栃木県宇都宮市のさつき幼稚園で、保護者も一緒に毎朝実践している“じゃれつき遊び”。第1回では“じゃれつき遊び”が子どもの大脳前頭葉の働きを活発にさせること、第2回ではスキンシップで親子の信頼関係も築いてくれることをレポートしました。今回は”じゃれつき遊び”の全身運動としてのメリットと、体力のあるパパにおすすめの全身を使う“じゃれつき遊び”をご紹介します!
パパも毎日5分間“じゃれつき遊び”に挑戦!朝“じゃれつき遊び”をすると、大脳を目覚めさせると共に活性化できます。
大脳前頭葉が未熟な現代の子どもたち
さつき幼稚園で実施している“じゃれつき遊び”には全身を使う遊びがたくさんあります。しかし、世の中全体でみれば、体を使って運動をする機会はどんどん減っており、それに伴って子どもたちの心と体に変化が出てきているそうです。
小学生に”そわそわ型”が増えている!
下のデータは、小学1年生男子の大脳前頭葉の5タイプを示していますが、物事に集中するのに必要な“興奮”の強さも、気持ちを抑えるのに必要な“抑制”の強さも育っていない“そわそわ型”が全体の70%を占めているのがわかります。
【小学1年生男子の大脳前頭葉5タイプの割合】
実は、この”そわそわ型”の出現率が年々高くなってきているのだとか。下のグラフは、年齢ごとに”そわそわ型”の子がどれだけいるかを示したもの。各ラインごとに調査された年代が異なり、●は1969年、▲は1998年、◇は2012年の調べ。年々“そわそわ型”の出現率が高くなっていることが分かります。
「男子は5・6年生でも”そわそわ型”の出現率が40〜50%と幼児並みの数値で、これではまともに学習できるか心配です。同様に女子の“そわそわ型”も増加傾向にあり心配です。」
グラフを見てそう語るのは、「さつき幼稚園」の井上先生。
「子どもの体の発達研究の第一人者で、元日本体育大学名誉教授・正木健雄先生は、『子ども達の様々な体の問題は、大脳前頭葉の未発達が原因』と研究総括しております。『“授業中、きちんと座っていられない”“朝からあくびをする”“目がとろんとしている””姿勢が悪い”などの問題を、最初は筋力などの体力の低下の問題だと思っていた。しかし、そうではなくて、筋肉に命令を出す大脳前頭葉が未発達なのです』と。」
”じゃれつき遊び”は、大脳前頭葉の興奮と抑制を育てる全身運動
その後、正木先生が「さつき幼稚園」の園児たちの大脳前頭葉の働きを調べたところ、大脳前頭葉が未発達な”そわそわ型”は約35%と、前述の小学生のデータよりもかなり少ないことがわかりました。
【さつき幼稚園男子の大脳前頭葉5タイプの割合】
「この結果に、『ほとんどの哺乳類が行っている“じゃれつき遊び”が大脳前頭葉の成長にも深い意味があると思う。さつき幼稚園の“じゃれつき遊び”が、ヒントになる』と正木先生はコメントしておられました。」
では、なぜ”じゃれつき遊び”をすると、大脳前頭葉の働きが活発化するのでしょうか。
「”じゃれつき遊び”をすると、子ども、特に男の子は、体全体を使って全力で遊びます。初めうちは力の加減がわからず、激しくぶつかり合うことも多く、友達同士で互いに痛い思いをします。大人からも怪我につながるような危ない行為は注意されます。」
「そうした経験を何度も繰り返しながら1年も経つと、力を加減しながら遊ぶ“抑制”を自然に体得していきます。実はこの背景には、大脳前頭葉が“大興奮”すると、それを“抑え”ようと働くメカニズムが関連しているのです。大脳前頭葉は“興奮”と“抑制”を繰り返す中で発達していきます。日本の親達に伝承されてきた“怪我は子どもの勲章”は、ひ弱な現代っこにとって金言です。」
パパとやろう!全身を使った“じゃれつき遊び”
元気いっぱいの子どもたちのパワーを受け止めるには、パパが大活躍! 子どもたちは太くてたくましい腕にぶら下がったり、全体重をかけてパパの体にしがみついたり。全身を使ってダイナミックに遊びましょう。親の役割を凝縮すると“子どもに大喜び”をプレゼントすることです。
仕事が忙しく、子どもと接する機会が少ないパパは、子育てに参加したいと思いつつも、親子のスキンシップが足りてないと感じていませんか? ママはパパがもっと子育てに参加してくれることを切望していますよ!!
朝5分間、子どもと“じゃれつき遊び”をすれば、子どもの心と体と大脳がたくましく成長し、同時にパパの子どもへの愛情もグ〜ンと増します。さぁ、ガキ大将になった気分で、汗をかいて遊びましょう。
「引っ張れ〜!」
ふたりの子どもが腹ばいになったパパの足を持って引っ張ります。腕に加えて足腰、背筋もしっかり使って全身の力を発揮させる遊びです。力持ちの子どもなら、パパの両足を一人で持って引っ張れるかもしれません。ラクを追及するのが潮流ですが、人間ならではの喜びは、全力を出した時に体感できます。
パパすごい!「人間鉄棒」
子どもが小さいうちはママでもできますが、だんだんに大きくなったらパパの出番! 腕に子どもをぶら下がらせて、歩いたり、軽く前後に揺らしたり。子どもはぶら下がることで腕を使い、パパは筋力アップもして一石二鳥。
トーテムポール
前屈みになったパパの背中に、一人、二人とよじ登らせるとトーテムポールのよう! パパの背中にしっかりしがみつくことで、子どもの運動能力を鍛えることにつながります。ただし、腰に自信がないパパはこの遊びはやめておきましょう。
「じゃれつき遊び」をする際の注意点
前回のおさらいになりますが、“じゃれつき遊び”は活発に体を動かすので、大きな怪我をしないように、下記のような点に注意して遊びましょう。
- 乳児の脳はゼリーのように柔らかい。2歳児位の骨は軟骨の部分が多いので、強い刺激を与えない。
- 家具や家電など固いもの、ガラスなど割れやすいものから離れて遊ぶ。
- 髪飾り、眼鏡は着けない。大切な顔を傷つける可能性のある、チャック付きの服などは脱いで遊ぶ。
- おもちゃなど物を持たせない。
- 子どもの表情は心を映し出す鏡。楽しんでいるか、嫌がっていないか、不安そうでないか子どもの表情をよく観察しながら遊ぶ。
これまで3回にわたりお送りしてきた”じゃれつき遊び”、いかがでしたでしょうか?子供の脳の活性化にも、親子のコミュニケーションを深めるにもメリットが大きい遊びです。毎朝5分の”じゃれつき遊び”を、家族みんなで習慣化してみてくださいね!
※参考図書
お話を聞いたのは…
井上 高光さん
さつき幼稚園理事、日本子ども学会理事。毎朝“じゃれつき遊び”を実践し、全国の幼稚園・保育園から講演依頼も多い。室内で汗をかいて無心に遊べるので、外遊びがしにくい状況の福島にも定期的にボランティアで訪れている
さつき幼稚園
ライター紹介
千谷 文子
1969年生まれ。フリーの編集・ライター。ニッチな温泉エリアのご近所温泉を案内する、『さいたま湯めぐり』シリーズ3冊を出版。それを機にケーブルテレビの番組に温浴ナビゲーターとして出演。インコが頭に飛んできたり、愛犬の寝言に耳を傾けたり。そんな瞬間が幸せな日々。
※2016年1月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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