今回は、学校で忘れ物をして叱られる経験も子どもの成長には必要なのではないかと思う小学1年生の女の子を持つママからの相談です。学校からは、子どもがまだ小さいので忘れ物がないようにサポートしてほしいと言われて、考え方が違うことに戸惑いがある…というママのお悩みについて、教育の専門家にアドバイスしてもらいました。
このお悩みにアドバイスをくれたのは…
今井重孝先生
東京工芸大学講師、助教授、教授、広島大学教授、青山学院大学教授、川口短期大学こども学科教授をへて、現在は青山学院大学名誉教授。専門は、教育学、ホリスティック教育、シュタイナー教育思想。
Q:学校と家庭で教育方針が違う、私の考えは間違っている?
小学校1年生の女の子の母親です。自分と学校の先生とで子どもへの接し方の考えが違い、戸惑いがあります。
子どもの学校の担任の先生に呼ばれ、子どもの忘れ物が多いことや学校の集団生活になかなか行動が合わせられないことを注意されました。忘れ物に関しては、忘れて自分が困る経験も本人のためになると思い、あまり親がすべてを用意してやることをあえてしていないのですが、学校側からはまだ子どもも小さいのでサポートしてほしいということと、例えば図工の時に一人でも忘れた人がいるとクラス全員でその図工の授業をしないようにするため、忘れ物があると困りますと言われました。怒られても、子ども自身が困る体験をすることは子どものためには必要だと思っているのですが、私の考え方は間違っているのでしょうか。
(小学1年生の女の子のママ)
A:学校に対する不信感を子どもが真似することの方が深刻
このお母様は、もっともなことをおっしゃっていると思います。そして、学校の先生と考え方が違うこともよくあることです。でも、先生と考え方が違うと親が思うと、先生を信用できないという気持ちが態度などに自然と出てしまい、先生への不信感が子どもに伝染する可能性があります。お子様に不信感が植え付けられて人を信頼できなくなる危険性が高いのです。信頼関係を育むことが一番重要な時期に、人を信頼できなくなったり、自信がなくなってしまいます。そのことの方がよっぽど怖く、それ以外のことはそれと比べたらどうでもいいのです。子どもは学校で言われたことを「そんなもんなんだ」と思います。それを親に間違っていると言われたら、自分が悪いことをしているのかなどと戸惑い、学校に行きたくなくなってしまうかもしれません。
自分が忘れ物をしたせいで、クラス全員で図工ができないという体験をさせるのもよくないです。そもそも全員が罰せられるという教育は良くないと思いますが、学校側にもさまざまな事情があるのだと思います。コロナ禍の現在は通常の授業を行うことにさまざまな困難が生じていたり、小学1年、2年、3年がイジメのピークだったりするなかで、それでもクラスをまとめていかなくてはいけないとなると先生方も疲弊しがちです。ですので、学校内での教育に関しては専門家である先生方の方針を受け入れて、家庭内での教育においてご自分の考えを取り入れ、バランスを取るのが良いかと思います。
また、シュタイナー教育の発達段階をふまえると、「子ども自身が困る体験から学ぶ」という方法は10歳以上の子どもにとっては適切ですが、7歳頃の子どもには難しいです。小学校1年生というのは、まだ自分で考える力はなく、周りの大人の振る舞いを模倣することによってしか学びません。また、1年生というのは新しい経験が次々起こる時期で、新しいことに適応するには時間がかかります。でも学校はゆっくりやってはくれないので、子どもだけではついていけません。家庭で子どもをサポートしてあげないと授業が成り立たないのです。入学から3年間は、習慣化できるようになるまでサポートしてあげてください。
そして、もう一つ重要なことは、100%悪い教育、100%いい教育というものはないということです。どの子にも100%あてはまるいい教育、一つの正解というものはないのです。その子に特化した教育ができるのは家庭しかありません。その家庭で、その子どもにあった教育をするのがベストなのです。その子にあっている教育法なのかどうかは、子ども本人がどう反応しているのか、どう感じているのか、つまりお子さんが元気なのか、喜んでいるのか、満足しているのかで判断できます。
また、この時期の子どもは、全面的に親を信頼している時期です。そして目の前のものをすべて善として受け止めて模倣をします。子どもを理想的な人間にしたいのでしたら、自分が理想的なふるまいをすることを心がけてほしいと思います。
学校(や他の大人)に対する不信感を家庭で持ってしまうと、子どもにも不信感が植え付けられてしまい、人を信用できなくなってしまうかもしれないというのはショックでした。学校でのやり方も尊重し、家庭のやり方は家庭で実施することでバランスを取るのがいいということですね。また、子どもによってどの教育法が合うのかは違うので、その子がどう反応しているのかで判断するということなのですね。
1948年愛知県生まれ。東大教育学部卒業後、同大学院に学び、西ドイツ政府留学生としてボン大学に留学。教育学博士(東京大学)。東京工芸大学講師、助教授、教授、広島大学教授、青山学院大学教授、川口短期大学こども学科教授をへて、現在は青山学院大学名誉教授。専門は、教育学、ホリスティック教育、シュタイナー教育思想。著書に、単著『“シュタイナー”「自由の哲学」入門』(イザラ書房)など多数。現在、日本シュタイナー学校協会専門会員。社会の未来を考えるホリスティック教育研究所を主宰。
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