デジタルとアートが融合した地図のないミュージアム「チームラボボーダレス」をはじめ、映像制作やアプリ開発など多彩な創作活動を展開する「チームラボ」。その建築集団である「チームラボアーキテクツ」が、千葉県南流山市に初の保育園「キッズラボ南流山」の設計を担当しました。「チームラボアーキテクツ」が保育園を設計した理由とは? そこで幼児期に育ませたい能力とは? キッズラボ南流山に取材した模様を、チームラボアーキテクツの設計コンセプトとともに紹介します。
幼児期から「共創」「多様性」と「空間認識能力」を身につけられる場所に
「チームラボ」といえば「チームラボプラネッツ TOKYO DMM.COM」などのミュージアムや遊び場が知られていますが、じつはそれだけにとどまらず、Webサイトやアプリ、自販機などのデザインも行っています。「チームラボ」の建築チームである「チームラボアーキテクツ」では、これまでに佐賀県の武雄市庁舎やDMMオフィス、ラーメン店などの建物のデザインを担当しました。
そうしたなかで、自己肯定感が培える保育をテーマにしていて、保育士さんが働きやすい環境を目指している保育所「キッズラボ」が、「チームラボアーキテクツ」にデザインを発注して作られたのが「キッズラボ南流山」です。キッズラボはチームラボと名前が似ていますが全く別の会社です。
それでは「チームラボアーキテクツ」が設計した保育園とはどんなものなのでしょうか?
「チームラボアーキテクツ」がキッズラボ南流山をデザインする際にテーマとしていたのが、これからの時代にますます必要とされる、さまざまな複雑な問題を多様な人々が集まって解決していくために、共創や多様性を受け入れる精神性を育み、情報社会に必要な能力とされる空間把握能力を、保育園という器を使って幼少期の子どもたちに育んでもらうことです。詳しくは、チームラボアーキテクツ代表の河田さんのインタビューで解説しています。この記事では「キッズラボ南流山」の建物を実際に取材して見つけた、多様性と空間認識能力が身につくポイントを紹介します。
ほかの人と協働と共創することが自然に身に着く空間
「キッズラボ南流山」はJR武蔵野線・つくばエクスプレス線の南流山駅から徒歩で20分ほどの場所にあります。大通りから少しはずれた位置にあり、クルマがそれほど通らない静かで落ち着いた雰囲気で、築年数の新しい家が立ち並んでいます。公式サイトの動画には上空からの映像もありますが、「キッズラボ南流山」は周囲の建築様式と違和感がないように、屋根は寄棟(4方向に傾斜する屋根面を持つ屋根)が集合したデザインを採用し、窓のサイズも一般の住宅に近いものを使っています。
キッズラボ南流山を取材して、個人的に一番気に入ったところが「さまざまな部屋がゆるやかにつながっている」ことです。それぞれの部屋は解放感のあるガラス窓で仕切られているので、中からも外からもお互いが見えるようになっています。
外で遊んでいる子が、部屋でおもしろそうなことをやっている子をみつけて、部屋に移動したり、その逆も自由にできます。スタッフにお話を伺ったところ、年代別の部屋分けは一応しているのですが、取材時は開設間もない時期で子どもの数がそれほどまだ多くないこともあり、子どもは自由に好きなところを行き来できるようになっていました。
子どもを自由にさせるということは、安全を守るスタッフ側の要求レベルも高くなります。園では要所要所にスタッフを配置して、子どもを自由に行動させながら目を離さないように臨機応変に対応していました。
キッズラボ南流山は上から見下ろすと「多角形が集まったデザイン」になっています。多角形は丸のようにわかりやすい中心がなく、子どもが好きな場所で別の遊びに没頭できます。つまり、空間そのものが多様性を受け入れやすいようにデザインされています。
立体的な空間で遊ぶことで空間認識能力が育つ
2階の内庭にはネット遊具を配置。取材当日もここでたくさんの子どもが遊んでいました。飛んだり跳ねたり、寝転んでみたり。思い思いの遊び方をしています。年上の女の子が、ほかの子を寝かしつけていたりもしました。

屋根を小さな複数の屋根が集まったような形に設計したのは「ひとりで考えるのではなく、複数人で相談しながら考える姿を表現したい」という理由から。内庭を取り囲むように人が輪になって相談しているようなデザインになっています。
このネット遊具の下にあたる1階部分の外庭には砂場があり、2階と1階でお互いが見える形で遊べます。立体的な空間で遊ぶことにより、自然に空間認識能力を身につけていくことがチームラボアーキテクツの狙いです。
砂場は保育園の入口にあり、保護者が迎えにくる夕方には子どもたちの「作品」が見られるのも特徴です。子どもたちが砂場でどのように遊んだかわかったり、「今日これ作ったんだ!」と誇らしげに言ってくれる姿も目に浮かびます。
2階にある絵本を読むスペースも、絵本の配置や座る場所などが空間認識能力が育める立体的な作りになっています。段差を登りながら読みたい絵本を探したり、それぞれが違う高さで読むなど「絵本を読む」だけでも、さまざまな楽しみ方ができます。