今回は、昨今の子どもが起こす事件や自死などのニュースをみると胸がしめつけられるというママからの相談です。子どもが、どんなことがあっても潰れずたくましく生きていけるようになるためにはどんなことが必要なのかというお悩みについて、専門家にアドバイスしてもらいました。
このお悩みにアドバイスをくれたのは…
柳沢幸雄先生東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。
Q.子どもが起こす事件に不安、どんなことがあっても子どもがめげずにたくましく生きるために必要なことは?
昨今、子どもが追い詰められて殺傷事件を起こしたり、自分で命を絶ってしまったりする事例を見聞きすると、胸がしめつけられる思いになります。子どもが、どんなことがあっても、潰れずたくましく生きていけるようになるためにはどんなことが必要なのでしょうか?
(小学4年生のママ)
A. 友達の存在や自分の居場所、そして図太さを身につけることがその子の救いになる
子どもの殺傷事件などの背景の一つに、例えば親が望む姿にならなくてはいけないと子ども自身が思ってしまっていて、それでも自分はそこまで到達できないし、なろうとしていたものを自分が本来やりたいのかどうかも分からなくなり、それでも学校や親からも逃れ切れずに、がんじがらめになって無力感や閉塞感に苛まれてしまったりしている状況に子どもが置かれている状況があるかもしれません。子どもは自分の力の限界をそれなりに感づいているものです。しかし親や学校は期待する。これはいわゆる、子どもは親を選べないという意味の「親ガチャ」の一つとも言えるでしょう。親ガチャの状況で育っていても、そんな状況から抜け出して子どもの方が親を捨てて、自分の人生を生き始めるたくましい子どももいれば、ある日事件を起こしてしまう子もいます。
そうならないために子どもの助けとなることが三つあります。
一つ目は『友達の存在』です。友達の存在や交友関係があれば、自分の存在価値を感じることができます。例え、なりたいものになれなくても、一緒にいることで、友達が力になってくれたり、友達にできないことは自分がやったりなど、補いあえるような人間関係を作ることが大事なんですね。
例えば、私が校長をやっていた開成高校では、模擬テストの結果で順位が下位の方になっても、ちゃんと進級したぞ!と誇りに思っている生徒もいましたし、成績に関係なく、これがすごい、これが好き、と言えるものをそれぞれが持っていました。成績のいい上位の子とそうでもない下位の子とが仲良くつるむことも多く、生徒たちは、たいがいそれぞれの得意なことや好きなことで生きていきます。中には行動力があってその後起業家になる子もいるんですが、弁護士や公認会計士になった元同期生の仲間を事業のパートナーにして、支えてもらっているケースなどもたくさんあるんです。子どもの時の友達関係がその後の社会人になってからも自分の存在価値や支え合う関係にもなっているんですね。
二つ目は『自分の居場所を見つけること』です。学校だったら、部活動に入れば部活の部室が居場所になることもあります。部室には部活の先輩もいて、学校のよいことも悪いことも教えてくれる。自分が居心地よくいられる場所ができ、いろいろ学んで自信もついて段々と大人になっていきます。
三つ目は『図太さ』です。人は自分の思いを成し遂げる、その積み重ねで、図太さやたくましさを作っていきます。例えば、自分の考えを伝えても、否定や命令で断ち切られた場合、大半の人は指示待ちばかりするようになってしてしまいます。このような指示待ち族を作るのは非常に簡単で、社会人でもそうだけれど、何かアイディアを出したときに2回連続して否定されると、会議で発言できなくなってしまうことが多く、自分でものを考えなくなるんです。つまり、自分の思いがなくなってしまうんですね。誰かの指示に従って行動することが自分が生きる上で一番安全な方法だと思い込んでしまうと、そこで自分自身の進歩が止まってしまいます。
そうはならないために、親にしても、会社の上司にしても、自分のトロフィーは自分で見つけられるように育てましょう。トロフィーワイフという言葉を知っていますか?多くの人から羨ましがられるような人と結婚して、自分の人生をよりよく見せるという考え方を表わした言葉ですが、自分のトロフィーは自分で作るよりしょうがない。そして自分にとって何がトロフィーかは自分で決めるしかないんですね。
自分の子どもがよい学校に合格したとかも、それは親の努力もあるけれど、子どもの合格は親自身のものではないんです。
子どもが自分のトロフィーを自分で見つけるために必要なのは、親が子どもをうまく誘導することであり、それには、子どもが何か言ったらまずはYESと言うことです。ただYESというだけでは不足があるのだったら、これを足すともっと面白くなるよ、とちょい足しして誘導していくのがいいと思います。
自分の思いがない、指示待ち人間にしないために、そのちょい足しができるかできないか、親あるいは上司の力量によると思います。子どもができたどんな小さなことでも、自分にはこれができるんだ!ということを、ひとつひとつ積み重ねて自信をつけて、たくましい人生の選択をしていってほしいと思います。
とはいえ親ガチャの家で育ってしまったら、どうしたらいいのかということもあるでしょう。中学高校時代は働くことができず、自分で稼げない時代なので、自分の人生をまだ選べません。そういう子どもには、自分で稼げる大学生になったら家を出たらいいと思います。そこまでは何とか乗り切ってほしい。大学生で自立できるようになったら自分で稼いで、自分の人生を切り開くことができる。好きな道を突き進んでも、極端な話、大学を辞めてもいい。そうやって自分の人生を模索していけるようにがんばってほしいと思います。
本来ならそういった悩みを持っていた場合、学校の先生方が、相談に乗ってアドバイスをくれたらいいのですが、現在ある多くの学校は、学校経営を安定させるため、大学進学などの出口実績を高めようとしているケースもあります。そういう学校は受験テクニックなども教えてくれるから、行ってみたい学校や進路がうまくはまったらよいのだけれども、はまらないとしんどいかもしれません。
例え、親に望まれた学校や学部に行けなくても、やりたいことをやって生きている、イキイキと生きることを大切にしてください。そうなるためには、自分で自分のことを評価できて、自分で自分の人生の選択をしながら生きている、という実感があることが大事です。そうすることでたくましく生きていけると思います。
ああしなさい、こうしなさいと言うのは簡単で、将来のことに関してもこの道へ進みなさいと言われ、子どもの意見も気持ちも反映されない状況は、想像してみても辛いものがあります。先生のおっしゃる3つのことを大切にして、子どもが自らやりたいことが見つかったら、親として背中をそっと押せるような、そんな関係が築けたら素敵ですね。大変、貴重なアドバイスをありがとうございました!
東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。シックハウス症候群・化学物質過敏症研究の第一人者。ハーバード大学大学院の准教授・併任教授を経験したこともあり、教育分野に熱心に取り組む。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。『「頭のいい子」の親がしている60のこと』『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』など、子育てに関する多数の著書がある。
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