チームラボアーキテクツ 代表 河田将吾氏

チームラボの建築集団が保育園を設計した理由「建物が教育の装置になる」とは?

つくる人
たゆまぬ努力を続け、生産品に愛情を注ぎ、好奇心や探求心、情熱を常に持って暮らしている「つくる人」にお話を伺い、人として生きていくのに必要なものに迫るインタビュー。

チームラボの建築集団「チームラボアーキテクツ」が設計した保育園が大きな話題になっています。今回の「つくる人」インタビューでは、チームラボアーキテクツ代表の河田将吾氏に「建物のデザインをつくる人」として、保育園を設計した経緯と狙い、さらには情報化社会を見据えて「幼児期に身につけさせたい能力」について伺いました。

チームラボアーキテクツが設計した保育園はどんなところ?(保育園紹介記事へ)
河田氏が建築家になるきっかけを作った「何気ない母の言葉」とは?(インタビュー後編へ)

チームラボアーキテクツ 河田将吾氏 プロフィール
鳥取県生まれ。デジタルテクノロジー、アート、生物学、建築の境界を越え、新しい時代の都市と自然と人々のありようや、新たな建築や空間のありようを模索する建築集団チームラボアーキテクツの代表。

じつは幼児教育は世界中で「どうしたらいいかわからない」状態

未来:チームラボアーキテクツが、保育園をデザインすることになったいきさつを教えてください。

「チームラボ」はテクノロジーを活用したシステムやデジタルコンテンツの開発を行う会社です。僕らのチームラボアーキテクツでは、そのコンテンツを空間にすることをやっています。「チームラボ」と聞いてみなさんがイメージするのは「チームラボ ボーダレス」や「チームラボプラネッツTOKYO DMM」といった豊洲やお台場にある施設だと思います。チームラボアーキテクツは、「チームラボ ボーダレス」のような空間を、世界中のいろんな場所にたくさん設置しています。

僕が幼児教育について考えるようになったのは、コンテンツを設置するために世界中を巡っているときがきっかけでした。グローバルな場では共通の話題って見つけにくいのですが、現地の担当といろんな話をしていると「教育」が話題になることがあります。

例えば、義務教育は、どの国にも算数や理科、国語があるなど、ある程度世界中同じようにフォーマット(基準)化されています。国で管理しているところも多くて、義務教育で突拍子もないことをする国ってあまりないんです。

でも、義務教育の前の幼児教育の時期は、日本もそうですし、ヨーロッパとかアメリカなど世界中見渡してもあんまりフォーマット化されてないんですよ。世の中インターネットが普及して情報化社会になって、最近は日本でも「職業が変わる」とか「働き方が変わる」と言われていますが、とくにコロナ禍になってからは、もっと大きく変わっていっていますよね。

それで僕は、「幼児教育は情報社会になったときにも、より重要で必要な分野だな」と感じて、チームラボアーキテクツとして何かできないかなと思ったんです。

建築が「教育の装置」になったらいい

未来:幼児教育が、義務教育のように世界中でフォーマット化されていないのはなぜだと思いますか?

その理由の1つは「言葉(での説明)がわからないから」だと思うんです。子どもの年齢が上がると、言葉の意味が理解できるから物事の定義が教えられる。文字と言葉で教える学校の授業がまさにそうですよね。でも言葉での説明がうまく通じない時期って、どう定義づけていいかわからない。だから、自由に遊ばせるとか、個々の保育園でよいと思うことをなんとなくやってる形にしかならないのではないでしょうか。

それをもう少し踏み込んで考えてみて「じゃ、言葉でわからないんだったら、建築が教育の道具になったらいいな」と。

未来:「建築が教育の道具になる」とは、どういうことでしょう?

簡単に言うと、その建物にいたら、なんとなく情報社会に必要な人間関係や自分の考え方みたいなものが学べる。言葉にしなくても、勝手に学べちゃう。「建築が教育の装置」になったらいいんじゃないかなと思って。

いつもいる空間が教材になったら、勝手に行動するだけで学びになっちゃうんです。例えば、このインタビューのテーブルのように四角だと対面になって、我々とそちらで線(境界)ができる。これが中華テーブルのような円卓だと線(境界)がなくなって会話がしやすくなります。

チームラボアーキテクツ代表 河田将吾氏

インタビューは「チームラボ」のオフィスで行われた。テーブルは木の立体物でできていて「握ったりして手のツボを刺激するとアイデアが出やすくなる」というもの。※写真では撮影用にマスクをはずしています。

たったこれだけのことでも、会話の質が変わる。それが建築のできることなので、いろんな自分の経験の中でなんかできることないのはないのか。何かやりやりたいなと思っていたら、(保育園事業を手掛けている)キッズラボさんと会う機会がありまして。

未来:キッズラボさんはチームラボと名前が似ていますが、まったくの別会社ですよね。自己肯定感が培える保育をテーマにしていて、保育士さんが働きやすい環境を目指している保育所と聞きました。

そうですね。僕が感じていた幼児教育についても「共通認識としてあります」と言っていただいて、双方でいろいろお話していく中で今回の機会をいただいたという感じです。

未来:デザインに関してキッズラボから「こうしてほしい」という要望はあったのでしょうか?

大きいところではキッズラボさんからは「園児をワクワクさせたい!」という要望をいただきましたが、逆にいえばそれ以外は細かい要望はなかったですね。もちろん「〇歳の子どもを〇人以上」などの運営上必要な条件を加味しながら、お互いに「こういうのはどうですか?」と提案しあいながら進めていきました。

未来:千葉県流山市に保育園を建てた理由は?

流山市の意向ですね。東京からも近いこともあって、流山市自体がすごく今、人口の流入率が高いんです。子育て世代も多くて、保育園もたくさん作られているところです。

キッズラボ南流山

キッズラボ南流山(写真中央下)は河川敷沿いの住宅街の中にある。周辺は現在も周辺に新しい家が続々と建っているところで、南流山駅からは東京まで約20分で行ける立地。

次のページ「キッズラボ南流山にデジタル要素がない理由」

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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