増田明美会長、パラリンピック7大会出場の車いす陸上永尾嘉章さんに「子ども記者」が取材! レジェンドが語る「生きている実感」とは?

小学3年生~5年生の子どもたちによる「子ども記者団」が、パラ陸上についてさまざまなことを取材する連載企画。今回は2023528日に4年ぶりに行われた第50回神戸まつりの「世界パラ陸上 トークセッション」に登壇した元車いす陸上競技選手の永尾嘉章(ながおよしふみ)さん、そして神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会組織委員会の増田明美(ますだあけみ)会長に子ども記者のかなみ記者が取材を行いました!
また、イベントスペースで行われていた、陸上競技用車いす(レーサー)の乗車体験の様子などもまとめておとどけします!

子ども記者団とは?

神戸2024世界パラ陸上きょうぎ選手権大会を盛り上げるため、兵庫県神戸市などの小学3年生から5年生までの4人の小学生で結成されたのが「子ども記者団」です。前回の「WPA公認 第34回 日本パラ陸上きょうぎ選手権大会」の選手団への取材に引き続き、今回は神戸まつりでパラ陸上体験とパラアスリートへの取材をしました!

「負けたら悔しい、次は何とかして勝ちたいと30年続けてきた」 車いすレース選手永尾嘉章さんにインタビュー

まずはじめに、神戸まつりパラ陸上トークセッションを終えた元車いす陸上競技選手の永尾嘉章さんに子ども記者が取材しました!

トークセッションでの増田明美会長(左から2人目)と元車いす陸上競技選手の永尾嘉章さん(一番右)

永尾さんは、車いすレースの短距離選手としてパラリンピック7大会に出場(日本人最多)を果たしたパラ陸上界の「鉄人」と呼ばれているレジェンドです。競技生活30年、その間ずっとトップアスリートとして活躍し、現役を退くまで次々に自身の記録を塗り替えてきました。2004年のアテネパラリンピックでは選手団主将を務め、400メートルリレーで銅メダルを獲得。現在は次世代の育成に力をいれています。

そんな永尾さんに、子ども記者のかなみ記者が質問しました。

元車いす陸上競技選手の永尾嘉章さんを取材する子ども記者

かなみ記者:高校の体育の先生から「陸上をやれ」という言葉をかけられたのがきっかけで、陸上を始めたという記事を読みました。先生の言葉一つでパラリンピックに7回も出るくらいがんばって練習しつづけたところがすごいと思います。パラリンピックに7大会も連続で出られるのはなぜですか? また、どうしてそんなにがんばれるのですか?

永尾さん:そうだね。まず(期間が)長いですよね、7回出るって。4年に1回だからね。パラリンピックの競技には速い人しか出てこないから、僕よりも速い人っていっぱいいるのね。やっぱり走ったらそういう人に負けるし、負けたら悔しいから、次のパラリンピックではその負けた選手に何とかして勝とうと思うんです。その気持ちが長く競技を続けられた理由かなと思うね。

かなみ記者:障がい者スポーツのことを知ってもらうために、小学校に訪問してパラアスリートのことなどについて話されているというお話も聞きました。小学生にパラスポーツのことを教えたあとはどんな気持ちになりますか?

永尾さん:そうだなあ。いろんな学校に行って、パラリンピックとか陸上の話をするんだけど、最初の頃って「パラアスリートの人が学校に来る」といってもみんな知らないから、「どんな人が来るんだろう?」とやっぱりちょっと緊張しちゃったりするんだよね。体育館とか、お話する場所に入った時にやっぱりみんな緊張で身構えている。

でも始まって話を聞いてくれたり、車いすを体験してくれたりするうちに、車いすに乗っていても歩いていても、結局パラアスリートの人も自分たちと一緒なんだなっていうことがわかってくれたあたりから、距離がぐっと近づくような感じがするね。だから始まる前と終わった後では(講義を)受けてくれた生徒の目のかがやきが全然違うから、それを見るとやっぱりすごくうれしくなるね。

元車いす陸上競技選手の永尾嘉章さん

かなみ記者:陸上競技用車いすは正座して座るから、ずっと座っていると足がビリビリしたりしませんか?

永尾さん:(笑)ビリビリするけど上手に座れる座り方があって、足を支えるところをうまく使って座るとビリビリしびれなくなるから、長い時間でも座っていられるようになるんだよ。

かなみ記者:具体的にはどうするのですか?

永尾さん:体重を支えるところをひざのあたりで支えてしまうと、足がしびれてくる。でももう少し手前の、ひざのおさらのあたりの骨で体を支えるように足を乗せたらしびれない。どうやったらしびれないかも人それぞれ違うんだよ。僕の場合は、そうやってしびれないように工夫してる。

子ども記者団スタッフ:永尾さんは「走ることが生きること」とお話されたことがあるそうですが、走っているときにどんなところで「自分は生きている」と思うのでしょうか?

永尾さん:競技中の瞬間、瞬間で「自分は生きている」ということを感じることはないです。やっぱり走ること、勝つことに集中しているから。でもその試合に向かって、何か月も前から準備をしたりトレーニングをしたりする。そのトレーニングの期間の中で、いろんなことを試行錯誤して「どうやったらもっと速く走れるだろう」とか「こんなことしたらどうだろう」とかそういうことを考えて夢中になっていることそのものが、あとから振り返ってみると、「生きている」と実感していることだと思います。

子ども記者団スタッフ:それは結果が出ても出なくてもでしょうか?

永尾さん:そうですね。結果っていうのはあくまでも結果だから。やってみないと分かんないことがある。結果が出たから楽しいとか生きているということではなくて、目標に向かっていくその過程が「生きている」と感じるということですね。

取材を終えて

かなみ記者:負けたらくやしいという気持ちでがんばれるというのはすごいと思いました。わたしも負けたらくやしくてなんどもちょうせんするけれど、それでも28年間つづけるのはすごいと思います。足がビリビリしないやりかたも、わたしもせいざのときにやってみます。

「パラ選手のすごさを五感で感じてほしい!」 増田明美会長にインタビュー

続けて、神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会組織委員会の増田明美会長にも、かなみ記者がインタビューしました。

神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会組織委員会の増田明美会長

かなみ記者:増田さんがいろいろな人にパラ陸上で知ってもらいたいと思うことを教えてください。

増田会長:選手が活躍している姿を本当にいろいろな人に肌で感じてほしいです!肌で感じるって意味わかる? 肌で感じるというのは、五感で感じるということ。実際に目で見て、音や感覚でパラアスリートのすごさを感じてほしい!

かなみ記者:多くの人に神戸世界陸上に関心を持ってもらうためにはどうしたらいいと思いますか。

増田会長:みんながすごいって思うような選手の存在を知って、まずはパラ陸上に関心を持ってほしい。走り幅跳びの山本篤選手(2008年北京パラリンピックから3大会連続出場、2016年リオパラリンピックで銀メダル、100メートルリレーで銅メダル獲得)とか、他にもすごい選手がいるし、あと2種目以上の種目に出るような二刀流の選手もいるから、そういうすごい選手の活躍をぜひ見てもらいたい!

増田会長:ところで、なんでかなみちゃんは子ども記者になったの?(増田さんから突然子ども記者に質問!)

かなみ記者:はじめはお母さんにすすめられたからです。最初は障がいのある人のスポーツとか全然わからなかったけど、調べていくうちに義手とか義足とかあって、こんなにいろんな選手がいるんだなとかわかって面白いなあと思いました。

増田さん:そうなんだ。調べてみたら面白いとおもってくれたことがうれしい!

かなみ記者:前回の日本パラ陸上きょうぎ選手権大会の取材のときに、走りはばとびの兎澤朋美選手にインタビューしたんですけど、自分と食べ物の好みが一緒で(兎澤選手の好きな食べ物はトマトとお寿司でした)、インタビューで私も同じものが好きなんです、と伝えたら盛り上がってうれしかったです。増田さんはどんな食べ物が好きですか?

増田会長:そうね、私はお寿司とお米が好きね!

かなみ記者:増田さんはマラソン以外ではどんなスポーツが好きですか。

増田会長:ソフトテニスかな。昔、ソフトテニスをやっていたの。「エースをねらえ!」の岡ひろみにあこがれて(笑)! でも、途中でマラソンをやりはじめて、本格的にやるのはマラソンになっちゃったのだけど。

その時、好きなスポーツと結果が出るスポーツとは違うんだと思ったわね。でも、いつかまたソフトテニスもしたい!

取材を終えて

かなみ記者:五感で感じてほしいという増田さんのことばに「たしかに!」と思いました。理由は、テレビでパラの競技をみたときは「すごいな」とは思ったけど、あまり興味がわかなかったから。でも、生で見ると会場のお客さんの声がひびいて、私のいすにまで振動がきた。テレビでみた時には感じなかった会場のふんいきを感じて、テレビで見たときの「すごいな!」とはもっと別の「すごい」を感じました。

パラ陸上は、選手一人一人の個性や種目がたくさんあって見てて飽きないこともおもしろいと思います。選手の競技クラスが違っても選手全員めっちゃがんばっているから、それを応援している人たちも盛り上がっていておもしろいです。

「かんたんにみえたけど、パラアスリートの人はうでのきん肉をきたえてるんだなぁ」 陸上競技用車いす体験

神戸まつりではレーサー(競技用車いす 以降レーサーと表記)の体験のコーナーがあり、多くの子ども達が列を作って体験の順番を待っていました。かなみ記者にとってもレーサーに乗るのは初めての体験です。

実際のレーサーは正座して座るタイプが多いのですが、今回のレーサーは体験用のため足を乗せる台がついています。かなみ記者もレーサーに乗り、先ほどインタビューに答えてくれた永尾さんが動かし方をレクチャーしてくれました。

レーサー(陸上競技用車いす)の乗り方を永尾嘉章さんからレクチャー

レーサーを前に進めるには、腕でハンドリムと言われる車いすの車輪の外側に取り付けられたリングを回します。かなみ記者はかなり力を入れて回していましたが、芝生の上ということもありスピードは出ません。見ているだけでもハンドリムを回すのにかなり力が必要なことがわかります。

レーサーの向きを変えるためのハンドルもついており、それを動かしながら向きを変えるかなみ記者。実際のレースではハンドリムを腕で回してスピードを出しながら、タイミングよくハンドルを動かし微妙に調整しながらカーブを回るなどの高度なテクニックが必要となります。

レーサーは選手にとっては体の一部のようなものです。実際の選手用のレーサーは11人に合わせて素材や長さなどが細かくカスタマイズされており、選手が最もパフォーマンスを出せるように作られています。

レーサーのハンドリムを腕で回す子ども記者

取材を終えて

かなみ記者:まえのタイヤを動かすときのハンドルがかたくてちょっと大へんでした。後ろのタイヤを手でこぐのも、もっと軽いと思っていたけれど、重くてむずかしかったです。パラアスリートの人たちはかんたんにやっているように見えたけど、実際はすごく重たかったから、うでのきん肉をきたえているんだなあとおもいました。

蜷川実花氏のパラアスリート写真展も見学

その後、写真家でもあり映画監督でもある蜷川実花氏が撮り下ろした9名のパラアスリートの写真約30点が展示されている「GO Journal in KOBE」を見学。

辻紗絵(つじさえ)選手(短距離)や山本篤(やまもとあつし)選手(走り幅跳び)、一ノ瀬メイ(いちのせめい)選手(競泳)、車いすバスケットボールの鳥海連志(ちょうかいれんし)選手などのカラフルで力強い写真が展示されていました。どの写真も、パラアスリートの持つ湧き出る闘志や美しさが非常に印象的で、多くの人が立ち寄って写真に見入っていました。

蜷川実花氏写真展のパラ陸上短距離の辻紗絵選手の写真

 

子ども記者団スタッフより

今回子ども記者は、永尾さんに取材後に「負けたらくやしいという気持ちでがんばれるのがすごくて、それを28年間もつづけたのはもっとすごいと思った」と伝えてくれました。また、永尾さんの「結果が出たかどうか」ではなく、「いろんなことを試行錯誤して夢中になっていることそのものが、あとから振り返ってみると、『生きている』と実感」だというお話もとても心に響きます。

私たちが様々なことを試行錯誤しながら一生懸命前に進んでいるこの日々も、あとから見たらきっと「生きている実感」の積み重ねとして感じられるのかもしれない、と永尾さんの言葉に励まされたように思いました。

増田明美さんからの「パラ陸上の選手が活躍している姿を本当にいろいろな人に肌で感じてほしい!」というメッセージを受けて、子ども記者は取材後に「たしかに!」と思ったそうです。生でパラ陸上を見たとき、会場のお客さんの声が座っているいすを振動させたことや、テレビでみた時には感じなかったもっと別の「すごい」を会場で感じたという子ども記者。

私たちも、パラ陸上の多くの選手の努力や「生きている実感」の積み重ね、そして生でみる「すごい」を五感で感じ、応援していきたいと思います。

2024年は世界のパラ陸上選手を神戸で見られる!

2024年には世界中からトップアスリートが集まって、東アジアで初開催となる神戸2024世界パラ陸上が開催されます。実力ある日本や世界のパラ陸上のアスリートを日本で生観戦するチャンス! ぜひ今のうちからいろいろな選手のことを知って、神戸へパラ陸上選手を応援しにいきましょう!

<今回取材をしてくれた子ども記者>
おおしま かなみ記者(小学5年生・兵庫県)

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小学生の子どもたちで結成した「子ども記者」です。子どもの素直な目線を通して、取材対象の魅力を深堀りしていきます。準備や当日の取材、記事の制作の一部をスタッフが同行してサポートしています。

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