
子ども時代に出かけた美術館や博物館の面白さは子どもにとって一生ものの体験です。とはいえ、子どもと美術館や博物館に行っても途中で飽きてしまったり、展示内容を楽しむ方法がわからないという悩みも聞きます。

第7回は「バンクシー展」を紹介します。2021年の3月に横浜からスタートし、大阪、名古屋、福岡、広島と続いて6カ所目となる注目の展示で、札幌への巡回も追加発表されました。
教えてくれるのは2022年3月8日(火)まで原宿で開催されている「バンクシー展 天才か反逆者か」のプロデューサー・小林将さんです。
「バンクシー」とはどのようなアーティスト?

未来へいこーよ「非常に大規模な展覧会で、入口のアーティストスタジオの再現からバンクシーの世界に引き込まれますね。バンクシーとはどのようなアーティストでしょうか?」

小林将さん「バンクシーはイギリスのブリストル出身の正体不明のストリートアーティストです。街角の建物の壁面などに短時間で作品を制作し、制作途中で警察が来てもすぐに逃げられるように、抜き型とスプレーで表現するステンシル技法を用います」

「展覧会の入口に設置したアーティストスタジオには、スプレーが並ぶ棚、バンクシーの有名な作品のネズミやサル、象徴的なメッセージのステンシルの抜型などを再現しています。また長年マネージャー兼カメラマンを務め行動を共にしたスティーブ・ラザリデスが撮影したバンクシーの写真も展示しています」
バンクシー展のポイント(1)キャッチーでオシャレな見た目と強い社会批判の「ビジュアルプロテスト」
未来へいこーよ「『バンクシー展 天才か反逆者か』の見どころを教えてください」
小林将さん「今回の展示では。貴重なオリジナル作品を含む、版画、立体オブジェクトなど70点以上のバンクシー作品を始め、映像やポスターなど計100点以上の作品が集結しています。展覧会は、消費、戦争、警察、政治などのバンクシーがよくとりあげるテーマごとに作品に込められた想いが浮き上がるように構成しています。これほどの数の作品を一度に目にする機会はなかなかないので、ぜひ多くの方にお越し頂きたいです」

未来へいこーよ「グレーを背景に貼り付けになったキリストが両手にたくさんのショッピングバッグを持っている『キリスト・ウィズ・ショッピング・バッグズ』には驚きますね」
小林将さん「本来キリストの誕生日だったクリスマスがショッピングのための日になり、本質的な意味を見失って消費の日になっていることを痛烈に批判しています」

「『ベリー・リトル・ヘルプス』は、世界的な大手スーパーチェーン『テスコ』の袋を旗のように掲げる子供とそれに忠誠を捧げる生真面目な表情の2人の子供を描き、大手チェーンに中小の小売店が排除されていく社会を批判しています。作品名の『ベリー・リトル・ヘルプス(なんの役にも立たない)』はテスコのキャッチフレーズ『エブリー・リトル・ヘルプス(ささいなことでも役に立つ)』からきているのも風刺が効いています」

「バンクシー作品は色合いがかわいらしくオシャレに見えますが、ピンク色を背景に爆弾を抱えてほほ笑む少女、リボンをつけた軍用ヘリなど一見かわいらしい印象のものも、よく作品を見るとそこに込められたメッセージに気づいてゾッとします」
「子供は大人よりもピュアに鮮烈に違和感を感じとります。親子で見るときには、それぞれが気になった作品から感じる違和感について話し合ってみるのもおすすめの鑑賞法です」
バンクシー展のポイント(2)「ディズマランド」やラット作品に見る敏腕マーケッター! バンクシー
未来へいこーよ「会場で流されているディズニーランドならぬ、『ディズマランド』のインスタレーションのコマーシャル映像も刺激的でした」
小林将さん「ディズマランドはバンクシーがロンドン郊外に3週間限定でオープンさせたディストピアのようなアミューズメントパークです。どのようなパークかは会場でも流れている動画(上に掲載)を見ていただくとよくわかります」
「入場無料のテーマパーク型インスタレーションとしてオープンしましたが、開催前にコレクターにディズマランド終了後にディズマランドの作品を売りに出すことを伝えて莫大な収益をあらかじめ確保してオープンしました。消費主義を批判しながらもそれを逆手にとったマーケティングを行う。一筋縄に正義のヒーローと言えないところがバンクシーのマーケッターとしてのすごさです」

未来へいこーよ「日本でバンクシーが話題になった例としては、東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)の日の出駅近くの防潮扉に描かれたネズミの絵ですね」
小林さん「ラットはバンクシーが悪い環境の中でもたくましく生き抜く労働階級の人々のモチーフとしてよく使うものです」
「あのときメディアでは、作品が偽物か本物ということで話題になりましたが、バンクシーにとっては小池都知事のような公の人が『バンクシープロレス』とでもいうような状況に参加して真偽がまだわからないバンクシー作品と思われるネズミの絵を2週間限定とはいえ東京都庁第一本庁舎2階のロビーに展示する状況になったことに意味があったといえます」
バンクシー展のポイント(3)『ガール・ウィズ・バルーン』 バンクシーを象徴する作品の一つ
未来へいこーよ「オークション中にシュレッダーにかけられた『ガール・ウィズ・バルーン』も話題になりましたね」

「風刺がきいた作品が多いバンクシーですが、やさしく明るい未来を描いたとも受け取れるファンに愛されている作品です。この作品のオークション中に突如シュレッダーが作動し作品の半分ほどが切れてしまいましたが、シュレッダーが途中で止まったことで同じスクリーンプリントでもシュレダーにかけらたものは当時の落札価格約1億5,000万円から今では更に何十倍もの値段がつき、バンクシーを象徴する作品となりました」
「ラフ・ナウ」から見る! みんながバンクシーを追いかける時代に!
未来へいこーよ「1年を超える長いバンクシー展の中で、人々がバンクシーを見る目がかわってきていると感じますか?」
小林将さん「この1年の間にバンクシーの魅力に夢中になる人々がどんどん増えていることを肌で感じます」

「今回の展示の中では『ラフ・ナウ』という作品を、バンクシーが今の未来を予想していた象徴的な作品として取り上げました。今は笑うがいいさ、いつか俺たちの時代がやってくる。という内容のプラカードを下げたサルの作品です」
「バンクシーがストリートアートとして自身の地位が低くみられていた2000年代初期の作品で、自分やストリートアートをサルにみたてて、時代がかわれば自分は必ず注目を求める存在になるのだと予言しているような作品です」
「バンクシーが言うように、みなさんがバンクシーを理解し、バンクシーを追いかけるようになった今は、当時バンクシー作品より高く評価されていたクラシカルな作品よりもバンクシーが社会に与えるインパクトが大きくなりました」

「当時、バンクシーは自分のことを『次世代のアンディ・ウォーホル』と表現していましたが、本当に並び称されるところまでストリートから上り詰めていったことになります。今回の東京展では、はじめてアンディ・ウォーホルのマリリン・モンローと、その作品からインスパイアされたバンクシーのケイト・モスの作品を並べて展示しています」

「展示は全ての作品の撮影が可能で、撮影スポットも用意しています。気になった作品はぜひ撮影して時間を置いて見直してみてください。また作品のオーディオ解説を公式サイトからダウンロードできるアプリで無料公開しているので、子供と訪れる際には事前に聞いて気になる作品を見つけておくのもおすすめです」
同時代を生きるアーティスト バンクシー
同時代を生きるアーティスト、バンクシーは大人にとっても子供にとっても注目しないではいられない存在です。
展示会場は、世界にアートを通じて訴えずにはいられないバンクシーの迫力に満ちています。刺激的なアート展「バンクシー展 天才か反逆者か」にぜひ訪れてみてください。
【展覧会タイトル】:『バンクシー展 天才か反逆者か』
【会期・会場】:
東京展2021年12月12日(日) 〜 2022年3月8日(火)
札幌展2022年3月24日(木)~2022年5月31日(火)
※詳細は公式サイトをご確認ください。
バンクシー展 天才か反逆者か
【子どもと行きたい・美術館・博物館一覧】
8月/「鉱物展」の楽しみ方/角川武蔵野ミュージアム
9月/「体験型美術展」の楽しみ方/びじゅチューン展
10月/「ゴッホ展」の楽しみ方/東京都美術館
11月/「好き」を見つける展覧会の楽しみ方/君も博士になれる展
12月/「絵本原画展」の楽しみ方/柚木沙弥郎 life・LIFE展 PLAY!MUSEUM
1月/「北斎展」の楽しみ方/すみだ北斎美術館
2月/「バンクシー展」の愉しみ方(この記事)
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