1月31日(金)から2月2日(日)にかけて、東京・羽田エリアを舞台に「水素エネルギー」をテーマとしたイベントが開催されました。会場では、東京大学先端科学技術研究センター・河野龍興(こうの たつおき)教授が子どもたちに科学への関心を持ってもらうことの重要性や、日本のエネルギー安全保障を見据えた水素利用の可能性を語っています。加えて、親子で気軽に取り組める省エネのアイデアなど、将来を担う子どもたちへのメッセージも送られました。今回は河野教授へのインタビューと、イベントの様子をお伝えします。
水素エネルギーの体験・学習・交流イベント「羽田みんなのみらい水素エネルギー展」が開催
「羽田 みんなのみらい 水素エネルギー展」は羽田エリアで3日間に渡って開催。1日目は企業や研究機関などを対象に、水素エネルギーの最前線を学ぶプログラムが実施されました。東京大学先端科学技術研究センターの河野龍興教授が、水素エネルギーや世界の動向をわかりやすく解説し、東京都・大田区・川崎市の担当者が各自治体の取り組みと今後の展望を紹介。参加者は水素船や水素バスに乗って空港臨海エリアを巡り、実際の水素利活用の現場を見学しました。

続く2日目・3日目は親子向けイベントが開催され、人気サイエンスアーティスト・市岡元気先生による3択クイズやサイエンスライブ、燃料電池自動車の見学など、楽しく学べるプログラムが盛りだくさん。

水素調理(東京しゃもの焼き鳥)の実演・試食や水素焙煎コーヒーの試飲にも多くの人が集まり、「水素ってこんなに身近なんだ」と驚きの声が上がるなど、大勢の家族連れが水素エネルギーの可能性を体感していました。

東京大学先端科学技術研究センターの河野龍興教授にメールインタビュー
事前に編集部スタッフがお送りした質問に、河野教授が快くお答えくださいました。子どもたちへのメッセージや、今後の水素エネルギーの展望など、興味深いお話ばかりです。

Q1:お子さんたちに科学や技術への興味を持ってもらうためには、どのようなアプローチが効果的だとお考えですか?
A:「今のお子さんたちにぜひともお勧めしたいのは、普段の生活において、できるだけ自然(海、山、川、農地、動物等々)に触れることです。すべての科学や技術の基本は自然にあります。それに触れれば自ずと疑問や興味が湧いてくると思います。」
子どもたちが自然に触れることで、五感を使って多様な現象を体験できます。例えば、草花や生物の観察、潮の満ち引きや気温の変化など、身近な自然の変化に気付くことで、科学の基礎的な疑問や探求心が芽生えていきます。また、自然環境の中では失敗や成功を繰り返しながら新たな発見を得る機会が多く、論理的思考力や問題解決能力が磨かれます。そうした経験の積み重ねこそが、科学や技術へ興味を向ける原動力につながります。
Q2: ご自身の専門分野である水素エネルギーや蓄電池技術が、未来の家庭や子育てにどのような影響を与えると考えていますか?
A:「講演でもお話ししましたが、日本のエネルギーセキュリティ(国や地域が安定的にエネルギーを確保し、社会・経済活動を持続できる状態)の問題解決が一番大きいです。日本の年間予算の約2割に相当する27兆円、国民1人当たり年間20万円以上ものお金を海外の化石燃料に使っています。エネルギーを化石燃料に頼っている構造を変化させ、自国で少しでも供給できるモデルを作らなければ、日本はますます貧しくなりますし、未来の家庭はエネルギー価格が高騰して、相当苦しくなります」
私たちの暮らしを左右するエネルギーコストとして、海外の化石燃料に国家予算の2割もの額をさいていることが問題になっています。水素や蓄電池技術の進歩が、将来的に家計の負担を軽くし、子育て世代にも恩恵をもたらす可能性として期待できます。
Q3:今後、未来の仕事として水素を扱うものが増えていくと予想されますが、具体的にどのような職種が考えられますか?
A:「水素を扱う仕事は今後益々増えていくと思います。燃料電池自動車をはじめとして、水素ステーションや定置型燃料電池、水素燃焼(水素エンジン、水素タービン、水素ボイラー)、家庭では水素コンロや水素調理器に関わる技術、及び商用化が増えてくると思います。」
子どもたちが大人になった頃、水素関連の技術者やインフラ開発の専門家だけでなく、それを支えるビジネスやサービス業も増加していることが予想されます。環境と共存する社会における新たなキャリアパスに注目です。
Q4:今の子どもたちが、環境問題やエネルギー問題について学ぶべき最も重要なポイントは何でしょうか?
A:「先ほどもお話ししたように、日本のエネルギーの構造を認識する必要があります。その上で、環境の側面から考えると『いかにエネルギーをかけずに、最大の効率を得られるか?』を個々人で考える必要があると思います。まずはコスト度外視です。今後の環境分野・エネルギー分野での技術革新には、斬新なアイデアが必要です。」
環境やエネルギー問題は「限られた資源をいかに有効活用するか」が鍵。日常生活でも「どうすれば無駄を減らせるか」を考える習慣が、そのまま持続可能な社会づくりにつながるそうです。
河野教授が「コストは度外視」と強調するのは、環境・エネルギー問題に取り組む際、まず「いかに少ないエネルギーで最大の成果を得られるか」を優先して考えてほしいという意図があります。費用に惑わされず、限られたエネルギーを最大活用する道を探ることが、持続可能な社会を築く近道になります。
こうした姿勢を子どもたちに伝えることで、将来の技術革新や環境対策の発想が豊かになり、より持続可能な暮らしの実現に近づくという考えです。
Q5.:親子で環境やエネルギー問題について学べる簡単な取り組みがあれば教えてください
A:「ご自宅で簡単にできます。家中のあらゆる家電に電力メーターを付けて、消費電力のいろいろな実験が出来ます。(春夏秋冬の違いとか、クーラーや暖房器具が普段どれくらい消費しているとか、実は一番電気を消費しているのは冷蔵庫であるとか)」
電力メーターは通販サイトで数千円で購入できます。暮らしの中で「どこにエネルギーを使っているか」を意識することで、エコな視点も自然に身に付きますし、いろいろな家電の電力使用量を調べてまとめるだけで自由研究の題材にもなりそうです。
Q6:研究分野の知識を日常生活に活かす際に、多くの人が考慮すべき点は何だと思われますか?
A:「いまの時代、さまざまな情報が溢れています。このような状況において、科学的な信頼性の低い情報に惑わされないことが大切です。最近もよく見かける“日本が優位な技術へのネガキャン”など、世の中にはまことしやかな嘘・デマが氾濫していて、我々科学者は本当に悲鳴を上げています。半導体、リチウムイオン電池、太陽光発電、液晶、有機EL等々…日本の圧倒的に高い技術がこれから伸びるという時期に、日本国内でなぜか意味不明のネガキャンが始まり、その結果、全て衰退してしまったというのが現実です。あふれ流れてくる受動的な情報を鵜呑みにせず、単眼では無く複眼的な視点を踏まえて、自分で考えて判断できる力を身に付けることが重要だと思います。」
河野教授は、情報の真偽を見極めるリテラシーの重要性をお話くださっています。エネルギーや環境分野に限らず、「自分で考えて判断する」スキルは、社会のあらゆる場面で役立ちます。子どもたちだけでなく、大人も常に持っていたい視点ですね。
取材を終えて
河野教授の言葉からは、子どもたちの「未来」を見据えた科学教育やエネルギー利用のヒントが多く得られました。とくに自然と科学は自分の中でなんとなく相反するイメージがあったので「科学や技術のすべての基本は自然にある」という言葉に認識を新たにしました。確かに軽量でありながら高い強度を持つハニカム構造はハチの巣からヒントを得ていますし、新幹線の形状はカワセミのクチバシがデザインの元になっていたりと、調べるとたくさん出てきます。自然とのふれあいから最先端技術に至るまで、学びの入口は私たちの身近なところにあるんですね。電力メーターで家の電力を測るなど、トライしやすい日常の一歩からエネルギーについての学びを始めてみるのもよさそうです(KAZ)

お話を伺ったのは…河野龍興教授
〈監修者プロフィール〉
東芝研究開発センターで電力、エネルギー、水素技術の研究開発に携わり、2004年東北大学金属材料研究所客員助教授、2016年から特任教授に就任。2019年に東京大学先端科学技術研究センター特任教授、2022年からは同センターの教授として、水素エネルギーや蓄電池、再エネに関する技術を研究している。
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