【子育て人生相談】「自分は優秀」と家で話を盛る子ども。何かストレスを感じているではと心配

子育て人生相談
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今回は、「自分は優秀」と学校での話を実際よりもかなり盛り気味で話をしているという娘さんがいるママからの相談です。娘が「こうありたい」という理想と現実とのギャップにストレスを感じているのではというお悩みについて、専門家にアドバイスしてもらいました。

このお悩みにアドバイスをくれたのは…

柳沢幸雄先生
東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。

Q.「自分は学校で優秀」と家で話を盛る子ども。何かストレスを感じているではと心配

小学校4年生の娘についての相談です。娘が学校での様子を実際よりもかなり盛り気味で話をしているようなのが気になっています。例えば「私、クラスで2番目に足が速くて、1番早い子と私が選ばれて、体育の授業でその子と私に他の子が勝てるかの競争をしたの」や、「勉強ができる子が教室の後ろの方の席に座るんだけど、私も先生に選ばれて後ろの席に座ってるの」といった話です。公立の小学校に通っているので特定の子だけが中心になったり、特別扱いをされたりするような授業や席決めをするようなことはあまりないのではと思うのと、運動会や通知表などを見る限り娘は真ん中くらいの足の速さや成績なので、優秀だからと選ばれるような感じでもありません。不思議だなと思いつつ、娘の話は「そうなのね。それはすごいね」と言ってそのまま聞いています。
最初は子どもらしい妄想なのかな、とあまり気にしていなかったのですが、何回か続いているので、もしかしたら「こうありたい」という理想とのギャップにストレスを感じている、もしくは「こうあってほしいと期待されている」とプレッシャーを感じているからなのかもしれないと心配になってきました。娘には、得意なことを伸ばしていってほしいと思っており、勉強だけでなくお手伝いなど、がんばったことをほめるようにしています。ただ、4年生になり塾に通い始めて、塾では中の下くらいのクラスにいることと、最近成績も少しずつ下がってきていることもあり、それがストレスの一因になっているかもしれないとも思っています。娘は明るい性格で友達も多く、自分と友達を比較して悩んでいるような様子はないです。
(小学校4年生の女の子のママ)

A. 子どもは親の思いを肥大化して映す鏡、子どもは親とは違う人格と認識すべし

どうしてお子さんが話を盛ってしまうのか。どうしてお子さんはその話し方が心地よいものになってしまったのか。その一番の根本が何なのかがわからないと、そして親が子どもにどんな対応の仕方をされているのかを細かく見ないと、この相談への対応の仕方が決められないところがあります。
まずお子さんが話を盛っているのかどうか、事実の確認が必要です。次に盛っているのであれば、もしかすると、親自身は気が付いていないけれども、自分の子どもにはこうあってほしいという暗黙のプレッシャーをかけていて、子どもはその親の期待に応えようとがんじがらめになっている可能性もあります。その場合は、おそらく、子どもが優秀であると親が嬉しい顔をしていることを子ども自身が感じとっていて、そのような盛った話を言葉に出してしまっているのかもしれない。なぜ、嘘をついてまで盛ってしまうかというと、子どもは自分ひとりでは生きられないから。親が支えてくれなければ生きていけないため、親が機嫌よくなるように、親から見た自分の評価が上がるように、生き物として生き残る上での最善の選択をしている。つまりこれは人間の本能的な行動なんです。

私は、「子どもは太陽ではなくて、いわば月である」と思います。親の光を浴びて自分の中でいろいろ消化してその光を反射して表に出していく。つまり、子どもは親の姿や期待、思いを映し出しています。また、「子どもは親の鏡」ともよく言うけれども、鏡と言っても平面鏡ではなく、凹面鏡や凸面鏡だと思うんです。親の対応をそのまま映し出すのではなく、ある部分だけ肥大化して強調して映し出してしまう。なので、この娘さんについても、親の無言のプレッシャーや期待感が子どもの視野や本来の姿を狭めているのかもしれません。

私は子育ての中でよく、子どもを『誘導』するのが大事、という言葉を使います。
それには二つポイントがあって、一つは、子どものやろうとしていることや、子どもの好奇心を否定しないことです。親は子どもが何かに興味を示したら、それにちょい足しをしてあげるのがいい。例えば、昆虫採集に興味を持ったなら、一緒になって昆虫採集をして、それによって子どもが次第に標本に興味を持ち始めたら今度は博物館に連れて行ってあげる。このように、親がちょい足しをしてあげることで自然と興味が広がって、子どもの好奇心が少し変化します。その変化して曲がった先が、社会や親にとって望ましいものであれば、そのまま伸ばしていけばいいのです。

興味の対象が変わってもいいんですよ。例えば小学校4年生の子どもだったら今まで10年しか生きていないわけだから、意識を持つようになってからは5年くらいしか経っていなく、知らないことばかりです。新しいことに触れたら、それが楽しくなってすぐ前のこと忘れてしまう。習い事なども同じで、子どもの興味が移り気でころころ変わるのは当たり前のことなんです。興味の対象が変わっていったら、子どもの世界がひとつ広がったんだなと思えばいい。

子どもをうまく誘導するのに必要な二つ目は、勉強をしなさいというような命令はしないことです。スタートはすべて子どもからにしない限りうまくいかないので、勉強しなさいと言ってもしたくないものはしない、発展もないと思います。

一方、親の方だけれども、このお母さんは、自分たち親の期待がいけないのかなと薄々感じているのでしょう…お母さんが今の状況はあまり望ましくないと感じたならば、お母さんの心理をきちんと理解してくれる、臨床心理士やカウンセラーなどの専門家のカウンセリングを受け、親自身がよく話をするのがよいと思います。

学校の心理士でもいいですし、自分で探すなどして信頼できる臨床心理士と出会ってもいい。家での出来事とか子どもへの対応とか、今まで自分がどのような育て方をしてきたのかなど、守秘義務がある臨床心理士にざっくばらんに全部ぶちまけてほしい。もしかすると、自分ができなかったから子どもにだけはと願うなど、お母さんが満たされなかった夢を子どもに託しているのかもしれません。もしくは反対に、自分がいい学校に行って社会的に成功したから、子どもにも同じような道を歩んでほしいと願っているのかもしれません。だけども、親と子どもは全くの別人格です。まず、専門家の人と話をしながら、親がどういう光を発していたから子どもがそれを反射しているのか、これからはどう対応していったらいいのかなどを考えていくのがいいでしょう。そういったことを気付かせてくれるような人と話をすると親は変わります。親は本当に子どもがかわいいと思って育てていますから。

子育ての軌道修正をするとき、改善するのにかかる時間は軌道修正するまでにかかった期間の半分と言われています。娘さんは今10歳だから、現在のこの状況が改善する状態になるまで、長ければ45年ほどかかるかもしれません。そのころは、ちょうど思春期に入るから、その時期にうまく路線を乗り換えてあげると、非常にすっきりいくかもしれないですね。

もし万が一、子どもが親を映す鏡だと親が自覚せずに、そのまま子どもが本来の姿をゆがめて大人になっていってしまったら、それは親の責任になります。子どもにとって非常に難しい状況です。いわゆる、子どもは親を選べないという意味の「親ガチャ」とも言えるでしょう。

「親ガチャ」など「子どもがどんなこともめげずにたくましく生きるために必要なことは?」への先生のアドバイスはこちら

そんな風に親が子どもを無意識に追い詰めないために、子どもは親とは別の人格だと親がちゃんと認識し、子どものやろうとしていることや、子どもの好奇心を否定しないことがとても大事なんです。
自己肯定感が強い子ほど、親の職業は継がないものです。興味ある事に徹して自由に育ち、親なんて関係ないじゃないかとなるのです。そういう子はまず親を否定し、自分自身を確立します。そうなっていたら、のびのびと育ったという証拠です。子どもの本来持っているものを親はうまく感じ取って、そこにちょい足しして、誘導してよい方向に曲げてあげることが、子どもが自分らしく生きることにつながると思います。

私自身も自分のしていた行動や言動が子どもに真似されることが多々あり、子どもは親の姿を本当によく見ているのだなと背筋が伸びる思いをしています。子どもが興味あることをよい方向に伸ばしていけるよう、まずは親としての行動を自覚して意識を変え、たくさんの引き出しを用意してちょい足しをし、ありのままにのびのびと育てようと思いました。今回も貴重なお話をありがとうございました!

お話を伺ったのは…柳沢幸雄先生
東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。シックハウス症候群・化学物質過敏症研究の第一人者。ハーバード大学大学院の准教授・併任教授を経験したこともあり、教育分野に熱心に取り組む。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。『「頭のいい子」の親がしている60のこと』『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』など、子育てに関する多数の著書がある。

柳沢先生の記事
子どもを叱る時間が長い親は自己肯定感が低い!? 褒める力の育み方
親の「ちょい足し」で世界が広がる! 子どもの知的好奇心の育み方

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小学生と幼稚園児の男の子2人のママ。猪突猛進な自由人の長男と、几帳面でパンダ好きな次男の子育てを中心に、ライターとしてお料理やインテリア、ファッション、子育てなどの記事を執筆中。趣味は、旅行・シュノーケル・インテリア・カフェめぐり・音楽鑑賞・ドラマ鑑賞。子どもと行きたい旅行先は、南伊豆ヒリゾ浜。

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