昨今、様々な体験をすることが子どもの成長を促すと言われています。それでは、なぜ体験活動が子どもの成長にいいのでしょうか。また、どのような体験がいいのでしょうか。私たち大人は、体験活動において子どもたちにどんな接し方をしたらいいのでしょうか。
子どもの発達を促す「体験活動」について理解を深めるために、國學院大學人間開発学部子ども支援学科の青木康太朗教授に詳しくお話を伺いました。
これからの世の中で必要とされる力は、知識を実社会で使いこなす力
未来:生きる力を育むために、「体験活動」の充実が必要だと言われているのはなぜでしょうか。
青木先生:「生きる力」とは自分が持っている知識だけではなく、使いこなしていく力のことです。
パソコンが普及してきた20年くらい前から世の中が劇的に変化してきました。さらに昨今はAIが目覚ましい発展を遂げてきています。その中で子どもたちが生きていくこと、しっかりと成長をしていくためには、知識を身につけるだけ、既存のやり方を踏襲するだけではなく、変化する社会に対応しながらいかに知識を「現実社会の中で使いこなしていくか」が大事だと言われています。
そのためには学びを何度も試行錯誤して身につけていく「使う場」が必要なのですが、作られて整えられた環境である学校での学びだけでは限界があり、そこで必要とされるのが体験活動なんです。
例えばスポーツは、どれだけ練習を重ねて練習試合をしても、実践に勝るものはないですよね。
他にも、理科でビンの中でろうそくを燃やしたときに酸素が入らなかったら消えてしまうという「燃焼の三要素の実験」も、学校では結果がきちんと分かるように作られた環境の中で実験をやるわけです。でも、現実の生活になると、そんな整えられた環境だけとは限りません。野外炊事をするときには、薪が濡れていたり、湿気が多かったら火がつかなかったり、そもそもマッチすら擦れなかったら火がつかないことなどもあるわけです。
幼児期に「感性」を育むことが子どもの自発的な「学び」を生む
未来:体験活動の場で「理屈」を実際に使い、使いこなす経験を重ねながら学んでいく必要があるということなんですね。
青木先生:そうです。理解を深めるためにまず、子どもの「学び」の仕組みについてご説明しますね。私が子どもの学びの過程で重要と考えているのは「感性」です。とくに幼児期に重要だと言われています。一時期、早い時期から読み書き・計算をすることが大事と言われていたこともありましたが、今は幼児期には感性などの「非認知能力」を遊びの中で育んでいくことの重要性が説かれています。
感性には、三つの視点があります。
一つ目は感覚で、五感を通じて物事を認識すること。
二つ目は感受性で、認識したものがどういうものなのかを理解すること。
三つ目は感情で、理解したことによって何かしらの感情が生まれてくること。
この三つの視点を合わせて感性と呼びます。
例えば桜が咲いているところを歩いて花びらがひらひらと舞い散っているのを見たとき、「桜が咲いている」とか「風が吹いてる」と目で見たり、肌で感じたりします。そして、桜が満開だということを認識します。その後、何かしらの感情が生まれてきます。

感性は人によって異なります。私だったら、花びらがフワっと舞っているのを見て「綺麗だな」と思うんですが、一緒に歩いていた私の子どもは「すごく綺麗に咲いている桜がどんどんなくなっていくから悲しい」と言っていました。子どもは違う感性で桜を捉えていたんですね。
なぜ感性が大事かというと、感性が視野を広げ、いろいろな物事に目を向けさせるからです。興味を持つことで「これって何だろう?」という疑問が生まれ、「学びたい」「やってみたい」という気持ちが芽生えます。
未来:なるほど、感性によって、その人の学びたいという気持ちが生まれるのですね。
青木先生:そうです。さらに、感性から生じる学びの過程は体験、概念化、実践の大きく三つに分けられます。
最初の過程である体験は、体験を通じていろいろなことを感覚的に捉えること。
二つ目の過程である概念化は、感覚的に捉えたことについて「なんでだろう?」と深く考えること。さらには、答えを見つけたり自分なりに考えたりして、「これはこうなのかな」と理屈化を図っていくことです。
三つ目の過程は実践で、自分で考えた答えを実際に試し、うまくいったことは自分のものにして、うまくいかないことはまた繰り返してやってみたりする過程です。
学校では主に二つ目の概念化の過程で、「なんでだろう?」という部分を教科書で教わっているわけです。でも本来は、最初の過程である「体験を通じていろいろなことを感覚的に捉えること」で、さまざまなものに興味を持ち、自分で「なんでだろう?」と不思議に思ったり、自分なりに答えを生み出したりしていくことが重要なんです。
大人になってからこそ、自分なりに考えて答えを生み出す力が必要とされる
未来:体験を通じて感覚的に捉え、「なんでだろう?」と自分なりに考えて答えを生み出していくことがなぜ重要なのですか。
青木先生:自分なりに考えて答えを生み出す力こそが、まさに大人になってから必要とされるからです。
服などに使われている面ファスナー(マジックテープ)は、「ゴボウの実」からアイデアが生まれたものなんですよ。あるスイス人が犬の散歩をしている時に、ゴボウの実が犬や自分の服にくっついているのを見て「なんだこれは!」と思い調べてみると、棘が鍵状になっているため服に引っかかることが分かりました。「これは何かに使えるな」と考え出されたものが面ファスナーだそうです。

このような自然の仕組みを技術に活かすことをバイオミメティクスというのですが、他にもいろいろな例があります。ミミズが筋肉を膨張させて伸び縮みして細いところを進んでいく動きに発想を得て、水道管の中を検査するメカを作ったという例もあります。
普通に過ごしていたら見過ごしてしまうかもしれないものも、体験の中で豊かな感性で「なんでだろう?」と思うことで新しいことを生み出す発想に繋がってくるわけです。
体験するからこそ「好き嫌い」や「やりたいこと」がわかる
未来:自分で体験するからこそ、「自分の感性に訴える何か」に出会えるということなんですね。
青木先生:体験活動の意義を聞かれたら、「自分がやりたいことを見つける機会」だとお答えしています。
将棋が得意な子や、少し特殊なものが得意な子など、学習指導要領などがあらかじめ決まっている学校の活動だけではわからないのです。体験をすることで、これが好きとか、もしかして自分はこれにセンスあるんじゃないかということに気づけるわけです。

私は高知県で小学生に海の楽しさを伝えるプログラムをやっていたことがあるのですが、海に囲まれた県にいるのに小学5年生でも2割ぐらいは海で泳いだことがなかったんです。プログラムを体験してもみんなが海を好きになるわけではなく、海水は塩辛いから嫌という子も中にはいました。でも、体験して海が嫌だというならそれでよいと思っています。海に入ったこともないのにイメージだけで嫌いというのではなく、自分の経験から好き嫌いという判断をするということがとても大切なんです。
学校の活動は、やりたいことやがんばれることに出会ったとしても没頭できる時間が充分に取れないということもあります。例えば、絵が好きな子が授業の中で描いていても、授業時間が終わってしまったらそこでやめないといけない。でも、放課後や休日などの体験の場では好きなだけ絵がかける時間なのです。
現代は「自分なりに考えて答えを生み出す力」に必要な「実体験」が不足している
未来:自分のやりたいことがわからない、自分で答えを見つけ出すことが難しいという人も多そうです。
青木先生:これからの世の中、自分で自分の考えや、やりたいことを伝えていく力が求められています。現在、こども家庭庁が「こども大綱」をまとめているのですが、その中で子どもが意見表明をするということがとても大事と言われています。大人の言うことにただ従うようにするのではなく、子どもがそれぞれの思いを持ち、自分は何をしたいんだと言えるように育てていかないといけないわけです。
「自分で考える」とか、「答えを自分で見つけ出していく」ということがなかなかできないのは、親に言われたことを真面目にやって育ってきたという日本人の気質もありますが、体験が不足しているということも大きいと思います。限られた環境で、限られた機会の中で育ったら、限られた答えしか出てこないですよね。いろいろな体験で豊かな経験をしたら、自分たちの表現がもっとできるようになっていくと思います。
例えば、50年くらい前は子どもが自由に外で遊んだり、社会がそんなに豊かではなく自然が多いような時代でした。田舎では、火吹きで風呂を沸かしていた家庭もまだあった時代です。その頃は、生活するだけでも学ぶことが多かったと思います。

でも今は違います。お米だって炊飯器をピっと押せば炊けます。家の中で生活をしていて苦労することがもうあまりないんですよね。その中で子どもに「生活力を高めなさい」や「社会との結びつきを自分で考えなさい」というのは難しい話なんです。
普通に生活するだけでは「自分で考える」、「答えを見つけ出していく」ことが難しいのであれば、体験活動の中で経験してもらうことが必要になります。
子どもに「何したい?」と言っても、「何でもいいよ」とか「ゲーム」のことしか出てこない子どもがいるのは、ゲーム以外の他の楽しいことを知らないからなんです。だから、「何をしたい?」という問いにゲーム以外の言葉が出てこないんですね。
体験活動をすることで、学力向上への効果も見られる
未来:「自分で考える」「答えを見つけ出していく」力は、学力そのものでもありますよね。
青木先生:そのとおりです。私も関わっている文科省の研究では、職業体験や農業体験といった社会体験をすることと向学意識(勉強が楽しいなど)との関係性が見られるという結果が出ています。全国学力・学習状況調査でも、社会や自然の事柄に「不思議だな」「おもしろいな」と思う児童ほど平均正答率は高くなるという結果が出ています。

つまり、職業体験などを経験し、おもしろいと思う気持ちをたくさん感じることで、非認知能力だけじゃなく学力などの認知能力にも効果が出るということです。興味や好奇心を持つことで、自分からいろいろと学ぼうとするからです。体験が学びの土台になっていて、その土台をたくさん作っていけばいくほど、子ども達の学びというのは広がっていくわけです。
青木先生のお話を伺って
今後ますます必要とされている「自分なりに考えて答えを出す力」を育むには、幼児期から「感性」を育てることが大事であること、様々な体験活動の中で、感じたり考えたりする実践を積むことが重要ということが理解できました。
さまざまな体験をすることで子どもの「好き」や「やりたいこと」を見つけることができ、さらには学力の向上にもつながっているというお話を伺い、体験活動の意義は本当に大きいと思いました。
では、子どもたちにとっていい体験活動はどのようなものなのでしょうか。「子どもに体験活動が必要な理由~子どもの年齢別に最適な体験内容とは~(第2回)」に続きます。
お話を伺ったのは…青木康太朗(あおきこうたろう)先生
國學院大學人間開発学部子ども支援学科 教授
<監修者プロフィール>
大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科修了。国立青少年教育振興機構研究員,北翔大学生涯スポーツ学部准教授を経て現職。専門は青少年教育、野外教育で、自然体験活動の教育効果や安全管理の研究、指導者の養成、体験活動の普及啓発に取り組んでいる。文部科学省生涯学習調査官、こども家庭庁「子ども家庭審議会基本政策部会」臨時委員、国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター客員研究員等を務める。
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