友だちとうまくいかない。何のために勉強しているのかわからない。子どもがそんな悩みを口にしたとき、大人はつい答えを急いでしまいませんか? 「きみの悩みに答える 10歳からの哲学の言葉160」(JTBパブリッシング)は、子どもの悩みに哲学者や心理学者の言葉を当てた1冊です。監修はスタンフォード・オンラインハイスクール校長の星友啓さん。悩みをなくすのではなく、考える力が動き出した証拠として受け止める。そんな見方を、メールインタビューで伺いました。第1回は書籍の魅力と「子どもの悩みはなくさなくていい」ことについてお届けします。

星友啓(ほし ともひろ)さん スタンフォード・オンラインハイスクール校長
哲学博士。1977年、東京生まれ。2001年、東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。2002年より渡米し、2003年にテキサスA&M大学哲学修士修了。2008年にスタンフォード大学哲学博士号を取得後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとりながら、スタンフォード・オンラインハイスクール・スタートアッププロジェクトに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、日本、米国、アジアに向けて学校や教育スタートアップの支援やコンサルティングにも取り組む。慶應義塾大学や横浜市立大学では経営や教育に関する研究活動も行う。著書に「スタンフォード式 生き抜く力」(ダイヤモンド社)「スタンフォード・オンラインハイスクール校長が教える 子どもの『考える力を伸ばす』教科書」(大和書房)「13歳からの哲学的思考」(ソシム)「スタンフォード大学オンライン高校の校長が教える 世界の研究に基づいた 勉強法大全」(KADOKAWA)など多数。
悩んだページから開ける、160通の手紙のような1冊
「きみの悩みに答える 10歳からの哲学の言葉160」は、小学生・中学生の悩みを「友だち」「家族」「勉強・成績」「失敗」「生きる意味」「孤独・居場所のなさ」「恋愛」など12のテーマに分けた本です。悩みが先にあって、そこに哲学者や心理学者の言葉が一つ当てられ、意味をかみくだく解説と「今日からこうしてみよう!」という行動の提案が続きます。1つの悩みは1〜2ページ。通して読んでも、いま困っていることのページから開いてもかまいません。

「きみの悩みに答える 10歳からの哲学の言葉160」(JTBパブリッシング)P32-33より
悩みは「なんで学校に行かないといけないの?」「友だちに無視された」など、子どもがひとりで抱えこみやすい悩みを中心にまとめられています。
大人に効く言葉も多く、コラムも読みごたえアリ!
読んでみて驚いたのは、大人にこそ効く言葉が多いことです。デューイの「学校は人生の練習じゃなくて人生そのものだ」や「ごほうび目的の『がんばる』は危険!」など、子どもに向けた本のはずが、読んでいる大人の側に返ってくる言葉が並びます。章の合間のコラム「星先生のワンポイント授業」には、呼吸法や一日の終わりに話す「3つのいいこと」など、親子ですぐ試せる小さな習慣が紹介されています。

「きみの悩みに答える 10歳からの哲学の言葉160」(JTBパブリッシング)P80-81より
大人が自分の悩みのために開いても、十分におもしろい本でした。この本を監修した星友啓さんに、メールで話を伺いました。
検索しても正解が出てこない悩みのために、哲学がある
未来:いま子どもに哲学が必要だとお考えになる理由をお聞かせください。スタンフォード・オンラインハイスクールで哲学を卒業必修にされていることとも、つながりがあるのでしょうか?
星友啓さん(以下、敬称略):哲学というと難しい理屈をこねる学問だと思われがちですが、私はもっと素朴なものだと考えています。みんなが「当たり前」だと思っていることに立ち止まって「本当にそうかな?」と自分の頭で考え直してみること。それが哲学の出発点です。
いまの子どもたちは、答えがすぐ手に入る時代を生きています。検索すれば出てくるし、生成AIに聞けばそれらしい答えが返ってくる。でも「友だちとうまくいかない」「自分は何のために勉強しているんだろう」といった悩みには、検索しても正解は出てきません。自分で考えて、自分なりの答えを見つけるしかない。その力こそ、これからの時代にいちばん必要になるものだと思っています。
スタンフォード・オンラインハイスクールで哲学を卒業必修にしているのも、まさに同じ理由です。数学や科学、歴史や文学など、あらゆる教科の土台には「どうやって考えるか」「何をもって正しいと言えるのか」という問いがあります。哲学は、その土台を鍛える科目です。実際に卒業生たちが大学や社会に出てから「あの授業がいちばん役に立った」と言ってくれることも多く、この本はその考え方を10歳の子どもたちにも届く形にしたものです。
「悩んでいるきみは、すごい」
未来:160の言葉のなかで、先生ご自身がいちばん心を動かされた言葉、あるいはいちばん子どもに届けたい言葉はどれですか?
星:ひとつ選ぶなら「孤独・居場所のなさ」の章で紹介したニーチェの言葉です。この言葉は「教室にいても、ひとりぼっちだと感じる」という悩みに対して、ひとりでいるときこそ自分の本当の声がいちばんよく聞こえるという視点を渡しています。
にぎやかに過ごしているように見えても、人はじつはみんなひとりです。そして、ひとりの時間は自分だけの考えや夢を育てる時間でもある。私自身、哲学を学ぶ中でこの視点に出会ったとき「ひとりでいること」の意味がまったく変わりました。孤独を「なくすべきもの」ではなく「使えるもの」として捉え直せる。これは、いま教室で同じ思いをしている子にいちばん届けたい視点です。
もうひとつ挙げるなら「はじめに」に書いた「悩んでいるきみは、すごい」です。これは特定の哲学者の言葉ではありませんが、160の言葉すべてに通じるメッセージだと思っています。
未来:その「悩んでいるきみは、すごい」というメッセージに込めた思いを教えてください。
星:悩んでいる子は、たいてい「悩んでいる自分はダメだ」と思っています。まわりの子は平気そうに見えるのに、自分だけがつまずいている。そう感じて悩みをさらに深めてしまう。これがいちばんつらい状態です。
でも、私は本気で、悩んでいる子はすごいと思っています。悩むというのは「当たり前」に立ち止まって「本当にこれでいいのか」と考えている状態です。これは、まさに哲学者たちがやってきたことそのものです。何も考えずに流されている人は悩みません。悩んでいるということは、自分の頭で考え始めているということです。
だからこの本の最初に、まずそのことを伝えたかった。つまり「悩みをなくしてあげる」のではなく「悩んでいるきみは、もうすごいことを始めているんだよ」と。悩みを恥ずかしいことではなく考える力が動き出した証拠として受け止められたら、子どもは自分の悩みと少し違う距離で向き合えるようになります。
「きみはひとりじゃない」 悩む子どもと見守る大人へのメッセージ
未来:いま悩みを抱えている子どもと、その子を見守る大人へ、メッセージをお願いします。
星:悩んでいるきみへ。まず、悩んでいる自分を責めないでください。悩んでいるということは、きみがもう自分の頭で考え始めているということです。それはすごいことです。そして、きみが今悩んでいることは、何百年も前から世界中のたくさんの人が同じように悩んできたことです。きみはひとりじゃない。この本の中には、そういう人たちからの手紙が160通入っています。全部読まなくていい。今のきみに必要な一通を見つけてくれたら、それで十分です。
そして、その子を見守る大人へ。子どもの悩みを、なくそうとしなくて大丈夫です。悩みは、子どもが考える力を育てている最中のサインです。答えを急がず「悩むのは悪いことじゃないよ」と伝えて、一緒に別の視点を探してみてください。大人が自分の悩みを正直に話すことも、子どもにとっては大きな安心になります。大人も子どもも、正解はひとつではありません。だからこそ、一緒に考える時間を大切にしてほしいと思います。
連載第2回のテーマは、子どもが悩みを打ち明けてきたときの大人の関わり方です。例えば「そんなことで悩むな」と言う前にできることや「100点取ったらゲーム」より長く効くごほうびの向け方、つらい状況にいる子に哲学の言葉がどう働くのかを伺います。
星友啓さんインタビュー(全3回)
・第1回:「子どもの悩みは、なくさなくていい」(この記事)
・第2回:「そんなことで悩むな」と言う前に 子どもが悩んだとき大人にできること
・第3回:「なんでだろうね?」の一言が、子どもの「好き」を考える力に変える
取材を終えて
子どもが悩んでいると、なんとかしてあげたくなるのが大人です。星さんの「悩みは、子どもが考える力を育てている最中のサイン」という言葉は、その気持ちを少しゆるめてくれました。悩みをなくす相手ではなく、一緒に考える相手になる。わが家でも本を開くとき、まずそこから始めてみようと思います。(KAZ)
「きみの悩みに答える 10歳からの哲学の言葉160」

価格2,200円(税込)
監修:星友啓 イラスト:Gurin.、伊藤ハムスター
発行:JTBパブリッシング
発売日:2026年3月27日
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