば、(心の中で)アメリカを舞台に冒険ができる。15少年漂流記やロビンソンクルーソーに描かれている無人島に行くなんてことも、疑似体験できるわけです。自分がいる世界とは違う世界が物語にはたくさんある。浦島太郎などの童話もそうなんですけど、ファンタジー的な物語がすごく好きでした。

「本を読める職業」に就きたかった

未来:小松先生が実際に妖怪研究をするようになるきっかけはなんだったのでしょうか?

本が好きだったので、本が読める仕事に就きたいと思っていました。そしたら先生はいつも本をたくさん持っているから「先生になれば本がずっと読める!」と思って(笑)。大学に入るまでは国語か歴史の先生になろうと思っていました。

未来:確かに、先生はいつも本を持っていますし、本でたくさん勉強していないと教えられないですからね。

それで大学に入ったらその中で「ドラキュラ」に関する伝説を読んだときに、モチーフとなっている人物が実際にいたことと「太陽の光を浴びると死んでしまう」とか「十字架やニンニクが苦手」という弱点があることに衝撃を受けまして。そしたらドラキュラや妖怪、伝説の生き物を調べる「民俗学」があることを知ったんです。

未来:先生と民俗学の出会いは、ドラキュラ伝説がきっかけだったんですか!

妖怪や伝説などが好きで「調べてみたい」という憧れのような気持ちは心の中にずっとあって、そういうものを読んでいきたいなあと思っていたら、民俗学に行きついたんです。それで「教師ではなくて研究者になる道もある」ことに気づき、そこを目指すことにしました。

誰もがしないようなところまで謎を解く

未来:民俗学を学んでいて楽しいところ、おもしろいところはどこですか?

自分から見ればよくわからない「謎」に時間をかけて取り組んで解き明かしていくところです。子どもの頃からそれはやっていて、例えば「義経伝説」。源義経が東北から流れてジンギスカンになった話を図書館で読んで、地図を見てみたり、物語を読んだりして、一生懸命調べました。学校の先生や両親、兄、先輩など知ってそうな人に片っ端から聞いたりもしました。

未来:先生は興味を持ったことを、いろいろな角度からどんどん掘り下げていって、好奇心の幅を広げていったんですね。

妖怪の研究は「謎を解きながら、新しい謎に向かっていく」ことなんです。調べた結果、自分が立てた仮説が崩れることもあるんですけど、そこであきらめずに「少年探偵団」のようにまたもう1回挑戦するところがいいんです。

未来:「謎を解く」という姿勢をとことん貫くと、物事をあきらめずに探求心を持ち続けることにもつながりそうです。

そうですね。教え子たちにも言っていることですが「百科事典に載っていることで満足するのではなく、百科事典に載るような新しい事実を探す」つもりで、本気で調べていくことが研究者のおもしろいところです。

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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