今回は、小学4年生の息子とママの板挟みとなって悩んでいるというパパからの相談。毎日繰り広げられる激しい喧嘩をなんとかしたいと願うパパの切実な思いに、専門家の先生からアドバイスを頂きました。
このお悩みにアドバイスをくれたのは…
柳沢幸雄先生
東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。
Q.ママと息子の対立をなんとかしたい…
小4男子のパパです。息子と妻の対立が激しくて悩んでいます。
自分は、子どもにはあまりガミガミ言わず、宿題をしたり塾に行っていたりするだけで、まぁがんばっているなと思いますし、宿題が終わらなかったら学校で怒られればいい、自分で学んでほしいと思っているのですが、妻はそうではなく、宿題をやらないで学校に行くなんて考えられないし、宿題を早く終わらせて夜遅くならないうちにお風呂は入ってほしい、ちゃんとした生活をしてほしいという思いが強いようです。
子どもなりにやろうとはしていて、「今やろうとしてたのに」「これが終わったらやるよ」とよく言っています。たしかに放っておけばやるのですが、時間はかかります。そんな子どもに妻がイライラし、激しく喧嘩になっています。
妻の気持ちもわかるし、でもこの激しい喧嘩はなんとかしたいしで、どうしたらいいのかわかりません。
(小学4年生男の子のパパ)
A:子どもと親は全く別の人格だということを認識すべき
まず、勉強の仕方は男性と女性で違うんですよね。女性はコツコツ勉強できるのに対して、男性はドカンドカンとしかできないんです。これは生物学的な違いで、はるか昔の人の暮らしぶりを見ても明らかです。乳幼児期の子育ては毎日コツコツの積み重ねです、おっぱいをあげるのもドカンとまとめてはできませんよね。
それに対して男性は、狩猟に行きガツンと大物を仕留めて来るわけです。現代は女性も男性も家庭や社会で担う役割はほとんど同じですが、元々生物学的な性差があるということをまず理解する必要があると思います。
そう考えると、お母さんの勉強の仕方と、男の子の勉強の仕方には違いがあることがわかると思います。小学校3年生くらいまで、歳を数えるときに8つ、9つと「つ」が付く年齢までは、子どもは男女関係なく、親の言いなりになるものです。ただ、それ以上先になると生物学的な違いが出てきます。だから、お母さんのやり方をそのまま子どもに当てはめようとしてもうまくいかない場合が多いのです。自分のやり方を子どもに当てはめようとすること自体に無理があるのです。とはいえ、お母さんはこのことになかなか気が付かないと思います。なぜなら、おそらくこのお母さんは、これまでコツコツ積み重ねたことで成功してきたんでしょう。その成功体験から、これをやれば私と同じように成功できるという考えをもって、あれこれ子どもに口出ししてしまうのだと思います。子どもと親は全く別の人格だということを改めて認識すべきです。
早くお風呂に入ってちゃんと生活をしてほしいなど、生活習慣の面でもお母さんのイライラが募り喧嘩になるとのことですが、おそらくこのお母さんは非常に制圧の強い環境で育ってきたのでしょう。いわゆる「型にはめられる教育」で、そこからはみ出ることがあると叱られるような…そのような教育を受けてきた人は、型があることで自分の精神的安定を得られるので、子どもも自分の型にはめようとしてしまうのです。ですがそれは大人が勝手に決めた型であり、その型にはまるサイボーグを作ることが教育ではありません。
教育というのは、その子どもが本来持っている素質をどれだけ伸ばしてあげられるかということだと思います。子ども自身が興味を示しているもの、自ら行動しようとするものこそが、子どもが持っている力の表れなんです。だからこそ、子どもがやろうとしないことを無理矢理させるのではなく、お母さん自身が自分と子どもは別の人格だということを認識し、子どものやり方を尊重することが大切だと思います。
生活のペースは人それぞれ違うので、お母さんのイライラを減らすことは難しいかもしれませんが、少なくとも相談者のお父さんは子どものやり方やペースを理解しているように感じます。まずはお父さんが、子どもに理解を示して寄り添ってあげることで、子どもが苦しくならないように見守ってあげるのがいいんじゃないでしょうか。
最後にもう一つ、子どもと大人の違いは、子どもは「子どもの感覚」しか知らないのに対し、大人は「子どものときの感覚」と「大人の感覚」を知っています。自分が子どもの頃のことを思い出してみてください。親に「勉強しなさい」と言われて、心地よく勉強をした記憶がありますか? おそらくない人がほとんどだと思います。自分が子どもの頃に不快だと思ったことは、子どもにもしないことです。父親でも母親でも、自分が子どもの頃に親から言われて嫌だったことは子どもにも言わない。反対に、親からされて心地よかったと思うことを子どもにしてあげましょう。
親には自身が子どもの頃の記憶がある=子どもの気持ちになって考えることができるというのは、大人の特権ですよね。自分が親からされてうれしかった記憶のあることを子どもにしてあげられるように意識すれば、親自身も日々の子育てを楽しめるようになる気がします。今回も貴重なアドバイス、ありがとうございました!
東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。シックハウス症候群・化学物質過敏症研究の第一人者。ハーバード大学大学院の准教授・併任教授を経験したこともあり、教育分野に熱心に取り組む。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。『「頭のいい子」の親がしている60のこと』『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』など、子育てに関する多数の著書がある。
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