子ども時代に出かけた美術館や博物館の面白さは子どもにとって一生ものの体験です。とはいえ、子どもと美術館や博物館に行っても途中で飽きてしまったり、展示内容を楽しむ方法がわからないという悩みも聞きます。
人気の美術館や博物館の展示の中から家族でぜひ出かけてほしいものをセレクトし、まずはこれだけは見てみよう! という鑑賞ポイントを紹介します。

第3回は「ゴッホ展」の楽しみ方にせまります。教えてくれるのは2021年12月12日(日)まで開催されている東京都美術館の同展担当学芸員・大橋 菜都子さんです。(公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、東京新聞、TBS主催の展示会に招待されました)

展示作品すべてを子どもと丹念に見るのは大変なので、最後の展示室にしぼって子供との鑑賞のポイントを聞きました。
この展覧会は、東京都美術館での展示終了後、福岡と名古屋で巡回展が行われます。
●東京展(東京都美術館)2021年9月18日~12月12日
●福岡展(福岡市美術館)2021年12月23日~2022年2月13日
●名古屋展(名古屋市美術館)2022年2月23日~2022年4月10日
『ゴッホ展-響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の公式サイト
『ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』とは?
未来へいこーよ「『ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の見どころを教えてください」
大橋菜都子さん「世界的に人気の高い作家であるゴッホを、今の地位に押し上げた人として、弟テオ、その妻ヨーがよくあげられますが、ゴッホ作品の初期から晩年までの約260点を購入した最大の個人収集家ヘレーネ・クレラー=ミュラーもその一人です」
「今回は、ヘレーネのコレクションを中心に紹介しています。ヘレーネは、ゴッホにどのように魅了されたのか。ヘレーネの興奮や感動が記された手紙の文章も、作品の隣の解説や貸し出し用の音声ガイド(1回600円)で紹介しています。ゴッホへの理解を深め親しむ機会になります」
「ゴッホ展」を子どもと見る! 3つのポイント
未来へいこーよ「圧巻の『ゴッホ展』ですが、子どもと今回の『ゴッホ展』を見るときのポイントを、最後の展示室の作品から教えてください」
【ココに注目してみよう! 「ゴッホ展」】
●ゴッホの黄色に注目する
●ゴッホの作品の中に入る
●ゴッホの作品の周囲にあるものを想像する
黄色あふれるレモンを描いた作品! ゴッホの黄色に精神性を見る!
大橋菜都子さん「2階奥の最後の展示室には、前半にアルル時代のものを、後半にサン=レミとオーヴェール=シュル=オワーズ時代の作品を展示しています。まずはこの部屋の入口付近に展示している《レモンの籠と瓶》(1888年5月クレラー=ミュラー美術館)に注目しましょう」
「黄色いテーブルクロスの上にたくさんの黄色いレモンが置かれ、レモンと籠のふちには赤色が使われています。黄色が洪水のようにあふれ、ヘレーネが美術にのめりこむきっかけを作った絵の師匠であったブレマーは『これはまるで天国のようだ』と言っています」
「ヘレーネはゴッホの作品の高い精神性に魅了されて収集をはじめました。友人にあてた手紙にこの作品にヘレーネが感じた言葉が綴られています」
(1909年3月26日 ヘレーネからサム・ファン・デフェンテル宛の手紙)
「実際のレモンとゴッホのレモンはまったく違う! 高い精神性を感じられるの! と、ヘレーネが言う言葉の通りに、ぜひアタマの中で同じように数個のレモンを置いてみてください。ヘレーネが感じた興奮を感じられるかもしれません」
「ゴッホの代表作《ひまわり》も黄色が印象的でゴッホが好んで使った色です。色彩豊かなゴッホの黄色を子どもと一緒に堪能してほしいですね」
『ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の見どころ
ゴッホの糸杉の風景を見てあなたは何を感じる?
未来へいこーよ「今回の中心的作品である《夜のプロヴァンスの田舎道》(1890年5月クレラー=ミュラー美術館)ではどのような鑑賞ができるでしょうか?」
大橋菜都子さん「フランス滞在の最後の数日で一気に書き上げられた作品です。ゴッホは、アルル滞在中から糸杉を描きはじめ、サン=レミに移ってから本格的に取り組みはじめました」
「ゴッホはもともと観察にもとづいて写実的な絵を描いていたので、真っ暗な夜の風景を描くことはできませんでした。それが南フランスでのゴーガンの共同生活の中で記憶や想像を組み合わせて描くことを身に着け、この作品のような夜をとらえた作品が生まれました」
「糸杉の暗い色彩に魅入られて描くことに夢中になっていたゴッホですが、手紙の中でその色彩を捉える難しさを訴えています。糸杉は『死の象徴』であったという説もありますが、この絵を見ると悲しみや憂鬱さよりも天へと届く力強い生命力を感じます」
「この糸杉のように、ゴッホ作品の作品には子どもにも身近な自然の風景や、家や街をモチーフとしたものがたくさんあります。絵の中に入ってみたらどんな感じかな? 暖かいかな? 涼しいかな? 風はカラッとしているのかな? カラッとしている感じはどの色で感じるかな? 感覚的なものを色の中にどのように感じるのかなど言葉にしていくことでさらに作品をよく見ることができるようになります。気に入った作品を見つけて親子でぜひお話してみてほしいです」
『ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の料金や予約方法
作品の外の世界まで想像の翼を広げよう!
未来へいこーよ「親子でゴッホ作品を見るときのおすすめの声掛けがほかにもあれば教えてください」
大橋菜都子さん「《草地の木の幹》(1890年4月後半 クレラー=ミュラー美術館)は、松の幹と白い花とタンポポが咲いている草むら、小さなバラの茂みを描いた作品です。この作品のように、ゴッホの作品の中には狭い範囲に注目して描いているものも多くあります」
「こういった作品では、絵の外側へ想像を広げてみるのも楽しいものです。風はあるかな? 幹の上はどうなっているかな? 周りに人や動物はいるかな?描かれていないこの木の上部にゆれているところはあるかな? 作品は画家が見ている風景の一部であり、その風景の中に作家がいることを想像しながら鑑賞を楽しんでほしいですね」
未来へいこーよ「『ゴッホ展』に来る子どもたちにぜひ一言お願いします」
大橋菜都子さん「2021年はゴッホの没後131年です。これほどの長い期間、ゴッホの作品が大切に伝えられ鑑賞されてきたのは、ヘレーネをはじめとした先人のおかげです。海外との行き来がしにくい今日ですが、ぜひ親子で展覧会に来て実際に作品をご覧いただければうれしいです」
まとめ ゴッホを愛した人の言葉と目線をもつのも楽しい
『ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の音声ガイドでは、女優の浜辺美波さんが、それぞれの作品にヘレーネが出会ったときのことを書いた手紙やメモを朗読しながら興奮の場面を臨場感あふれる演技で解説しています。
ゴッホを愛した女性が感動を友人たちに伝える言葉をきいていると、まるでその場にヘレーネと一緒にいたような気持ちでゴッホの絵を見ることができました。
ぜひ子どもと一緒に音声ガイドを聞きながらまわってみてくださいね。
【展覧会タイトル】:『ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』
【会期・会場】:2021年9月18日~12月12日・東京都美術館
※日時指定予約制。詳細は公式サイトをご確認ください。
※小学生以上は日時指定予約が必要です。
[公式サイト]https://gogh-2021.jp/
[問い合わせ]050‐5541‐8600(ハローダイヤル)
『ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント』の見どころ
【子どもと行きたい・美術館・博物館一覧】
8月/「鉱物展」の楽しみ方/角川武蔵野ミュージアム
9月/「体験型美術展」の楽しみ方/びじゅチューン展
10月/「ゴッホ展」の楽しみ方/東京都美術館(この記事)
11月/「ミイラ展」の楽しみ方/国立科学博物館
12月/「聖徳太子展」の楽しみ方/サントリー美術館
1月/「北斎展」の楽しみ方/すみだ北斎美術館
※内容は予定です。都合により変更する場合があります。