「子どもとのあそび」を紹介する【あそびのたね連載】。第7回は「静かなあそび」がテーマです。みんなでワイワイにぎやかに、それだけがあそびではありません。静かに集中することで子どもの創造力を高め、コミュニケーションを深めることもあります。そんな奥の深いあそびを、金沢学院短期大学助教の村山大樹さんに伺いました!
子どもといっしょにあそぶ時間は、静かに、豊かに流れる
あそびに没頭している子どもは、ひとつの行為に神経を集中させているので、時間を忘れてしまうことがあります。そうやって集中してあそんでいるときは、子どもはしゃべることも忘れて、無言になってしまうのです。
「子どもの横に座り、あるいは向かい合い、真剣に同じあそびに取り組む。そこで生まれる空気感の共有は、とても心地よいものです。言葉は少なくとも通じ合う、それが『静かにあそぶ』ことの魅力です。」
村山さんは、言葉が少なくても心地よく通じ合う状態を「無言のコミュニケーション」と呼んでいます。大騒ぎをしながらテンションを上げてあそぶのも楽しいけれど、子どもといっしょに黙々と取り組むあそびには、静かなよろこびがあふれています。そんなあそびを5つ紹介します!
◆ドミノたおし
<あそび方>
本や積み木、CDケース、空き箱など、身近にあるものを並べてドミノたおし! 分岐や段差をつくったり、どれだけ小さなもので大きなものをたおせるか試したり、発想しだいであそび方は無限です。ひとつひとつ並べていく作業に子どもは集中し、無言になります。
<ポイント>
休日には部屋をいっぱいに使って、ダイナミックな作品をつくりましょう。それは、子どもの遊び空間を広げることにもなります。大人は、何がドミノに使えるかいっしょに考え、集める手伝いをしてあげてください。完成し、最初のひとつをたおすとき、心地よい緊張感を子どもといっしょに楽しめます。
<村山さんから一言!>
「身近なものを使えば、選ぶ楽しさを味わうことができます。『どれが立つかな』『こんなに小さなもので、こんなに大きなものがたおれるんだ』など、物の持つ重さや質感に触れ、その性質を自然と理解していくことにもつながります。」
<用意するもの>
積み木、本、空き箱のふた、CDやゲームのケース、将棋の駒など
◆動くつまようじ
<あそび方>
利き手の親指と人差し指でつまようじの先端を持ち、中指の爪をその下に添えます。その上にもう1本のつまようじを直角に乗せ、別の手の人差し指で下から軽く支えます。「うーん!」と念力を送る演技をしながら中指の爪を細かく動かすと、上に置いたつまようじがピクッと動きます。
<ポイント>
ポイントは、まず大人がやって、いかに念力で動いているように見せるかです。中指の動きに気づかれないように、「よーく見ててよ!」などの言葉を投げかけ、つまようじに視線を集中させる演技力が問われます。
<村山さんから一言!>
「やってみると意外にむずかしく、コツをつかむまでが大変。ぜひ子どもといっしょに練習してみてください。大人も子どもも指先に神経を集中し、無言で特訓する時間はとても豊かなものになるでしょう。」
<用意するもの>
つまようじ2本 ※マッチ棒などの細いもので代用できます
◆寝たふり
<あそび方>
子どもは、大人をだますのが大好きです。「寝たふり」に気づいても、期待通りにだまされてあげましょう。「あれ、寝ちゃったのかな?」「よく寝てる」などとヒソヒソと話して、思いきり演技をしてください。
<ポイント>
子どもに「寝たふりの仕方」を伝授してあげてもいいですね。「寝息をたてる」「いびきをかく」「寝言を言う」などを大真面目に教えてくれた思い出は、いつまでも子どもの心に残るはずです。
<村山さんから一言!>
「大人も寝たふりをしてみましょう。大げさにいびきをかいてもよし。『起きているんでしょ!?』と子どもに体をゆすられても絶対に目を開けず、あくまでも寝たふりを続けます。そんなやりとりが、子どもは大好きです。次は、子どもがまねをして寝たふりを仕掛けてきますよ。うまくだまされてあげてください。」
<用意するもの>
なし
◆ランダム切り絵
<あそび方>
折り紙を自由に折りたたんで、好きなように切り込みを入れましょう。どんな模様が現れるのか、そっと紙を開く瞬間の期待と緊張。できた模様の美しさに、子どもも思わず見入ってしまいます。
<ポイント>
最初は結果にこだわらずにザクザクと切り、慣れてきたら、雪の結晶などの複雑な模様に挑戦しましょう。ハサミを入れる回数を決めたり、ひと筆書きのように1回で切ってみたり、ゲーム性を取り入れることで熱中度が上がります。
<村山さんから一言!>
「紙に左右対称の絵を描き、二つ折りにして切り抜けば、『紋きりあそび』になります。紋きりあそびは、紙に描いた『紋』を切り抜く江戸時代から親しまれてきたあそびです。ランダム切り絵を十分に楽しんだら、そんな『江戸の粋』を感じるあそびに挑戦してみてもいいですね。」
<用意するもの>
折り紙、はさみ
◆結露に描く
<あそび方>
冬の窓や洗面所の鏡、冷たい飲み物を入れたコップなどにできる結露でお絵かき。好きな絵を描いたり、手形を押したり、家族へのメッセージを書きましょう。
<ポイント>
今の季節は、部屋の窓がキャンバスに早変わりします。子どもといっしょに特大の絵を描いてください。自分の指で描くダイナミックな感覚や、時間が経つと絵が消えてしまう不思議さに子どもは夢中になります。
<村山さんから一言!>
「結露のお絵かきは、冷たさを感じたり、指先が濡れたりするため、体の感覚に訴えかけてくる楽しさがあります。ただ、窓の結露には汚れがたまっている場合もあるため、絵を描いた指を口に入れないよう注意してください。」
<用意するもの>
なし
あそびに没頭することが学びや上達につながる
いかがでしたでしょうか。今回ご紹介した5つは、どれもシンプルでありながら、静かに没頭してしまう奥深さを持ち合わせたあそびばかりです。とくに、「ドミノたおし」「動くつまようじ」は、神経を研ぎ澄まし、集中することで新たな発見や上達につながります。
「黙って静かに熱中する時間は、上達の過程です。うまくいかない経験を経てこそ、『できた!』という達成感と自己肯定感を得ることができます。試行錯誤し、ハードルを超えていくことで楽しさが生まれます。その時間を、ぜひ大人もいっしょに味わってください。」
深く濃密な「無言のコミュニケーション」
子どもの演技にだまされてみる「寝たふり」は、文字通りの静かなあそび。大人のコソコソ話だけで、子どもはワクワクするはずです。
「『バレてないかな?』『起きたらどんな顔をするかな?』と想像する楽しさ。やがて、我慢できずに子どもがクスクスと笑いだし、あるいは『ワッ!』と飛び起きたら、「起きてたんだ!?」とやられたふり。そんな緩急も、最初の静かな時間があってこそ生まれます。」
「ランダム切り絵」と「結露に描く」には、つい大人も没頭してしまうでしょう。
「まずは大人が子どもの前であそんでみてください。熱中している大人の姿を見れば、真似したくてウズウズしてきます。そこで一言『やってみる?』と声をかければ、『うん!』と飛びついてくるはずです。それから、親子並んで黙々とあそぶ。そこに言葉は必要なくなります。」
やけに子どもが静かだなと思ったら、何かに夢中になっている。そんなときは、そっと近づき、子どもと同じ目線であそんでみてはいかがでしょうか。きっとそこには、村山さんが「無言のコミュニケーション」と呼ぶ、深く濃密な時間が流れているはずです。
※次回は、「昔あそび」のたねを紹介します。
イラスト:後藤知江/写真:宗野歩 『あそびのたねずかん』より
<出典>
『あそびのたねずかん』(特定非営利活動法人東京学芸大こども未来研究所・著/東京書籍・発行)
お話を聞いたのは…
村山 大樹さん
文教大学大学院教育学研究科修了。幼稚園の非常勤講師を勤めた後、特定非営利活動法人 東京学芸大こども未来研究所の研究員に。株式会社バンダイ、東京学芸大学、特定非営利活動法人 東京学芸大こども未来研究所の共同研究による「それいけ!アンパンマン コドなび!」や「Disney | KIDEA」などのプロジェクトにかかわる。2016年10月からは金沢学院短期大学助教として、遊びや学びに関する研究を続けながら、次の世代の教員・保育者養成に力を注いでいる。特定非営利活動法人 東京学芸大こども未来研究所 学術フェロー。
特定非営利活動法人 東京学芸大こども未来研究所
ライター紹介
菊地 貴広
編集プロダクション・しろくま事務所(http://whitebear74.jimdo.com)代表。2014年に出版社から独立し、ファッション、グルメ、ビール、猫、タレント本など幅広く活動。2015年11月に男子が誕生し、息子に夢中。その成長を見るたびにフルフルと感涙する日々。
※2017年1月にいこーよで公開された記事の再掲です。
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