和光小学校 職人さんから学ぶ

漆職人から学ぶ、心を豊かにする時間【和光小学校の特別授業レポート】

世田谷区にある和光小学校に、青梅市から2人の漆職人がやってきました。教室に登場したのは「青梅・朱文筵(しゅぶんえん)工房」の手塚俊明さんと戸枝恭子さん。6年生を対象にした特別授業「職人さんから学ぶ」では、木工ろくろを使って器を削るという、本格的なものづくりの体験が行われました。

削る音が静かに響く教室で、子どもたちは真剣そのもの。初めて触れる職人の道具に戸惑いながらも、夢中になって木を削っていく。教科書だけでは出会えない「自分の手で作る」体験に、目の奥がキラリと光る。そんな子どもたちの姿を取材しました。

和光小学校 職人さんから学ぶ

「子どもが主役」の和光小学校で行われる特別授業

和光小学校は「子どもが主役」という教育方針のもと、子ども自身が考え、判断し、選択する力を育むことを大切にしている小学校です。知識の詰め込みではなく、知力・感情・身体をバランスよく発達させ、真の生きる力を育てる教育を実践しているのが特徴です。

そんな和光小学校の作品展を取材した際のレポートでもお伝えしましたが、この学校では「夢中になれる学び」を大切にしています

6年生の工作技術のテーマは「生活の中の道具づくり」。その一環として今回、手仕事を生業とする漆職人をゲストに招き、そのこだわりや生き方から、私たちの生活とものづくりについて考える特別授業が企画されました。

伝統の技と職人の思いにふれる授業がスタート

特別授業は2日間にわたって行われ、6年1組と2組が別々の日に体験。各クラスでは保護者が「奥会津の木地師(1976年・民族文化映像研究所制作)」のダイジェスト版映像を見て(生徒は授業で視聴)、続いて子どもたちと保護者が一緒に漆職人さんのお話を聞く時間がありました。

漆の歴史は古く、約一万年前の漆の器が今でも残っているほど。美しい色合いはもちろん、漆の耐久性も特筆すべき特徴です。江戸時代に作られた浮世絵にも、道端に大きな鉢を並べて、漆を精製する姿が描かれており、古来から日本の食器に欠かせない存在でした。一時は年間約1000トン採られた漆も、現在は年間約2トンに満たなくなり、国内使用量の大部分を中国からの輸入に頼っているのが現状です。

手塚さんがお話する前に置かれたテーブルには、漆で塗られた美しい器が並んでいます。赤や黒の漆に、モミジなどの絵が描かれた器の色の美しさや精巧さに子どもたちの目が釘付けになっていました。

和光小学校 職人さんから学ぶ

手塚さんが木の器にこだわるのは、木は天然の材料で捨てるときや燃やしても人や動物にやさしい、土に還る素材だからです。

手塚さんは「(手引きのろくろなどでの手仕事は)労力と時間はかかるけど、そこには自然とともに思いを巡らす幸せな時間がある。なるべく自然のものを触れて選んで使ってみてほしい」と語ります。

和光小学校 職人さんから学ぶ 

子どもたちはツヤツヤしてきれいな器が、自然のものだけでできていることに驚きの表情を浮かべています。手塚さんのお話のあと、実際に手に取って眺める子どもたちの目は好奇心で輝いていました。

和光小学校 職人さんから学ぶ 漆の実

漆の実も展示。これがろうそくの原料になります。成長した木からは漆が採れ、あの深みのある漆黒や鮮やかな朱になることに子どもたちも驚いていました。

漆は木に傷をつけて、そこから出る樹液を採取して作ります。漆器を作る際には、何度も塗り重ねる手間のかかる工程が必要で、その丁寧な作業が漆器の美しさと耐久性を生み出しています。

和光小学校 職人さんから学ぶ

みんなで力を合わせて、木工ろくろに挑戦!

授業のメインは、朝から午後まで続く「木工ろくろ体験」です(保護者はその間、保護者会を実施)。手塚さんは木工ろくろの使い方をわかりやすく説明するため、ザルと「かんな棒(先が『く』の字に曲がった刃物)」の模型を使って見せていきます。子どもたちは真剣なまなざしで、一言も聞き逃すまいと集中しています。

和光小学校 職人さんから学ぶ

木工ろくろ体験は基本3人1組(中には2人1組のグループも)。削る人は20分おきに交代します。綱は1人で引いても2人で引いてもOKで、引き方は子どもたちに任されています。

手引きの木工ろくろは鉄の棒の芯に巻き付けた綱を交互に引くことで、ろくろが回転する仕組みです。木が反転し、刃物で木を削る側の腕に強い力が必要なため、このときに力を上手に伝えられるように、綱をしっかり張って引くことがポイントになります。早さよりも、一定のリズムで回すことがコツのようです。

和光小学校 職人さんから学ぶ

取材した日の別日に行われた体験授業では、学校のグラウンドを使って実施

最初の20分間、まずは器の外側を削り始めます。高台(こうだい)と呼ばれる器の足の部分を削りだす人もいて、それぞれが事前に考えた形を目指して勢いよく削り始めました。

和光小学校 職人さんから学ぶ 

木工ろくろを回す作業は想像以上に力が必要なうえに、リズミカルに回し続ける必要があります。子どもたちの間からは「1,2,1,2」「早すぎる!ちょっと止めて」「足を伸ばしてやると楽かも」「木くずがたまったから一度掃除するね」といった声が交わされていました。

和光小学校 職人さんから学ぶ

子どもたちの適応力はさすがです。2人でリズムよく回すための工夫を凝らし、その過程で掛け声や歌が自然に出てきて、微笑ましい気持ちになりました。きっと静岡の茶摘みの歌や草津の湯もみ歌など、お仕事にちなんだ歌はこうやって生まれてきたのではないかと、まるで文化ができる瞬間に立ち会えた気分です。

うまくいかないからこそ成長できる貴重な体験

一方、専用の刃物で木を削る役目の子どもたちは、まさに職人の卵。木工ろくろが回るたびに木くずが飛び散り、円形の木がだんだんと「器」の形になっていきます。

和光小学校 職人さんから学ぶ

最初は苦戦していた子どもたちも、徐々にコツをつかんでいきます。子どもたちの集中力は非常に高く、木工ろくろが回る振動に抗いながら、形を確認しつつ慎重に刃を当てていきます。

技術室には大きなタイマーが設置されていて、子どもたちは「あと何分?」と確認しながら、夢中で作業を続けます。20分×3回が終わり、お昼休憩をはさんで、今度は器の内側を削っていく作業へ。

和光小学校 職人さんから学ぶ

初めてのことにワクワクしていた午前中とは違い、午後からは子どもたちの疲れもあって「あと何分?」の確認の回数が増えてきました。人によっては合計40分で器の大部分が完成し、やすりがけに入る人もいて終盤は全員が夢中で作業に取り組んでいます。

和光小学校 職人さんから学ぶ 

やってみて初めて知る「難しさ」の価値

体験を終えた子どもたちは、一様に「難しかった」と口にします。でも、その「難しい」の先には前向きな気持ちがあふれていました。

「最初に手塚さんが削っているのを見て、すごく簡単そうだと思ったんです。でも、いざやってみると全然削れなくて…本当にすごいなって思いました」

「細かくしか削れなくて、職人さんみたいにスッと削れたらいいのにって思ったけど、全然無理でした。でも、楽しかった!」

「最初は全然できなかったけど、最後のほうでやっとコツがつかめて、少し削れるようになりました」

「最初は難しかったけど、どんどん削れていくのが気持ちよくて、ずっと作業していたいと思いました。完成させたら自分の大切なものなどを入れたいと思っています」

短い時間の中でも、手応えを感じた子が多く、「またやってみたい」「もっと上手になりたい」という声があちこちから聞かれました。

和光小学校 職人さんから学ぶ

また、漆職人の仕事や思いについても、子どもたちは静かに心を動かされていたようです。

「今は機械の時代だけど、手塚さんと戸枝さんみたいに手作りのおわんを作る技術を守っているのがすごいと思いました」

「プラスチックは自然に戻せないって話、すごく印象に残りました」

「最初から最後まで、自分の手で作るってすごいことなんだなって思いました」

素材や環境、時間、手間…普段は意識しない「ものづくりの裏側」に触れる貴重な時間となりました。

和光小学校 職人さんから学ぶ

「やってみないとわからない」を知れたことが一番の収穫

漆職人の手塚さんは、子どもたちの姿を見てこう語ってくれました。

「最初は『簡単そう』って思ったかもしれない。でも、やってみたら難しかった。そこに気づいてくれたのが、僕は一番うれしかったです」

「今はなんでもボタン一つで答えが出る時代。でも、やってみないとわからないこと、触れてみないとわからないことがたくさんある。それを今日は、ちゃんと感じてもらえたんじゃないかなと思います」

和光小学校 職人さんから学ぶ

戸枝さんは子どもたちの様子を見守りながら、感心したようにこう語りました。

最初はうまくいかなかった子が、他の子が困っているときにそっと手を貸していた。その姿を見て、胸が熱くなりました。やってよかったと心から思いました」

子どもたちからの「どうしてこの仕事をしているのですか?どうしてやりたいと思ったのですか?」という質問には「自然に身近なところで仕事ができる。使っていただいた方と話ができて、使い心地などを聞ける。大量生産にはない、個人的に作ったものを使ってくれるのがいいなと思っています。それがあるからやめられない。始めたのは、漆を作る場所で育ったからです。(漆を作るところが)遊び場だった。ものづくりっていいなと思って始めました」

子どもたちと交わされた言葉の一つひとつが、職人という生き方の「手ざわり」をしっかりと伝えていました。

取材を終えて
木工ろくろの体験は、ただ器を削る技術を学ぶだけではありませんでした。「友だちが回してくれたろくろに合わせて削る」ことで生まれる一体感、そして互いに支え合いながら作業を進める中で、自然と思いやりの心が育まれていきました。自分の手や肩が痛くなっても、相手のためにろくろを回し続ける。そこには、技術を超えた「心」が確かに息づいていました
和光小学校 職人さんから学ぶ漆職人・手塚さんが作った器の裏には「手塚」の「手」のマークがサインとして刻まれています。子どもたちが作った器にも、見えない「手」のマークが刻まれたように感じました。協力し、悩みながら、最後までやり遂げた証です。
さらに素晴らしいのは、子どもたちの体験が終わったあとに、保護者にも木工ろくろを体験する時間が設けられている点です。親が子どもに教わったり、子どもの器づくりを手伝ったりする中で、親子でひとつの作品を仕上げることができます。実際に手を動かすことで、保護者も器ができるまでの過程や難しさを実感し、家に帰ってから体験を振り返る会話のきっかけにもなります。ただの見学では終わらない、学校と家の両方で「手と手をつなぐ学びの場」になっているのです(KAZ)

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6歳の息子と2歳下の妻と暮らすパパで、息子が成長していくにつれて「育児が最高におもしろい!」と気づいて、某ゲーム雑誌編集部からアクトインディに入社。発達がゆっくりな息子と向き合いながら、毎日笑いの絶えない生活を送る。子育て以外ではゲームとお酒が好き。息子の影響で鉄道にも詳しくなった。

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