子ども時代に出かけた美術館や博物館の面白さは子どもにとって一生ものの体験です。とはいえ、子どもと美術館や博物館に行っても途中で飽きてしまったり、展示内容を楽しむ方法がわからないという悩みも聞きます。

第6 回は「浮世絵」から見る日本史の楽しみ方にせまります。教えてくれるのは2022年2月27日(日)まで開催されている「北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―」を担当した学芸員・竹村誠さんです。(すみだ北斎美術館主催の展示会に招待されました)
『北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―』とは?

未来へいこーよ「葛飾北斎の魅力と今回の展示である『北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―』について教えてください」
竹村さん「北斎は江戸時代の浮世絵絵師で、90年近い生涯のなかで全貌が把握できないぐらい多くの作品の制作に携わりました。描いても描いても満足せずに、明日はもっと上手に描けると次の作品に取り組み、富士山を描いた有名な『冨嶽三十六景』などのほかに『北斎漫画』と呼ばれる絵のスケッチなどでも知られます。また、ゴッホなどの印象派の作家にも影響を与えた日本が誇る浮世絵師です」
「『北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―』では、葛飾北斎やその弟子が歴史的人物や事件を描いた作品のなかから、主に日本史の授業で習う人物や事件をとりあげて紹介しています。子どもが歴史の授業で学ぶ徳川家康や源頼朝はもちろん2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の主要登場人物の北条義時や畠山重忠を描いた作品もありますよ」

「また展示室の入口には子どもが楽しんで作品を見られるように『なにかしら学べるワークシート』を設置しました。答えは赤色で印刷されていて、一緒に置いてある赤シートで答えを隠しながら展示を見て答え合わせをすることができるのでぜひ挑戦してくださいね」
歴史書を学んで作品を描いた葛飾北斎
未来へいこーよ「小学生の子どもがよく知る歴史的事実を扱った注目の作品を教えてください」

竹村さん「まず注目してほしいのは、展示のポスターやチラシにも使った葛飾北斎の『画本武蔵鐙』下 上杉輝虎入道兼信 武田晴信入道信玄(通期)です」
「上杉謙信と武田信玄の一騎打ちが行われた川中島の戦いの名場面を表した作品で、甲州の軍学書『甲陽軍艦』には“混戦のなか、白手ぬぐいで頭を包んだ武者が馬に乗って刀を抜き、突進して切りつけてきたので、信玄は立って軍配で受けた”と記された場面です」
「この作品では右上に白い手ぬぐいの上杉謙信、左下に軍配で受ける武田信玄が描かれ、北斎もこの記述にならって描いたのではないかと推測されています」
「歴史は資料集や図版を見ることでより印象的に覚えやすくなります。今回の展示では葛飾北斎による生き生きとした表現で歴史上のヒーローやヒロインが登場する作品を紹介しているので、ぜひ注目してほしいですね」
「仏教伝来」! 北斎が描いた歴史的場面
未来へいこーよ「歴史的な場面でほかにも注目の作品はありますか?」
竹村さん「『三国伝来記』(前期)は、葛飾北斎による長野県の善光寺の本尊の由来記です。世界で2冊ほどしか見つかっていないので、ここで見ないと見る機会がほとんどない貴重なものです」

「左奥の御簾の奥に欽明天皇が座り、その前に百済から来た2人の僧が鳳輦(ほうれん)に覆われた仏像を捧げています。『仏教伝来』は日本史で学ぶ重要事項ですが、まさに大陸から伝来した仏像に天皇が出会うシーンを北斎が描いています」
「今回の展示解説では歴史的事実として認められている事象を白地の部分に、古文や物語の中で知られていることを色がついた囲みで記述して紹介しました。また太字にしているのは高等学校の日本史の頻出事項です。事実と確認されていることを整理しながら解説を読んでほしいですね」
本能寺の変を描いた作品にも注目!
未来へいこーよ「戦国時代で注目の作品を教えてください」
竹村さん「二代柳川重信の『日本百将伝ー夕話』十二(通期)からは、本能寺の変が描かれた場面を紹介しています」

「右の奥にいるのが驚いたように立ち尽くす織田信長、真ん中に森蘭丸、森坊丸の小姓の兄弟。左奥には明智の桔梗紋が入った旗が見えます。信長に忠義を尽くして命をかけて仕える2人の家臣が真ん中に大きく凛々しく描かれています」

「一方、その横に展示している、同じく二代柳川重信の『主従心得草』五編 上では、左ページの織田信長が右ページの桔梗紋の衣服を着た明智光秀を叱責するシーンを描いた作品です。これは江戸時代の人々に道徳的なことを伝えた書籍で、詞書には『気に入らぬ人を憎むは、わが身を切る刀を研ぐと心得ていよ』とあります」
「信長の卑劣な行いを目にするたびに明智光秀は織田信長への反乱心を刀を研ぐように強い決意としていったと言われており、詞書を読んで手前に描かれた一心不乱に刀を研ぐ研師に目を向けると教訓が身に沁みます」
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にまつわる作品も展示
未来へいこーよ「2022年のNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の登場人物描いた作品もありますね」

竹村さん「『鎌倉殿の13人』の主要登場人物を葛飾北斎が描いた『畠山重忠』(後期)は、鵯越(ひよどりごえ)の逆落としで馬を怪我させてはいけないと馬を背負って坂を駆け降りるシーンを描いたものです。軍記物語『源平盛衰記』に記された話に基づいて描かれたものと考えられる迫力あふれるカラーの摺物です。大河ドラマと作品を合わせてみるとより面白く感じてもらえるかもしれません」

「左ページに畠山重忠を、右ページに北条義時を描いた『星月夜顕晦録』二編一も通期で展示します」

「作品を替えて通期で展示する葛飾北斎の『浮絵一ノ谷合戦坂落之図』は一の谷の戦いを描いた作品で、右手には平氏軍の背後にある鵯越(ひよどりごえ)の断崖を駆け降りて源義経軍が奇襲する様子が描かれています」
「葛飾北斎は読本(よみほん 現代でいう挿絵付きの小説)の挿絵で人気を博したことからも面白い人物描写や画面構成が得意です。そうした北斎が描いた人物や事件を観ることで歴史がより立体的に感じられます。ぜひ家族で出かけてください」
まとめ 歴史的場面を北斎の視点でみる面白さ! とにかくカッコイイ北斎の描いた歴史的人物たちに注目!



今回の展示は葛飾北斎の有名な「冨嶽三十六景」などの作品とはまた違った魅力にふれられる展示です。
人物や場面も衣装の模様の一つ一つまで丁寧に描きこまれ、見る人を引き付ける力があるのでぜひ家族で出かけてみてくださいね。
【展覧会タイトル】:『北斎で日本史―あの人をどう描いたか―』
【会期・会場】:2021年12月21日(火) 〜 2022年2月27日(日)
前期:12月21日~1月23日 後期:1月25日~2月27日
※詳細は公式サイトをご確認ください。
北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―
【子どもと行きたい・美術館・博物館一覧】
8月/「鉱物展」の楽しみ方/角川武蔵野ミュージアム
9月/「体験型美術展」の楽しみ方/びじゅチューン展
10月/「ゴッホ展」の楽しみ方/東京都美術館
11月/「好き」を見つける展覧会の楽しみ方/君も博士になれる展
12月/「絵本原画展」の楽しみ方/柚木沙弥郎 life・LIFE展 PLAY!MUSEUM
1月/「北斎展」の楽しみ方/すみだ北斎美術館(この記事)
2月/「バンクシー展」の愉しみ方
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