篠原かをりさん

「点だと思っていた経験が、あとから線になった」作家・文化昆虫学者 篠原かをりさんの「好き」の育て方【スキシャリストインタビュー】

「好きなことはありますか?」と聞かれて、すぐに答えられる人は意外と多くありません。さらに、その「好き」をどうやって人生や仕事につなげればいいのかとなると、急に難しくなるもの。生き物への関心を軸に活動を広げてきた篠原かをりさんは、自分の好きを手放さずに、必要なことを一つずつ試してきました。幼少期の原体験から、「好き」を仕事にしていく中での試行錯誤、そして今、親として考えていることまで。点のように見えた経験が、後から線になってつながっていく過程を伺いました。


篠原かをりさん
作家・文化昆虫学者 篠原かをりさん プロフィール
1995年2月生まれ。作家・文化昆虫学者/慶應 義塾大学 SFC 研究所上席所員。これまでに『恋する昆虫図鑑~ムシとヒトの恋愛戦略~』(文藝春秋)、『LIFE―人間が知らない生き方』(文響社)、『サバイブ<SURVIVE>-強くなければ、生き残れない』(ダイヤモンド社)、『フムフム、がってん!いきものビックリ仰天クイズ』(文藝春秋)、『ネズミのおしえ』(徳間書店)、『かわいいが見つかる!推しいきもの図鑑』(永岡書店)、『見つけたら神!すごレア虫図鑑』(日本文芸社)などを出版。

気づく前から、もう好きだった

未来:篠原さんの子ども時代は、どんなお子さんだったのでしょうか?

篠原かをりさん(以下、篠原):お会いした人に「どうして動物が好きになったんですか?」と聞かれることが多いんですが、正直、物心ついたときにはもう好きだったと思います。写真を見ると、一歳半くらいでヤギを触っていたり、よく動物園に行って動物と一緒に写っている写真が残っていたりして、自分の記憶より前からたぶん好きだったんだろうなと。

未来:性格的にはどんなお子さんでしたか?

篠原:あまり社交的ではなくて、明るいタイプでもなかったですね。幼稚園もわりと静かに過ごしていました。ただ、幼稚園がすごく少人数で、同じ学年が5人くらいだったんです。だから「自分が多数派じゃない」ということに、そもそも気づかずに幼稚園時代を過ごせたのは大きかったと思います。

未来:今はそういうタイプでも周囲に認められやすくなりましたが、当時は多数派であることがまだまだ重視されていたと思います。自分が多数派ではないことに気が付いたのはいつごろですか?

篠原:小学校に入ってから、急にしっかりしている子がたくさんいる環境になって「自分はいろんなことができないな」と気づくようになりました。話をちゃんと聞いていないし、忘れ物も多いし(笑)。それまでぼんやり生きていたのが、そのままでは通用しなくなった感じでした。

未来: それは、子どもながらに「しんどい」と思ったことなんじゃないですか?

篠原: そうですね。ただ、そこで強く落ち込んだというより、「あ、私はこういうタイプなんだな」って受け止めた感じでした。できないことは多かったけど、その分、生き物を見ている時間はすごく落ち着く時間でもあって。

アリにポテトをあげた日、世界の見え方が変わった

未来:「生き物を見ている時間が落ち着いた」というのは、篠原さんにとって、どういう感覚だったんでしょうか?

篠原:3〜4歳くらいのとき、祖母の家の庭でアリにポテトをあげていたことがあります。最初は普通にあげていたんですけど「もっとおもてなしをしてあげたい」と思って、葉っぱを持ってきてお皿みたいにして、その上にポテトを並べたんです。でも、アリはその葉っぱの上のポテトだけ、絶対に食べなかったんですよ。

未来:なぜそのアリは葉っぱの上のポテトを食べなかったのですか?

篠原:はい。祖母の庭に植えてあった草が、全部虫除けになる植物だったみたいで、たぶんその葉っぱも虫よけ効果のあるゼラニウムの葉だったと思います。

未来:なるほど、それでアリが寄り付かなくなったんですね。

篠原:私としては良かれと思ってやったことでも、アリにとってはうれしくないこともあるんだ、とそのときに初めて気づきました。こんなに小さい存在でも、私とは違う考えや好みを持って生きているんだな、って。それまでは、生き物ってちょっとおもしろい存在というか、どこかおもちゃの延長のような感覚もあったと思うんです。でもその瞬間に「これは生き物なんだ」「隣にいる他者なんだ」と、一気に感じ方が変わりました。見た目が違うだけじゃなくて、中身も違う。そのことが、すごくおもしろいなと思ったんです。

未来:そんなふうに感じられるようになった背景には、身近な大人の存在も大きかったのかなと思うんですが、ご両親や周囲の大人からかけられた言葉で、印象に残っているものはありますか?

篠原:祖父の言葉が、すごく印象に残っています。私が「友だちと全然遊ばない子だ」と祖母が言ったときに、祖父が「かをりは頭が良すぎて、他の子と同じことをしても楽しくないんだよ」と言ってくれたんです。普段は孫を褒めたりする人ではなかったので、余計に心に残っています。

未来:ご両親は、篠原さんのことをどんなふうに見ていたと思いますか?

篠原:今思えば、かなりおおらかでした。成績も良くなかったですし、発達も早いほうではなかったと思いますが、無理に直そうとしたり「できない」と決めつけたりはしなかったですね。積極的に応援するわけでもないけれど、心の底から「この子ができないわけがない」と信じていた。その感覚が、ちゃんと伝わっていた気がします。

生き物と、書くこと。二つの「好き」が道になるまで

未来:生き物のほかにも、子どもの頃から好きだったことはありましたか?

篠原:はい、書くことです。小学校2〜3年生の頃まで、私は本当に話さない子でした。でも、作文の課題で書いた文章がクラスでウケて「自分の言葉で人が笑ってくれるんだ」と気づいたんです。それがきっかけで、少しずつ話せるようになりました。勉強は苦手でしたけど、作文だけはずっと得意でした。集団の中でうまくやっていくのは苦手でも「一人で書く仕事ならできそうだな」と思えたことは、その後の人生の選択にも大きく影響しています。

未来:生き物が好きで、書くことも好きで。その2つを軸にして進んできたと思うんですが、それを実際に仕事として続けていくのは、やっぱり大変でしたか?

篠原:かなり大変でした。本を出しただけで、すぐに食べていけるわけではなかったので。最初の本を出したあと「次の本を出さないと続かないな」と思って、2冊目の本を出しました。それが結果的によく売れて、その本を宣伝するために、テレビに出る機会が少しずつ増えていったんです。私自身は、タレントになりたかったわけではありませんが、本を届けるためには、メディアに出たほうがいいとわかって「必要ならやってみよう」と思いました。「これをがんばろう」と最初から決めていたというより、「これをやるには、何が必要なんだろう?」を一つずつ考えて、できそうなことを積み重ねていった感じです。

篠原かをりさん

TBSで放送されていた「世界ふしぎ発見!」でミステリーハンターを担当するなど、タレントとしても活躍(公式サイトより引用)

タレントのように最初は自分では向いていないと思っていた仕事でも、「一生やる仕事かもしれない」と思って向き合うようになってから、仕事が一気に楽しくなりました。他人が「できる」と思って期待して発注してくれている仕事なら、その期待は信じていいんだ、と考えるようになりました。それはつまり、「自分のことも信じていい」ということなんだな、って。

未来:お話を聞いていると、「とりあえずやってみる」ことも多かったのかなと感じるんですが、実際はいかがでしたか?

篠原:そうですね。興味を持ったら、あまり深く考えずにやってみることが多かったです。子どもの頃は新体操をやっていましたし、大人になってからは、プロレスをやってみたこともありました。プロレスは、運動がとくに得意ではなかったのですが、年齢制限があるので「今ならギリギリ間に合う!」と思って挑戦して、結局デビューにはいたりませんでした。

でも同期の中に小学生の子もいれば、40代の方もいて、その人たちはデビューしていたんですよね(笑)。それを見て、「あ、年齢って関係なかったんだな」って思いました。一方で、プロレスそのものは、やってみて「これは向いていないな」とも感じました。向いていないことがわかったのも、実際に飛び込んでみたからこそなので、それも含めてやってみてよかったと思っています。

すぐ役に立たなくてもいい「好き」の話

未来:子どもたちに「好きなこととどう向き合えばいいか」を伝えるとしたら、どんなことを伝えたいですか?

篠原:自分の「好き」を土台にして、折れにくくなることが一番大事だと思います。それが、必ずしも勉強や将来の進学に直接つながるものでなくてもいい。今はまだ「何の役に立つか分からないこと」でも、将来につながらないとは限らないと思うんです。私自身、子どもの頃は「できないことが多いな」と感じる場面もありましたし、「これが将来の役に立つのかな」と思うこともたくさんありました。

でも振り返ってみると、そのときに好きだったことや、ただ穏やかな気持ちでいられた時間が、後になって自分を支えてくれていましたすぐに成果が出なくても、意味がわからなくても、心が落ち着く場所があること自体が、すごく大事だったんだと思います。

だから、大人が「これは将来の役に立つ」「これは意味がない」と、早い段階で判断しすぎないことが大切なんじゃないかなと思っています。今は評価されなくても、あとから別の形で生きてくることもある。そういう余白を、子どもたちの周りに残してあげたいな、と。

篠原かをりさん

篠原: 私の母は、生きものが好きだった私のことを、比較的わかりやすく応援しやすかったと思うんです。生きものって、勉強や将来につながりそうなイメージがありますよね。でも、母はそれだけじゃなくて、弟の「デニムが好き」という気持ちのことも、まったく同じように応援していました。

弟は昔からデニムが好きで、ジーンズの形や色落ちをずっと見ているような子だったんですけど、それが将来どう役に立つかなんて、当時は誰にも分からなかったと思います。それでも母は、「好きなんだね」と言って、そのまま受け止めていた。
今振り返ると、「これは役に立つ」「これは役に立たない」と、大人が線を引かなかったことが、すごく大きかったんだなと思います。

生きものでも、デニムでも、勉強につながりそうでも、そうじゃなくても。好きなことを同じ重さで大事にしてもらえた感覚があったからこそ、自分の「好き」を疑わずにいられたし、安心して没頭できたんじゃないかな、と感じています。

未来: そういうふうに「信じて待つ」のが大事だと分かっていても、いざ親の立場になると、つい先回りしてしまいそうになることもありますよね。

篠原: あります、あります。でも、子どもって大人が思っている以上に、自分で感じて、選んでいるんですよね。だからこそ「信じて見守る」って、簡単ではないけれど、すごく大事なことだと思っています。「この子はこれで大丈夫なんだ」と信じてもらえている感覚があるだけで、人はずいぶん強くなれる。その土台があれば、たとえ途中でつまずいても、また自分の「好き」に戻ってこられると思うんです。

取材を終えて
篠原さんのお話を通して印象的だったのは、「好きなことを決め打ちで貫いた」というよりも、自分の好きを軸にしながら、その都度必要なことに挑戦してきた姿勢でした。昆虫や動物への関心、書くこと、本を届けるためのメディア出演、一見バラバラに見える経験も、あとから振り返ると一本の線としてつながっています。「これをやるには何が必要か」を一つずつ考えたことの積み重ねが、結果的に自分だけの道を形づくってきたのだと感じました。好きなことを大切にしながら動き続けることが、自分を思いもよらない場所へ連れていってくれる好例を見たインタビューでした(KAZ)

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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