ヨコハマ恐竜展

研究員に聞いた「ヨコハマ恐竜展2026」の楽しみ方 恐竜は「食べかた」で見るともっとおもしろい

恐竜の展示というと、大きさや強さに目が向きがちです。でも「ヨコハマ恐竜展2026」が選んだ切り口は「食卓」でした。なにを、どうやって食べていたのか。その一点から見つめ直すと、恐竜の生き物としての暮らしが浮かび上がってきます。9年ぶりに横浜へ帰ってきたこの展示を、7月16日の内覧会で取材しました。展示を作った福井県立恐竜博物館の研究員・静谷あてなさんに、見どころと楽しみ方を伺いました。

なぜ「食卓」なのか。展示を貫く切り口

今回の展示は、恐竜を食べかたごとに並べています。分類の上では近くない恐竜でも、似た食べかたをするもの同士を集めているのが特徴です。福井県立恐竜博物館の最新研究にもとづく、新しい試みだといいます。

ヨコハマ恐竜展 静谷あてなさん

福井県立恐竜博物館 研究員 博士 静谷あてなさん

静谷さんは、恐竜にくわしい人ほど「なぜこの恐竜とこの恐竜が同じ場所に並んでいるのだろう」と不思議に思うかもしれない、と話します。見慣れた恐竜も、食べかたという視点で並べ替えると、まったく違う顔を見せてくれます。

【見どころ1】歯にさわって「肉食と草食」を見分ける

各コーナーには、代表的な歯の形を再現した、さわれる模型が置かれています。じつはこの模型、企画の初期から静谷さんがこだわってきたものです。見ているだけだと、大きさもあって形を見分けづらい。さわると、こういう形なのだと一気にわかりやすくなる、といいます。

歯の形をさわって確かめられる展示コーナー

肉食恐竜の代表として並ぶのが、大きな顎を持つアクロカントサウルスです。ナイフのような歯がずらりと並び、獲物をひとかみでとらえます。一方、動いて見せるスピノサウルスは円すい形の歯で、水に入って魚を突き刺してとらえていたと考えられています。今を生きる動物もあわせて展示されていて、コモドオオトカゲの歯が肉食恐竜とよく似ていることにも気づきます。

アクロカントサウルスの頭骨

同じナイフのような歯でも、体の大きさによって狩りの仕方は変わります。アクロカントサウルスの近くには、小柄で足の長いドロマイオサウルスがいて、こちらは手足も使いながら獲物をとらえていたと考えられています。似た歯でも狩り方が違うことが、並べて見るとよくわかります。

【見どころ2】骨と「生きていた姿」をつなぐ

骨だけを見ても、生きていた姿となかなか結びつかない。これは教育の現場でもいつも感じることだ、と静谷さんは言います。だからこの展示では、骨と復元模型をセットで見せています。骨のどこに注目すればいいのかを、保護者と一緒に確かめながら学べる作りです。

ヨコハマ恐竜展

おもしろいのが、歯を失った恐竜たちです。大きなデイノケイルスは、アヒルのようなくちばしを持ち、草食のように見えます。でも、おなかのあたりから魚のうろこや骨も見つかっていて、じつは雑食だったと考えられています。首の長い恐竜のなかにも、細い歯で枝をくしのように通し、葉だけをこそげ取って食べたと見られるグループがいます。そのひとつサルミエントサウルスの頭骨は国内で初公開。脳が入っていた空間の研究から、ふだんうつむき加減で低い葉を食べていた可能性まで見えてきます。デイノケイルスの全身骨格

【見どころ3】親子の食卓図鑑。今回初の試み

子どものころと大人とで、食べるものが変わったと考えられている恐竜たち。その代表がティラノサウルスです。大人のとなりに、小柄で動きのすばやい子どものティラノサウルスが並びます。

ヨコハマ恐竜展

見比べると、顔の幅も体つきも違います。大人は横幅の広い頑丈な顔で、待ち伏せをして力強い顎で骨ごと砕きながら食べたと見られます。子どもは細身で足が長く、小さくすばやい獲物を追いかけてとらえていたようです。静谷さんは「子どもが親になって、食べかたも変わっていく。それがとても印象的で、子どもにとっても大きな学びになると思います」と話します。親子を並べて見せるのは、今回が初めての試みだそうです。

食べものが成長で変わるのは、恐竜だけではありません。会場には、東海大学から借りた巨大ザメ、メガロドンの歯も並びます。小さいころは魚を、大きくなるとクジラのような大きな獲物を狙って食べていたと考えられていて、恐竜ではないものの、親子で食が変わるという同じテーマのなかで紹介されています。人気の生き物を入口に、成長と食のつながりを実感できる展示です。

メガロドンの歯を並べた展示

【見どころ4】食事のトラブル図鑑。食べることは楽じゃない

生き物にとって、食事はいつも簡単にいくわけではありません。このコーナーでは、狩りに失敗してケガをした跡や、病気の痕跡が残る化石を紹介しています。目を引くのが、アロサウルスの全身骨格と、その手前に置かれたステゴサウルスの尾のトゲです。

アロサウルスの全身骨格

アロサウルスの尾の骨には、ステゴサウルスのトゲで刺されたような跡が見つかっているといいます。静谷さんは「距離を読みまちがえて、痛い反撃を受けることもあった。それでも懸命に食べて生きていた様子が伝わってきます」と話します。

ステゴサウルスの尾のトゲ

【見どころ5】恐竜から鳥へ。「食べかたの守りかた」まで

恐竜の一部は鳥へと進化し、今も地球上には1万種以上が暮らしています。展示の後半は、その鳥たちの食のバリエーションへと続きます。飛ぶのをやめて地上で暮らす鳥のなかには、鋭いくちばしと力強い足を持ち、生態系の頂点近くにいたとみられる大型の種もいます。なかには、地面のにおいをかぎながら、長いくちばしで地中の虫を探り当てて食べる鳥もいて、飛ぶのをやめた鳥たちが暮らしに合わせて食べ方を変えてきたことがわかります。

ヨコハマ恐竜展

個別取材で、静谷さんが好きな恐竜のことも教えてくれました。大きな恐竜よりも、小さくて羽毛のある恐竜が好きなのだそうです。なかでもシノサウロプテリクスは、恐竜研究の歴史を二度変えた恐竜だといいます。鳥と恐竜のつながりがまだわかっていなかったころに見つかり、両者をつなぐ存在として注目されました。さらに、世界で初めて「生きていたときの色」がわかった恐竜でもあり、しま模様の尾と、目のまわりのアライグマのような模様をしていたことが研究で明らかになっています。今回は展示されていませんが、羽毛恐竜のおもしろさを知る入口になる一頭です。

展示の最後は、環境や鳥の保護に触れて締めくくります。ここにも静谷さんの工夫がありました。「ただ鳥を守ろうと言われても、なかなか心に響かない。だから鳥のことを知ってもらって、自然に守らなきゃと思える展示にしたかった」。たとえば今を生きる鳥が世界で1年に食べる虫の量は4〜5億トンにのぼるといい、その事実を知ると、環境と自分の食卓のつながりが見えてきます。

研究員のこだわり。解説は「100文字以内」

取材で印象に残ったのが、パネルへのこだわりです。静谷さんは、すべてのパネルにキャッチコピーを付け、解説文を100文字以内に収めたと言います。「長い解説は読みたくないという人でも、これ何だろうと目を留めてもらえるように。100文字のなかに、いちばん楽しんでもらえる情報をどう入れるか、とても悩みました」。

ヨコハマ恐竜展

研究が進んでいる恐竜ほど書きたいことが増え、逆に情報が少ない恐竜は書くことをしぼり出す苦労もあったそうです。伝える相手を思って言葉を削る姿勢は、記事を書く立場としても学ぶところが多いものでした。

恐竜が「こわい」子にも。研究員からのメッセージ

恐竜がこわくて、鳴き声を聞くと逃げてしまう。そんな子には、どう見せたらいいのでしょう? 静谷さんの答えは、やさしいものでした。

「恐竜イコール、襲いかかってくるモンスターというイメージだと、どうしてもこわい。でも、ライオンばかりではなく、牛みたいな恐竜も、ウサギみたいな恐竜もいます。こわいものばかりではないので、かわいい恐竜、やさしい恐竜を探しに行こう、という気持ちで来てもらえたら」。無理に興味を持たせようとせず、好きになれる入口を一緒に探す。その視点は、子どもと来館するときの大きなヒントになりそうです。

ヨコハマ恐竜展

動く恐竜も、体験も充実

見どころは展示だけではありません。会場では、株式会社ココロによる動く恐竜ロボットや、全長約23メートルのディプロドクスの巨大骨格が迎えてくれます。このディプロドクスは、惜しまれつつ閉館した東海大学自然史博物館の標本です。取材した印象では、動くティラノサウルスロボットがいちばん人気を集めそうでした。見上げるアングルの動くティラノサウルスロボット

体験を集めた「恐竜プレイランド」もあります。ガラスの器に貝を敷き詰める「Joy Candle」のジェルキャンドルづくり、360度の恐竜ワールドに飛び込むVR、本物の化石を掘り当てる化石発掘体験(化石は2つまで持ち帰れます)などがそろい、これらの有料体験はチケット制です。チケットは1枚500円、3枚綴り1200円。大迫力のトリケラトプスに乗れる乗り物は別料金で、1回300円です。音声ガイダンスは700円です。

ヨコハマ恐竜展

スコップで砂をすくって化石を探す体験。砂なので力がいらないため、小さな子でも挑戦しやそうでした。

取材を終えて
恐竜展というと、有名な恐竜やその大きさを主役にすることが多いなか、「食卓」という切り口を選んだのが、まず新鮮でした。似た形の2体がじつは肉食と草食に分かれていたり、歯や爪の形で獲物のとらえ方が違ったり。骨格標本を前に「この恐竜は、どうやって食べものを手に入れていたのだろう」と自分で考えられるようになり、標本の見かたが自然と身についていきます。あんなに大きいのに、ペリカンのようにくちばしだけでエサをとっていた恐竜がいる、という発見も楽しいものでした。現代の動物の骨格標本も並んでいて、恐竜との共通点を見つけられるのもうれしいところです。福井県立恐竜博物館の協力もあって、きれいで形のよくわかる標本がそろっているのも見ごたえがあります。動く恐竜ロボットも迫力があり、大人でもつい見入ってしまいました。(KAZ)

ヨコハマ恐竜展2026 ~恐竜の食卓大図鑑~
会期:2026年7月17日(金)〜9月6日(日)
開場時間:10:00〜16:30(最終入場16:00)
会場:パシフィコ横浜 展示ホールA(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
アクセス:みなとみらい線「みなとみらい」駅から徒歩約5分/JR・市営地下鉄「桜木町」駅から徒歩約12分
料金:前売券 大人1,700円・こども800円/当日券 大人2,000円・こども1,000円(税込、こどもは中学生以下、3歳以下無料)
有料体験(プレイランドなど):チケット制 1枚500円・3枚綴り1200円
トリケラトプスの乗り物:1回300円(別料金)
音声ガイダンス:700円
特別協力:福井県、福井県立恐竜博物館
主催:ヨコハマ恐竜展2026実行委員会(神奈川新聞社、パシフィコ横浜、横浜アーチスト)
公式サイト:ヨコハマ恐竜展2026 公式サイト

※この記事は2026年7月16日の内覧会取材にもとづき作成しています。
※掲載内容は取材時のものです。
※展示・イベント内容は変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトで最新情報をご確認ください。

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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