子ども時代に出かけた美術館や博物館の面白さは子どもにとって一生ものの体験です。とはいえ、子どもと美術館や博物館に行っても途中で飽きてしまったり、展示内容を楽しむ方法がわからないという悩みも聞きます。
人気の美術館や博物館の展示の中から家族でぜひ出かけてほしいものをセレクトし、まずはこれだけは見てみよう! という鑑賞ポイントを紹介します。
5回目になる今回は、「PLAY!MUSEUM」(立川)で開催された「柚木沙弥郎 life・LIFE展」から「絵本の原画展」の楽しみ方にせまりました。教えてくださったのはキュレーターを務める林綾野さんです。(PLAY!MUSEUMの展示会に招待されました)
開催された「PLAY!」はミュージアムエリア「PLAY!MUSEUM」と上階の屋内遊び場「PLAY!PARK」(別料金)からなるアートとの出会いを体験できるスポットです。子どもが自然にアートと触れ合う体験をするにもぴったりの場所です! ぜひ出かけてみてくださいね。
「柚木沙弥郎life・LIFE展」の見どころとは? 99歳で最先端! 現役アーティストの心意気
未来へいこーよ「柚木沙弥郎(ゆのき さみろう)さんについて教えてください」

林綾野さん「柚木沙弥郎さんは型染で大胆な模様を染めた作品で知られるアーティストです。口癖は『ワクワクしなければつまらない』。おしゃれでポップで可愛いらしくモダンな作品は、人気の家具ショップのイデーや、ハイセンスなホテルとして世界で注目を集めているACE HOTELの日本のフラッグシップ店『エースホテル京都』とのコラボレーションでも注目されています。そんなにも注目を集める理由は、作品に柚木さんが戦前戦後を通じて70年以上続けてきた強い信念が貫かれているのを感じられるから」

「今回はそんな柚木作品を、『アートのある人生がこんなにも楽しいんだ!』という出会いを演出してくれるPLAY!MUSEUMで開催することになりました。渦巻き状の木の展示回廊を周った後には子どもの両手を広げたよりも大きな染色作品が吊り下げられた『布の森』の展示もあり圧巻です」
「絵本の原画展」を子どもと見る! 3つのポイント
未来へいこーよ「柚木さんの絵本の原画と染色作品の両方に出会える意欲的な展示ですね」
林綾野さん「『柚木沙弥郎 life・LIFE展』の小文字の『life』は『暮らし』、大文字の『LIFE』は『人生』を意味します。暮らしの中で使われる工藝作品を作り続ける柚木さんのアーティスト人生を感じられます」

「鑑賞するときには意味や作品の背景を考えてアタマで理解するのではなく、理屈を抜きにして作品をカラダで感じる気持ちで作品の前に立ってみましょう。その時に使うのはそれぞれが自分自身の中に持っている感覚や記憶です」
【ココに注目してみよう! 絵本展】
●作品によって蘇る幸せの記憶を呼び起こす
●原画と絵本の違いを楽しむ
●作家の原画以外の世界を愉しむ
「例えば風がふわっとふくと気持ちがいい、誰もが持っているそういう共通の感覚を柚木さんの絵本や染色作品は刺激します。一たび感覚が呼び覚まされると作者とコミュニケーションをとるようなワクワクする体験ができ、それがアートとの出会いの愉しさです」

「今回は柚木さんが1990年代から手掛ける絵本作品の原画約80点と、紙粘土と布で作られたユーモラスな人形約20点、染色作品約50点を展示し、絵本だけでなく柚木さんの作品世界全体を感じられるように企画しました。ぜひ家族で作品との出会いを愉しんでください」
絵本展の楽しみ方(1)作品によって蘇る幸せの記憶を呼び起こす
未来へいこーよ「注目したい作品を教えてください」
林綾野さん「最初の展示は『絵本のみち』。柚木さんが手がけた絵本の原画のコーナーです。いつか絵本に取り組みたいと考えていた柚木さんに70歳を超えてようやくその機会が訪れました」
「展示でまず取り上げたのは生後10カ月から2歳の幼児向け絵本『こどものとも0、1、2』シリーズの『たかい たかい』(福音館書店)です。人間や動物の子どもが大人に抱き上げられてキャハキャハ笑う様子に思わず笑みがこぼれます」

「私はこの原画の前に立つと、大人に高い高いをしてもらって目線が変わるだけで楽しい、膝に抱き上げてもらうだけでうれしい幼い日のカラダの感覚が噴き出るように蘇ってくるのを感じます」

「ほかにも『つきよのおんがくかい』(山下 洋輔作・福音館書店)、『そしたらそしたら』(谷川 俊太郎・福音館書店)のように、意味を追求するよりも音と絵をカラダで感じて愉しむ作品や、『せんねんまんねん』(まどみちお・福音館書店)や宮沢賢治の作品が並びます。お気に入りの作品をぜひ見つけてみてください」
絵本展の楽しみ方(2)原画と絵本の違いを楽しむ
未来へいこーよ「絵本と原画の印象が違うものも多いですね」
林綾野さん「型紙を彫って染めるという型染の技法で作られた作品はとくに力強い存在感を感じるものが多いです」

「今回の展示では型染の原画の存在感が際立つように額装にもこだわりました。通常絵本の原画は白い窓から下の絵が見えるように額装して展示しますが、今回は絵の四隅に透明のポケットをつけて白い地の上に型染の原画を乗せるようにして展示しました。厚みのある物体としての原画のチカラを感じてもらえるとうれしいです」

「また3階のPLAY! PARKでは、展示と連動した型染のワークショップも開催されています。見て感じて、実際に体験して楽しんで、刺激をたくさん受けてくださいね」
柚木沙弥郎展関連ワークショップ「する・刷る」
日時:2021年1月30日(日)までのあいだ日替わりで開催
会場 :PLAY! PARK〈ファクトリー〉
参加費:無料(別途PLAY! PARK入場料)
対象: 3~12歳の子ども
定員:10名
参加方法:定員を超える場合、参加は抽選*抽選当日の各回30分前〜10分前に受付、5分前に当選者発表
柚木沙弥郎展関連ワークショップ「する・刷る」
絵本展の楽しみ方(3)作家の原画以外の世界を愉しむ

未来へいこーよ「染色作品の迫力には圧倒されますね」
林綾野さん「柚木さんは自然などの身のまわりのものから本質的なエッセンスをつかんでそれを人間の手で洗練された模様として表現することの重要性をよくインタビューで語っています」

「私自身の中でそれがなるほどと腑に落ちたのが『萌』という作品を見たときです。この作品を目にしたときにその模様と色から大地が力強くうごめいているイメージが浮かび感動に心が満たされました」
「『布の森』のコーナーでは、温かい風、冷たい水などの多くの人が共通して持っている色や要素をまとめて展示しています。まとまりで観ることでじっくり感情移入してもらえればうれしいです。また、鳥や人間などをモチーフにしたはっきりした色使いの作品もまとめています。子どもには大人がこれを好きでしょと言うよりも、自分自身で大人が思いもよらないものを感じとって欲しいですね」

「ほかにも柚木さんのアトリエの中にあるお気に入りのキャビネットをそのまま持ってきた展示もあります。柚木さんの頭や記憶の中をのぞくように見られます」

「端切れや紙粘土を作って作られた人形の展示もキレイで可愛いだけでない造形の魅力を子どもが面白く感じるかもしれません。いずれにせよ、知って理解するのではなく、自分の心で感じる柚木さんの世界を楽しめます。ぜひ家族で訪れてみてください」
まとめ 自分の記憶や感覚を使ってアートを楽しむ

工藝家である柚木さんは絵本は子どもと大人の大切なくらしの道具でありコミュニケーションのための工藝品だと考えているそうです。
子どもの目の高さからも見られるように展示され、絵本の言葉も添えられています。子どもとじっくり絵本をたのしみながら柚木沙弥郎さんの世界を満喫したい展示です。
また、今回展示が行われている「PLAY!MUSEUM」は、展覧会を見た後に上階の「PLAY!PARK」(別料金)で思いきり遊ぶ! という楽しみ方ができるスポットです。子どもと美術館に行くのは少し気が引けてしまうというファミリーの美術館デビューにもおすすめです!
柚木沙弥郎プロフィール
染色家・アーティスト。1922年、東京都生まれ。 1942年、東京帝国大学文学部美学・美術史科に入学。1946年、岡山県の大原美術館に勤め、柳宗悦の「民藝」に出会い、芹沢銈介に師事し染色家に。1972年に女子美術大学の教授、1987年からは学長を務めた。染色のほか、版画、人形、絵本などさまざまな作品を制作・発表。国内の公立美術館のほか、フランス国立ギメ東洋美術館でも展覧会を開催。
【展覧会タイトル】:『柚木沙弥郎 life・LIFE』
【会期・会場】:~2022年1月30日(日)・PLAY! MUSEUM(立川)
「柚木沙弥郎 life・LIFE」の見どころをチェック!
【子どもと行きたい・美術館・博物館一覧】
8月/「鉱物展」の楽しみ方/角川武蔵野ミュージアム
9月/「体験型美術展」の楽しみ方/びじゅチューン展
10月/「ゴッホ展」の楽しみ方/東京都美術館
11月/「好き」を見つける展覧会の楽しみ方/君も博士になれる展
12月/「絵本原画展」の楽しみ方/柚木沙弥郎 life・LIFE展 PLAY!MUSEUM(この記事)
1月/「北斎展」の楽しみ方/すみだ北斎美術館
※内容は予定です。都合により変更する場合があります。