今回は、小学2年の女の子ママからの相談。何事に対しても悔しいという気持ちが薄く、勝ち負けへの執着がなさすぎることが心配だというママに、専門家の先生からアドバイスを頂きました。
このお悩みにアドバイスをくれたのは…
瀧 靖之先生
東北大学加齢医学研究所教授、医師、医学博士。脳の発達や加齢のメカニズムを明らかに。脳科学の知見と自身の子育て経験を活かして、メディア出演など幅広く活動中。
Q:なぜ悔しいと思わないのか…
小学2年生の女の子の母親です。自分の子どもに勝ち負けへの執着がない、悔しいという気持ちが薄いのが理解できないです。例えば、公文をやっていて後から始めた子や年下の子に追い抜かれても悔しいと思うことなく、「あの子はこんなに進んだんだって~」などヘラヘラしていて、公文の課題をやらずに寝ていたり、あまりやる気がないのです。また、運動会の徒競走で練習ではずっと1位だった子を当日抜いて1位になった、喜んでいいところなのに1位になってしまったと自分を責めていたことに衝撃を受けました。私も夫も、何事も絶対に1位になりたいというタイプなのに、なぜ子どもはそうでないのでしょう。子どもは、習い事などを含めてあまり何かに強く興味を持つというものがないです。好きなことは、テレビで新喜劇を見ることや、一輪車くらいです。もっと積極的になってほしい、と思っているのですが、アドバイスをいただけるとうれしいです。
(小学2年生女の子のママ)
A:ナンバー1を目指す必要はない
まず、私はこのお悩みを聞いて、このお子さんは素晴らしいなと個人的に感じました。子どもが勝ち負けに対する執着がなかったり、悔しいという気持ちが見られなかったりすると、たしかに親としては心配になる気持ちもわかります。けれども、これはこれですごく素晴らしいことだと思います。
やはりこの世の中で、自己肯定感を高めることってすごく難しいんですよね。自己肯定感を高めるには、「ナンバー1」よりも「オンリー1」を目指せるかどうかということ。走ることでも勉強でもどんなことでも、ある一つのことで1番になろうとすると、競争すればするほど誰かと争うことになります。そして、そこには必ず上も下もいる。だから「ナンバー1」には終わりがなく、常に争い続けるような、場合によっては苦しい人生になることもあります。
ところが「オンリー1」の場合は違います。たとえば、人よりちょっとピアノが弾けて、ちょっと算数が得意で、ちょっと本を読むのが好きな子どもがいたとして、一つずつは決してずば抜けているわけではないけれど、この3つのかけ合わせで優れている子どもはなかなかいないかもしれませんよね。1番じゃなくても、「これは私だけ」と思えることがあれば、すごく自己肯定感が高まります。もちろん、「ナンバー1」を目指すことが悪いわけではありません。それも素晴らしいことだと思います。だけど、反対に1番を目指さないことがいけないことなのかというと、僕はそうは思いません。「ナンバー1」になること以外の自己肯定感の高め方があり、この子は競争ではない世界を目指しているのだと思います。
運動会の徒競走で1位になってしまったと自分を責めていたことに衝撃を受けたとのことですが、これはこの子が本質的にとても優しい子なのだと思います。思いやりや共感性が非常に高い子どもなんだと感じました。学校のクラスの中でもそうですが、社会には人それぞれさまざまな役割がありますよね。人前に出るのが得意なタイプや、算数が得意な子、走るのが速い子など…。きっと練習ではいつも1位だったお友だちを本番で抜いてしまい、なんとなくそれを壊してしまったことに申し訳なさのようなものを感じたのだと思います。これはこの子が本当に優しいという証拠で、本当に素晴らしいことだと思います。きっとこの子はこれから、やさしさを武器に生きていけますよ! この子のやさしさを見抜いてくれる友達がいたり、いろいろな人が助けてくれたりしてくれると思います。積極的なことだけが大事なわけじゃないです。
好きなことがテレビで新喜劇を見ることや一輪車くらいというのも、それだけあれば十分だと思います! 好きなことがあるというだけで素晴らしいですよ。もしいろんなことに興味を持ってもらいたいというのであれば、親子で一緒にさまざまな経験をすることですね。そうすれば「オンリー1」になる素材もそれだけ増えて、結果的に自己肯定感も高まります。いずれにしても心配するようなことは何もなく、このままお子さんのペースで育っていってほしいですね。
順位や優劣をつけて他人と比較しがちな学校生活の中でも勝ち負けに執着せずに自身を大切にできることも、たしかに素晴らしいことだと感じました。これからも思いやりや共感性に優れたこの子本来の素質を大切にしてほしいですね。今回も貴重なアドバイス、ありがとうございました!
東北大学加齢医学研究所教授、医師、医学博士。脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIは、これまでにのべ約16万人に上る。10万部を突破するベストセラーとなった「賢い子に育てる究極のコツ」の他、多数の著書を執筆。脳科学の知見と自身の子育て経験を活かして「こんなカンタンなことで 子どもの可能性はグングン伸びる!」「16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える こどもの頭がよくなるルールブック」を出版するなど、メディア出演など幅広く活動中。
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