漁港の岸壁でタモ網を使って幼魚を採集する「岸壁幼魚採集家」の鈴木香里武さん。監修を務めた「岸壁採集の幼魚展」を12月22日(水)~12月30日(木)までの間、京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンターで開催される鈴木香里武さんに、幼魚展の魅力を聞きました。
岸壁採集の魅力は「手軽・安全・出会える生き物が豊富」
未来:まず初めに長年、岸壁で幼魚を観察している香里武さんが考える「岸壁採集」の魅力は?
まず挙げられるのが「身近で手軽だ」ということ。ダイビングや釣りをやるには、道具も費用も要りますし、船に乗るのもハードルがあります。魚の採集というと「磯」によく行ってシュノーケルで潜って魚を採集する方法もありますが、これも慣れてないと足場が悪くて歩きにくかったり、海に入るというハードルがあります。それと比べて岸壁採集の場合は、海に入らず、上から見てすくうだけなので、ハードルが低いです。使う道具もタモ網とバケツがあればできてしまう。釣具屋さんであわせても2000円くらい。最初のとっかかりとしてすごく身近で手軽にできる「海遊びの入口」のようなところが魅力です。
未来:確かに道具もそれほど必要なくて、泳げなくても気軽に海と触れ合えるのはいいですね。
出会える生き物数がとても多いのも漁港の魅力です。例えば磯だと、磯に住み着いている魚がメインですが、漁港にくる生き物は基本的「流れ入ってくる」ものなんです。居ついているものもいるけれども、多くは満潮のときや風に乗って、外洋から漁港の中に流れ入ってきます。時間が変わって引き潮になると、漁港から流れ出て行ってしまうこともあるので、どんどん新しいものが毎日入ってきます。つまり同じ漁港でも行く時間帯や日によってまったく違う魚に出会える。たまたまそこの時間、そこにいたから出会えたという一期一会のものなんです。この豊富さというのは漁港ならではの魅力だと思います。手軽に始められる。安全である。出会える生き物の幅が広い。この3つが岸壁採集の大きな魅力です。
幼魚たちは多様性の宝庫! それぞれの「生き様」をぜひ見て欲しい
未来:「岸壁採集」の魅力が体験できるのが、今回の「岸壁採集の幼魚展」なんですね。展示にはいくつかのエリアに分かれているようですが、それぞれの見どころを教えてください。
今回の展示では、僕の著書「岸壁採集! 漁港で出会える幼魚たち (ときめき×サイエンス) (発行:ジャムハウス)」の内容がベースになっています。展示ではとくに「幼魚たちの生き様(生活スタイル)を見てほしい」と思っています。幼魚は体が小さいので、成魚以上にかなり工夫しないと、食べられてしまいます。なんとか見つからないように、見つかったとしても食べられないように工夫したりと、10種類いたら10通りの生き様がある「多様性の世界」なんです。そのため展示は「生き様」で分けています。

撮影・根津理恵子
展示は、見つかっても毒で撃退できる幼魚たちを集めた「危険な幼魚エリア」、南の方から黒潮に乗って関東の漁港まで流されてくる旅人たち「死滅回遊魚」などに分けていて、例えば「ファッショナブル幼魚エリア」の魚は見た目がすごくカラフルで派手なんですけど、ちゃんとそこには身を守るための意味があります。解説も今回のためにあらためて書いているんですが、単なる生態解説というよりも、生き様に想いを馳せてもらえるコメントにしています。
未来:お話を聞いているだけでも、生物の多様性が感じられますね。
ものによっては透明になってみたり、岩に擬態してみたり、トゲトゲになってみたりと、いろいろなパターンがあるのですが、それがホントに多様で、なんでこんなふうに進化してきたのだろうと思います。僕が幼魚という存在にここまでのめり込んだのは、この生き様に惚れているからなんですね。なので、この幼魚展ではぜひそのような魚たちの生き様を感じて欲しいです。
未来:子どもと大人で見てほしいポイントに違いはありますか?
自分が主催するイベントで「子どもたちを海につれていって遊ばせたいけれど、自分がやっていなかったからどこに連れていったらいいかわからない、どういう道具で何を観察したらいいかわからない」という声をよく聞くのですが、そんな大人の方に、簡単な道具だけで、子どもでも安全に上から幼魚観察できる場所として、漁港があるということをこの展示会で知ってもらえたらいいなと思います。これから来年の夏に向けて、どこか遊びに行くことを考えるときに「そういえば漁港で魚が見られるって言っていたな」って思い出してもらえるような、海の世界への入口として感じていただきたいです。
お子さんにはまず「幼魚というものがいるんだ!」と思ってほしいです。じつは多くの水族館に展示されているのは成魚が多いんですが、幼魚に触れる機会ってそんなにないんですよ。それに成魚は工夫がなくても生きていられるので、あまり解説にも生き様について書いてないんです。でも幼魚は生き残り戦術だらけなので、結構発見が多いんじゃないかなと思います。幼魚と成魚の違いについても解説に入れています。
あと解説板の中には、なかなか難しい専門用語をあえて放り込んだりしています。「死滅回遊魚」なんて言葉はほとんどの人は聞いたことがないものだと思いますし「ファッショナブルな幼魚」のコーナーには「眼状紋(がんじょうもん)」という言葉を入れてみたり、難しい言葉が結構あるんですね。難しい漢字にはフリガナを振ってあって、大人が読めば理解できる内容なので「これなあに?」と聞かれたら「こういうことなんだよ」と教えてあげたり、それでお互いに気づきがあったらいいのかなと思います。展示を通して親子で会話が生まれるような場にしたいです。
未来:ちなみに「眼状紋」とはどういうものでしょうか?

ミナミハコフグ(幼魚)
チラシに載っているミナミハコフグという魚は、目の位置を悟られないように「全身を黒目の柄にしちゃった」という魚なんです。黒目を攻撃されると致命傷になるので「全身を目模様(眼状紋)にしちゃえば、どこが目だかわからないだろう」という戦略に出た。これもただのオシャレのためにやっているわけじゃく「生き様」なんですね。今回の展示では「目を守っている系」はかなりいっぱい入っているので、そういう健気な生き様も感じてもらえたらなと。
未来:虫や鳥などの生態でも多様性はありますが、魚も相当すごいですね。
擬態と眼状紋は昆虫と魚と共通するところがあると思います。昆虫も枯れ葉そっくりなものや、羽を広げると大きな目玉模様が出てくるものがありますよね。まったく同じことが幼魚の世界でも起こっているので、環境は違うけれど、生き残り戦略としては昆虫も魚も共通するものがありますね。
未来:「深海生物のエリア」は、どのような展示になりますか?
「深海生物のエリア」はちょっと特殊で、生きた深海魚を展示するというのはハードルが高いので、僕が漁港ですくってきた深海魚の幼魚の標本を展示します。自分の中では初お披露目なんですが、小さい幼魚を乾燥させたものをエポキシ樹脂で封入した「樹脂封入標本」で、かなり珍しい種類も入っています。標本になった魚たちの生きているときの姿も見てもらえるように、写真や映像コーナーもあります。中には幻の深海魚として打ちあがるとニュースにもなるリュウグウノツカイなどもあります。
未来:それはかなり貴重ですね!
リュウグウノツカイは、じつは小さいころは浅瀬にいてこれまで漁港で3回すくっているんですよ。その実物を2匹展示します。これも今回初です。1.8cmのシラスぐらいの大きさのもので「漁港にはこんなものもいるんだ!」という驚きがあるかなと思います。深海魚はとても深いところにいて、到底出会えないようなイメージがありますが、じつは彼らの生き様を見ていると、幼少期はプランクトンが豊富な浅瀬で暮らしている子が多いことも解説しています。漁港という水深0mの世界と、深海という深い世界との意外なつながりというのも感じてもらえたらうれしいです。
また、上映コーナーはかなり充実していると思います。12分の映像を今回用に編集しましたが、深海魚のリュウグウノツカイの生きている姿をはじめ、僕が漁港で這いつくばっている姿など(笑)、いろいろと入っていますのでなかなか見ごたえがあるんじゃないでしょうか。
未来:魚に詳しい家族も楽しめますし、海や魚のことが全然わからないという人も楽しめる内容になっているんですね。そのほかの見どころは?
25日(土)には、僕が登壇するトークショーがあります。また、実際に僕が使っている岸壁採集道具を展示するコーナーもあり、これを展示するのも初めての試みです。
物販コーナーには、紹介した2冊の本や、今回のために作った「魚の目缶バッジ」と「幼魚缶バッジ」に注目してほしいです。これ手作りなんですけど(笑)、あわせて300種類以上あるんです。
「魚の目缶バッジ」は1種2個、「幼魚缶バッジ」は1種1個限りで置いてあるので早いもの勝ちになっています。
ほかでは見られないマニアックな物販コーナーがひっそりとあると思うので、そこもお楽しみいただけると。あと記者会見などで後ろに社名のロゴが出るボードのような感じで「魚の目」がダーッと並んでいるフォトスポットを作りますので、気持ち悪くないと思った人は、ぜひそこで写真を撮って拡散していただけたらうれしいです。
【展覧会タイトル】:『岸壁採集の幼魚展』
【会期・会場】:2021年12月22日(水)~12月30日(木)・京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンター A館6階アウラホール(聖蹟桜ヶ丘)
「岸壁採集の幼魚展」の見どころをチェック!
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