今回は、中学受験をする子どもの多くが塾に通い始める小学4年生の子どもを持つママからの相談です。子どもの意思がまだはっきりしないなか、中学受験にチャレンジさせるべきかどうか…迷えるママのお悩みについて、専門家にアドバイスしてもらいました。
このお悩みにアドバイスをくれたのは…
柳沢幸雄先生
東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。
Q.勉強が得意なタイプではないけど中学受験をさせるべき?
小学4年生の女の子の母親です。娘に中学受験をさせるかどうかで悩んでいます。
上に5歳違いの兄がいるのですが、好奇心旺盛で勉強が好きなタイプだったため、中学受験をして本人が希望する学校に無事入学し、現在充実した学校生活を送って楽しそうに通っております。
娘の方も、そんな兄を見て自分も中学受験をする!と言っており、現在中学受験用の塾に通っていますが、親からみてもそれほど勉強が得意なタイプではなく、毎日が遊び中心でそれほど勉強も進まず、兄と同じように中学受験をさせることに意味があるのかと迷っています。
娘には娘ののびのびとしたいいところがあり、兄と同じように中学受験をさせなくてもいいのではとも思ったり、教育の機会だけは兄妹と同じにしてやるのがいいのではないかと思ったり悩んでいます。どのように考えたらいいでしょうか。
(小学4年生女の子のママ)
A:本人の「やりたい」気持ちを尊重するのが親の役目
人は成長する生き物です。子どもは小学校、中学校、高校と進学するに連れてどんどん変わっていくわけですよね。そんな中、小学校の現時点で「この子はこうだから…」と親が決めつけるというのはいかがなものかなと思います。子どもが大人になったときのことを想像してみてください。「お兄ちゃんはこうだったけど、あなたはこうだったから…」と、きょうだいで比較し親が判断したことを娘さんに言えますか? きっと言えないと思います、そして言えないことはやってはいけないんです。
このお母さんは、子どもを育てるときの比較の基準があきらかに間違っています。私は垂直比較と呼んでいますが、子どもはその子自身の過去と比べるもので、きょうだいなど他人と比べるものではないんです。子どもの成長速度というのは人によって全く違うので、お兄さんとこの子を比べるというのは全く意味がありません。仮にもし、この子が最初に生まれた子どもだったら判断が変わっていたのではないでしょうか? きっとその子の特性をみて受験について考えていると思います。小学4年生の現段階でお兄さんと比べてこうだからと判断するのはあきらかに時期尚早であり、その後の可能性を潰してしまうことにもなり得ます。
そして一番のポイントは、この子が自分で「受験したい」と希望しているということです。子どものやる気や好奇心を否定するということは、絶対にやってはいけません。好きなこと、やりたいことができなかった子どもは、親の言うことを何でも聞く子どもにはなるかもしれませんが、自分で考えて行動できるようにはなりません。指示待ち族になります。大人になり自分が社会に出てやっている仕事を考えてみてください。それは自分が苦手なことなのか得意なことなのか、あるいは嫌いなことなのか好きなことなのか…おそらく十中八九、好きなことや得意なことに関連しているのではないでしょうか?
子どもは潜在的にいろんな能力や才能を持っています。その中で今子どもが求めているものや伸ばすべきものは、子どもが示す興味や好奇心によってのみわかります。親にはわからないのです。だからこそ、子ども自身が考えて「やりたい」と言ったことを受け入れることは、子どもが将来自立して生きていける人間に育てるために非常に重要なことだと言えます。将来メシが食える子どもにするためにも、子どもが興味を持ったことから「好き」を伸ばし、自分で物事を考えられるようにすることが大切です。だから子どもがやりたいと言ったことは、否定せずにまず受け入れること。その「やりたい」という気持ちに”ちょい足し”をして、チャレンジできる場を用意してあげるのが大人の役割だと思います。
また、勉強が得意なタイプではないから受験させるべきか悩んでいるようですが、受験の動機は人それぞれ何でも構わないと思います。たとえばいろんな学校を周ってみて、学校自体に魅力を感じ、その学校に行きたいから勉強を頑張るというケースも多くあります。開成の校長をやっているときに、小学校4年生のときに開成の文化祭でジャグリング部のパフォーマンスを見て魅了され、ジャグリング部に入部したいからと一生懸命勉強して入学してきた子がいました。一番大切なのは本人のやる気なので、きっかけは何だっていいんです。この子が楽しそうに学校生活を送るお兄ちゃんを見て、自分も中学受験をしたいと思っているなら、その気持ちを尊重し応援してあげるのが一番だと思います。
成長に伴いこれからどんどん変化していく子どもに対し、親が何かを決めつけてしまうのはその可能性を潰すことになりかねず、子どもが「やりたい」と興味を示す道を応援するのが最良ということですね。貴重なアドバイス、ありがとうございました。
東京大学名誉教授、環境化学者、工学博士。シックハウス症候群・化学物質過敏症研究の第一人者。ハーバード大学大学院の准教授・併任教授を経験したこともあり、教育分野に熱心に取り組む。2011年から開成中学校・高等学校の校長を9年間務め、現在は北鎌倉女子学園の学園長に就任。『「頭のいい子」の親がしている60のこと』『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』など、子育てに関する多数の著書がある。
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