子ども時代に出かけた美術館や博物館の面白さは子供にとって一生ものの体験です。とはいえ、子どもと美術館や博物館に行っても途中で飽きてしまったり、展示内容を楽しむ方法がわからないという悩みも聞きます。
人気の美術館や博物館の展示の中から家族でぜひ出かけてほしいものをセレクトし、まずはこれだけは見てみよう! という鑑賞ポイントを紹介します。

写真左/企画制作グループチーフ 大竹真由さん 写真右/企画制作グループ 陳ドゥさん
第1回は「鉱物展」の楽しみ方にせまります。鉱物が結晶化して美しい造形を生み出す世界へ足を踏み入れると見えるものはどのようなものでしょうか? 教えてくれるのは「角川武蔵野ミュージアム」の「荒俣ワンダー秘宝館」で2022年1月16日(日)まで開催されている「石は生きている」の学芸員の大竹真由さんと陳ドゥさんです。
「荒俣ワンダー秘宝館」流の「鉱物展」の楽しみ方は「ワクワクを感じる」!
未来へいこーよ「鉱物展といっても、開催される博物館や美術館、展示テーマによって楽しみ方はさまざまです。『荒俣ワンダー秘宝館』ならではの楽しみ方とはどのようなものでしょうか?」
大竹さん「『荒俣ワンダー秘宝館』は、博物学者、図像学研究家、小説家、収集家、神秘学者、妖怪評論家、翻訳家、タレントとマルチに活躍する荒俣宏さんが監修している角川武蔵野ミュージアム内の博物展示スペースです。入口に設置された荒俣宏さんのホロウマスクにマッピングされた映像が、『え、何これ? という驚きが、ワンダーの源です。毎日の生活をワクワクさせる発見と驚きに出会ってほしい』と来館者にメッセージを送っています」
大竹さん「もともとはサイエンスとして見られることが多いものをここでは『アート』としてとらえて、難しいことを考えずにそれぞれの人がワンダーを感じるポイントに自分で気づいてほしいという狙いで展示を企画しています」
「それぞれがワンダーだと感じたことは、館内の図書エリアの本や資料でぜひ自分なりに深掘って愉しんでほしいですね。4~5階の階段エリアには荒俣宏さんの書架もあり、荒俣さんご自身が作った本のポップが訪れる人を迎えてくれます。荒俣さんのアタマの中をのぞくような感覚も楽しいものです」
石のどんな「生命性」にあなたはワンダーする? 5つのポイント!
未来「荒俣宏ワンダー秘宝館の『石は生きている』展の見どころを教えてください」
大竹さん「荒俣ワンダー秘宝館の鉱物展は、生きていない石が長い時間をかけて、地球の内部で結晶しながらひっそりと生成された変化に生命性を見出したらワクワクしてワンダーだよね、と思い、鉱物展の5つの見方を提案しています」
【鉱物展の楽しみ方 5つのポイント】
ポイント1.隕石と生命
ポイント2.石になった生命
ポイント3.成長する石
ポイント4.発光する石
ポイント5.石に見る生命
陳さん「昆虫が閉じ込められた石や、数千年前の生き物の化石、結晶化する変化の過程、結晶化して発光する石のほか、昔の人が別の自然に見立てた石、生物のような名をつけて『石が持つ生命性』を感じてきた石を集めた展示が並びます」
ポイント1,「隕石と生命」にワクワクしよう!
陳さん「隕石が氷の粒を地球に運んで地球に降り注いで海ができ、その海から生命が誕生したという説があります。この展示では、真ん中に鉄がパラサイト(寄生)した希少なパラサイト隕石を置きました」
陳さん「隕石の周囲には3,850万〜2,250万年前の虫入り琥珀を配置し、生命誕生のダイナミズムを表現したサイエンスアートとして表現しています。全体から受ける存在感はもちろん、細部に目を向けると数千万年前に樹液にからめとられた瞬間のままの姿を残す昆虫の今にも動き出しそうな様子にもワンダーを感じます」
ポイント2,「石になった生命」に注目しよう!
陳さん「数億年前に繁栄した生命が『生命の形』を残したまま鉱物に置換され、化石化したものにワンダーを感じる人もいるかもしれません。このコーナーで子どもに一番人気が高いのは、希少なプシッタコサウルスの全身骨格の化石です。子どもの両腕に収まりそうな化石を目の前にすると、この赤ちゃん恐竜が活発に動き回る様子までイメージできるようです」
陳さん「子どもにもおなじみのアンモナイトや、宝石質となったアンモナイトである『アンモライト』、ウニやサンゴ、マンモスウニやサンゴ、現在のジュゴンに近いと言われる絶滅種・デスモスチルスの歯などの希少な標本の展示もあります。大きく完成形に近いものがそろっているので、かつて生きていた時代へ思いを馳せやすくなっています」
ポイント3,「成長する石」を観察しよう!
大竹さん「『石の成長 = 結晶』をテーマに、会期中に成長するリン酸アンモニウム(写真左)と硫酸アンモニウムアルミニウム(=ミョウバン 写真左)が結晶化する様子も展示しています。この展示は結晶化が始まって4日目のものです」
「ミョウバンの結晶は小学校の理科の実験や夏休みの自由研究でもよく作られるものですが、数日から数週間で立派な結晶ができます。よく見ると宙づりにされた結晶の上部の液体がもやもやと動いているのが見えます。もやもやとしたものが上に向かっていると結晶が大きくなり、下に向かっていると反対に小さくなっていきます。12時間、24時間、48時間、72時間とどのように変化していくかがわかる過程も展示しています」
ポイント4,「発光する石」透かしてみよう!
大竹さん「青、黄、緑、紫に蛍のように発光する天然の『蛍石』を56個展示しているコーナーもあります。色は中に含まれた不純物の種類によって変わります。専門の職人が気泡が入らないようにアクリルに封入して、空中に浮いたように見えるように製作しました。子どもが展示ケースの横から蛍石を透かして夢中で見ている姿がよく見られます」
「天然の蛍石を高温で溶かして色素以外の不純物を取り除いて整形した人口蛍石にもぜひ注目してください。手前のピンク色とクリアなものにはLEDの光を、奥のグリーンとブルーのものにはブラックライトをあてて、さらに美しさを引き出しています」
「人工的に不純物を取り除いて再結晶させてつくられた高性能なレンズは、高級カメラや天体望遠鏡に使われ、アメリカのスミソニアン天文台の信号観測などでも使われています」
ポイント5,「石に見る生命」の多様性を見てみよう!
大竹さん「古くから人は無機物の石の模様や形に生命性を見出し、『見立て』を楽しんだり、石に生命の名前をつけてきました。『石に見る生命』のコーナーでは、砂漠でバラのように結晶した『砂漠の薔薇』や、葡萄のように結晶した『グレープカルセドニー』や、孔雀の羽の模様のような『孔雀石』など、名前と標本を照らし合わせながら石の中の生命性を楽しめる展示です」
陳さん「『砂漠の薔薇』は、砂漠の中で水分が蒸発して地中の石こうがバラのように結晶化したといわれているものです。美しい結晶の形や色はさまざまですが、そのものが一番安定する形で残っています。生き物ではない石が、安定する形を探し求めて美しく結晶し、現代までサバイバルしていることにロマンを感じますね」
まとめ 鉱物展の楽しみ方は自分の「ワンダーを見つけて、探求」するきっかけができればOK!
大人と子どもで一緒に展示を見ていても、それぞれがワンダーを感じるポイントは異なります。
今回の展覧会で提案されている5つのポイントすべてに感動しなければいけないというものでもありません。また、5つのポイント以外にもワンダーを感じるポイントがあるかもしれません。
「石は生きている」展に訪れた人がそれぞれのワンダーを見つけ、そこから興味を広げて本を読んだり、実際に見に行ったりしてほしいと思います。
また、「石は生きている」展が開催されている荒俣ワンダー秘宝館の「サイエンスアートの部屋」の隣には、荒俣宏さんが収集した不思議なものが集められた「ワンダーの部屋」があります。
実際に手で触って見られるもの、本物かどうかわからないけれど不思議なものがたくさん集められたこの部屋では、親子で宝探しのように荒俣さんのワンダーの世界を探検できます。
【展覧会タイトル】:「石は生きている」
【会期・会場】:2021年7月3日(土)~2022年1月16日(日)
角川武蔵野ミュージアム4F 荒俣ワンダー秘宝館
【主催】:角川武蔵野ミュージアム(公益財団法人角川文化振興財団)
荒俣宏(監修)/ ウサギノネドコ(プロデュース)
取材にご協力いただいた「角川武蔵野ミュージアム」とは?
本が棚にぎっしり詰まった圧巻の「本棚劇場」をはじめ、松岡正剛館長が手掛ける「エディットタウン」、など本から始まるワクワクが詰まった博物館です。
1階には、日本一のライトノベルの収蔵数を誇る「マンガ・ラノベ図書館」もあり、1日のんびり過ごせます。
【角川武蔵野ミュージアム】
■住所/埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 ところざわサクラタウン内
■開館時間/日〜木曜 10:00-18:00/最終入館17:30金・土曜 10:00-21:00/最終入館20:30
■休館日:第1・3・5火曜日
※営業時間は変更になる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。
【子どもと行きたい・美術館・博物館一覧】
8月/「鉱物展」の楽しみ方/角川武蔵野ミュージアム
9月/「体験型美術展」の楽しみ方/びじゅチューン展
10月/「ゴッホ展」の楽しみ方/東京都美術館
11月/「ミイラ展」の楽しみ方/国立科学博物館
12月/「聖徳太子展」の楽しみ方/サントリー美術館
1月/「北斎展」の楽しみ方/すみだ北斎美術館
※内容は予定です。都合により変更する場合があります。
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