夏休み中の子どもたちに、静岡市にある清水港のコンテナターミナルで小学生を対象にお仕事体験が行われました。これは一般社団法人地域みらい創造センターが主催し、アクトインディ株式会社が企画・監修を務める小学生向けのリアルな海のお仕事体験プログラム「こどもわーく」によるもので、日本財団の常務理事や静岡市長、鈴与株式会社の取締役副社長らがお仕事体験の様子を見学、三者が「静岡の豊かな海を次世代へつなぐために」というテーマで鼎談も行いました。今回はお仕事体験と鼎談の模様をレポートします。
※このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる日本財団 海と日本プロジェクトの一環としての取り組みです。
日本の貿易の99.7%が海上貨物でまかなわれている
お仕事体験に参加したのは地元静岡県や東京都からやってきた9名の小学生です。まずは主催者の鈴与株式会社の海野吉輝さんが、コンテナターミナルについてクイズを交えながら紹介していきます。日本が海外と行う貿易の99.7%が海上で行われているというクイズの正解には、子どもだけでなく大人のほうからも驚きの声があがっていました。
コンテナターミナルに大きなコンテナ船を入れて荷物を上げ下ろしし、そのまま輸出や輸入が行われていることや「ガントリークレーン」と呼ばれる大きなクレーンを使って、オペレーターが操作することでコンテナが運ばれているなど、子どもたちは真剣な表情で聞き入り、ときおり驚いた表情を見せていました。
コンテナターミナルは海上輸送と陸上輸送の接点であり、外国貨物を扱える場所として使われています。なかでも清水港のコンテナターミナルは2022年の日本の港湾別コンテナ取扱貨物量で東京や横浜、名古屋などの大都市に続く7位。東西都市圏のほぼ中央に位置する立地のよさもあり、コンテナやパルプ、穀物、木材チップ、冷凍マグロ、エネルギー(燃料)など多種多様な荷物を取り扱っています。
コンテナの模型を参加者同士で回しながら観察したり、冷凍コンテナの模型内に入っていた塩分補給のお菓子を配ったりと、少し和やかな雰囲気になったところで質問タイムへ。参加者の小学生から「地震や津波などの災害に対する備えはどのようになっていますか?」という質問が出たときには、講師の海野さんも驚いた様子。質問に対して海野さんは「まずは人命救助第一で安全に避難させ、その後の復旧がスムーズにできるようにシミュレーションをして備えています」と答えていました。
コンテナターミナルの現場でコンテナの状態をチェック!

座学が終わったあとはバスでコンテナターミナル内へ移動しました。ちょうど右手には世界中に荷物を運ぶ大型コンテナ船が停泊しており、頭上のガントリークレーンから荷物の荷揚げと荷下ろしをしているところでした。近くで見るとその迫力に圧倒されます。

続いて、ゲートチェックのお仕事体験です。ゲートに到着したトレーラーに積み込まれたコンテナを上側と外側、内側から穴が開いていないかを確認するお仕事体験です。ここでは普段からトレーラーのチェックを担当している社員の指示を受けながら進めます。
社員から、小さな穴でも見逃すと雨が入り込んで荷物が損なわれるという話を聞き、参加者たちはその責任の重さを感じて表情が引き締まりました。
続いて、参加者を2チームに分けて外側から穴が開いていないかをチェックします。地上担当の子どもたちはトレーラーの下からコンテナに穴が空いていないかを慎重に確認していきます。
さらに、コンテナの中に入り扉を閉めて確認を行いました。穴がある場合は光が漏れてくるため、確認は比較的容易でしたが、コンテナ内部はエアコンがないため非常に暑かったです。普段からこのような作業をしている社員さんの苦労を実感する体験となりました。
もう1チームは階段を上り、コンテナを上からチェックします。

日本財団と静岡市、鈴与株式会社による「静岡の豊かな海を次世代へつなぐために」三者鼎談を開催!
続いては「静岡の豊かな海を次世代へつなぐために~海離れ・海洋人材の減少に対する課題や取組みについて~」をテーマに、日本財団の海野常務理事、静岡市の難波市長、鈴与株式会社の髙橋副社長が登壇して三者鼎談(ていだん)を行いました。

鼎談に先立ち、日本財団の「海と日本プロジェクト」について紹介がありました。子どもたちに海の原体験を提供することで、海に親しみを持ってもらい、海のために自らアクションを起こす人を「海ごころ」を持つ人として、日本中に「海ごころ」を広げていくのが目的です。
続いて鼎談に参加する3名のプロフィールです。

日本財団の常務理事である海野(うんの)氏は、海洋事業部を統括しており「海と日本プロジェクト」などのさまざまな事業を展開しています。

静岡市市長の難波氏は、運輸省の技官と国道交通省でのキャリアを経て、2014年に静岡県副知事に就任。リニア中央新幹線や熱海土石流災害の担当を務め、2023年4月より静岡市長に就任しています。

鈴与株式会社は国内外や港湾、倉庫などの物流事業やエネルギー供給(石油、ガス、電気)や太陽光発電などの商流事業、建設・ビルメンテナンス事業、情報事業、食品事業、航空事業などを行う総合物流会社です。髙橋氏は2018年より取締役副社長に就任しており、静岡商工会議所副会頭、清水港利用促進協議会常任理事を務めています。
お仕事体験の視察を終えて
三氏は先ほど実施していたコンテナターミナルのお仕事体験の様子を視察。その感想を尋ねると難波市長は「子どもたちが大変興味を持って見てくれていました。私も小学校3年生のときに清水の海を見て驚きましたので、初めて見る清水港の大きさに驚いたのではないでしょうか。そのなかでさらにいろいろとお仕事体験をしているので感動したのではないでしょうか」と語りました。
鈴与株式会社の髙橋副社長は「ご存じのとおり、日本では99%以上の輸出入は船を使っています。輸出入のために通関を切ったり(輸出入の許可を得る手続き)、コンテナに穴が空いていないかなど、コンテナのゲートチェックをしないと荷物の搬出ができないなどの、事業の一端を子どもたちが知ったことで今後の人生につながる体験になったと思います」と、大人でも入れないコンテナターミナルの仕事を子どもたちが体験できたことの貴重さと有用さを述べていました。
日本財団の海野常務は「子どもたちも楽しそうだったが、自分もワクワクしました。夏休み中のイベントなので、もっとゆるい体験なのかなと思ったら、本当に社員として働く内容で、子どもたちが真剣なまなざしで体験していたのが印象的でした。今日体験した子どもたちが大きくなる頃には港も船の進化にあわせて変わっていきます。そこで大事なのが人の育成です。今回のお仕事体験のように幼少期から海に親しむ体験はすごく大事だなと感じました」とお話されています。
海離れ・海洋人材の減少に対する現状について

司会が「海野常務が『幼少期から海に親しむ体験は重要』とおっしゃったのは、『海と日本人に関する意識調査2024』の結果を受けてのことですね?」とたずねると、海野常務は「そうです。調査では日本全体で『海離れ』が進んでいることが示されています。
約7割の人が『海は大切』と認識していますが、『海へ行くか』や『海が好きか』という質問への肯定的な回答は減少しています。とくに『この1年間で1度も海に訪れていない』と答えた人が52%に達し、過去より増加しています」と答えました。

今回の調査では「都道府県別 海の愛着・体験スコアランキング」も発表されました。静岡県は、海のお仕事体験のような活動の成果もあり、体験スコアランキングで2022年の41位から37位にランクアップしました。しかし、愛着スコアは22位から2024年度には36位に下がっています。

それを受けて難波市長は「衝撃ですね…とくに海がない山梨県と比較すると愛着スコアは静岡県のほうが順位が上ですが、体験スコアは山梨県のほうが順位が上になっていますね」と危機感をあらわにしました。
髙橋副社長は体験スコアや愛着スコアが低迷していることに対して「海に行ったことがない方や、行かないから海が好きではない方が増えたのが理由ではないか」と推測しています。髙橋副社長が子どものころは気軽に砂浜や海で遊べたが、今は港のセキュリティ上の問題もあって自由に遊ぶことができなくなっているなど、昔と今の海岸事情が異なり「海に行くのがひとつのイベントのような重たいものになってしまった」と語っています。
海野常務は「再検証が必要で、港の在り方を考えるべきです。東海地方では三重県も同様で、体験スコアが最下位となりショックを受けています。漁港ができたことでアクセスが悪化し、地元の人にとって海が身近でありながら遠い場所になっています」と、港の安全を守るために地域住民が「海離れ」している現状について語りました。
幼少期における“多面的な海体験” の重要性
海野常務は「『次世代に』海の未来をつなぐためには、幼少期から義務教育以外でも海に触れる機会を増やすことが重要です。その際、とくに意識すべきは海のイメージの変革です」と述べ、「海のイメージについて」のスライドを提示しました。

海野常務は「意識調査によると、20代以上は海に対して海水浴や砂浜のイメージが強いのに対し、10代は魚など多様なイメージを持っています。これを詳しく調べると、環境問題やSDGsに関心があり、海に対する知識も10代の方が豊富であることがわかります。10代にどうアプローチするかが重要で、レジャーだけでなく、産業や文化、歴史など多角的に海と関わる方法を提示することが必要です」と述べました。
幼少期における多面的な海体験の重要性

海野常務は2019年から実施している海の仕事体験プロジェクト「こどもわーく」を紹介。全国で100種類以上の海の産業を体験化し、本物の現場で本物の仕事人から本物の仕事を体験するものです。レジャーやスポーツの海だけでなく「産業」の体験を通して海をみることで水産や港湾、物流、観光など海の多くの側面を知ることができ、社会活動のなかで「海と共に生きること」や「日本が海に囲まれていること」を子どもたちがしっかりと認識できる取り組みです。

清水港でも今回実施した「コンテナターミナルのお仕事」をはじめ、はごろもフーズ株式会社の「製品品質管理のお仕事」や駿河湾フェリーの「フェリーを運航するお仕事」、マリンオープンイノベーションの「サクラエビゲノム解析のお仕事」、三保造船所の「溶接職人のお仕事」など地元企業の協力を得ながら貴重な体験を行っています。
静岡市の難波市長は、「子どもたちは仕事を調べる際にYouTubeをよく利用しますが、どうしてもパティシエなどの有名な職業が多くなります。(『こどもわーく』での仕事体験は、一般には知られていない職業が多いため)こうした体験を意識して提供することが必要です。また、小学校の教育で地元の海の素晴らしさを伝えることも重要だと思います」と述べました。
鈴与株式会社の髙橋副社長は、「当社は1801年から海と共に歩んできたので、恩返しをしたいと考えています。『海のみらい 静岡友の会』のメンバーとして東海大学などと協力し、1500人以上の個人会員に海に触れる機会を提供しています。今後も活動を広げていく予定です」と述べ、「こどもわーく」以外でも海に親しむ活動を積極的に行っていることを明らかにしました。
日本財団の海野常務は、海にいくことが時間もお金もかかるイベントになってしまい、親の収入差による「教育格差」も影響を与えているなか「たとえ海に行かなくても海を感じられる、学べる体験を考えてないといけないですね。この先人口減少が進んでいくと海洋人材も減っていくので、さしせまった大事な課題です。子どもたちのキャリア教育も大事で、職業や高校や大学の学部を選ぶときのきっかけになるような体験を作っていけたら」とお話されました。
ここで海野常務より「こどもわーく」で小学4年生の頃からの3年間で東京から静岡県に数多く足を運んでお仕事体験に参加したお子さんの紹介がありました。静岡県での水族館や環境保全、研究、漁師体験など、多種多様な体験に参加したことで海の知識に対する自信がつき、静岡県を舞台としている別プロジェクト「深海スーパーキッズプロジェクト」へのプレゼンに挑戦。見事に海洋研究賞を受賞しています。
このプレゼンは海野常務も審査員として見ていて「素晴らしい発表でした。未来の海洋研究者になるんじゃないかと思いました。静岡県は多面的な海の体験を提供する環境があり、県内だけでなく県外にも体験機会を広げられるという意味で、最高のフィールドとポテンシャルを持っています」とスーパーキッズが誕生する土壌がある静岡県への期待を語りました。
マンガンノジュールなど未来の海洋産業にも期待!
日本財団の海野常務は、「海のお仕事体験を通じて得た経験や感動を、深い学びや次のアクションにつなげることが重要です。具体的には、大人が新しい産業に触れる機会を子どもたちに提供し、『未来の産業』を見せることで、次世代の行動を促す刺激となる」と述べています。
髙橋副社長は、鈴与株式会社のグループ会社鈴与海運も参画している「無人運行船プロジェクト MEGURI2040」を紹介し「陸上ではドライバー不足、海上では船員不足が言われていますが、未来では陸上の支援センターから指示を出して無人で船を動かせるようになることを子どもたちに見せると、とても感動していたようでした。自動運転により細い湾にも安全に進入でき、無人運行だからこそ安全に業務を遂行できるため、このプロジェクトは鈴与だけでなく業界全体にとって大きな価値があります」と近い未来に実用化が見込まれる自動運行船について大きな期待を寄せました。
海野常務は自動運転以外にもEZ(排他的経済水域)のなかで発見された海洋物質マンガンノジュールが、携帯電話やパソコン、電気自動車などに使える資源になることに触れて「マンガンノジュールの開発で日本が資源大国になる可能性もある」と高く評価していました。
マンガンノジュール(実物)は岩石のかけらやサメの歯を核としてマンガンと鉄の酸化物から成り立っているもの。マンガンノジュールに含まれるコバルトやニッケル、銅は経済的価値が高く、開発が進められています。
難波市長は、「海についてはまだ90%が未知であり、特に深海は不明な点が多いです。技術が進んでマンガンノジュールの回収が可能になれば、深海での仕事が増えるでしょう。その際に重要なのは人材です。人材がいなければ、仕事や研究開発、産業は成り立ちません。静岡市では清水港を中心に、ブルー・トランスフォーメーションを通じて海を活用した社会変革の国際拠点を作ろうとしています。清水港は海洋産業が集積しており、JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)が市内外の大学や学術機関と連携して海洋DXを推進しています。さらに、駿河湾は2500mの深海であり、機器開発の実験も可能です」と述べ、清水港が日本の縮図であり、国際的な研究拠点になり得ることを示しました。
さらに学校では海をSTEAM教育のひとつのテーマにして、JAMSTECにいるような研究者たちと一緒に小学生が活動していくことで、海にかかわる仕事を将来選んでもらえるようになることをビジョンとして紹介しました。
各団体における活動の今後について
最後に各団体における活動の今後についてお一人ずつ話を伺いました。静岡市の難波市長は、「海には新しい産業が生まれており、子どもたちにとって楽しくワクワクすることが待っています。将来、海で働きたいと思う子どもが増えることを期待しています」と述べ、海の新産業が子どもたちの未来の選択肢を広げる可能性に期待を寄せています。
鈴与株式会社の髙橋副社長は、「難波市長の強いリーダーシップのもと、産官学が一体となって動き出している。今後も海に関わる人材を育成し、清水の住民に地元の魅力的な企業を知ってもらい、地元愛を育むことを大切にしたい」と述べました。
日本財団の海野常務は、「海には多くの可能性が秘められています。子どもたちにその魅力を体験してもらうため、博物館や水族館と協力しています。大人として、子どもたちに明るい未来を示すことも重要です。ここでの体験プログラムが他の地域にも広がるモデルとなることを目指しています」と述べました。
本日の鼎談を通じて、三者の異なる視点からの貴重な意見を伺うことができました。子どものお仕事体験をきっかけに、静岡の豊富な海資源の活用やさらなる発展に広がっていくことを期待する内容でした。
最後にお仕事体験の子どもたちと名刺交換&記念撮影!
鼎談終了と同時にお仕事体験を終えた子どもたちがやってきました。「こどもわーく」のお仕事体験の参加者は自分の名刺をもらい、社員さんと名刺交換をする体験も行います。今回は特別に、鼎談に登壇した海野常務、難波市長、髙橋副社長と名刺交換を行いました。

最後にみんなで記念撮影。子どもたちにとっても、普段なかなか会うことができない人と名刺交換や記念撮影ができた特別な一日となりました。
取材を終えて
コンテナターミナルでの仕事体験は、プロの方々から直接学べる貴重な機会であり、子どもたちが真剣な表情でメモを取ったり観察したりする姿が印象的でした。この時間を通じて、多くを吸収しようとする意欲が感じられました。三者鼎談では、各立場から海に貢献できることが話され、清水港が研究拠点として発展する未来像も描かれました。今日の体験が、子どもたちに海に関わる仕事や海を好きになるきっかけになると感じた取材でした。(KAZ)
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