子どもの生きる力が育つ「原体験」とは? 学び&体験場所も紹介!

さわる、におう、味わう体験を重視する「原体験」を幼少期に行うことは、「生きる力」を育むためにとても大切だと言われています。とはいえ、その原体験をどこでどうすれば経験できるのか、気になるパパママも多いはず。そこで、原体験教育研究会で活躍している泉伸一さんに、「原体験」とはどのような体験で、どこで体験できるのかを教えてもらいました。

原体験って何?

そもそも、「原体験」とは、具体的にどのような体験を指すのでしょうか。

五感のうち、触覚、嗅覚、味覚を意識的に体験させることで、具体的には火、石、土、水、木、草、動物の7つの自然物を五感で直接体験することです。さらに、恐怖感、空腹感、感動などの感覚を『ゼロ体験』として、7つの自然物にゼロ体験を加えた体験を原体験と考えています

自然物でモノを作ったり、遊んだり、集めたりする体験を「原体験」と呼び、その体験が子どもの「生きる力」を育むそう。

「たとえば、テレビで焚き火の様子を見ていても、炎の熱さや煙の臭い、触ると火傷をすること、火傷がどれくらい痛いのかを知ることはできません。実際に焚き火をすれば、それらを体感することができます」

このような経験をすることで、子どもたちの知恵を育み、危険の回避やアイデアを生むきっかけになっていきます。また、成長とともに『なぜ、そうなるのか』という科学的な思考につながることもあります」

8つの原体験で学べること

火、石、土、水、木、草、動物、ゼロ体験の8つには、それぞれどんな学びがあるのでしょうか。

「火」の体験

体験:火をつける、消す、煙が目にしみる、熱さを感じるなど。
学び:火のありがたみや怖さ、人類だけが火を使えることなど。
体験できる場所:キャンプ場、バーベキュー場など。

「土」の体験

体験:土や砂に触る、掘る、こねるなど。
学び:土の手触りや匂い、虫が出てくるなど。
体験できる場所:砂場、公園、海岸、寺や神社、牧場など。

「石」の体験

体験:石を触る、見る、投げる、積み上げるなど。
学び:形や重さ、色、模様の違いなど。
体験できる場所:河原、海岸、寺や神社(石造物)など。

「水」の体験

体験:水に触れる、泳ぐ、飛び込むなど。
学び:水の温度やしぶきの勢い、泳ぐ感覚、足がつかなくなる怖さなど。
体験できる場所:海、プール、河原など。

「木」の体験

体験:木に登る、触る、匂いを嗅ぐ、葉や幹を見るなど。
学び:自然の生命力や新緑・紅葉の美しさ、実がなる、素材としての木目、年輪の意味。
体験できる場所:公園、キャンプ場、アスレチック、森林、寺や神社、牧場、スキー場など。

「草」の体験

体験:匂いを嗅ぐ、笹舟や笹笛を作るなど。
学び:草の手触り、形や模様の違い、服に付くと汚れが取れない、肌を傷つけることがある、自然の生命力など。
体験できる場所:公園、河原、森林、寺や神社、牧場、夏のスキー場など。

「動物」の体験

体験:触る、エサをあげる、鳴き声を聞く、匂いを嗅ぐ、飼育するなど。
学び:命の尊さ(死があること)、生命力、愛情、思いやり、死(悲しみ)を乗り越えるなど。
体験できる場所:牧場、動物ふれあい施設、動物園、水族館、スキー場(雪の上の動物の足跡)、河原などのほか、ペットを飼育するなど。

「ゼロ」の体験

体験:雨、風などの自然・暗闇の怖さや空腹を感じる、美しいものを見るなど。
学び:自然の脅威やありがたみ、電気、ガスなど科学技術のありがたみを知る、美しい、寂しい、怖い、空腹、渇き、暑さ、寒さといった感覚を知るなど。
体験できる場所:自然のある場所

子どもの個性によって学びも違う

とはいえ「原体験は、『これを学ばせよう』というスタンスでするものではない」と泉さん。

「私たちの考える原体験では、火や石など、単体での学びは目指していません。たとえば河原に行けば、石、土、水、木、草などいろいろなものがありますが、そこで何に興味を示すのかは子どもによって違いますし、何を学ぶのかにも個性があります

同じ「火」の体験をしても、「火の熱さ」に興味を持つ子もいれば、「ものが燃える」ということに興味を持つ子もいます。子どもが示す興味によって、学ぶことはさまざまです。

親は子どもが何に興味を示すのか注意深く観察して、子どもの興味が広がるようにサポートすることが大事です」

もし公園で子どもが足元のアリに興味を持ったのなら「どこに行くんだろうね」と声をかけたり、河原の石に興味を持ったのなら「その石でどんな遊び方ができるかな?」と声をかけたりして、子どもの好奇心をくすぐってみましょう。そうすれば、子どもはさらに興味を持って自らいろんなことを試してみるようになるのだとか。

まずは子どもが何に興味を示すのか、注意深く観察することが大切ですね。

近くの公園でも「原体験」はできる!!

また、「原体験」は都市部の公園でも体験できます。

公園の土は天候によって状態が変わりますし、木を眺めるのも、目線の高さを変えれば見えるものが変わります。親も子どもと一緒に楽しむ気持ちでいれば、近くの公園でもさまざまな発見と体験ができると思いますよ」

近くの公園でも気軽に体験できる「原体験」ですが、親の手助けが必要な体験が2つだけあります。それが「火」と「ゼロ」体験

「子どもが本物の火に触れる機会はなかなかありません。最近は焚き火ができる場所なども限られているので、火の体験は親が用意しなければなかなか体験できません」

「また、ゼロの体験をするためには、『ゼロ』を体感するための状況を作り出すことが必要です。たとえば、空腹を体験させるためには、ハイキングでごく少量の軽食を用意して、『ゴールしたらご飯を食べようね』など、『おなかがすいているのに食べるものがない』状況を作ります」

ほかにも、森で「これから10分間、森のいろんな音を一人で聞いてみて。ママたちは見えないところに行くけれど、ちゃんと見ているからね」と、(見守りながら)10分間1人にして「寂しい」という感情を経験させるなど

「森や林など自然の中で1人で過ごす時間は、寂しい、怖い、不安など、子どもによってさまざまな感情を引き出します。なかには、森の静かさや、鳥の声に興味を持つ子も。何を感じとり、何を学ぶかは子どもの個性によりますが、このような『ゼロ体験』は子どもの感受性に働きかける体験と言えます

小さな危険が大きな危険を防ぐ

子どもの感受性に働きかけるとはいえ、「怖さ」や「不安」などをわが子に経験させるのは、親としては勇気がいるもの。

とはいえ泉さんは、「『怖い』という経験や、ある程度の危険を体験させることは、より大きな危険や事故を防ぐためにも大切」と話します。

「たとえば、刃物を扱うとき、どのように使えば大丈夫なのかは体験させながら教えないとわかりません。火を扱う際も、擦ったマッチをずっと持っていたら火傷をしますが、火傷の痛みを知らないと火が危険だとはわかりません。ですから、子どもが興味をもっていることに対して、予想されるのが小さなケガの場合は、勇気を持って見守ることも大切です

大きなケガをしそうな場合は、対象物を取り上げて危険を防ぐ必要がありますが、親が危険の大きさを判断しながら上手に危険を体験させてあげることが、結果的に大きな事故やケガを未然に防ぐことにつながるのですね

近い世代の仲間となら体験がより豊かに

最後に泉さんは、「原体験は親子だけよりも、多少年齢が違っても子ども同士でさせたほうがより豊かな体験になりやすい」と話します。

「年齢が違うと、同じ対象物でも遊び方が変わります。それを見ながら『自分たちもやってみよう』とチャレンジすることが、学びの良い循環を生みます。また、人数が5~6人いると興味を持つ対象が異なり、より幅広い体験ができます

同じチャレンジでも、親や家族だけでするよりも近い世代同士で経験する方が、自信や満足感が大きくなりやすいのだとか

知識を知恵として活かせるようになったり、感受性を育んだり、子どもの「生きる力」を養う原体験。子どもの興味を広げながら原体験ができる環境をぜひ整えてあげたいですね。

お話を聞いたのは…
原体験教育研究会 泉伸 一さん
昭和62年、兵庫教育大学大学院自然系生物専攻の山田卓三教授が、「原体験」という考えを大学院生に提案したことから始まった研究グループ。現在は、毎週金曜日に兵庫教育大学で例会を開催。兵庫教育大学の大学院生が中心となって活動しており、発足当時から垣根を設けることなく広く参加者を募っている。現在も兵教大の卒業生だけでなく、原体験の考え方に興味関心を持つ人の参加を歓迎。平成2年には「農文協」から、書籍「ふるさとを感じる遊び事典、したいさせたい原体験300集」を出版。「原体験」という言葉の普及に貢献している。
原体験教育研究会

ライター紹介
近藤 浩己
1974年生まれ。ライターズオフィス「おふぃす・ともとも」のライター。トラック運転手からネイルアーティストまでさまざまな職を経験。しかし幼い頃から夢だった「書くことを仕事にしたい!」という思いが捨てきれずライターに。美容・ファッション系ライティングが得意だが、野球と柔道も好き。一児の母。

※こちらは2018年1月にいこーよで公開された記事の再掲です。

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