子どもが何かに夢中になっている姿を見て、「この好きは、将来の役に立つのかな?」と、ふと考えたことはありませんか? 今回お話を伺ったのは、鉱物(石)が大好きで、その魅力を伝えるお店「きらら舎」を営む、さとうかよこさんです。石はもちろん、生き物を育てて観察することや、人工結晶づくりにも夢中。子どもの頃に出会った一つの石から、「好き」の世界をどこまでも広げてきました。そんなさとうさんに、「好き」との向き合い方と、子どもの「なぜ?」の育て方を伺いました。
鉱物・理科趣味の店 きらら舎店主 さとうかよこさん プロフィール
鉱物標本やオリジナル理科雑貨を扱うネットショップと、東京・北区で週末だけ開く小さなカフェを営む。蛍石の八面体割り、ビスマスの結晶づくり、ウニの発生観察など、鉱物や生き物にまつわるワークショップを数多く主催している。元小学校教諭。著書に「鉱物のレシピ」「あなたの“推し石”と出会う本」「おもしろすぎる鉱物・宝石図鑑」など多数。学研の科学「きらめく宝石結晶」監修。
宝石より「原石」が好きだった子ども時代
鉱物や生き物をこよなく愛し、お店「きらら舎」を営むさとうかよこさん。週末だけ開く小さなお店には、蛍石などの鉱物や、貝を使ったアクセサリー、ビスマスの人工結晶、苔(こけ)のテラリウムなどが、所狭しと並んでいます。並んでいるのは、さとうさんが自分で集め、つくり、選んだものばかり。その尽きない探究心は、本という形にもなっています。著書「鉱物のレシピ」をはじめ何冊もの本を出し、学研の科学「きらめく宝石結晶」の監修も手がけられました。

そんなさとうさんに「好き」の原点を伺うと、話は子どもの頃にさかのぼりました。
「小学生の頃、石けりをして遊んでいたんです。その石を、毎日磨いていました」
さとうさんが夢中になっていたのは、地面に引いた線に向かって石をすべらせ、ねらった場所でぴたっと止める石けり遊び。つるりと平らに磨いた石ほど、思いどおりに止められます。だからこそ、毎日せっせと磨いていたのだそうです。

その一つの石が、さとうさんにとって初めての「宝物」になりました。石への「好き」は大人になってからも続き、やがて、磨かれた宝石よりも、自然のままの「原石」に強く惹かれていきます。
「動物は死んでしまうけれど、石は死なないんですよね。ていねいに扱えば、ずっとそこにある。何万年も前からある石が、誰かが作ったわけでもないのにちゃんと形になっている。それがすごいなと思うんです」
子どもの頃、北海道にある父の故郷の海岸で、きれいな石をたくさん拾ってきては引き出しにためていたそうです。ご本人は「あまり裕福ではなかった」と振り返りますが、それでも家族は、さとうさんが「やりたい」と思ったことには道具を用意してくれました。たとえば、当時子どもたちに人気だった学研の「科学」と「学習」。両方はそろえられず、迷わず「科学」を選んだそうです。子どもの頃に選んだその「科学」を、のちに自分が監修することになるとは、思いもしなかったでしょう。好きという気持ちと、それを試せる環境が、少しずつ重なっていったのですね。
「集めて終わり」にしない楽しみ方
さとうさんが大切にしているのは、石をただコレクションするだけで終わらせないこと。「もっと知ってみよう」と一歩踏みこむ楽しさです。その象徴が、子どもたちにも人気の「蛍石(ほたるいし)を割る」ワークショップです。
蛍石には、割れやすい方向(へき開)があります。そこにねらいを定めてニッパーで力を加えると、きれいな八面体の形に割れていきます。

「子どもには、最初に完成形を見せないんです。お隣の大人にはどう割るか教えるんですけど、子どもには教えない。いろいろ試して、自分で気づいていくのを大切にしています」
ある小学1年生の男の子は、力が弱くて思うように割れなかったそうです。けれども試すうちに「ここは割れるけど、ここは割れない」という規則性に自分で気づき、最後は誰よりもたくさんの八面体を作り上げたといいます。
「目で見る、というか……割れる向きを見極められたんですね」と、さとうさんはうれしそうに振り返ります。等軸晶系とは、結晶をかたちづくる軸の長さが等しく、立方体や八面体などの整った形になる鉱物のグループのこと。図鑑の言葉で読んでもピンとこないことが、実際に触れて割ってみる体験で、子どもでも腑に落ちる。それが、さとうさんの伝えたい学びの形です。
また、さとうさんによれば、同じ鉱物でも育つ場所で形が変わるといいます。たとえば黄鉄鉱(パイライト)は、ふだんはサイコロのような立方体ですが、岩と岩の間で育つと平べったく、泥の中でのびのび育つと丸くなるのだそうです。育った環境で形が変わることも、本物に触れるからこそ伝わります。
取材当日には、福井県を流れる竹田川の川砂も見せてくださいました。何の変哲もない砂のように見えますが、その中には小さなガーネットやサファイアが混じっているのだそうです。
「まずは、その石を知ること。知ってから探すと、見え方が変わるんですよ」

スマホで8倍にして撮影。ガーネットらしき赤い石がチラホラ写っていました。
育てて、観察する。日の出とともに始まる一日

さとうさんの「好き」は、鉱物だけにとどまりません。
大人になって気づいた「好き」は、生き物が「生まれる」瞬間に立ち会うことでした。ウニもヒトデもメダカも、卵から育てる。孵化するその瞬間が見たくて、つい手をかけてしまうのだそうです。桜や欅(けやき)も、種から芽吹くところを見たくて育てています。「突き詰めると、『知りたい』という気持ちなのかもしれません」。思えば子どもの頃から、神社の境内でアリジゴクを掘ったり、アリの巣を採ったりして、生き物をじっと見つめていました。鉱物は「死なないことがすごい」、生き物は「生まれる瞬間が素敵」と惹かれる理由は違っても、その奥にあるのは同じ好奇心なのですね。
朝は日の出とともに起き、植物に水をやることから一日が始まります。今飼っているのは食虫植物のムシトリスミレ、フクロモモンガやハムスター、メダカ、微生物のミドリゾウリムシまで。さらに人工結晶づくりにも夢中で、今年は鉱物好きが集まるイベント「博物ふぇすてぃばる!」に、人工結晶をテーマに出展する予定だといいます。
「生き物が好きな人ほど、いかに手をかけずにいられるかを追求したくなるんですよ」とさとうさん。手をかけすぎないことが、かえって生き物を生かすこともあるのですね。
「何のプロにもなれなかった」が強みになった
子どもの「なぜ?」を、どう伸ばしてあげればいいのでしょう。さとうさんは学習塾で長く子どもたちと関わり、今もワークショップで、たくさんの子どもと向き合っています。

「全部やると、何のプロにもなれないんです。でも、プロになれたから幸せかというと、それもちょっと違う気がして」
興味の対象が多すぎて、一つに絞れなかった。かつてはそれを引け目に感じていたといいます。けれども今は、その幅広さこそが武器になっています。さとうさんは自分のことを「みなさんの好奇心の扉を開くドアガール」と呼びます。ウニやヒトデを受精から、メダカを卵から、シダを胞子から。さまざまな「知らないこと」のはじまりを見せてくれる存在です。
好きなことが多いさとうさんは、いろいろなことを仕事にしていましたが、45歳のときにそれまでの仕事をすべてやめて、好きなことだけをして生きていこうと決めました。「なんとかなる。お金がなくなっても、なんとかなる」と笑います。好きなことに囲まれ、ストレスなく過ごす毎日は、お金の多い少ないとは別のところで、たしかに幸せそうでした。
好きなことを聞くと「ゲーム」と答える子も多いといいます。それでもいい、とさとうさん。大切なのは、まず一つ、夢中になれるものに出会うことだといいます。
「好きなことは、1つ見つけたらいいんじゃないかな。何のプロにならなくてもいい。誰かに教えられるような、とっておきの『好き』を見つけてほしいんです」
自分の「推し石」は、自分で選ぶ

さとうさんのもとには、子どもだけでなく、大人からの相談もたくさん寄せられます。その多くは「自分の好きなことをやりたいのに、できていない」という声です。よくよく聞いてみると「家族が望むことを、自分のやりたいことだと思い込んできた」という共通点があるのだそうです。
だからこそ、子どものうちから「自分の好き」を自分で見つけ、自分で選ぶ経験が大切になります。その思いは、著書「あなたの“推し石”と出会う本」にも込められています。
この本でさとうさんが紹介しているのが、ネイティブアメリカンに伝わるという「自分の石を持たない子はかわいそう」という言葉。人からもらうのではなく、自分の心が惹かれる石を、自分で選ぶ。たくさんの石の中から「これ」と思える一つを見つける体験は、そのまま「自分の好きを知る」練習になっていきます。
これからの時代を生きる力とは
便利な道具が次々と生まれるこれからの時代に、さとうさんのような生き方は、むしろ強いのかもしれません。
自分の目で良いものを選び(目利き)、その背景にある知識を、自分の言葉で語れる。さとうさんの仕事は、どんなに便利な道具が増えても、簡単には置きかえられないものに見えました。好きなことをとことん突きつめると、それはいつしかその人だけのスキルになり、人生を助けてくれる武器になっていきます。
世の中には「楽して大きく稼ぐ」といった話もあふれています。さとうさんが子どもたちに伝えたいのは、その正反対のことです。
「一攫千金じゃなくて、楽しいことをやって生きていってほしいんです」
好きを軸に世界を広げるその姿は、子どもだけでなく、子育てに悩む大人にとっても、肩の力をふっとゆるめてくれる励ましになりそうです。子どもが今夢中になっている小さな「好き」を、どうか安心して見守ってあげてください。それはきっと、その子だけの宝物になっていきます。
取材を終えて
さとうさんのお話は、一つの石から生き物へ、歴史へと、どこまでも広がっていきました。印象的だったのは、子どもに「答え」を先回りして教えないという姿勢です。試して気づき、また試す。その繰り返しの中で、子どもは「自分で考える力」を育てていくのだと、あらためて感じました。取材後、スタッフのあいだでも「子どもの頃に、こんな大人が近くにいてくれたら」という話になりました。知らないことをたくさん見せてくれて、相談にものってくれる。そんな存在のありがたさを、しみじみ思った時間でした。(KAZ)
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