小学3年生~5年生の子どもたちによる「子ども記者団」が、さまざまな競技用車いすを製作している株式会社オーエックスエンジニアリングを取材! パラ陸上選手たちの足となって活躍(かつやく)する競技用車いすがどのように作られているのかを調べました。
※小学生でも読みやすいよう、小学5年生までに習わない漢字には読みがなをつけています。ご了承(りょうしょう)ください。
子ども記者団とは?
2024年5月に行われる、神戸2024世界パラ陸上きょうぎ選手権大会をもり上げるため、兵庫県神戸市などの小学3年生から5年生までの小学生で結成されたのが「子ども記者団」です。今回はくすみ かほ記者(小学3年生・東京都)と、 まつもと えみな記者(小学4年生・東京都)が、千葉県千葉市にある株式会社オーエックスエンジニアリングさんを取材しました。

競技用車いすで世界で活躍するプロ選手も使用しているメーカー
株式会社オーエックスエンジニアリングは、足や腰(こし)などに障(しょう)がいを持つ方がふだんの生活に使う車いすをはじめ、テニスやバスケットボール、車いすマラソンなど競技用の車いすを数多く作っています。車いすテニスで輝(かがや)かしい実績を残した国枝慎吾(くにえだ しんご)さんをはじめ、車いすテニス女子のトップ選手・上地結衣(かみじ ゆい)選手や、東京パラリンピックの陸上男子400mと1500m(T52)において金メダルを獲得(かくとく)した佐藤友祈(さとう ともき)選手など、世界で活躍するプロ選手も使用しているメーカーです。
今回はスタッフの櫻田(さくらだ)さんが、子ども記者にオーエックスエンジニアリングの歴史と現在製作している競技用車いすについて紹介(しょうかい)してくれました。
まずはオーエックスエンジニアリングの歴史から。オーエックスエンジニアリングを創業(そうぎょう)した石井重行(いしい しげゆき)さんは、モーターサイクルレースのライダー兼(けん)ジャーナリストとして活躍していましたが、新型のオートバイの試乗中に事故に遭(あ)い、車いすが必要な障(しょう)がいを負いました。その後、オーダーメイド車いすを何台も試したところ、機能やデザインで自分が気に入るものがなく、個人プロジェクトで車いすを作り、それを改良して使っていたそうです。ある日、ドイツの世界最大の自動二輪車・自転車展に視察をした際、現地の記者に自作の車いすを褒(ほ)められ、事業化を決意しました。1993年4月より本格的に車いすを販売(はんばい)しています。
車いすテニスや車いすバスケットボールなど、スポーツ用車いすの製作も車いす事業開始と同時期にスタート。選手にも好評で、1996年のアトランタ大会から数えて計144個のメダルが、オーエックスエンジニアリングの車いすに乗った選手によって獲得(かくとく)されています。現在も国内外のトップ選手に使われており、多くの選手がオーエックスエンジニアリングの車いすでパラ競技に挑戦(ちょうせん)しています。
機械が正確に車いすの部品を作り、人の手で組み立てられる
車いすを実際に作るときは、使う人の身長や体格などにあわせて作ります。そのため「採寸(さいすん)」と言って車いすを作るために必要な情報をメジャーなどで測ります。
例としてあげた車いすの注文票には採寸の項目(こうもく)がたくさん! 採寸をするだけでもとても時間と手間がかかることがわかります。
子ども記者たちは、実際に車いすを組み立てている工場に案内されました。現在、日常的に使う車いすは新潟の工場で作られており、スポーツ用の車いすも部品の多くは新潟で作っています。とはいえ、一部のパーツは取材で訪問した千葉の工場でも作られていて、取材した日もアルミ板から機械で自動的に部品が作られていました。一枚(まい)のアルミ板から極力多くのパーツが取れるように工夫されています。
千葉の工場では採寸と設計図の作成をしたあと、送られてきた部品を溶接(ようせつ)したり色を塗(ぬ)ったりして組み立てていきます。工場内には、組み立てるのに必要なビスが入ったケースが並(なら)ぶところもありました。ここから必要な個数だけ持っていって組み立てていくそうです。
溶接(ようせつ)や組み立て加工の場所には設計図も置かれています。実際に設計図の上に置いてあわせることで、設計図どおりにできているかを確かめています。
車いすを溶接(ようせつ)しているところも遠くから見学させていただきました。バチバチッと大きな音と強い光が出る様子は大迫力(だいはくりょく)! 子ども記者が(大人も)思わず息を飲んで見守ります。子ども記者が話を聞くと、溶接だけでも1台に1~2日かかることがあるそうです。職人の高い技術でじっくり作られていることがわかります。
車いすを組み立てているところも取材させていただきました。ひとつひとつの部品をていねいに組み上げていき、車いすの形ができあがってきます。
そのほか、カーボン+アルミ合金製の競技用車いす「レーサー」も特別に見させていただきました。カーボンは、作ってしまったあとに細かい調整がむずかしいため、選手の体格やポジションに関係する部分は加工しやすいアルミ合金で作られています。
こちらは完成した車いすの耐久性(たいきゅうせい)を確認する部屋です。ローラーにつけた段差を乗りこえ続けても壊れることがないか、安全に使い続けることができるかをチェックしています。
パラ陸上でも使われる車いすを製作している技術者にインタビュー
工場見学を終えたあと、子ども記者が車いすを製作している技術者にインタビューを実施(じっし)。ここからは櫻田(さくらだ)さんに加えて、パラ陸上用の車いす「レーサー」を製作している小澤(おざわ)さんにもお話をうかがいます。
かほ記者:競技用車いすのすわるところはかたいですか?
小澤さん:レーサーに乗る人はかたい座面(ざめん)を使う人と布などのやわらかい布を張った座面を使う人がいますね。パラ陸上で世界大会に出るようなレベルの選手だと、アルミの板にスポンジを張って使っている方が多いです。車いすバスケットボールもアルミの板のままでいい人と、布の座面(ざめん)を使う人とがいます。
オーエックスエンジニアリングの櫻田(さくらだ)さん(写真左)と小澤(おざわ)さん(写真右)
えみな記者:車いすを作るのに、どのような資格が必要ですか?
櫻田さん:資格は必要ありません。義足だと義肢装具士(ぎしそうぐし)という資格がありますが、車いすにはとくにないですね。ただし、薬品やガスや火を使う作業をするスタッフは専用(せんよう)の資格が必要になることもあります。溶接(ようせつ)も厳密(げんみつ)には資格ではないのですが、安全に使うための講習を受ける必要があります。
かほ記者:実際に車いすを作るときに、選手からどんな要望がありましたか?
小澤さん:一番よく言われるのが「大会で勝てる車いすを作ってほしい」です。
一同:(笑)
小澤さん:なので、やはり選手と細かくお話をするのが非常に大事です。例えば「いつ大会があるからいつまでにほしい」と希望を伺ってスケジュールを立てていきます。選手の身体状況やプレースタイルに合わない車いすでは実力が発揮できません。幅、長さ、角度など選手それぞれに最適な車いすを作るため打ち合わせをします。「採寸」といって選手とお話しながら細かいところまで測るのですが、だいたい3~4時間くらいかかります。
かほ記者&えみな記者:すごい!
小澤さん:選手もここにくると、つかれるのではないかと思います。
かほ記者:車いすを作るのにどのくらいのお金がかかるのですか?
櫻田さん:レース用の車いすの場合、40~50万円くらいからご購入いただけます。トップ選手が好んで使っているカーボン製の黒いお皿型のホイールは、それだけで40万円くらいします。フレームは、機種によりも50万円くらい、そのあとオプションをつけると90~100万円くらいになります。多くの場合はだいたい70~90万円前後です。車いすテニスや車いすバスケットボール、車いすバトミントンなどは多くの場合50万円くらいで、もう少し安く作ることもできます。

子ども記者スタッフ:黒いホイールがそんなに高いのはおどろきなのですが、ふつうのホイールとどう違うのでしょうか?
櫻田さん:よりしっかりした構造で、力を路面に伝えやすいように作られています。
小澤さん:マルセル・フグ選手(車いすマラソンや800mで活やくするスイスの金メダリスト)などは、お皿型カーボンホイールではなく、風が通り抜けるように作られたワイヤースポーク(車輪の中央に向けて細いワイヤーが何本も張りめぐらされたホイール)のカーボンホイールを使用し始めています。われわれも研究しながらどういった形が風の流れとしてはいいのかを模索(もさく)しています。
かほ記者:みんなに車いすのことを知ってほしいのですが、学校には配らないのですか?
櫻田さん:多くのみなさんに体験していただきたいところですが、1台50万円以上かかってしまうものなので、ご購入いただくこともなかなかできません。そのため、学校で体験イベントがあるときに貸し出しをしています。
えみな記者:車いすで使われているタイヤは、バイクや自転車などほかの乗り物に近いものなのですか?
櫻田さん:競技や用途(ようと)によって変わってきますが、自転車に近いと思います。自転車のタイヤは黒が一般的だと思いますが、建物内で使うと床(ゆか)が黒くなってしまいますよね。レーサーを除き、車いす用のタイヤにはさまざまな色がありますが、床にタイヤの色がつかない素材を使っています。中には抗菌効果があるゴムを使っている製品もあります。競技用の車いすのタイヤはかなり軽く作られていますが、長持ちしません。性能重視(せいのうじゅうし)で作られています。日常用の車いすではタイヤが床にすれたときの「ギュギュッ」という音がしにくい工夫もしています。
かほ記者:一番こだわっている部分や部品を教えてください。
小澤さん:選手とよくお話をすることですね。コミュニケーションをとって、選手がどんな車いすがほしいのかをよく聞くようにしているのがこだわりです。大会で良い成績を収めるためには乗りやすく、使いやすい車いすでなければなりません。そのために一番大事なのはお話をすることだと思っています。
かほ記者:選手からの感想で一番うれしかったのはなんですか?
小澤さん:「すごい!」「よくできてる!」「今までのタイムよりちぢまったよ」という話をいただくとうれしいです。作ってよかったなと思います。選手からの感想ではありませんが、「(パラリンピックで)メダル取りました!!」と言われたときは本当にうれしかったです。
えみな記者:なぜ車いすを作ろうと思ったのですか?
小澤さん:私はもともと自転車が大好きで、高校生のとき北海道を自転車で一周したりしていました。昔は自転車のフレームを作る人になりたかったんです。なんですけど、いろいろありまして(笑)。オーエックスエンジニアリングには長野で冬季パラリンピックがあった1998年の8月に入社しました。長野パラリンピックのアイススレッジスピードレース(すわった状態で選手がストックを使ってスピードを競うトラック競技)を観て近所に車いすを作っているメーカーがあることを知り、興味を持ちました。自転車も車いすもエンジンがついているわけではなく、人の力だけで走るものなのでそれほど大きな違いはありません。わずかな寸法の違いが結果に大きく影響してきて楽しいです。
えみな記者:オーエックスエンジニアリングのスタッフさんは、車いすに乗るのは上手ですか?
櫻田さん:選手のみなさんや日常的に車いすをご使用されている方のようにはいきませんが、みんな乗れます。「日産カップ追浜チャンピオンシップ」という誰でも参加できる全国大会があって、日常用の車いすを使う2.5kmのマラソンに以前は出ていました。小澤もよい成績を収めています。それぞれが自分に合うように車いすを仕上げ、練習して大会に出場していました。
小澤さん:大会運営のスタッフさんには「オーエックスの社員のみなさん、スピード出るので一番前に出てください」と言われてました(笑)。
子ども記者スタッフ:それはプレッシャーがすごそうです(笑)。
かほ記者:車いすは何人くらいで作っているんですか?
櫻田さん:競技用車いすの部門は形を作ったり色をぬったりするスタッフが全部で6人、そのほかに図面をかいたりする人も1人います。結構少ないですね。
えみな記者:一番売れている競技用車いすの種類は?
櫻田さん:競技人口が多いのも影響(えいきょう)していますが、車いすバスケットボール用の車いすです。シェア(種目ごとに見たときに選ばれている割合)が高いのは、陸上とテニスで、多くの選手に使っていただいています。とくに陸上では外国の選手にもご使用いただいているため、パラリンピックや世界選手権のような大きな大会でもオーエックスエンジニアリングの車いすを見ることができます。
小澤さん:外国人の選手がここまできて採寸することもあります。ニューカレドニアから選手が何人かきて「作ってください」と言われたこともあります。
かほ記者:車いす製作で最近おもしろかったことや興味深かった話を教えてください。
小澤さん:(軽く頭をかかえながら)おもしろかったことあったかな…(笑)。考えてみたら結構あるのですが、最近は風(空気)の抵抗(ていこう)をすごく気にして車いすを作っています。ちょっとした工夫で速くなったとか、あまり効果がなかったという話を聞いたりするのがおもしろくて興味深いです。
かほ記者:車いす製作で最近学んだことはありますか?
櫻田さん:常に選手からさまざまな新しい情報をいただいて、製品づくりに役立てています。例えば、以前の車いすテニスでは、動きやすさやボールに追いつくことを重視して座面をそれほど高くしないことが多かったのですが、最近は力強いショットを考慮して座面を高めにすることが増えてきました。選手からいただいた情報や要望から、競技の動向や求められていることなどを知ることができます。
かほ記者:これからもっとオーエックスエンジニアリングの商品を日本や世界中の必要としている人たちに知ってもらうために、どんな活動をしていきたいですか?
櫻田さん:知っていただくことはとても大事なことなんですね。競技を楽しんでもらうのと一緒に私たちの製品も知ってもらいたいと思っています。例えば広告を出して車いすを知ってもらうというやりかたもあると思いますが、やはり多くの選手にご活躍いただいたほうが、車いすを使っている方には興味を持ってもらえると思います。
かほ記者:これからの目標や夢はなんですか?
櫻田さん:今はパリのパラリンピックやKOBE2024世界パラ陸上など、大きな大会がひかえているので、選手のみなさんに納得(なっとく)してもらえる、結果を出せる車いすを作っていきたいなと思っています。ほかには、みなさんに新しい体験をしていただけるような製品を作っていきたいと思っています。
かほ記者:最後の質問です。あなたにとっての理想の車いすを教えてください。
小澤さん:私にとっての車いすは選手にとっての車いす。選手が使いやすくて「車いすを使っている」ことを感じないような車いすが理想だと思います。陸上で100mを走る際に車いすに乗っているのではなく、体を動かして走っている感覚のものができるといいなと思っています。
櫻田さん:日常用車いすに関しては「お出かけしたくなる車いす」が理想だと思います。
子ども記者&スタッフ:ありがとうございました!
競技用の車いすを試乗!
インタビューが終わったあと、オーエックスエンジニアリングさんのご厚意で、レーサー(競技用車いす)と車いすバスケットボール、日常用車いすの試乗をさせてただきました。
レーサー(競技用車いす)は、本来は正座(せいざ)をしてなるべく姿勢(しせい)を低くして乗るのですが、体験用の車いすではフットレストに足をのせて乗車。車いすのこぎ方や、ハンドルの操作(そうさ)を少し説明しただけで、子ども記者の2人はすぐに乗れるようになりました。
車いすバスケットボール用の車いすは、タイヤがハの字になっていてその場でクルクルと回れるくらい小回りが利きます。日常用の車いすも安定感がありながらも大きな力を加えなくても回転や移動ができます。世界で活やくするアスリートが使う車いすは、子どもがいきなり乗っても自由に動かせるくらいの性能があることを身を持って実感してもらいました。
取材を担当(たんとう)した子ども記者の2人にとって車いすが身近になったのはもちろん、オーエックスエンジニアリングのスタッフが選手にとても長く、深く寄りそいながら製品を作り上げていることを知った1日になりました。
子ども記者団スタッフより
最終的に3時間くらいの取材になったのですが、車いすの試乗になったら子ども記者のテンションの上がり方がすごかったです(笑)。直前まで実際に車いすを作っている様子を見ていて、作り手側の「想い」をたくさん聞いたあとに「乗れる」となったら、それはうれしいですよね。オーエックスエンジニアリングのスタッフさんに実際にお話をうかがうと、ひとつひとつの車いすを徹底(てってい)して細かい採寸し、複数の職人さんの手によって理想の車いすに作り上げていく情熱がお話から感じ取れました。車いす競技に参加しているすべての選手に、その選手を最もかがやかせたいと考えて寄りそったスタッフの存在がいる。パラ陸上の大会が観たくなる理由がまたひとつ増えました(KAZ)。
2024年は世界のパラ陸上選手が競技用車いすで活躍する様子を神戸で見られる!
オーエックスエンジニアリングの車いすのことを知って、パラ陸上に興味を持った方に朗報(ろうほう)! 2024年5月に世界中からトップアスリートが集まって、東アジアで初となる神戸2024世界パラ陸上が開催されます! パラ陸上の世界一を決める大会を、目の前で観戦するチャンス! ぜひ今のうちから選手はもちろん、義足や競技用車いすなど、競技にたずさわる人たちのことを知って、神戸にパラ陸上選手を応えんしにいきましょう!
<今回取材をしてくれた子ども記者のみなさん>
くすみ かほ記者(小学3年生・東京都)、まつもと えみな記者(小学4年生・東京都)
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