2025年7月、横浜で開催された「うみ博2025」。海の不思議や魅力に親子で出会えるこのイベントに、スペシャルゲストとして登壇したのが、海洋冒険家・白石康次郎さんです。世界一過酷といわれる単独無寄港ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に日本人として初めて完走し、世界中を驚かせた白石さん。今回の講演では、壮大な海の旅のエピソードや、子どもたちへのあたたかなメッセージを、ユーモアたっぷりに届けてくれました。
「海洋都市横浜 うみ博2025」とは?

「海洋都市横浜うみ博2025」は、海と日本PROJECTの一環として開催される、海をテーマにした子ども向け体験型イベントです。海洋都市横浜うみ協議会が主催し、「海への関心や好奇心を喚起し、海の問題解決に向けたアクションの輪を広げる」ことを目的としています。
会場となる横浜・みなとみらい地区は、まさに海と都市が融合した特別な場所。大さん橋ホールや象の鼻パークを舞台に、普段は見ることのできない船舶の見学から、海の生き物との触れ合い、最新技術を使った体験まで、多彩なプログラムが用意されていていました。入場は無料で、未就学児から高校生まで幅広い年齢の子どもたちが楽しめる内容となっており、夏休みの学習体験としても最適なイベントとなっていました。
「このヨットでここまで来たんだよ!」

「ヴァンデ・グローブ」に挑戦した「スピリット・オブ・ユーコーⅣ」が、当日の講演前後にうみ博2025の会場周辺を周遊。白石さんは停泊しているヨットに乗って、直接会場に来られました。
「こんにちは! おじさん、さっき海からこのヨットで来たんだよ! 電車もバスも飛行機も使ってないの!」
登壇するやいなや、満面の笑顔でそう語りかけた白石さんに、会場の子どもたちは目を丸くして「えっ! ほんとに!?」とざわつきます。普段は画面や本の中でしか見たことがない冒険の世界を、自分の目の前で話してくれる人がいる。そんなワクワクと驚きが、会場いっぱいに広がりました。
この日の講演は、まさに“冒険の入口”に立つ子どもたちと、見守る大人たちへの特別なメッセージに満ちていました。
世界をひとりで走る「究極ヨットレース」ヴァンデ・グローブ
白石さんが挑むのは、世界でもっとも過酷なヨットレース「ヴァンデ・グローブ」。フランスを出発し、一度も港に寄らずに地球をぐるりとまわって帰ってきます。その距離はおよそ2万4,000km。まさに“ひとり地球一周”の冒険です。
この日の講演では、白石さんが地球のビーチボールを使って「ここがスタート、ここが南極」と、ルートを子どもたちにやさしく説明します。レースのスケールの大きさに、会場もワクワクした様子でした。

白石さんが「みんなが知ってるスポーツの試合時間はだいたい2~3時間でしょ? ぼくらのレースは1試合2,000時間なんだよ」と笑いながら説明すると、子どもたちから「長すぎる〜!」と素直な反応が返ってきます。
優勝賞金は3,000万円と高額に思えますが、白石さんが乗るヨットの制作費はなんと約30億円。優勝してもまったく元が取れません。それでも白石さんの夢に共感し、出資して送り出してくれるスポンサーがいます。
「誰が世界一バカか決めるレース」と白石さんは笑いながら言いますが、その過酷さは本物です。「完走した人数は、宇宙に行った人より少ないんだよ(完走者は114人)」その中で2回連続完走した日本人は、白石さんただ一人です。
「南極海の波はビルの3階分くらい。そんな海の中を、ひとりで走ってるんだよ」
講演では、実際に巨大な波を前にした映像も紹介され、会場からは思わず息をのむ声が。

「今のヨットは“羽”がついてるんだよ。フォイルっていって、海の上を浮くの。でもね、乗り心地は最悪!(笑)」船体がバウンドして跳ねるように進む過酷な環境。それでも白石さんは「楽しいよ!」と笑顔で語ります。

支えてくれる仲間たちの力
「ひとりで世界一周」と聞くと孤独なイメージが浮かびますが、白石さんによると「じつは20人のチームが支えてくれている」とのこと。ヨットを整備するエンジニア、食料を管理する担当、医療やサバイバル訓練を支える専門家たち…その一人ひとりの力があって、白石さんは海に出ることができるのです。

さらに、世界中のレース関係者やセーラーたちとの交流も、白石さんにとって大きな支えになっていると言います。言葉が通じなくても、同じ海に挑む仲間として励まし合い、協力し合ううちに、国境を越えて友情が育まれていきました。
「ひとりだけど、仲間がいる。世界中に友だちができた。それがいちばんの財産だよ」
大人にも響く言葉に、会場はしんと静まりました。
夢中になれることが、君らしさを育てる
講演の中で、もっとも心に残ったのは、子どもたちに向けた「そのままでいいんだよ」の言葉でした。
「ぼくは小さい頃、プラモデルを作っては爆発させて遊んでた。今はそのプラモデルがでっかくなって、地球をまわってるだけ。やってることは全然変わってないよ(笑)」
子どもの頃に感じた「これっておもしろい!」という気持ちを、そのまま大人になっても大事にしている。そんな白石さんの生き方が、自然とにじみ出ていました。
「子どもはそのままでいい」。そう繰り返す白石さんの言葉は、子どもだけでなく、大人にもじんわり響きます。

講演の最前列は子どもたちが人工芝で遊べるスペース。子どもたちが遊びながらも、ときどき白石さんのお話に聞き入ったり、スライドに一斉に見つけたりする様子が印象的でした
「よくインタビューで『世界一周をして、何を学びましたか?』って聞かれるんだけど……ぼくね、『何にも学んでないです。何にも変わってないです』って答えてるんです(笑)」
「ぼくが世界一周をするのは、何かを学ぶためじゃなくて、自分が何者かを確かめるため。やってみて楽しかったか。それを大切にしてるんだ」
“こうあるべき”ではなく、“やってみたい”という気持ちを信じて動くこと。その先に、自分らしさや納得のいく生き方があることを、白石さんは体験を通して伝えてくれました。
失敗してもいい、挑戦したからこそ見える景色
講演の中では、白石さんが経験した“失敗”についての話も語られました。2020年のヴァンデ・グローブでは、インド洋を航海中に突然マストが折れ、無念のリタイア。帰国後、どんな言葉をかけられるのか不安だったという白石さんに、仲間や師匠がかけたのは、意外なひとことでした。
「『だろ?』って言われたんですよ(笑)。『それがヴァンデ・グローブなんだよ』って」
それは、失敗を笑って受けとめる仲間のあたたかさであり、挑戦の世界では失敗が当たり前であるという励ましでもありました。
「悔しかったけど、挑戦したからこそ見えることがある。失敗したっていいんです。挑戦してる証拠なんだから」
白石さんのこの言葉は、子どもたちだけでなく、つい結果を気にしてしまう大人の心にも、深く響いたのではないでしょうか。何かに夢中になること、やってみること、そして転んでもまた立ち上がること。その繰り返しが、自分らしく進む力になるのだと、白石さんは静かに伝えてくれました。
海で出会った自然の美しさと命の感覚
白石さんは、海での美しい光景についてもたっぷりと語ってくれました。
風が止まり、水面が静まり返る夜。空に広がる満天の星が、そのまま海にも映り込み、まるで星の中に浮かんでいるような景色に包まれます。さらに、イルカが泳ぐとその軌跡に沿って夜光虫が青く光り、海の中に美しい光のラインが描かれる。そんな幻想的な映像がスライドに映し出されると、会場の子どもたちからも思わず「わあ…」と声が上がりました。
食べものの話にも、心を打つエピソードがありました。長い航海ではほとんどがレトルトです。それでもたまに食べるリンゴやオレンジの「生の味」に、涙が出そうになることもあるといいます。

「人間って、生きてるものを食べて生きてる。それを忘れちゃいけない。だから、自然も命も、みんな大切なんだよ」
自然との共生や命への敬意が、子どもたちにやさしく伝わっていました。
まっすぐな質問に、まっすぐな答えを

講演のあとは質問タイム。子どもたちの手が次々と挙がります。
「世界一周って、怖くなかった?」
「やらないほうが、よっぽど怖かったよ。好きなことをやってると、怖さはなくなるんだよ。やってないで『やりたかったなぁ』って思うほうが、ぼくは怖いと思うな」
「泳げないんだけど、大丈夫かな?」
「最初は誰でも泳げなかったでしょ? それと同じで、挑戦してるうちにできるようになるよ。だんだん怖くなくなるから大丈夫。練習してるんでしょ? それなら、きっと大丈夫!」
さらに、「海の上って、ヒマじゃないの?」という質問には、笑いながらこう答えます。
「昔はヒマだったけど、今はコンピューターに囲まれて忙しいよ。しかも今はスターリンク(※衛星を使ってインターネットをつなげる通信サービス)のアンテナがあるから、世界中どこでもつながるしYouTubeだって見られちゃう。せっかく一人で冒険してるのに、電話までかかってきて……」
と、白石さんは苦笑いしながら話します。
「この前なんて、家族から電話がかかってきたと思ったら『銀行の暗証番号、なに?』って(笑)。ひとり海に出て、ロマンを感じてるところに、それかい!ってね」
子どもたちの率直な疑問に、白石さんはユーモアとまっすぐな言葉で一つひとつ応えていきます。問いかける子どもたちの表情も、やりとりを重ねるうちにどんどんほぐれていき、会場には笑顔と安心感が広がっていきました。
子どもは大人の“楽しむ背中”を見て育つ
講演の締めくくりで、白石さんはステージから客席をゆっくりと見渡し、大人たちにこう語りかけました。
「子どもにとって、一番の教育は大人が夢を持って生きること。『地球って楽しいな』『人生っておもしろいな』って心から感じながら毎日を過ごせば、それだけで子どもたちは育っていくんだよ」
「夢って、別に世界一周じゃなくてもいいんだ。週末にキャンプへ行く計画でも、いつか作ってみたい料理でも、ワクワクできることなら何だって構わない。大人が“やってみよう”と動き出す背中を見せれば、子どもは自然に“自分もやってみよう”と思えるんだよ」
そして最後に、こんなメッセージを添えました。
「親が完璧である必要はないよ。失敗したって、笑い飛ばしながらまた挑戦すればいい。挑戦している姿そのものが、子どもにとっていちばんリアルな教材だからね」
「教える」のではなく「魅せる」。白石さんの語り口は穏やかでしたが、言葉の芯は力強く、会場の大人たちの胸にまっすぐ届いていたようです。自分がまず楽しみ、納得のいく人生を歩む。その姿こそが、子どもたちへの最高のメッセージになることを、あらためて感じさせてくれる締めくくりでした。
取材を終えて
白石康次郎さんの講演を通じてあらためて感じたのは、子どもたちが本来持っている「知りたい」「やってみたい」という気持ちに、もっと大人が寄り添っていく必要があるということです。保護者は子どもの力量を推測して、できるだけ失敗させないようにしがちです。でも、白石さんの「そのままでいい」「失敗してもそこから学ぶことがある」という言葉は、そんな大人たちの肩の力をふっと抜いてくれました。何かに夢中になれる時間や、好奇心で心がきらめく毎日を過ごすことが、子どもを育て、大人も豊かにしてくれるんですよね。白石さんの姿は、そのことを教えてくれる大きなヒントになると思いました(KAZ)

お話を伺ったのは…白石康次郎さん
〈プロフィール〉
神奈川県鎌倉市育ちの海洋冒険家。高校時代にヨットと出会い、1994年、当時26歳で史上最年少・日本人初となる単独無寄港世界一周を達成しました。以降も、過酷な単独世界一周レース「ヴァンデ・グローブ」にアジア人として初挑戦し、日本人初の完走を果たすなど、世界の大海原で挑戦を続けています。現在は「DMG MORI SAILING TEAM」のスキッパーとして活動しながら、講演やメディア出演を通じて、子どもたちに夢や冒険の魅力を伝えています。
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