学年ごとのクラスがなく、宿題もチャイムもない。そんな学校が、長野県佐久穂町にあります。今回ご紹介する書籍「日本初のイエナプランスクールが大事にしてきたこと(学事出版)」は、日本で初めて「イエナプラン教育」を本格的に取り入れた、大日向小中学校の取り組みをつづった一冊です。一般的な学校とは異なる学び方や、子どもたちの日々の様子、同校が大切にしてきた教育への考え方を紹介します。(※本書は出版社より献本いただきました)
日本の学校でイエナプランを実践する「いま」がわかる一冊
イエナプラン教育とは、1920年代にドイツで生まれ、その後オランダで広まった教育方法です。学校を一つの「共同体」ととらえ、子ども一人ひとりの個性を尊重し、対話や仲間との協働を通して主体的に学ぶことを大切にしています。
大日向小学校は2019年に開校し、2022年には中学校も開校しました。本書では、同校が日本の学校制度の中でイエナプラン教育をどのように実践してきたのかを、子どもたちが学ぶ姿や、それを支える大人たちの関わりとともに紹介しています。うまくいったことだけでなく、思うようにいかなかった経験や、現場で直面した難しさや葛藤も率直につづられています。
本書でわかる、子どもの主体性を大切にした学校づくり
本書は全5章で構成されています。イエナプランがどんな教育なのかに触れたうえで、「対話・遊び」「仕事(学習)」「催し」という基本活動に沿った学校での実践を取り上げています。話し合いでルールを決める自治活動や、自分で計画を立てて進める学習、子ども主体の学校行事、保護者や地域と連携した学校づくりなど、日々のエピソードを通して、それぞれの取り組みの意味が見えてきます。
また、随所に設けられた「Tips」というページでは、先生たちが日々の教育活動で取り入れている工夫や、子どもたちが学校生活を通して感じたことや経験したことなどが、それぞれ自身の言葉で語られています。先生や子どもたちの視点から、学校生活のありのままの姿に触れられるのも、本書の魅力です。

提供:大日向小学校・大日向中等教育学校
ここからは、本書に登場する数々の取り組みの中から、大日向小中学校の学びの大きな特徴となっている3つを紹介します。
●3学年が一つのファミリーに
大日向小中学校では、学年ごとのクラスではなく、異なる3学年で構成する「ファミリーグループ」を採用しています。小学校では1〜3年生、4〜6年生がそれぞれ1つのグループを作り、中学校でも1〜3年生が一緒に学んでいます。年下は年上を真似し、年上は年下を手助けする。年齢が違えば学ぶ内容もできることも違って当然なので、人と比べるのではなく「違って当たり前」という感覚が育っていくといいます。
また、各グループには、大人が「グループリーダー」としてつきます。子どもたちにどう関わり、どのように成長を支えているのか。異年齢の仲間と過ごすなかで生まれる子どもたちの変化や、それを支えるグループリーダーの関わり方についても、本書では詳しく紹介されています。
●自分で計画し、仲間と探究する学習
大日向小中学校では、国語や算数などの基礎学習を自分のペースで進める「ブロックアワー」と、仲間と協力して一つのテーマを探究する「ワールドオリエンテーション」という2つの学び方を取り入れています。
ブロックアワーでは、子どもたちが自分で学習計画を立てて取り組みます。チャイムや一律の宿題がないのも、一人ひとりの学びのペースを大切にし、自分で考えて行動する力を育むためだといいます。ワールドオリエンテーションでは、身近なテーマについて自分たちで問いを立て、チームで調べたり体験したりしながら学びを深めていきます。
こうした学びを支えるために、どのような工夫がされているのかも、本書の見どころです。

提供:大日向小学校・大日向中等教育学校
●自分の意見を伝え、相手の話を聞く「対話」
大日向小中学校では、毎朝、輪になって座る「サークル対話」から一日が始まります。自分の考えを伝えるだけでなく、相手の話を聞き、受け止めることを大切にしています。
また、仲間への感謝や質問、提案を共有する「クラスボックス」、子ども同士のトラブルを話し合う「対話の会」など、自分たちの問題を話し合いで解決するための仕組みも設けられています。
相手の思いを受け止めながら、自分の考えを伝え合うのは、けっして簡単なことではありません。ときには意見がぶつかることもあります。それでも、互いを理解しようと対話を重ね、解決策を探っていく子どもたちの姿が、本書から伝わってきます。
「未来へいこーよ」スタッフの注目ポイント
本書の終盤で紹介されている、中学3年生の言葉が印象的でした。卒業前の「わたしプレゼン」で自治活動について語ったその生徒は、周りに関心を持ち、自分を理解しながら、みんなで悩んで答えを探すことの大切さを伝えています。そして、学校生活を通して「自分を表現することも怖くなくなった」と振り返っています。
自分の思いを伝えることや、意見の違う相手と折り合いをつけることは、大人になった今でも、なお難しいと感じるものです。だからこそ、大日向小中学校の子どもたちのように、小さいうちから自分で考え、ときには失敗したりぶつかり合ったりしながら、仲間とやりとりを重ねていく経験が、きっとこの先の大きな支えになるのだと思います。
また、本書を読んで、子どもの主体性を尊重することの難しさも感じました。子どもたちの考えや意思を大切にしながら、大人がどこまで関わり、どんなときに手を差し伸べるべきか、その判断は簡単ではありません。大日向小中学校も、けっして順調なことばかりではなかったといいます。そんななかでも、学校の大人たちだけで答えを出すのではなく、子どもや保護者、地域の人たちとも話し合いを重ねながら、よりよい学校のあり方を探り続けてきました。
こうした試行錯誤のなかで、子どもたちと一緒に学校を作ってきた大日向小中学校の歩みは、学校教育に関心のある人はもちろん、日々子どもと向き合う保護者にとっても、子どもとの関わり方を見つめ直すヒントになる本だと言えます(osa)。
『日本初のイエナプランスクールが大事にしてきたこと』
編:大日向小学校・大日向中等教育学校
編著:久保礼子・関康平
発行:学事出版
発売:2026年9月15日
価格:2,530円(税込)
A5判・224ページ
書籍紹介ページ
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