人間の住む町に降りてきて畑や食料を荒らしたり、山などの生態系を壊してしまう害獣。駆除されたニュースなどで見聞きすることはありますが、じつはその原因は主に人間が作りだしていることを知っていますか? 今回は動物の生態や体のつくり、骨を使ったクイズなど親子で楽しみながら「動物にも人間にも優しい環境を守る」というSDGs視点も養えるオンライン講座「骨や皮から学ぶ野生動物の姿」を取材。自分たちの身近な事例から地域の環境やSDGsについて考えていくべきことを明らかにしていきます。
「野生動物」ってなに?
今回のオンライン講座は「害獣レザープロジェクト」が開発した教材「科学館のラボノート 野生動物つかまえた(4月下旬~5月上旬発売予定)」のモニター参加者向けの限定講座です。発売される教材には、野生動物について学べるガイドブックと、野生動物のレザークラフト体験キットがセットで入っています。
この教材の発売に際し、モニターを募集してアンケート調査を行い、そのモニターを参加対象に開催したのが今回の企画です。オンライン講座ではガイドブックの内容を理学博士で「害獣レザープロジェクト」の宮本さんが解説してくださいました。※商品にはオンライン講座はついていません。

(提供:手作り科学館Exedra)
宮本さんは千葉県柏市にある「手作り科学館Exedra」の副館長でもあります。駆除された野生動物を科学の学びのツールとして活用する活動の1つとして、害獣レザープロジェクトを立ち上げました。
講座はまず「野生動物とは何か」についてからスタート。野生生物とは野や山に棲んでいる動物のこと。野生生物が人間の暮らす里まで下りてくると畑の作物を食べたり、人間を襲ったりするようになることがあります。
また、もともとそこに棲んでいなかった外来生物がきたことで生態系に大きな影響を与えることもあります。このような人間の生活や生態系に被害をもたらす野生動物を「害獣」と呼び、駆除されています。

食べ物が少ない厳冬期に、農作物の木の皮を食べてしまう鹿は「害獣」として駆除の対象になることもあります(PIXTAより)
宮本さんは、駆除された野生動物の一部を引き取り、骨を科学館に展示したり、皮をなめして触れるようにしたり、科学の学びを入口に野生動物について学ぶ場を提供しています。そのひとつが、レザークラフト体験もできる教材「野生動物 つかまえた」です。
野生動物をどうやって捕まえる?
日本では、野生動物の乱獲を防ぎつつ生物の多様性を保つ目的で、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」が制定・施行されています。野生動物を捕まえるには狩猟免許が必要で、勝手に捕獲することはできません。捕まえる方法も法律で定められていて、現在は「銃」と「罠」が主に使われています。
<法律で定められている狩猟のルール(一部)>
・移動する車から銃を撃ってはいけない
・つかまった動物が過度に苦しむ罠や危険な仕掛けは用いてはいけない
・狩猟は限られた季節のみ行える
・罠は狩猟者1人あたり30個まで
講座では、床を踏み抜くとワイヤーがしめつけて足を固定する「くくり罠」や箱に動物が入ると入口が閉まる「箱罠」などを紹介。罠で捕まえるには、動物の行動や習性、食の好みなどを理解し、適切に罠をしかける「動物との知恵比べ」が必要になります。
とくに箱罠に使うエサを工夫していったら「アライグマはキャラメルコーンが大好き」ということがわかった話には、子どもたちも興味をそそられたようでした。

捕獲されたアナグマ(PIXTAより)
野生動物を解剖して体の構造を知る
つかまえた野生動物はどうするか? よく知られているのは「ジビエ」として食べることですが、市場に流通しているものは全体の10%程度。猟師さんが自家消費しているぶんもありますが、廃棄されているものも多いのが現状です。さらに骨や皮は、肉以上に活用されていません。
宮本さんは駆除された野生動物の一部を引き取って、解剖をしている理由について「骨や皮は知識の宝庫」と答えています。野生動物の生態や進化の歴史を読み解くのに、解剖し観察することはとても大事です。宮本さんが猟師さんに教わった話では、発情期のイノシシのオスは肉が臭いなど、同じ動物でも時期などによって脂肪の付き方やニオイが変わることがあるのを感じられるそうです。
ほかにもキョンはシカの仲間ということもあり、皮下脂肪が少ないことや、ニホンザルは脚や腕の筋肉が大きさの割に太く、崖や木をよじ登るのに役立っていることを「筋肉を見て実感できた」とのこと。ただ、ニホンザルは人間に近い動物のため、宮本さんは解剖後、しばらくお肉が喉を通らなかったそう…。
解剖するときは、まず皮をはぎ、筋肉の付き方を観察します。そして写真やスケッチをして、記録します。筋肉の向きや、どこのスジを引っ張ると、どの筋肉が連動して動くかなど、絵にすると体の機能をわかりやすい形で記録に残せます。
また、「恐竜の研究方法のひとつとして、鳥やワニなどの現生の動物を解剖する」という話も参加者の反応が大きかったです。恐竜は化石として骨格は残っていますが、筋肉は分解されてしまって見えなくなっているため、遺伝的に近い存在である鳥やワニを観察することで骨の構造から筋肉のつきかたなどを推測しているそうです。
恐竜に限らず、現在生きている動物たちの体の構造や機能についても、まだよくわかっていないことがあります。宮本さん自身、解剖をしてみて「自分の身体をどう動かしているのかを、よく理解していなかった」ことが新しい発見の1つと語っています。
解剖の話を通して、害獣を駆除したあとに単に捨ててしまうのではなく、肉や骨、皮などを研究に役立てるなど「命を少しでも無駄にしない」という姿勢は、子どもたちにも伝わっているようでした。
講座に参加している人に解剖に興味が出た人がちらほらでてきたので、宮本さんが「自宅で気軽に試すなら」とおすすめしてくれたのが、ニワトリの手羽先です。教材のガイドブックには手羽先、豚足など、料理に使われる動物の身体の一部も解剖や標本づくりの題材としておすすめされています。手羽先から骨を取り出して骨格標本を作る方法も紹介されていました。
こうした話から、宮本さんがいろいろな動物の骨格標本を使ったクイズがスタート!