中2で将来を決めた江戸切子職人 清秀さんの「やりとげる力」とは【つくる人】

つくる人
たゆまぬ努力を続け、生産品に愛情を注ぎ、好奇心や探求心、情熱を常に持って暮らしている「つくる人」にお話を伺い、人として生きていくのに必要なものに迫るインタビュー。

農家や畜産家、伝統工芸品、企業の商品開発などの「作り手」はたゆまぬ努力を続け、生産品に愛情を注ぎ、好奇心や探求心、情熱を常に持って暮らしている人たちです。身近にあるもの生産する人たちはどのような子ども時代を過ごし、どんな人生を送ってきたのかを知ることで、人として生きていくのに必要なものに迫るのが「つくる人」インタビューです。今回は「江戸切子職人」の清秀さんにお話を伺います。

江戸切子職人 清秀さんプロフィール
業界内では珍しい、血筋を持たない(血縁関係が江戸切子職人ではない)江戸切子の伝統工芸士。中学2年で職人になる事を決意し、高校卒業後に弟子入り。15年修行して独立し、36歳で伝統工芸士に認定。現在職歴28年目。2020年7月に東京都江東区に「江戸切子専門店 煌粋~きらめき~ キヨヒデガラス工房」を構える。
 
 

子どもの頃から「将来は職人になる」と思っていた

未来:清秀さんが江戸切子職人を目指そうとしたきっかけは?

もともと工作が好きなこともあって、小学校の低学年くらいから「できたら職人になりたい」ということはいつも親に言っていました。最初は大工になろうと思ったんですけど、幼稚園のときの工作で寸法通り切れなくて「自分が大工になったら家が傾く」と思ってやめました(笑)。

未来:早すぎる挫折ですね(笑)。

普通に考えれば幼児なので、まっすぐに切れなくても仕方ないんですけど(笑)。でも「寸法どおり作るよりも、勘でモノづくりする」ほうが自分には合っているなと思って、その頃の将来の夢は陶芸家でした。当時は「職人といえば陶芸」くらいにしか思っていなくて(笑)。そしたら中学2年のときにデパートで伝統工芸展の催し物をやっていたのを母が見つけて「あんたの好きそうなのやってるよ」と教えてくれました。そこで江戸切子の実演を初めて見たんです。

未来:まさしく人生の進路が定まった瞬間!

会場では江戸切子以外にもいろいろな伝統工芸をやっていて、一通り見て回ったのですが、一番おもしろかったのが江戸切子で。見ていると、商品がどんどんできていくのがよかったんですよね。

当時の催事は水曜に始まって翌週の火曜日くらいまでやっていました。それで土曜日から火曜日まで毎日催事場に通っていると、向こうも顔を覚えてくれて声をかけてもらったり体験のようなこともさせてくれたんです。それで社長から「そんなに好きならウチで働くか」って言ってもらって。社長からしたら冗談だったんですけど、僕はもうそれで「将来職人になれる!」と思っちゃったんです(笑)。のちのち、その社長が僕の師匠になりました。

未来:中学生くらいの年頃は将来への夢や進路はいろいろと迷ったりするものですが、清秀さんはその後も迷わなかったのでしょうか?

全然迷わなかったですね。もっと小さいころに動物園の飼育員さんになりたかったというのもありましたけど(笑)。もう職人になるつもりなので、高校のときも内申点なんか気にしなくて「卒業できればいい」くらいに思ってあまり勉強はしてませんでした。それで就職のために社長に会いにいったら、社長は全然覚えてなくて(笑)

でも催事場での話をしたら思い出してくれて、それで「約束だから」と僕を入れてくれたんです。当時はちょうどバブルが弾けたときで、会社的にも余裕があまりなかったと思うんですが、そこに職人の「粋」を感じました

未来:社長も中学2年のときから、まっすぐ進路を決めてきた清秀さんに「粋」を感じたのかもしれませんね。

どんな子ども時代だった?

未来:清秀さんの人生に表れている「一度決めたら一直線に向かっていく『やりきる力』」は、どのようにして育まれたのか気になります。子ども時代はどんなふうに育てられましたか?

基本的には、親が何かを強く押し付けるようなことはしなくて、子どもの自由にさせてもらえていたような気がします。ただ「人の道をはずすようなことだけはしないように」とはよく言われていましたね。

未来:とても素敵ですね。自分自身が親になってみてよくわかったのですが、子どもに自由にやらせるのは簡単なようで実は難しいと思います。子どもの気持ちや行動を、信じて任せる育て方ですね。

そうですね。今思えば僕が三男ということもあるのかもしれませんが「好きなことをやっていいけど、責任は自分自身でとりなさい」という方針でした。もちろん「勉強しなさい」とも言われましたけど(笑)。やっていなくても「大きくなって勉強できなくて苦労してもお母さんのせいにしないでよ」と、それ以上言われない感じでしたね。

未来:なるほど。責任感を持たせながらなるべく自由にやらせてくれていたのですね。江戸切子職人になりたいと言ったとき、ご両親はどんな反応だったのでしょうか?

「そんな甘い世界じゃないからね」と母に言われましたが、それだけですね。父も賛成してくれました。

職人として1人前になるには?

未来:職人の世界は、一般の人からするとよくわからないのですが、どんなことをするのでしょうか?

職人といっても、朝会社に行って仕事をして夕方帰るという流れは普通のサラリーマンと一緒ですね。仕事内容が営業行ったりパソコンを使うのと、何かを作業するのかの違いだけで。

未来:江戸切子職人として入社して、最初に何をするのでしょうか?

僕が行っていた当時から2~3年は「花切子」と呼ばれる花模様が入ったグラスを作る仕事をひたすらやっていました。「こういうグラスが欲しい」という発注を受けて作り、それを納品する仕事です。

花切子とはあえて磨きを行わないことで、すりガラスのような独特な模様を出す技法のこと。清秀さんのお店「煌粋」には、花切子の技法を使った冬らしいグラスも販売されている

未来:毎日同じものを作ると飽きてしまいませんか?

当時は仕事におもしろさを求めていなかったので、全然平気でした。それよりも入社時に社長が「この仕事は独立しないと意味がないぞ」と言われて、それを素直に受けて一人前の職人になって独立するという「夢」を持って働いていたからというのもあります。当時の会社は社長が受けてきた仕事を弟子に分配するやり方をしていたので、弟子でいるうちは実入りが少なかったのです。先ほどお話した「花切子」も単価を知ったらすごく安かったので…。

未来:独立するためにはどのくらい努力したのでしょうか?

技術だけ覚えるなら最低でも7年は必要です。僕は技術以外にもいろいろなことを教わるので、10年は修行にかけました。

未来:一般的に何かを初めてプロになるまでに必要な時間の目安は、1万時間と言われているのですが、年間休日の平均を120日として、年間1,960時間。7年だと1万3,720時間、10年だと1万9,600時間。10年だと一般的な基準の倍近い時間が必要になる計算ですね。もちろん、個人のセンスなどもあると思いますが、これだけ時間がかかる理由はなんでしょうか?

江戸切子の技術の習得は、先輩のやり方を「見て覚える」というのをずっと代々やっていて、きちんと言語化されていないことが大きいと思います。僕もやっていてうまくいかないときは、先輩の動きを見てコツを盗んでいました。

未来:その方法だと、やり方を見せながら教えることができたり、体系化されていて座学でも学べるものに比べてハードルがどうしても高くなってしまいますね。

また、僕のように親が江戸切子職人でない(血筋を持たない)場合、独立するときに道具や場所をそろえる必要があります。それがとても高価で、集めるのに時間がかかるんです。その準備などを含めて、実際に独立するまでには15年かかりました。

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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