キッズ興奮! 絵本で出会う「世界の成り立ち」/かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと

子ども時代に出かけた美術館や博物館の面白さは子どもにとって一生ものの体験です。親子でぜひ訪れてほしい美術館や博物館のイベントを紹介します。

第9回は東京・渋谷の「Bunkamura ザ・ミュージアム」で開催されている「かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと」です。(Bunkamura ザ・ミュージアム主催の展示会に招待されました)

今回の展覧会の見どころと子どもとの楽しみ方を、かこさとしさんの長女・鈴木万里さん(加古総合研究所 代表)に伺いました。

かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと

かこさとしが「子どもたちに伝えたかったこと」

未来へいこーよ展示の前半は、かこさとしさんの学生時代の展示からはじまりますね。第1章は戦争で生きる意味を失った学生時代、第2章では1951年から約20年の間かかわった川崎セツルメントの子ども会で子どもたちに向けて作った紙芝居や幻灯の映像、第3章では不朽の名作「だるまちゃん」シリーズや『からすのパンやさん』の原画、第4章・5章では世界の成り立ちを伝える科学絵本の世界が展示され、見応えがあります」

鈴木万里さんかこさとしは、中学生の頃、技術の粋を集めた飛行機に大変あこがれました。航空士官になることを夢みていましたが、視力が悪くかないませんでした。友人の多くは戦争に行って亡くなりましたが、かこは高校から東京大学へ進みます

「自画像」 1947年 ©1947 Kako Research Institute Ltd.

終戦の直前、高校2年生のときにかこさとしは、墜落する飛行機から脱出した飛行士のパラシュートが開かず死んでしまう現場を目撃して衝撃を受け、航空士官を目指したことへの自責の念にさいなまれます

「第1章の最初に展示している板絵に書かれた自画像には、航空士官を目指したことへの自責の念に押しつぶされそうになる悩みの深さや出口の見えなさを感じます」

そんな暗闇のような日々のなかに、一筋の明かりをともしてくれたのが『子どもたち』の存在でした。大学の休みに家族のいる宇治に戻り、近くの寺の境内で子どもたちが無邪気に遊ぶ様子を見ながら、『生き残った人生を子どもたちのために使いたい』『自分は誤った判断をしてしまったけれど、子どもたちには賢くなり正しい判断をできるようになってもらって、平和のうちに健やかに生きていってほしい』『そのためになるのであれば、死にはぐれた、生き残った償いをどうしたらいいかと悩んでいる自分にも何かできるのではないか?』そう思い始めました」

 

 

若いかこさとしが理想とした、みんなが平和に幸せに生きる姿を描いたのが、大人も子どもも動物もにこにこ笑いながら踊っている「平和のおどり」、通称「わっしょいわっしょいのおどり」という作品です。のちにこの絵を葉書にしたものが福音館書店の編集者の目にとまり、かこさとしは絵本作家への道を歩み始めます」

子どもの琴線にふれる「おもしろい」もの

 

「かこさとしは子どもたちに知ってほしいたくさんのことを絵や紙芝居にしますが、約20年関わった川崎セツルメントの子ども会で、子どもたちに見せても面白くなければ見向きもしてくれない現実に打ちのめされます

そこで向き合ったのが、子どもにとって面白いってどういうことだろうか? という疑問です

その答えの一つが、面白いというものはおかしいものだけではない、たとえ辛いテーマでも琴線にふれたら子どもはワクワクする。難しいものでも少しずつわかるように丁寧に伝えてあげれば、楽しくなり知的好奇心を刺激されて、自主的に学ぼうとするということでした」

 

「かこさとしは積極的に世界のこと、歴史のこと、科学のこと、辛いときにどう乗り越えていくかなど多くのことをテーマにして子どもの絵本作りに取り組みました

「その最終形のひとつが、展示の最後にある宇宙進化地球生命変遷放散総合図譜(通称:生命図譜)」です」

 

生命の150億年の歴史を一望できる横幅5メートルを超える壮大な図譜は、生命の長い歴史を概観することで、未来へと続く現在を生きる人に、『人間がどうあるべきか?』、『何をするべきか? 何をすべきでないのか?』、『このままでよいのだろうか?』といった問題提起の意味も含んでいます」

「ロシアのウクライナへの侵攻があり、アジアでも紛争が続いています。コロナ禍がパンデミックになり、そんな中で私は『もし、かこさとしが生きていたらこの時代を何と言ったでしょう?』と、聞かれることがあります。今回の展示のテーマは『子どもたちに伝えたかったこと』。戦争から平和な時代を生きたかこさとしの人生を通じて、考える機会になるとうれしいです

「かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと」の愉しみ方

未来へいこーよかこ作品に親しんでいる小さな子どもと訪れる家族連れに向けて『こんな風にも楽しめるよ』というポイントを教えてください

鈴木万里さん「展示している絵には思わぬところに『サイン』があります。例えば、雨の日も雪の日も山奥でみんなのためにダムを作ってくれている人を描いた『だむのおじさんたち』には、ヘルメットにサインがされています」

「字を覚えたての子どもは、『原画の中の文字を探しながら見てみよう』という声かけを面白く感じて集中してくれることがよくあります」

 

「また、身の周りの道具をわかりやすい絵で紹介し、人間にとっての道具の大切さや、生活との関わりを教えてくれる絵本『どうぐ』では、自動車を構成するたくさんの部品を丁寧に見開きに描いています。『ひとつ ひとつが ちがった はたらきをする どうぐ』が組み合わさり、どれか一つが欠けてもクルマという道具は動かないことがよくわかるページです

よく見てみるとその中にひとつだけ、余分なものもあるのに気が付きます。それは前のページで車のフロントガラスにつけられていたかわいいくまのキーホルダーです。こういう仕掛けは、大人よりも子どものほうがよく気がつくもので、見つけると子どもは大喜びします」

「また、家の構造を図解している『あなたのいえ わたしのいえ』では、一緒に描かれている鳥や犬にもページをめくるごとにおうちができていきます」

大人に読み聞かせをしてもらうときに、絵を読んでいる子どもは、絵で表現されているサイドストーリーにもよく気が付きますが、文字を読んでいる大人はなかなか気づきません

「今回のような展覧会で、普段から親しんでいる絵本と出会うと、子どもはよくその絵について知っていることや感じていることをお話してくれます」

「それを『ああそうね』『こんなことにも気づいたのね』と子どもが話すことを丁寧に聞いてあげてほしいですね」

「わたしはこれまで『いつでも、かこさとしの作品を見ていただける』と思っていましたが、コロナ禍で『見ていただけるときに、見ていただきたい』と気持ちが変わりました」

「家族で展覧会へ行くのも、これまでのようにはままなりませんが、機会があるときにはぜひそのタイミングをとらえて、家族でたくさん絵本についてお話をする時間を持っていただけるとうれしいです」

家族で行こう「かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと」!

子どもたちが大好きな「だるまちゃん」シリーズや『からすのパンやさん』で知られる、かこさとしさん。子どもたちに身の回りのことに興味を持ってほしい、正しい知識を身につけることで自分の判断ができるようになってほしいという願いにふれることで、改めて平和な社会の大切さを親として強く感じました。

小学生までの子どもは無料です。ぜひ子どもと訪れてみたいですね

【展覧会タイトル】:かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと
会期:2022/7/16(土)~9/4(日)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと
※会期中のすべての土日祝および8月29日(月)~9月4日(日)は一部オンラインによる入場日時予約が必要です。
※詳細は公式サイトをご確認ください。

【子どもと行きたい・美術館・博物館一覧】
第1回/「鉱物展」の楽しみ方/角川武蔵野ミュージアム
第2回/「体験型美術展」の楽しみ方/びじゅチューン展
第3回/「ゴッホ展」の楽しみ方/東京都美術館
第4回/「好き」を見つける展覧会の楽しみ方/君も博士になれる展
第5回/「絵本原画展」の楽しみ方/柚木沙弥郎 life・LIFE展 PLAY!MUSEUM
第6回/「北斎展」の楽しみ方/すみだ北斎美術館
第7回/「バンクシー展」の愉しみ方
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出版社、教材編集を経て2013年に「いこーよ」へ。小学生の女の子2人のママ。大学院、モンテッソーリ教育教師、華道、ダイビング資格有。ライフテーマは幼児教育から小学校、中学校、高校、大学、社会人へとどのように学びをつなげていくか。特に幼児教育から中学受験への連携に日々奮闘中。

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